狩人の頂   作:ばるむんく

19 / 40
 ゴエティアの副猟団長であるバアルの性格が、書いててなんか違うなぁと思ったので、11話の「会合」を変更しました。


砦蟹①(シェンガオレン)

 リオレウス奇種を討伐したジークたちがメゼポルタ広場に帰ってきてから数日後、ジークは猟団部屋で椅子に座って書類仕事をしていた。本来猟団ごとに存在する猟団部屋だが、同盟を結ぶと三つの猟団で一つの猟団部屋にすることができる決まりがあり、ジークは利便性を考えて『ラグナロク』は一つの猟団部屋を三つの猟団で使うことにした。

 

「お疲れ様です」

「あ……ありがとうございます」

 

 ジークは『ニーベルング』の猟団長と『ラグナロク』の代表として、所属しているハンターのクエスト達成による貢献度やそのハンターのHRなどを管理しなければならない。狩人祭の時に余計な手間をかけないための猟団単位の管理だが、猟団長は書類仕事までしなければならないのだ。

 猟団部屋で黙々と仕事をしていたジークに、お茶を用意してくれたのはメルクリウスだった。ネルバを強制的に椅子に縛り付けて『ロームルス』の書類仕事をさせたり、自分が書類仕事をしたりすることがあるメルクリウスは、猟団の管理がいかに大変なのかを知っていた。ジークはメルクリウスに一つ礼を言ってから、用意してくれたお茶を飲んで一息吐いた。

 

「特異個体はどうでしたか?」

「新鮮な体験でしたね。メルクリウスさんこそ、リオレウスにすごいブレス吐かれてましたけど」

「あれは思い出したくないですね」

 

 互いに初めて特異個体を狩猟しに行ったこともあり、リオレウス奇種の話題が口から出てきていた。メゼポルタに来るハンターというのは、個人差はあれどハンターという職業を楽しめる者だけである。冷静沈着そうなメルクリウスも、初めて出会うモンスターに対しては恐怖よりも好奇心が勝ってしまうのだ。

 

「俺はタンジア時代にリオレウス亜種は狩ったことがありましたが、かなり違いがありましたね」

「ドンドルマにいた頃は、恥ずかしながら下位ハンターどまりでしたので経験はありませんでしたが、通常種のリオレウスと比べるかなり変化がありました」

 

 メルクリウスの下位ハンター止まりという言葉に、ジークは意外そうな顔をしていた。メルクリウスはジークの表情を見て、彼が何を考えているのかを理解して苦笑を浮かべた。

 

「ドンドルマにいた時は、ランスを使っていたんです。モンスターの攻撃が怖くて」

「へぇー……逆に厳しくないですか?」

「はい。ランスは大きな盾を持っていますが、モンスターがそれほど接近してくると言うことですから」

 

 実際、メルクリウスのようにハンターなり立てでランスやガンランスを選択し、迫ってくるモンスターに恐怖してしまうハンターは少なくない。盾があれば命が守れるのと、眼前に迫るモンスターの恐怖は別物なのだ。

 

「そのまま下位ハンターで燻っていたんですが、メゼポルタの話を聞いて夢があると思ったのです。正直、無謀だと思いましたが……心機一転して遠距離武器を使ってみようと思ったらなんだか上手く行ってしまって」

「性格的な問題じゃないですか?」

 

 モンスターの恐怖にとりつかれるハンターは少なくないが、そうなったハンターの将来は大きく分けて二つである。一つは遠距離武器に鞍替えしたら上手くはまり、順調にハンター生活を続ける。もう一つは、二度とハンターとしては生きれなくなるかである。

 話を聞いていたジークは、メルクリウスは性格的にランスは無理だろうと考えていた。ランス使いに一番求められるのは筋力でも恐怖を克服する勇気でもなく、どんな状況でも揺るぎない精神力である。

 

「ジークさんからはそう見えますか?」

「はい。ヘヴィボウガンは重くて使えなかったって感じの人です」

「……よくご存知で」

 

 ライトボウガンや弓が使えるものが必ずともヘヴィボウガンが使える訳ではない。特に、ヘヴィボウガンは独特な重みから放たれる弾の反動が大きく、扱いを誤れば弾丸はあらぬ方向へと飛んでいき、自分も後ろにひっくり返ることになる。エルスのようにヘヴィボウガンを自在に操り、急所に向けて的確に放つようなハンターは正しく天才と呼ぶべき者である。

 

「楽しそうですね」

「パイモンさん。先日はどうも」

「久しぶりに、有意義な狩りだった」

「ヴィネアさんも、元気そうで」

 

 雑談していたジークとメルクリウスの元へとやってきたパイモンとヴィネアを見て、ジークは笑顔を浮かべた。色々と変な性格をしている者が多い『ゴエティア』のメンバーだが、一緒に狩りに行けばジークの中ではもう仲間である。

 リオレウス奇種の討伐しに行った四人で雑談を始めたジークたちの他にも、違う猟団のハンター同士が楽しそうに喋っている姿をジークは見ていた。先日の交流会が成功に終わったことに頷きながら、三人ともう少し喋ろうとしたジークは、猟団部屋に勢いよく飛び込んできたハンターに視線を向けた。

 

「ジークッ!」

「スロアさん?」

 

 肩で息をしながら飛び込んできたハンターは『ロームルス』副猟団長のスロアだった。あまり息を荒げることのない性格であるスロアのその姿に、メルクリウスは驚いた表情していた。

 

「はぁ、はぁ……大変なんだよ!」

「取り敢えず落ち着いてください。どうしたんですか?」

 

 取り乱しているスロアを落ち着かせようとしているジークを見て、周囲の同盟員たちもなにか行ったのかと視線を向けていた。

 ジークに言われたまま息を落ち着かせたスロアは、肩で息をしながらジークの肩を掴んだ。

 

「しぇ、シェンガオレンの撃退依頼が出てるんだ!」

「シェンガオレン? なんでドンドルマの問題がこっちに……」

 

 スロアの口にしたシェンガオレンはジークも知っていた。甲殻種ながら、老山龍(ろうざんりゅう)ラオシャンロンの頭骨を背負う程の巨体によって出現して歩くだけで被害をもたらす、まさに古龍級の生物と称されるに相応しい天災。ラオシャンロンと同じように、ドンドルマ付近に出現が確認された瞬間に多くのハンターが動員され、砦を使って防衛することになる異例のモンスターである。

 

「シェンガオレンだったらドンドルマでなんとかできるんじゃないんですか?」

「そ、それが……」

「そこからは私が説明します」

 

 慌てた様子のスロアの背後から現れたのは、白いローブのような服を着た男だった。明らかにハンターではない出で立ちの男だが、ジークはその姿を見ただけで彼が何者なのかに気が付いていた。

 

「古龍観測隊が出張るほどか?」

「はい」

 

 天災である古龍の被害を少しでも減らそうと、若き頃のドンドルマ大長老が招集した古龍占い師の集団を元とした、古龍種の生態系を解き明かそうとする研究施設である古龍観測所に所属する研究員こそが、古龍観測隊と呼ばれる。主な仕事は古龍種の出現予想と生態系の謎を突き止めることだが、近年は古龍種以外のモンスターにも手を伸ばしている。古龍観測所はドンドルマ所属の研究者たちのなかでもエリート中のエリートであり、基本的にはハンターの元へ訪れてなにかを依頼することなどない。そんな古龍観測隊の人間が、わざわざ猟団部屋までやってきて説明することがあるなど余程の緊急事態である。

 

「シェンガオレンに対し、ドンドルマは防衛線を幾つか展開して撃退戦を行いました。シェンガオレンが前回に確認されたのは三年前のことですが、その時はG級ハンターの力もあり、第一防衛線で楽に撃退することできたのです」

「……それで?」

「今回も防衛線を幾つか展開し、G級ハンターにも撃退戦を要請したのですが……」

 

 話だけを聞くとそこまで緊急事態でもなさそうだと思いながらも、言いづらそうに一度言葉を切る古龍観測隊の男に、ジークは続きを促した。

 

「予定到着時刻よりも大幅に早くシェンガオレンが防衛線に到達し、G級ハンターも呆気なく敗走しました」「どういうことだ?」

「……わ、我々が観測してきたシェンガオレンの常識を遥かに超えていました。今までのシェンガオレンとはまるで違う進行速度と凶暴性に、メゼポルタのハンターに救援要請が来たのです」

「……結構時間が無いな」

「そうなんです!」

 

 古龍観測隊の話を聞き終えたジークは、この話を聞いている時点でシェンガオレンがもう幾つかの防衛線を突破しているだろうことを理解していた。メゼポルタのハンターに救援が要請されるほどの事態ではあるのは理解できたが、ドンドルマからメゼポルタまで救援要請が来るほどのシェンガオレンの存在にジークはどうするべきかを考えていた。

 

「……ギルドマスターに聞きに行く」

「当然、私も行く」

 

 ジークは取り敢えずメゼポルタのギルドマスターに判断を仰ごうと考え、ヴィネアたちの方へと視線を向けた。メルクリウス、パイモン、ヴィネアはその視線に頷いて立ち上がった。現状『ラグナロク』の主力メンバーと言えるハンターは多くないが、シェンガオレン撃退戦には充分な戦力だろうとスロアも安堵の息を吐いた。

 

 


 

 

「俺たちに行かせてくれっ!」

「少し落ち着け」

「ふむ……」

 

 ジークがギルドマスターの元へと向かうと、そこには必死な顔をしているネルバの姿があった。ギルドマスターに向かって大きな声をあげているネルバを、後ろから落ち着かせようと肩に手を置いていたバアルは、ジークたちがこちらに向かってくるのに気が付いて視線を向けた。

 

「お前らも聞いたのか」

「まぁ……そうですね」

 

 バアルの言葉にジークは頷いたが、ネルバはジークの姿が目に入っていないらしくギルドマスターに詰め寄って声を荒げていた。

 

「今は『アイギス』も『カリバーン』もメゼポルタにいないんだろ!? なら俺たちでもいいじゃねぇか!」

「今のお主にシェンガオレンが撃退できるとは思えんな」

「なんで……俺はもう凄腕ハンターだぞ!」

「マスター」

「ぬ? ジークか」

 

 語気を強めるネルバにため息を吐いていたギルドマスターは、横から現れたジークに気が付いた。『ゴエティア』と『ロームルス』の主力メンバーと共に現れた姿を見て、ギルドマスターは一つ頷いた。

 

「ジークよ。お主らの同盟『ラグナロク』で、すぐに動ける凄腕ハンターは何人おる」

「……12人です」

「うむ……数としては十分、か」

 

 ギルドマスターは『ラグナロク』の主力メンバーの数を聞き、ジークに対して緊急クエストと書かれた依頼書を渡した。

 

「これは……」

「お主ら『ラグナロク』の主力メンバー12人に対して「剛種シェンガオレン」の撃退を命じる」

「剛種シェンガオレンだと?」

 

 ギルドマスターの言葉を聞いて真っ先に反応したのはバアルだった。ネルバを押しのけてギルドマスターの前までやってきたバアルは、ジークの持つ依頼書を見てからギルドマスターへと視線を向けた。

 

「シェンガオレンに剛種など聞いたこともないが」

「今回が初観測じゃな。通常のシェンガオレンから考えられない進行速度と凶暴性、そして刃が通らない程硬い外殻を有しているとの情報がある。くれぐれも気を付けるのじゃぞ」

「……了解しました。ネルバさん、さっさと準備しますよ」

「お、おぉ!」

 

 クエスト依頼書を受け取ったジークは、すぐにネルバの背中を叩いてから『ラグナロク』の主力メンバーを全員集めることから始めるつもりだった。ネルバが過去のことからシェンガオレンに拘っていることもジークは気が付いていたが、トラウマとも言える強大なモンスターに対する恐怖心を克服する絶好の機会かもしれないとジークは考えていた。バアルにベレシスの回収を頼み、ジークはマイハウスで休養しているウィル、ティナ、エルス、マルクの回収に向かった。

 

 


 

 

「シェンガオレンかぁ……絵本の中でしか見たことないですよ」

「俺なんて話しか聞いたことねぇよ」

 

 ウィルの呟きに対して、ジークが反応した。タンジア出身であるハンターはメゼポルタに来てからその存在を知る程度であり、そのスケールの大きさからあまり理解のし難いモンスターなのだが、まさかメゼポルタにきて一年で実物に遭遇することになるとはジークも考えていなかった。

 

「シェンガオレン相手に近接武器はキツイと思うけど、頑張って」

「それがなぁ……」

 

 話をしていた二人の所にやってきたエルスは、シェンガオレンの対策について助言の様で全く助言になっていない言葉を贈っていた。長く大きな四本の脚を使って歩くシェンガオレンに対して近接武器で近づくのは自殺行為である。その巨体を支えている四本の脚は動かすだけで大きな振動をもたらし、鉄よりも硬い脚にむやみやたらに攻撃したところでシェンガオレンは少しだけ嫌な素振りをするだけで特に対したダメージにもならない。ジークは別に遠距離武器が使えない訳ではないが、ガンナー用の装備を整えていなかったので、準備の時間を惜しんでリオレウス奇種の時と同様に真舞雷双【迦楼羅】を背負っていた。

 

「にしても、今回はそれなりの人数を動員したな」

「今まで存在なんて誰も考えてなかった剛種シェンガオレンですから……無理もないですけどね」

「ドンドルマのG級ハンターが撃退しきれなかったなんて相当な強さ。メゼポルタから私たち十二人を呼んでも足りるかどうか……」

 

 今回の剛種シェンガオレン撃退戦は、ドンドルマのハンターたちと協力しながらになる。ジークたちがメゼポルタからドンドルマに到着するまでどう頑張っても数日の時間がかかり、通常のシェンガオレンでは考えられない速度で進行している剛種シェンガオレンは見ているだけではその数日でドンドルマをめちゃくちゃにして去っていくだろう。現地のハンターたちは緊急招集され、命をかけた抵抗を続けて進行を遅らせている。

 

「でも、これなら予定よりよっぽど早く到着しそうだ」

「凄いですよね……パローネ=キャラバン」

 

 メゼポルタ外れの海岸に拠点を構えているパローネ=キャラバンは、アルバーロ三兄弟が取り仕切っているキャラバンである。常によりよい土地を求めて各地を放浪している彼らは古龍観測所よりも優れた飛行船技術を擁しており、現在はメゼポルタ広場に集まるハンターたちの規格外の戦闘能力を見込んでメゼポルタと協力している外部組織である。多くの未開拓地と謎のモンスターを調査したいメゼポルタと、より住みやすい土地を求め続けるパローネ=キャラバンは手を結び、メゼポルタギルドが拠点となる土地と資金援助、そしてメゼポルタに所属するハンターたちの力を借りるため、独自にクエストを作ることでギルドの様に依頼できる体制を作った。代わりに、パローネ=キャラバンの持つ飛行船技術や緊急事態での飛行船によるハンターの送り迎えをしてもらっている。

 剛種シェンガオレンの出現と危険性を考えたメゼポルタは、ジークたち『ラグナロク』の主力メンバーと十数人の上位ハンター、撃退戦に使うバリスタや大砲の弾などの物資を載せてドンドルマまで最速で向かわせるためにパローネ=キャラバンへの協力を要請していた。大巌竜(だいがんりゅう)ラヴィエンテの発見と討伐以降、あまりメゼポルタの緊急事態が起きていなかったこともあり、パローネ=キャラバンは二つ返事で了承して『ラグナロク』を乗せてドンドルマへと向かっていた。

 

「ウッス! シェンガオレン討伐のために急に、なんて大変っスね」

「オリオールさんこそ、いきなり出発で忙しかったんじゃないですか?」

「なーっはっはっ……その辺は慣れっこなので大丈夫っス」

 

 ジークの元へと近づいてきた男は、愉快そうに笑っていた。オリオール=アルバーロはパローネ=キャラバンを取り仕切るアルバーロ三兄弟の末の弟であり、パローネ=キャラバンの生命線である気球操縦士たちのトップである。気球の軌道が安定したため、部下たちに操縦を任せてジークの元へとやってきたのだ。

 

「パローネ=キャラバンはメゼポルタのハンターたちに普段から助けてもらってばっかりっスから、これくらいはへっちゃらっスよ」

「あはは……俺も時間ができたら航路クエスト受けますよ」

「そうしてもらえると助かるっス」

 

 パローネ=キャラバンの開拓に一番必要なのは航路の確保である。未開拓地をずんずんと進むにはモンスターの脅威は付き物であり、剛種なんかの危険なモンスターを狩猟することができるメゼポルタのハンターはパローネ=キャラバンからすれば救世主の様なものである。実際、メゼポルタに来る以前は全く開拓できなかった航路なども、凄腕ハンターの協力もあって開拓できるようになっている。

 

「ドンドルマまではそんなに時間かからないと思うっス」

「ありがとうございます。ドンドルマにはもう時間がないので」

「任せて欲しいっス!」

 

 元気な返事をしたままジークの元から離れていったオリオールを見送って、エルスとウィルへとジークは顔を向けた。

 

「思ったより早く付きそうだから、今の内の休んでおこう。到着したら即戦闘だ」

「わかってるわ」

「はい!」

 

 頷き合ったジークたちは、そのまま剛種シェンガオレンに備えて身体を休めることにした。単体で街を滅ぼすようなモンスターの剛種に、ジークは警戒しすぎはないだろうと考えながら意識を研ぎ澄ませていた。

 

 


 

 

「っ! メゼポルタのハンターたちが来たぞ!」

「や、やっとか……」

 

 ドンドルマの街外れに降り立ったパローネ=キャラバンの飛行船を見て、古龍観測隊が声をあげた。ドンドルマギルドの職員と思わしき人物が飛行船を見上げて安堵の息を吐いていた。

 ドンドルマには既に避難命令が出ており、街からは既に人気が遠のき、仮設されたハンター用のテントが幾つも見られた。広場に怪我人の姿も多く、ジークは剛種シェンガオレンの被害がかなりのものであることを理解した。

 

「お待ちしていました」

「ギルドナイトまで出てたのか……いや、当然か」

「はい。私たちもドンドルマを守る為に交戦したのですが……精々進行を遅らせる程度でした」

 

 ギルド直属のエリート集団であるギルドナイトの一人がジークたちを迎え入れたが、その身体には包帯が巻かれていた。ギルドナイトに所属するハンターはG級ハンターと比べても遜色ない実力を持ち、メゼポルタに来ても十分活躍できるような精鋭ばかりであるが、そのギルドナイトがここまで被害を受けているのだ。ジークの後ろから降りてきたハンターたちも、被害の大きさを理解して唖然としていた。

 

「今の詳しい状況は?」

「ドンドルマの砦群で防衛線を五つ築き、必死の抵抗線をしていますが……既に二つが突破されました」

「五つ目が突破されたら?」

「すぐに街が破壊されることはありません。五つ目の防衛線の後ろに最後の砦がありますが……それを突破されたらすぐにドンドルマ近郊の居住区です。避難は……人口的に到底間に合いません」

 

 想像以上に危険な状態であることを理解したジークは、ベレシスとネルバへと視線を向けた。すぐにでもシェンガオレンを撃退しなければ、ドンドルマに多大な被害が出てしまう。

 

「一刻を争う状況です。すぐに向かいましょう」

「そうだな」

「いや、私たちは四つ目の防衛線で準備を整える」

「ベレシスさん?」

 

 すぐにでも防衛線に加わろうとしていたジークを止めたのは、ベレシスの言葉だった。既に二つ目が突破され、現在三つ目の防衛線で戦闘が行われていると聞いていたベレシスは、自分たちが向かった頃には三つ目の防衛線は手遅れであると考えた。

 

「それがいいでしょう。第三防衛線には進行を遅らせるのではなく、少しでも攻撃するように伝令を飛ばしておきます」

「それでいいんですか?」

「……敵は想像以上の怪物です。結果的に街が守れるのならば、砦の一つ程度は問題ありません」

 

 剛種シェンガオレンと実際に相対したであろうギルドナイトの言葉に、ジークは何も言えなかった。ジークたちが凄腕ハンターとして剛種の討伐経験もあるとはいえ、G級ハンターやギルドナイトと実力の差が途轍もないかと言えばそうではない。メゼポルタの技術力によって生み出された装備は強力だが、ハンターとしての腕前はそこまで大きく違いはない。そんなギルドナイトがボロボロになってしまう様な相手に、満足な準備もなく挑むなど無謀であると、ベレシスもギルドナイトも言っていた。

 

「……わかりました。俺たちは第四防衛線から加わります」

「お願いします……今の進行速度から考えて、今日中には第四防衛線に来ると思います。アイテムの補給などはこちらで支援します」

「装備の点検は任せてほしいっス」

「はい」

 

 ドンドルマギルドが戦線維持用のアイテムを用意し、武器の整備はメゼポルタと共同で技術を開発しているパローネ=キャラバンが協力する。凄腕ハンターが万全の状態でシェンガオレンに挑めるようにと、メゼポルタとドンドルマのギルドマスターが連絡を取り合った結果だった。

 

 


 

 

 大地を揺らしながら歩き続けるシェンガオレンは、目の前にある邪魔な物体全てをその鋏で切り刻んでいた。鋼を容易く上回る硬度であり、頑強に作られた砦を一振りで真っ二つにする切れ味と体躯の大きさ、武具どころか人そのものや砦を溶かす強酸性の塊。どれをとっても人が立ち向かうにはあまりにも強大で、正しく天災と呼ぶべき存在である砦蟹シェンガオレンは、多くのハンターから攻撃を受けながらも平然と歩みを続けていた。

 

「くそッ!」

「大砲の弾が切れた! 補充頼む!」

 

 地上からバリスタや大砲を放ち、遠距離武器を持ったハンターが弾丸や矢などを撃ちこむが、シェンガオレンは反応する素振りも見せずに悠然とその脚を前へと動かし続ける。

 

「貫通弾が貫通しねぇ!」

「矢が弾かれたッ!?」

「おい! ギルドナイトから伝令が飛んできたぞッ!」

 

 どうすることもなくただ無駄だとわかりながら攻撃を繰り返すハンターたちの元へと、一羽の鳥が伝令書を持って飛来した。ギルドナイトからの伝令と聞いて、その場を指揮していたG級ハンターがその伝令書を急いで開封した。

 

「……メゼポルタのハンターが到着しただと? 数日はかかるって話じゃ……いや、今はそれどころじゃないか。遠方から援軍と支援物資が到着したらしい! 大砲の弾とバリスタ弾も使いきるつもりで戦え! 援軍がシェンガオレンを倒せるように少しでも攻撃を続けろ!」

「おぉ!」

「どのみち、俺たちには攻撃することしかできねぇんだ!」

 

 指揮官の言葉を聞いて一気に士気を上げたハンターたちは、一斉に砲撃を始めた。全く攻撃を気にしていなかったシェンガオレンだが、今まで進行を遅らせる為に放たれていた攻撃が全て、シェンガオレンを傷つけるためになり、物資不足も考えずに撃ち始めたことでようやく不快感を露わにする様にシェンガオレンは立ち止まって大砲が発射されている砦の一部へと目を動かした。

 

「ッ!? まずいッ! 逃げろぉぉぉッ!」

 

 シェンガオレンの動きが変わったことにすぐ気が付いたG級ハンターは、大きな声をあげて逃げるように指示を出した。全員がなにが起きたのかとシェンガオレンの方へと視線を向けると、鉄の壁すらも紙のように切り裂くシェンガオレンの爪が、砦に向かって振り下ろされた。

 

「うぉぉぉ!?」

 

 立っていられないほどの振動とともに、砦は巨人に刀で斬り裂かれたがごとく一刀両断にされて崩落した。今まで見向きもしていなかっただけで、シェンガオレンがその気になった瞬間に、ハンターたちは命を散らす儚いものでしかなかった。指揮官の指示によって被害は最小限に抑えられたが、怪我をして動けなくなったハンターも多く、G級ハンターはその場で武器を構えた。

 

「バリスタを撃ってる奴は全員怪我人を救助しろッ! 遠距離武器で攻撃してる奴は俺についてこい! シェンガオレンの視線を砦に向けさせるなッ!」

「了解ッ!」

 

 自らは太刀を手にしながらシェンガオレンへと接近するその姿を見て、全員が頷き合った。このまま自分たちが攻撃していてもシェンガオレンにとってはかすり傷にもなりはしないことなど理解していたが、それでも後続のハンターたちのためにも、ドンドルマから避難できていない人々のためにも引くことはできなかった。

 

 


 

 

「どうですか?」

 

 第四防衛線に急ピッチで物資を運びこむドンドルマギルドの人々を見ながら、ジークは砦の頂上で双眼鏡を使ってシェンガオレンを見ているであろうベレシスへと声をかけた。

 近接武器を背負っているジークやベレシスは、今回はシェンガオレンへと近づかずに現場指揮をしながらバリスタや大砲で援護する役回りだった。故に準備が少なく済んだ近接武器を持つハンターたちは、周囲の警戒と第三防衛線方面への注視をメインとしていた。

 

「……見えてきた。想像以上の進行速度だ」

「本当ですか!?」

 

 双眼鏡を持ちながら冷静に告げるベレシスの言葉に驚いたのは、たまたまその会話を聞いていたギルドナイトの一人だった。まだ物資を運び終わっていない状態でシェンガオレンの影が見えたと言うベレシスの言葉に、ギルドナイトは相当不味い状態だと慌て始めていたが、ジークはそこまで慌てていなかった。

 

「安心してください。あの人の視力がおかしいだけですので……俺には影も見えませんよ」

「そ、そうですか……しかし、姿を捉えられる人がいる程度には近づいているのですね」

「そうですね。第三防衛線のハンターたちは遅延行為をやめて、傷を与える方に注力してくれているらしいので、当然と言えば当然ですが……」

 

 ジークの言葉を聞いて少しだけ安心したような顔をしていたギルドナイトだが、G級ハンターですら撃退することができなかった未曾有の存在であるシェンガオレンの情報を聞きながら、慌てる様子もなく冷静に準備を進めるメゼポルタの凄腕ハンターに対して、単純な実力以外での質の違う恐怖感を味わっていた。

 

「ウィル、ティナ、エルスは俺とは別行動で頼む」

「了解しました」

 

 シェンガオレンと聞いて用意してあったヘヴィボウガンを準備していたウィルと、普段から遠距離武器を使っているティナとエルスは、ジークの言葉に頷いていた。ジークは近接武器を持っている関係上、バリスタや大砲を動かす『ラグナロク』所属の上位ハンターや、ドンドルマギルド所属のハンターたちの指揮をしなければならなかった。

 

「西側方面の設備設置完了だ」

「東側、そろそろ終わる」

「中央の撃竜槍はまだ装填が終わってねぇみたいだな」

 

 西側の指揮を担当することになったネルバ、東側の担当をすることになっているヴィネア、中央の様子を見ていたバアルの報告を受けて、ジークは着実にシェンガオレンへの対策が完了していることに安堵していた。

 

「よし……それほど長い時間をかけずにシェンガオレンはここに到達する。俺たちが三つの壁を抜かれればドンドルマは終わりだ! 気張っていけよ!」

 

 最高指揮官として拠点全員に聞こえる声で叫ぶジークに対して、全員が勢いよく返事をしていた。そこにメゼポルタやドンドルマといった区分はなく、ただ剛種シェンガオレンを撃退する為に作られた集団だけが存在していた。

 シェンガオレンが第三防衛線を突破した知らせが届いたのは、ほんの少し後の出来事だった。




唐突ですが剛種シェンガオレン戦です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。