狩人の頂 作:ばるむんく
シェンガオレンが第四防衛線の中にある高台を一つ破壊してから数分が経過していた。殻を集中砲火されていることに気が付いた剛種シェンガオレンは、本体を砦の方へと向けて爪を左右に振るいながら進行していた。砲撃を迎撃しながらの進行となり、かなりゆっくりとした動きにはなっているが、シェンガオレン自体に与えることができる傷は確実に少なくなっていた。
「ここからどうするか……撃龍槍を直撃させないまず撃退なんてできないだろうが……」
多くのハンターが撃退を信じて砲撃を繰り返しているが、ジークはこんな攻撃ではシェンガオレンには大した傷にもなっていなことは知っていた。対大型古龍決戦兵器である撃龍槍は、ラオシャンロンであろうと直撃すればただではすまない、まさしく切り札のようなものではあるが、一度放てば再装填までは十数分の時間を要する上に、撃龍槍自体を移動することも不可能であり射程もそれほど長くはない。一度外してしまえば第四防衛線内でもう一度当てることが不可能とも言える諸刃の剣である。
「防衛線の一番奥で撃龍槍を装填してもらってるが……果たして誘導できるかどうか。対巨龍爆弾も使いきったし、本当に決定打が無いな」
爪を振りながら前進するシェンガオレンの姿に恐怖を抱くハンターもいるらしく、大砲も何発かが外れて地上で爆発していた。空中で迎撃される砲弾と外れる砲弾を見て、ジークはパイモンたちがなんとか追撃を仕掛けてくれることを祈ることしかできない。
「……ジーク、パイモンたちは無事だったようだ」
「あれは……パイモンさんとティナ、か?」
瓦礫の後方から飛び出してきた二つの影を見て、ジークは双眼鏡を手に取った。天狼砲【北斗】を持ちながら走るパイモンの後ろを追走するのはティナだった。他のハンターたちの姿は見えないことに、ジークは怪我人が出たことを察していた。人数はだいぶ減っているが、背後からシェンガオレンを追撃する部隊が残っているのならばまだやることはある。ジークはバリスタと大砲の弾を運んでいたネルバたちの元へと近づいた。
「ネルバさん、撃龍槍を準備している中央奥へと行ってくれませんか?」
「いい、けどよ……ここは大丈夫なのか?」
「大丈夫です。数分後には瓦礫になってるかもしれませんけどね」
「おいおい……了解した。スロア! マルク! 出番だとよ」
ジークの冗談かどうかわからない言葉に苦笑しながらも、ネルバは大砲の弾をギルドナイトに渡してからスロアとマルクを呼んだ。ネルバと同じく弾を運んでいたスロアとマルクは、ネルバからジークの指令内容を聞いて一瞬だけジークの方へと視線を向けてから頷いた。
「よし……撃龍槍の手伝いをすればいいんだな」
「いえ、撃龍槍の装填が終わったら信号弾を撃って欲しいんです。まぁ、手伝いもして欲しいですけど」
「わかった」
撃龍槍の装填にはもうそこまで時間はかからないだろうことはジークもわかっていたが、シェンガオレン撃退に切り札と言える撃龍槍の取り扱いには慎重になりたかった。シェンガオレンに対して撃龍槍を確実に当てる為には、撃龍槍がある砦に向かって進行するようにシェンガオレンを誘導する必要がある。それには、シェンガオレンの注意を引くほどの人手が必要だった。
「頼みます」
「おう」
返答をしてから砦を降りて行くネルバたちを見ながら、ジークはドンドルマにいる軽傷のハンターたちが一人でも多く戦場に復帰することを期待しながら、シェンガオレンの動向をつぶさに観察することが仕事になっていた。撃龍槍を当てたところで確実に撃退できるとは断言できない状況ではあったが、当てなけれなにも始まらない状況まで追い込まれているとも言えた。
パイモンとティナがシェンガオレンの背後に追いつき、射撃を始めた姿を見てジークはバリスタ弾を手にしながらベレシスの方へと近づいていた。
「ベレシスさん、指揮を頼みます」
「何をする気か聞いてもいいか?」
バリスタの弾だけを置いて指揮を頼もうとしているジークに対して、彼が何かをしようとしていることをベレシスは察していた。何をするかを言葉では聞いているベレシスだが、実際はジークが今から何をしようとしているのか既に察していた。
「少し、シェンガオレンに近づいて武器を振るおうと思いまして」
「ふふ……無謀と言わざるを得ないが、楽しそうではないか」
「指揮する人がいるのでベレシスさんがついてきては駄目ですよ」
「そう言うな……ガープ、お前にここの指揮を任せる」
「は?」
ベレシスは近くでバリスタを撃っていた男の肩に手を置いて、一言だけ告げた。突然背後から猟団長に謎の言葉を告げられたガープは、一瞬ベレシスが何を言っているのか理解できていなかったが、言葉を何度も反芻してから顔を青褪めた。
「な、なに言ってるんですかッ!?」
「お前なら指揮には問題ない。私とジークは少し、あれと遊びに行ってくる」
「しかも突っ込むんですかっ!? 双剣と太刀でっ!?」
何を言っているのかまるで意味がわからないとばかりに叫ぶガープだったが、ベレシスは既にジークについていってシェンガオレンと近接武器で戦うことを決めていた。ベレシスが実力派ハンターとして数多くのモンスターを狩ってきた実績があるといっても、シェンガオレンのような超巨大モンスターに近接武器で真っ向から斬りに行くのは初めてのことだった。故に、戦闘狂であるベレシスはもう止まらない。
「……ダルク、アキレス……ギルドナイトの人と一緒にここを頼む」
「……わかりました。ジークさんの命、必ず成し遂げて見せます!」
「おう、行ってこい……どっちにしろもう手詰まりだ」
ガープ、ベレシスとは違い、あっさりジークの言葉に頷いた二人に団長である自分自身で苦笑しながらベレシスへと視線を向けた。視線の合ったベレシスはそのまま頷き、砦の梯子に向かって走り出した。
「ちょっと待ってくださいよぉぉぉぉぉ!?」
「諦めろ。あれがうちの団長と、それの同類だよ」
悲痛な声で叫ぶガープの肩に手を置いて慰めるのは、他の『ゴエティア』所属のハンターであった。将来的には自分よりも団長に向いているようなハンターになる、と普段からベレシスに言われているガープだが、まさか剛種シェンガオレン撃退戦という命がけの舞台で団長代理を任せられるとは微塵も思っていなかった。ガープとは対照的に、勢いよくジークの言葉に頷いたダルクは自身の持つ片手剣を掲げた。
「我らの団長は私たちにこの場所を託し、シェンガオレンの元へと勇敢に立ち向かっていった! 必ずや我らが長の期待に応え、勝利をこの手に掴み取るのだ!」
軍隊を指揮する将軍のようなダルクの激励に呼応したのは『ニーベルング』所属のハンターと、ドンドルマに所属するハンターたちであった。この短い間に、ジーク様々な手段を使ってドンドルマのハンターたちと絆を深めていた。それを引き継いだのは『ニーベルング』で最も団長ジークを崇拝しているハンターであるダルクだった。ダルクの激励に応えるように、ハンターたちは先程よりも目に見えて士気が上がっていた。バリスタで狙いを付ける者はより正確に、大砲を放つ者はジークとベレシスに当たらないように慎重にシェンガオレンへと砲撃を放っていた。
「嘘ぉ……で、でもこれなら……お前ら、団長が飛び出していったんだから踏ん張れよっ!」
その場を任されたガープは、総指揮官とも言うべきジークが抜けることによる士気の低下を考えていたが、ダルクはジークたちが行った無謀な突撃を言い換えてハンターたちの士気向上へと誘導した。ジークとはまた違うカリスマ性を見せるダルクに頬を引き攣らせながら、ガープは『ゴエティア』所属のハンターたちへと指示を伝えていくのだった。
「……あいつらは何をやってるんだか」
「本当に」
無茶苦茶な突撃を遠くから見ていたのはバアルとヴィネアだった。そろそろ射程にシェンガオレンが入ろうかという場所まで来ている中、砦を飛び出していったジークとベレシスの姿に二人は呆れた様な声を出していた。
「まぁ、あいつらならそうそうシェンガオレンに遅れなど取らないと思うが……」
「そこは問題じゃない」
「そりゃそうだ」
例え近接武器でシェンガオレンに近づいていっても無事に帰ってくるであろうという信頼はあるが、指揮官として砦に立っていたはずの二人が飛び出して行ってしまうのは流石にどうなのだろうかとバアルも考えていた。どこまでいっても本質が戦闘狂であるジークとベレシスだが、本人たちに自覚は無いが砦の上に立って指示を出すだけの立場に飽き飽きしていたのもあるだろう。
「だがあいつらが飛び出していったってことは……シェンガオレンの進行が遅れるかもしれん」
「脚に攻撃……シェンガオレンもたまらない、かも」
無茶苦茶で無謀なことをしている二人だが、片方はメゼポルタでも知らないハンターはいないとまで言われることがある攻撃力最強のベレシスであり、もう片方はバアルから見てもセンスと表現せざるを得ない天才的な攻防一体の動きを可能とするジークである。いくら剛種シェンガオレンとはいえ、脚に張り付かれて攻撃を受ければ動きも鈍ることは必然的に考えられることだった。
良くも悪くも周囲に影響を及ぼしながら飛び出した二人は、頭上から降り注ぐ岩と砲弾の欠片を避けながら急速にシェンガオレンへと接近していた。
「っ!」
声にならないジークの掛け声を起点に、ベレシスが抜け出した。抜刀しながらジークよりも早く駆けるベレシスはシェンガオレンの脚へと先制攻撃となる一太刀を浴びせた。抜き放たれたネブラレギナには生物を死へと容易く導く毒が仕込まれているが、シェンガオレンの巨体ではどれだけ攻撃しても毒が全身に回ることは無いだろうことは明白だった。しかし、ベレシスはシェンガオレンがある属性に対して過剰反応を見せることを知っていた。
「うわっ!?」
「おっと」
ベレシスの一撃は大砲の爆発やバリスタ弾に比べてれば微々たる攻撃だったが、ネブラレギナに含まれている属性に敏感に反応したシェンガオレンは、攻撃された脚を振り上げて地面に叩きつけた。ベレシスが振るうネブラレギナは
地面に脚が叩きつけられた衝撃で、ジークとベレシスは立っていることがやっとの振動を感じていたが、シェンガオレンが再び歩きだす前にジークが真舞雷双剣【迦楼羅】を振るった。岩をも切り裂く双剣は電撃を発しながらシェンガオレンの脚へと振るわれるが、ジークは自分の手に返ってくる感触に目を見開いた。
「硬いとかそういうレベルじゃないぞっ!?」
「来るぞっ!」
振るい方によっては鉄すらも切り裂くであろう真舞雷双剣【迦楼羅】を持ってしても、シェンガオレンの脚にはまともな傷を与えることができなかった。貫通弾が貫通しないという話は聞いていたが、想定以上の硬さにジークは舌打ちしたい気分だった。そのままもう一度攻撃に移行しようとしていたジークは、ベレシスの警告と共に持ち上げられた脚が二人を踏みつけようと持ち上げられたことに気が付き、その場を離れた。
「上等だッ!」
ドンドルマのハンターたちが地上から近づいて無傷だったと聞いていたが、ジークとベレシスの武器によってシェンガオレンが小さな切り傷を与えられていた。剛種の素材によって鍛え上げられた武器の威力は、剛種シェンガオレンの硬さすらも貫いたのだ。大砲とバリスタで援護してくれているハンターたちにちらりと視線を向けたジークは、一度頭を振ってからシェンガオレンの脚に向かって駆けた。
「ジークさんっ!? な、なんでここにっ!?」
「やはり、とても楽しい人ですね!」
シェンガオレンの脚へと無謀としか言えない突撃をするジークとベレシスの姿に気が付いたのは、シェンガオレンを背後から追いながら矢を放っていたティナだった。砦に残って全体の指揮をしていたはずのジークが、双剣を持ってシェンガオレンに向かっていることはティナにはまるで理解できない状況だったが、パイモンはベレシスが共にいるのを見て笑っていた。
「ティナさん、二人を援護しますよ」
「は、はい!」
立ち上がったシェンガオレン相手には頭骨まで攻撃が届かなかったパイモンとティナは、足下で駆ける二人を援護した方が有利になると判断していた。四本ある脚に対して代わる代わる二人で突撃を繰り返すジークとベレシスは、横から飛んできた矢と弾丸を見てパイモンとティナの援護だと即座に気が付いた。
「お願いしますっ!」
「任されよう」
二人で同じ脚を攻撃していたジークは、足下にいるハンターが四人になったことでできた余裕を他の脚に向けるべきだと考え、シェンガオレンの下を走り抜け、ベレシスとは対角線上にある脚へと向かって双剣を突き立てた。生物に刃を突き立てているとは思えないような金属音にも似た衝突音を響かせながら、ジークはシェンガオレンの脚を責め立てていた。
「上から来ます!」
ジークを援護するようにティナがパイモンから離れた瞬間、四本の脚を折り曲げてシェンガオレンの本体が降ってきた。足下にいるハンターを押し潰そうとするシェンガオレンの攻撃に気が付いたティナの声に従って、ジークは脚の外側へと向かって飛んで逃げた。
「いってぇ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「あぁ……まだいける」
着地を考えずにシェンガオレンの外側へと転がったジークは、身体に擦り傷を作りながらも立ち上がっていた。シェンガオレンが先程から脚への攻撃を過剰に気にしているのは、ベレシスが振るうネブラレギナの龍属性エネルギーのせいである。ジークが巻き込まれそうになった攻撃はベレシスに対して行われた物だが、ジークとしてはシェンガオレンの本体が降りてくるなら願ってもない状況だった。
「回り込んであいつの顔を攻撃してくれないか?」
「顔、ですか?」
「俺がその間に近づく」
「それって……」
「頼んだぞっ!」
ティナにシェンガオレンの正面に回って本体の顔付近に向かって矢を放つように指示をした。ティナはその後にジークがいった近づくという言葉に疑問を挟もうとしたが、質問する前にジークはシェンガオレンに向かって走り出した。大砲がシェンガオレンへと着弾する爆発音と共に走るジークは、ベレシスの方へと爪を振り下ろすシェンガオレンの横を通り抜けた。
「っ!」
ジークの突進はあまりにも危険な行動だったが、止める前に走り出したことでティナも援護するしか選択肢が無かった。とはいえ、脚をチマチマと攻撃していたところでシェンガオレンに痛手が与えられないことは事実である。走るジークを追いかけるティナは、シェンガオレンが再び脚を軋ませながら進行を始めたのを見て矢を引き絞る。
「いきますッ!」
声を上げてからティナは矢を放った。真っ直ぐシェンガオレンの口付近へと飛んでいった矢は甲殻へと刺さるが血を流させるほどには届かず、シェンガオレンの視線だけがティナへと向けられた。
「貰った!」
ティナに向かって爪を振り上げたシェンガオレンの横から抜け出したジークはシェンガオレンに向かって跳躍し、脚の付け根を蹴り上げて顔へと直接双剣を突き立てた。金属音と共に血が噴き出し、シェンガオレンが嫌がるように身体を震わせながら立ち上がった。
「くっそ……あんまり効いてないか」
「大丈夫ですかっ!?」
「大丈夫だ……ちょっとすっころんだ」
シェンガオレンが身を捩った反動で地面を転がったジークだが、今度はしっかりと受け身を取りながら防具が一番分厚い部分で着地をしたおかげで怪我をしていなかった。心配するティナに大丈夫だと告げてから、ジークは再び立ち上がったシェンガオレンを見上げた。
「なんとか……なんとかしないとな」
ダルクたちが一生懸命になって放っている大砲やバリスタも効果が無い訳ではないが、あまりにも強大すぎて効いているのかも微妙な状態である。気にしていないようにも見えるが、気にしているようにも見える反応を繰り返すシェンガオレンに、ジークは焦りを感じ始めていた。地面を転がったジークは、すぐはいごに砦が近づいていることに気が付いていた。数分もしないうちにシェンガオレンは砦を粉砕し、撃龍槍が待つ中央まで突破していくことは確実。しかし、希望も見えてきているのもまた事実だった。
「とりあえず……ベレシスさんを回収して砦の後方に下がろう。もうこの砦は突破される」
「……で、でも」
砦が破壊されれば、地上にいるハンターたちも破壊に巻き込まれる可能性があるため、ジークは早めの撤退を決めていた。ジークに地上部隊を任されながらも、まともな傷も与えられていないことに歯がゆい思いをしているティナは、撤退の二文字を受け入れるのに少し時間がかかった。
「ティナッ!」
「っ……わかりました」
立ち上がったシェンガオレンは、砦の上で動きながらこちらを攻撃しているハンターたちを発見して爪を振り回すのを止めた。大砲とバリスタをそのまま全身で受けることになるが、シェンガオレンはその攻撃を微々たるものだと判断して防御を止めたのだ。代わりに、爪を大きく振り上げて砦へと狙いを定めたまま歩きだす。まだシェンガオレンの爪は砦には届かないが、その姿だけで砦を防衛しているハンターたちに大きな恐怖を植え付ける。
「流石に限界ですね……」
「おう、野郎どもッ! 撤退の準備だッ!」
砦の上でジークに変わって指揮を務めていたダルクは、シェンガオレンが接近してきている姿と、その姿を見て士気が目に見える程に下がっていることを判断して砦の放棄を決めた。ダルクの言葉に頷いたアキレスは砦の端まで聞こえるような声で撤退指示を出した。慌てた様に撤退準備を進めるハンターたちを横目に、アキレスはシェンガオレンに意識を向けていた。
「こいつ……本当にぶっ倒れる時がくるのかよ」
「それはジークさんたち『ラグナロク』の主力メンバーによりますね」
「……俺もさっさと凄腕ハンターになっておくんだったぜ」
「凄腕ハンターになっても『ゴエティア』の所のハンターたちみたいに、依頼に出ていてこの戦いに出られなかったかもしれませんけどね」
「違いねぇ」
剛種シェンガオレンは強大なモンスターであり、大きな被害が考えられる中で凄腕ハンターがたったの12人しかいないのは、各地で寒冷期になって古龍種が活発に動き始めたことが大きかった。シェンガオレンもそれに呼応して動き出した可能性もあるが、どちらにせよメゼポルタが手薄になっていた中に舞い込んできた救援依頼に集団で対応できるのが『ラグナロク』だけだったのだ。
「さぁ、私たちも逃げますよ」
「おう」
すぐ近くまでシェンガオレンが迫っている中、ハンター全員が撤退しきったことを確認したダルクとアキレスは最後の仕掛けを施してから砦を出た。次の砦へと向かって走っていく大勢のハンターたちの背中を追いかけようとダルクとアキレスが走り出した瞬間、シェンガオレンが爪で砦を切り裂いた。石組の高台だろうが、鉄も使われている砦だろうが容易く裂いてしまうシェンガオレンの爪が砦を破壊した瞬間、内部に仕掛けられていたありったけの大タル爆弾が爆発し、中に残してきた大砲の弾丸が誘爆する。
「きゃぁ!?」
予想よりも早くシェンガオレンの攻撃が砦を破壊した影響で、安全な距離まで逃げられていなかったダルクとアキレスは上から降ってくる瓦礫をなんとか避けながら走っていた。大タル爆弾と大砲の弾が連続で爆発する衝撃を受けて、シェンガオレンもその脚を止めた。この日、二度目の巨大な爆発を受けたシェンガオレンは、ハンターたちが考えるよりもダメージを受けていた。
「もっと走れ!」
「これで精一杯ですっ!」
自分よりも重装甲であるはずのアキレスがかなりの速度で走っている姿を見ながら、ダルクは力いっぱい走っていた。瓦礫が上から降ってくる中、その瓦礫が落ちてくる場所を的確に判断しながら走るダルクとアキレスを視認していたバアルは、大砲を準備していたハンターたちへと視線を向けた。
「装填してあるやつはシェンガオレンを一発だけ撃て。逃げてるハンターたちの助けになるはずだ」
バアルの指示を受けて、弾が装填されていた半分程度の大砲が順に発射された。射程ギリギリではあったが、シェンガオレンの身体へと的確に撃ちこまれた大砲の衝撃によって、シェンガオレンは一瞬その歩みを止めた。その間にダルクとアキレスはとりあえずの安全地帯まで逃げきっていた。
「よし、全員装填開始だ。シェンガオレンの次の相手は俺たちだ」
「頑張れ」
バアルの指示とヴィネアの声を聞いて、高台にいるハンターたちは自分達を奮い立たせるために大きく吼えた。ハンターたちは咆哮と共に急ピッチで装填作業を進め始めていた。筋肉自慢の大男たちが大砲の弾を片手ずつ持って運ぶ横で、ヴィネアは両手を使って大砲の弾を三つ運びながらシェンガオレンの動向を気にしていた。
「……団長とジーク、また突撃してる」
「放っておけ」
ヴィネアの若干呆れた様な声に対してバアルはもはや諦めた様な顔で馬鹿は放っておけと言っていた。あれだけの攻撃を受けてもなおシェンガオレンに身一つで突撃していく姿は、正しく蛮勇と呼べるだろう。一般的な無茶無謀と言われる蛮勇と違う所は、二人共シェンガオレンの攻撃を一度も受けていないところである。
「ジーク!」
「はいッ!」
バアルとヴィネアに呆れられていることなど露知らず、ジークとベレシスは二人でシェンガオレンの足下を走り回っていた。バアルの指示によって一発ずつ順番に発射される大砲の弾によって、シェンガオレンは先程よりも更に進行が遅くなっていた。絶え間なく飛んでくる砲弾の雨によって上手く進めないシェンガオレンの足下で、伸び伸びと走り回るジークとベレシスは、それぞれの武器を手に持ちながら超人的な動きを繰り返していた。
「し、支援が追い付きませんッ!」
「耐えてください!」
砦を突破されたことでギアが一段階上昇したのか、ジークとベレシスの動きは先程よりも更に早くなっていた。ジークが双剣を振るってから違う脚に向かって走り出せば、その隙にベレシスが太刀を振るっているとは思えない速度で脚を斬りつける。二人の支援をしていたはずのパイモンとティナは、あまりに早く動き続けるジークとベレシスに対して支援が追い付いていない状態だった。高め合うように速度を増していく二人は、まさに鬼神の如き猛攻を加えていた。
「まだまだッ!」
シェンガオレンの皮膚は極端に硬く、これほど二人で攻撃しても血が盛大に吹き出ることも無いが、攻撃を集中されていた一本の脚は既に赤く染まっていた。原理は分かっていないが、シェンガオレンは四本の脚を一定以上攻撃されてダメージが蓄積すると赤く変色していく。剛種シェンガオレンという異常な強さを持つ個体に対して、二人は短時間で一本の脚に対して必要以上の攻撃を加えたことになる。いくらシェンガオレンが大きく硬いモンスターと言えども、執拗に同じ部位を攻撃されてしまえばダメージが蓄積してしまう。
「はぁぁぁぁぁ!」
入れ替わりながら同じ脚を攻撃するジークとベレシスに対して、シェンガオレンは無視しきれずに攻撃をしようとしていたが、バアルによって放たれる連続砲撃に妨害され続けていた。バアルもベレシスも決して狙って連携をしている訳ではなかったが、結果的に二人のやっていることが噛み合ってシェンガオレンは守りに入りながら進むことしかできなかった。
「砲撃の手を緩めるなッ! ここで大砲の弾を撃ち尽くせ!」
バアルの指示一つに大きく吼えながら応えるドンドルマのハンターたちは、近づいてくるシェンガオレンの恐怖を振り払うように動き続けていた。ヴィネアやバアル、ジークやベレシスといった剛種シェンガオレンに対して全く恐怖を抱いていないようなハンターたちには一生理解できない気分だろうが、ドンドルマの一般ハンターたちは自分の後ろに通せばドンドルマが崩壊すると言う事実と、どれだけ砲撃を当ていても倒れる気配のない剛種シェンガオレンに底知れない恐怖を感じていた。
「……撃龍槍が必要、か」
バアルはドンドルマハンターたちの恐怖は理解できないが、彼らが恐怖を抱きながら戦っていることには気が付いていた。そんな彼らを勇気づけるには、やはり撃龍槍を正面からシェンガオレンに当て、少しでも剛種シェンガオレンを倒せる希望を見せる必要があった。未だにシェンガオレンの脚に向かって攻撃を繰り返す二人へと視線を向けながら、バアルは大砲の装填を順次急がせていた。もうすぐこの戦いにおける勝敗がつくことを、バアルは予測していたのだった。
多分次で終わります