狩人の頂   作:ばるむんく

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709航路②(キャラバンクエスト) 水竜(ガノトトス)角竜(ディアブロス)

「そろそろ砂漠に到着するっス!」

「おぉ……やっと到着か」

 

 オリオールの言葉に反応してベットから立ち上がったネルバは、肩を回しながら全身から聞こえる骨の音に顔を顰めた。普段の移動手段に比べればパローネ=キャラバンの飛行船は、目的地であるセクメーア砂漠に到達する時間も早く、快適さも段違いに良いものである。それでも寝ているか武器と防具の整備しかやることがないというのは、ハンターとして意気込んだ直後に味わうには少し退屈だった。

 

「おうジーク……もう準備できてんのかよ」

「パローネ=キャラバンの飛行船が出せる速度は大体聞いていたので、いつ到着するかは計算してあったんですよ」

「……すごいな」

 

 ネルバははっきりと賞賛の言葉を口にした。ハンターとしてジークよりも先輩であることは確かだが、ジークは地形や天候、モンスターの生態や人間とモンスターを含めた生物の心理的な話、専門ではないとはいえ鍛冶にも精通しており、船を操縦することもできる。まさしくハンターとして生きて行くのに必要な技術を全て持っている万能の天才に見えていた。

 

「もう少しゆっくりしていてもいいと思いますよ。砂漠に着いてもすぐに狩りに出掛けられる訳じゃありませんから」

「……それでも、手伝いとかしたいだろ?」

「同感です」

 

 ここまで至れり尽くせりの設備が整った飛行船に乗せてもらいながら、ただ航路付近に現れたモンスターを狩るだけでは少しばかり居心地が悪かった。ネルバの言葉に頷いたジークは、ネルバと同じく寝起き姿のティナに声をかけるためにネルバから離れていった。

 

「ガノトトスの変種か……久しぶりの相手だ」

 

 ジークと同じく既に完璧な準備を終えているバアルの姿を見て、一瞬逃げようかと考えて足を部屋に向けようとしたネルバは、その足を踏みとどまらせてバアルへと向かい合った。

 

「……へぇ『ゴエティア』は剛種ばかりとやってるのかと思ってたぜ」

「お前は馬鹿か? そんな剛種ばかり現れたら堪ったもんじゃないだろ……偶にしか現れない危険生物だから剛種なんだよ」

「それもそうだな」

 

 至極当然な言葉に肩を竦めながらネルバは自分に割り当てられた部屋に入り、壁に立てかけられているライトボウガンへと目を向けた。片手剣、太刀、ライトボウガンを普段から扱うネルバは、ジークが太刀を背負い、秘伝防具を持つ片手剣使いのバアルがいることを知ってから709航路ではライトボウガンを背負うことを決めたのだ。幸い、ネルバがライトボウガンを背負うことでティナと二人で後衛ができ、ジークが太刀として中衛を担い、バアルが片手剣を振るって前衛に立つことができる状況になっていた。

 

「ふぅ……俺はやるぞ」

 

 この飛行船が移動している最中、何度も口にしていた自分へと言い聞かせる言葉を口から出しながら、ネルバはインナーへと着替えて防具を着込んだ。とある職人によって鍛えられたボウガンを元にしていると言われているライトボウガン「鉄火ガン」を持ち上げて、ネルバは部屋から出た。

 

「頑張りましょうねッ!」

「おう」

 

 丁度ネルバの部屋の前を通っていたティナと目が合ったネルバは、元気いっぱいの言葉に頷いてからジークとバアルが眼下の砂漠を見つめている外までやってきた。灼熱の砂漠が生み出す渇いた風を肌に感じながら、ネルバは一歩を踏み出した。

 

 


 

 

「暑い……クーラードリンクでもこれか」

「全くだ。何年ハンターをやってもこればかりは慣れん」

 

 飛行船が降りたち、簡易的なキャンプを作成したのを確認してから、ジークたち四人は砂漠の中心に存在する地下水脈へと至る道を目指して砂漠を横断していた。暑さに耐える為にクーラードリンクを飲んでいるハンターたちだが、クーラードリンクが保障してくれるのは命の危機を感じる程の厚さまでであり、どれだけクーラードリンクを飲んでいても砂漠を横断すれば汗も流れる。ジークの言葉に共感を示すバアルは、水を補給しながら地図を広げた。

 

「あともう少しで洞窟の入り口が見えるはずだ」

「そこから下っていけばいいんでしたよね」

「あぁ……だが地底湖は昼でも寒いからな。念のためにホットドリンクは用意しておいた」

「……抜け目ないのはいいんですが、今ホットドリンクを見せないでください」

 

 セクメーア砂漠の地下には大きな地底湖が存在している。どうやら外の海と繋がっているらしく、塩水でできているその地底湖の中には時折ガノトトスが出現することがある。砂漠の地下である地底湖周辺は薄暗く、常に湿気に満ちているのが特徴だが、それ以上に何の対策もせずに地底湖に足を踏み入れれば外との気温差で一気に風邪を引いてしまいそうになるほどに砂漠の地下は冷えていた。バアルはセクメーア砂漠などもそれなりに経験しているため、事前にクーラードリンクだけではなく、地底湖にガノトトスが逃げ込んだ時の為にホットドリンクも用意していたが、見るだけで暑苦しいと感じたジークに嫌がられていた。

 

「ガノトトスの討伐、か……正直オアシスのガノトトス程度じゃないですか?」

「パローネ=キャラバンとしては周辺環境の平定の為に、ガノトトスが邪魔だったんだろ。変種ともなればなおさらの話だ」

 

 いくら砂漠の通行ルートからは外れた場所にしか出てくることが無いとはいえ、変種のモンスターが近くにいるということがパローネ=キャラバンにとっては危険を意味していた。故に念のために討伐して欲しいとの依頼であった。

 

「この洞窟じゃねぇか?」

「そ、そうみたいです……涼しい」

「ジークさーん……あれ?」

 

 ジークとバアルがパローネ=キャラバンの思惑について喋っている間、先に進んでいたネルバとティナは地底湖へと通じる洞窟を発見していた。直射日光を浴びながら大きな砂漠を横断していたため、汗まみれだったティナは洞窟の日陰に入って大きく息を吸っていた。日光が遮られるだけでこれほど気温が変わるのかと思いながら、ジークたちの方へと視線を向けたティナは、歩いてくる二人のハンターの背後で砂煙が上がっていることに気が付いた。

 

「ジークさん、後ろのは……」

「後ろ?」

 

 遅れて洞窟までやってきたジークとバアルは、ティナの言葉を聞いてゆっくりと後ろを振り返るが、特に異常など見当たらなかった。変わらず地平線には陽炎が揺らめき、見渡す限りの不毛の大地だけだった。

 

「何もないぞ?」

「……あれ? おかしいですね……砂煙が上がってたんですど」

「ガレオスでもいたんじゃないか? それより、さっさとガノトトスの元へと行くぞ」

 

 首を傾げるティナに対して雑な返答をしたバアルは、念のためにと全員にホットドリンクを手渡した。見たくもない物を見せられたジークは、必要性を理解しながらも顔を顰めていたが、最終的には必要だろうと考えてアイテムポーチへとしまい込んでいた。

 

「ガノトトスは地底湖にいつもいるんですよね?」

「いや、外の川にも出没する。相当深いらしくてな」

「なるほど」

 

 ガノトトスは地底湖にしか出てこないものだと思っていたジークだが、砂漠にある川にも出現すると聞いて意外に思いながらも、その川が位置する場所はクーラードリンクも必要ない気温なのだろうと予測していた。そもそも体表が濡れていないとまともに活動することも難しいガノトトスが、川の近くとはいえ灼熱の砂漠の中に出てくるはずがないと考えていた。

 

「じゃあ行きますか」

 

 ジークの言葉に頷いたティナは、遠くに見えた砂煙を忘れる為に頭を左右に振ってから強く頷いて立ち上がった。灼熱の砂漠を横断した先でようやくお目当てのモンスターにである状況になり、全員が顔を引き締めていた。

 洞窟を進んでいく度に気温がどんどんと下がっていくのを肌で感じながら、ジークたちは砂で滑らないように進んでいた。しばらく歩けば足元の砂はなくなり、奥から地底湖によって冷却された風が運ばれてきていた。砂漠との気温差で身を震わせたジークは、バアルの言う通りホットドリンクでもなければやっていけないと思いながらも慎重にバアルの背中を追いかけるように歩いていた。

 

「これは……随分と大きな地底湖だな」

「さ、寒くなりました」

「ホットドリンク飲め」

 

 水の反射によって薄暗いながらも自然の美しさを感じさせる地底湖に到着したジーク、想像以上の広さに驚いていた。横で身体を震わせていたティナはバアルに渡されたホットドリンクに早くも口を付けていた。

 

「ここにガノトトスが……」

「いるはず、なんだが」

 

 ティナにつられるように全員がホットドリンクを口にしながら、ジークは地底湖の水面へと顔を覗かせた。砂漠の地底湖にある影響なのか途轍もない透明度の水に驚きながらも、その水から発せられる冷たい空気から逃れるために顔を上げようとした瞬間、巨大な影が上に向かって急上昇してくる姿を見た。

 

「まずっ!?」

「え? きゃっ!?」

 

 急上昇してくる影がなにかを察したジークは、横で洞窟の天井を眺めていたティナを抱きしめてから水辺から離れるように飛んだ。ジークの行動から全てを察したバアルとネルバは武器を構え、予想通りに水飛沫を上げながら飛び出してきた、予想以上に巨大な魚竜に唖然としていた。

 

「でかくないかッ!?」

「ジーク!」

 

 いくら変種とはいえ大きすぎると感じたネルバは、鉄火ガンを構えて装填されている貫通弾を放とうとしたが、周囲へと向けていた視線がネルバとバアルの方へと向いたのを認識した瞬間に横に飛んでいた。

 

「っ!?」

「くそったれッ! ジーク! なんとか態勢を立て直してくれっ!」

「わ、わかりました! ティナ、ネルバさんとバアルさんの救援頼む」

「はい! なんとかしてみせます!」

 

 反射で横に飛んだ場所へと水流ブレスが放たれ、間一髪でそれを避けた二人は、さっきまで立っていた場所が水圧によって綺麗に割れているのを見て言葉を失った。すぐに二回目の水流ブレスを口から放とうとしているガノトトスを見て、ネルバはジークとティナに自分たちが囮になっている間に態勢を立て直すことを求めていた。想像以上の大きさをもっていたガノトトスに面食らっていたジークは、ネルバの指示を聞いてティナに二人の救援を頼んでから、背負っていた殻王獄刀【鋼】を抜いてガノトトスの背後から急接近した。

 

「ここなら、見えてねぇだろっ!」

 

 バアルとネルバに視線が向いているガノトトスの脚に向かって、ジークは殻王獄刀【鋼】を振り下ろした。変種であるガノトトスの鱗は当然の様に鋼の如き硬度を持っていたが、ジークの持つ殻王獄刀【鋼】は鋼すらも容易く斬り裂く剛種シェンガオレンの武器である。少しの抵抗を感じながらも更に力を込めたジークに応えるように、殻王獄刀【鋼】はガノトトス変種の鱗を切り裂いた。

 

「やぁッ!」

 

 突然脚を斬りつけられたガノトトスはすぐに尾を振り回しながら背後へと振り向くが、その動きに合わせてジークは股下を抜けて再び背後に回り込んでいた。絶妙のタイミングでしか成し得ることができない技術だが、ジークはガノトトスと戦うが初めてではない為に可能な行動だった。振り向いた先にも敵がいないことを認識したガノトトスは、横から飛んでくる牽制用に放たれた矢を避けてからブレスを洞窟の壁に向かって放ち、そのまま首を身体ごと回転させた。

 

「ちっ! 頭を下げろッ!」

「うぉッ!?」

「わ、わかってますっ」

 

 身体を回転させて周囲を巻き込むブレスを放ったガノトトスだったが、その行動を読み切ったバアルが強制的にネルバの頭を抑え込み、ティナにしゃがむように叫んだ。少しの間を開けて、下げた頭の上をガノトトスの水流ブレスがもの凄い勢いで通り過ぎ、洞窟の壁に一文字の傷が出来上がっていた。しかし、足下にいたジークには全く関係もなく、ガノトトスが止まった瞬間に先程斬りつけた脚とは反対の脚に向かってシェンガオレンの脅威を振り下ろした。

 

「よしっ! 反撃に出る」

「お、おう!」

 

 回転した勢いが残った状態のまま脚を傷つけられたガノトトスは、勢いによってそのまま倒れこんだ。やたらめったらに水流ブレスを放っていたガノトトスが生み出した隙を見て、バアルとネルバは飛び出していた。霞龍の素材によって生み出された「ネブラボルヌス」を抜いたバアルは、ネルバを置き去りにする速度でガノトトスに接近して首筋の動脈に向かって毒の滲み出る片手剣を振り上げた瞬間、ガノトトスは釣られた魚のように勢いよくその場を跳ねまわった。

 

「くっそ!?」

 

 ガノトトスが急に暴れたせいで片手剣を振り上げていたバアルと、ガノトトスの転倒に巻き込まれないように移動していたジークは地面の揺れに膝を折った。そして、地面に膝をついたバアルとジークが立ち上がるよりも先にガノトトスは跳ねた勢いのまま立ち上がり、その巨体を折り曲げてバアルに向かって横タックルを繰り出した。

 

「ぐぁッ!?」

「バアルさんッ!」

「ちくしょうっ!」

「ね、ネルバさんっ! 前に出過ぎです!」

 

 辛うじてガノトトスと身体の間に盾を滑りこませたバアルだが、通常のガノトトスよりも遥かに大きな体躯を持つガノトトスのタックルを片手剣の盾ではまともに受け止めることもできず、成人男性であるバアルを簡単に洞窟の壁まで吹き飛ばした。仲間がやられたことで頭に血が昇ったネルバはライトボウガンを構えながら一歩前に出た。その一歩がガノトトスにとっては間合いに入る絶好の機会だった。

 

「食らいやがれッ!」

「下がれネルバさんっ!」

「っ!?」

 

 立ち上がったジークがガノトトスに異変に気が付き、ライトボウガンを構えた発射体勢に入っていたネルバに下がるように叫ぶが一拍遅く、ネルバがその攻撃に気が付いた時には、ガノトトスが身体を回転させたことによって近づいてくる尾びれに視界が埋まっていた。

 

「くそっ! 援護頼む!」

「は、はい!」

 

 一瞬でバアルとネルバが戦線から引き剥がされたことに危機感を覚えたジークは、ティナに援護を頼みながら再びガノトトスへと接近していった。遠くに飛ばされたバアルとネルバの所まで攻撃が届かないように、ジークは神経を使いながらガノトトスの尾びれを避けて下顎に向かって切り上げる。下から迫ってくる刃に素早く反応したガノトトスは、すぐに脚を限界まで伸ばして紙一重で太刀を避け、その勢いのままジークを押し潰そうと身体を地面に押し付けるように飛び跳ねた。

 

「やってくれる!」

 

 なんとかガノトトスの身体から逃れたジークは態勢を立て直すために太刀を下段で構えていた。本来ならば足下に入り込んで死角から攻撃を仕掛けたい場面であるが、また周囲にブレスをまき散らされてしまうと、この場にいるハンター全員のために牽制してくれているティナ、そして態勢を立て直しているバアル、ネルバにまで危険が及ぶと考えながら、自分自身もガノトトスの攻撃を紙一重で躱す行動は、普段無地蔵のスタミナで狩りを引っ張っているジークに大きな負担をもたらしていた。

 

「っ! くそ……キッツいなっ……」

 

 横タックル一つで簡単にハンターを弾き飛ばす膂力を目の間にしているジークは、攻撃が掠れば自分も戦線から無理やり剥がされてしまうと考えていた。もしそうなってしまった場合、弓を構えているティナが一人でガノトトスを相手にする時間ができてしまう。どれだけティナが優れた狩人だったとしても、変種のモンスター相手に弓を持って一人で応戦することは難しい。タンジアにいた時から数多くの武器を扱っていたジークは、遠距離武器が敵モンスターに接近される危険を理解していた。

 

「頼むティナッ!」

「はいっ!」

 

 ジークの声に反応したティナは、ガノトトスがネルバとバアルに注意を向けないように牽制するために放っていた矢を、ガノトトスの背びれに向けて放った。放射状に五つ同時に放たれた矢に意識を向けたガノトトスの隙を見てジークは力の限り上に跳躍し、ガノトトスの顔に向かって太刀を突き刺そうとしていた。

 

「はぁッ!」

「や、やった!」

 

 ジークが放った鋭い突きはガノトトスの下顎に突き刺さり、ティナの放った矢も五本のうち二本が貫通し鮮血をまき散らした。降り注ぐ血で視界を塞がれないように片手で振り払ったジークは、同時にガノトトスが頭を振ったことで顎に突き刺さっていた殻王獄刀【鋼】ごと地面に投げ出された。

 

「くぁっ!?」

 

 ギリギリ受け身を取ったジークはすぐに顔を上げてガノトトスへと視線を向けた。どんなモンスターにとっても急所になる首筋へと刃を突き立てたことは確かだが、それだけでモンスターが死ぬとも考えていないジークはすぐにガノトトスへの警戒を強めようとしていた。しかし、ガノトトスは痛みに喘ぎながら地底湖へと逃げていった。

 

「…………ふぅ……なんとかなった、か?」

「大丈夫ですか?」

「無事だ」

 

 太刀を杖代わりに立ち上がったジークは、ガノトトスに与えた傷が致命傷ではないことを知りながらも相手が逃げたのならば仲間の無事の方が優先だと考えて武器を納めた。

 

「おっと、元気ですね」

「直撃はしてないからな。逃げたならさっきも言った砂漠の方だろう」

 

 ネルバとバアルの元に行って安否を確認しようと振り向いた先には、既にバアルが立っていた。ガノトトスのタックルを盾で受け止めていたバアルは、衝撃から自分の身を完璧に守っていた。振動によって足元もおぼつかない状態から完璧なタイミングで盾を滑りこませる技術にジークは一人で感心していたが、ライトボウガンを背負っているせいで守りが薄いはずのネルバを心配して、飛ばされた方向へと視線を向けた。

 

「……無事、みたいですね」

「直撃していたからな。少し放っておけ」

 

 倒れた状態のまま腕を振っているネルバを見て、意識もしっかりあることを確認したジークは安堵の息を吐いた。ほんの短い攻防ではあったが、一瞬の判断ミスで戦線を一気に崩壊させられた事実だけがあった。

 

「あれほどまで巨大なガノトトスは初めて見た。砂漠限定かもしれんが、水中の生態系の頂点であることは違いない」

「そんなガノトトスが一目散に逃げますかね」

「さぁな……そこは俺も知らん」

 

 生態系の頂点であると言われてもおかしくない巨大さではあったが、少しの反撃を受けただけで逃げて行くその態度にどこか違和感を覚えていた。とは言え手傷を負わせているガノトトスをむざむざ見逃すつもりなどジークには全く無い。

 

「すぐに追撃しましょう」

「待て。水の中に逃げ込まれたままじゃどうしようも……」

「知らないんですか? ガノトトスは大きな音に弱いんですよ」

「……用意のいい奴だ」

 

 懐から音爆弾を取り出したジークを見て、バアルは驚いたような様子を見せてから呆れた様な笑みを見せた。

 

 


 

 

「よっと……暑い場所から寒い場所に行って、今度は適温ですか」

「文句言うな。クーラードリンクもホットドリンクも必要ない場所で狩りができるなら、それに越したことはない」

「確かに、ですね」

 

 急斜面の洞窟を登り切ったジークたちは、日陰になる場所と日が当たっている場所の半々になっている乾燥した広場にやってきていた。砂漠のように足場が全て砂になっている訳でもなく、草が生い茂っている訳でもない場所には、草食竜であるアプケロスの姿もあった。アプケロスは草食竜の中でも暑さに強く、ラティオ活火山にも生息している草食竜ではあるが、まさか砂漠のど真ん中にある日陰に集団で暮らしているとはジークも思っていなかった。

 

「こっちだ」

「……涼しい風ですね」

「地底湖から流れてくる川が熱を冷ましてるのか?」

 

 バアルが先行し、その後ろを歩くジークとティナは砂漠の中にいるとは思えない清涼さに首を傾げていたが、しばらくすると想像していたよりもかなり大きな川がそこには広がっていた。砂漠にある川と想像してまず小さなものを思い浮かべていたティナは、巨大なガノトトスが泳いでいてもなんら問題なさそうなほどの川幅に驚愕していた。ジークもガノトトスが生息できると聞いて想定していた川の数倍以上の規模に唖然としていたが、その川底にガノトトスが留まっているのを見つけてその深さを理解した。

 

「やはりここに逃げ込んでいたか」

「音爆弾を投げれば、ガノトトスは反応するでしょうけど……どこまで通用するか」

「問題はないと思うぞ」

 

 爆薬とモンスターの鳴き袋を使って作り出された音爆弾は、投げるだけで人間の鼓膜を破壊するのではないかと思うほどの音を発生させるハンター用のアイテムである。基本的に聴覚のいいモンスターや、高周波が苦手なモンスターに向けて使われるアイテムだが、どんなモンスターを相手にするのかわからない航路クエストで、持ってきて損は無いだろうとジークがポーチに詰めていた物である。

 

「さて、行きますよ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ」

「早くしてくださいよ」

 

 ジークが今すぐにも投げようとしているのを見て、ネルバはなるべく離れようとしていたが、その行動にティナとバアルも呆れていた。

 

「じゃあ投げますからね」

「お、おう!」

 

 ネルバの準備が整ったのを見届けたジークは大きく振りかぶって川の底に響くように音爆弾を投げた。勢いよく飛んだ音爆弾は空中で爆裂し、川の水面に大きな波紋を生み出すと同時に、ガノトトスは川全体に響き渡った音によって水面から飛び上がった。放たれた音爆弾の音に驚いたのはガノトトスだけではなく、周辺で草を食べていたアプケロスたちもその音に反応して慌てて逃げ出し始めていた。

 

「よーしっ! 今度こそ仕留めて――」

「――なっ!? ジークッ!」

 

 水の中から弾け飛んできたガノトトスが空中を飛んでいる姿を見て、嬉々としてライトボウガンを構えたネルバを視認しながら片手剣を抜刀しようとしたバアルは、地面を揺らしながら何かが向かって来ていることに気が付いた。バアルの切羽詰まった声にジークが振り向いた瞬間、ティナが弓を構えている背後から音爆弾の爆音につられて大型モンスターが地面から飛び出していた。

 

「嘘だろッ!?」

「えっ? きゃぁっ!?」

「ティナッ! 全員散開しろっ!」

 

 ガノトトスが水から飛び出し地面に打ち上げられるのと同時に、砂の中から二つの凶暴な角を持つ悪魔が姿を現していた。砂漠の保護色となる砂色の身体に、地面を抉るハンマー状の大きな尻尾。空を飛ぶことが可能な翼に、見る者全てを畏怖させる大きなねじれた二本の角。砂漠の暴君、角竜(かくりゅう)ディアブロスが音爆弾の音で飛び出した。すぐさまパーティー全員を散開させたジークは、歯噛みしながら砂漠の暴君と水辺の主を相手取る方法を巡らせる。

 

「バアルさんっ! ネルバさんと共にディアブロスの相手を頼みますっ! ティナは俺とガノトトスだ」

「は、はい!」

「ちっ! この状況ではやむを得んかッ!」

 

 強烈な音爆弾によって地上に引きずり出されたことに相当怒っているのか、黒い息を吐きながらディアブロスは既に直線状に転がっているガノトトスとネルバに狙いを付けていた。尻尾で地面を叩いてから後ろ脚に全ての力を込めた突進を始めたディアブロスは、恐ろしい速度で加速していき、音爆弾の衝撃から立ち直っていなかったガノトトスを弾き飛ばした。

 

「おわぁぁぁぁっ!?」

 

 体格では明らかに変種ガノトトスの方が上であるにもかかわらず、ディアブロスは簡単にガノトトスを弾き飛ばしてからその勢いのままネルバに狙いを付けて突進を続ける。自分が狙われていることに気が付いたネルバは必死になってディアブロスから逃れようとしていたが、ディアブロスは執念深く幾度も方向転換しながらネルバを追いかけていた。

 

「ティナ、一発ディアブロスに弓を放ってからガノトトスに向かってくれ」

「ネルバさんの救出ですか?」

「そうだ……それに、向こうにはバアルさんがいる。少し突進の勢いを落とせばなんとかなる」

 

 ティナに一つだけ指示を出してから、ジークは殻王獄刀【鋼】に手をかけながらガノトトスへ向かって走り出した。音爆弾で陸に打ち上げられ、更にディアブロスに突進で弾き飛ばされたガノトトスだが、当然の様に立ち上がって血走った目で走り回るディアブロスへと視線を向けた。

 

「ちっ! お前の相手は俺だろうが!」

 

 ディアブロスに向かって口を開いたガノトトスが何をしようとしているのか理解したジークは、すぐに太刀を大袈裟に振り回しながら接近する。しかし、ガノトトスはジークなど既に視界には入っておらず、そのまま岩をも容易く真っ二つにする水流ブレスを放った。

 

「ぐぁっ!?」

「っ! ネルバさんっ!」

「ここは俺に任せろ。お前はジークの方に行けっ!」

「は、はいっ!」

 

 ジークに言われた通りディアブロスに向かって牽制と目くらましを兼ねた矢を放とうとしたティナだが、横から急に飛んできた水流ブレスによって尻餅をついていた。ガノトトスの水流ブレスはディアブロスの横腹に当たり、硬い甲殻を削りながらディアブロスを突進の勢いのまま転倒させていた。ディアブロスの転倒とガノトトスブレスの衝撃によって吹き飛ばされるネルバを見て、助けようとしたティナはバアルに制止された。バアルの言葉に頷いたティナはすぐに弓を取ってガノトトスの方へと向かって走り出した。

 

「さて、大型モンスターが同じ場所に二頭いられると面倒なんでな……すぐに終わらせるっ!」

 

 ネブラボルヌスを抜き放ったバアルは転倒しているディアブロスに向かって加速した。

 水流ブレスを放ったガノトトスはすぐさまディアブロスに近づいて追撃しようとしたが、顎下にいたハンターが太刀を振り上げようとしている姿を視認して脚力を込めて一気に頭を上げた。

 

「中々勘がいいな……ならこいつでっ!」

 

 こちらを視認していないと踏んでの攻撃を器用に避けられたジークは、地面を蹴ってガノトトスの脚へと接近した。地底湖で与えた傷からはまだ僅かに血が滲んでいるのを確認したジークは、傷口に追撃するように太刀を横に振るった。上体を逸らす為に脚に力を入れていたガノトトスはその攻撃を避けることができず、ただ痛みに喘ぐように高い声を出すことしかできなかった。

 

「もう一撃っ!?」

 

 無防備なガノトトスに対してもう一度太刀を振るおうとしたジークだったが、ガノトトスの口が足下に向かって開いている姿を見て、咄嗟に太刀を手放して横に転がった。瞬間、ジークの防具を掠めるように水流ブレスが通り過ぎ、背後にあった岩の壁に大きな穴を生み出していた。

 

「くそッ!?」

「ジークさん!」

 

 避けるために殻王獄刀【鋼】を手放したジークは、武器を回収しようと手を伸ばそうとしてからガノトトスの身体が上から迫っていることに気が付いたが、ギリギリの所でティナの矢がガノトトス身体に刺さり、その動きを止めた。

 

「すまん……助かった」

「大丈夫ですよ。まだまだ行きますよ!」

「あ、あぁ!」

 

 ティナの勢いに押されながら、ジークは太刀をしっかりと握りしめてガノトトスと再び対峙した。

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