狩人の頂   作:ばるむんく

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709航路③(キャラバンクエスト) 水竜(ガノトトス)角竜(ディアブロス)

「っ! はぁッ!」

 

 殻王獄刀【鋼】を片手に、ジークは水竜ガノトトスの尾びれを避けながら股下へと潜り込んだ。すぐさま後ろに後退しながらジークを迎え撃とうとするガノトトスは、後方に飛ぼうとする直前に飛んでくる矢を身体で受けて怯んだ。

 

「いかせません……あなたはここで釘付けになってもらいます!」

 

 ジークを迎撃しようとした瞬間に行動を阻害するティナに対して、ガノトトスは牙を剥いた。下にいるであろうジークを巻き込みながらティナを迎撃するために、ガノトトスは脚を畳んで地面に腹をつけた。全身を水でコーディングするように覆っているガノトトスは、例え地面に腹をつけていてもそれが行動の邪魔になることは無く、逆にガノトトスは自身の潤いを利用して地面を水の中にいるかのようにうねってティナに向かって突進し始めた。

 

「一歩遅い」

 

 地面を削りながらその巨体を活かした攻撃を繰り出すガノトトスだったが、押し潰したと思っていたジークは既にガノトトスの横に移動しており、ガノトトスの這いずりの勢いを利用するように身体に太刀を突き刺した。殻王獄刀【鋼】は容易くガノトトスの鱗を砕き、痛みと共に血を迸らせる。地面を這いずっていたガノトトスは腹に太刀を刺された状態のまましばらく前に進んだことにより、裂傷は腹から尾びれ近くまで広がっていた。まき散らされる鮮血の量は、人間ならばとっくに死んでいてもおかしくない量であり、砂漠の渇いた地面すらも簡単には吸収しきれないほどの血液が流れていた。しかし、その程度でガノトトスは止まらず、すぐに立ち上がってから身体に刺さっている太刀と共にジークを放り投げる為に勢いよく横タックルを繰り出した。

 

「うぉッ!?」

「くっ! ジークさん、きゃっ!?」

 

 ガノトトスの思惑通り、刺さっている太刀と共に横に向かって飛んでいったジークに対してガノトトスは口を開けて水流ブレスを放った。行動を阻害しようと弓を引き絞っていたティナは、這いずりから逃れるために後ろを向いていた分、フォローに入るのが遅れて水流ブレスが発射された。ジークが咄嗟に盾にした岩を貫通した水流ブレスは、ガノトトスの首の動きに合わせてそのまま下に移動してから一気に右に向かって振り払われた。振り払われたブレスが自分の方へと向かっていることに気が付いたティナは、すぐに後ろに転がって岩をも切断する水流ブレスを紙一重で避けていた。

 

「仕切り直し、ですね……了解しました!」

 

 なんとかブレスを避けきったティナはチラッとジークが隠れていた、既に無残な方に破壊されている岩の方へと視線を向けると、そこからジークが顔を出してハンドサインでティナへと指示を送った。思ったよりも強く抵抗するガノトトスに対して、今のまま攻めていても埒が明かないと考えての仕切り直しに、ティナは頷いた。変種であるガノトトスが一筋縄ではいかないと判断して、時間稼ぎに行動を移行させるのだ。二人の仲間が、ディアブロスを先に倒してくれることを考えての行動に従って、ティナは弓を手にしながら走り出した。

 

 


 

 

「おわぁっ!?」

「はっ!」

 

 ガノトトスが水流ブレスを放っていることを視界の端で確認しながら、バアルはディアブロスの突進を受け流しながら片手剣を振るっていた。ジークとティナが相手をしているガノトトスが変種であるのに対して、バアルとネルバが相対しているディアブロスは上位個体相当の強さだった。それでも、砂漠の暴君と名高い双角の悪魔ディアブロスとあっては、バアルも慎重にならざるを得なかった。

 

「ネルバ、ほんの少しでいい……奴の突進を止めてくれ」

「止めるって言ったってよぉ……どうすればいい」

「ほんの少しでいい。徹甲榴弾でも拡散弾でも貫通弾でもいい。兎に角ほんの少しだけでもあいつの足を止めろ……話はそこからだ」

「……わかった」

「来るぞっ!」

 

 なんとかディアブロスの突進を直撃せずに回避し続けているネルバとバアルだったが、ただディアブロスに疲れが見えたり隙ができるのを待っているだけでは、下手をすればガノトトスを相手している二人が持たないと判断した。音爆弾によって聴覚を刺激されたことで怒り心頭のディアブロスを止めるには、片手剣を持つバアルではなく、ライトボウガンを持つネルバが最適だった。なんとか突進を止めるように頼んだバアルは、再び角をいからせながら突進を始めたディアブロスに対して、真正面から向かって行った。ただの自殺行為にしか見えないその暴挙に対して、ネルバは舌打ちしながら徹甲榴弾を装填してディアブロスの角目掛けて発射した。

 

「こいつでっどうだぁぁ!」

 

 ネルバの放った徹甲榴弾はバアルを追い越し、角の根元に突き刺さった。それを見届けたバアルは、片手剣を逆手に持って上に飛び上がった。同時に徹甲榴弾は起爆し、ディアブロスの動きが鈍った瞬間にバアルは徹甲榴弾が削った角へと向かって片手剣を突き刺した。

 

「ハァッ!」

 

 あまりにも人間離れをした動きにネルバが唖然としている中、勢いのままディアブロスを足蹴にして角に片手剣を刺したまま再び上に飛んだバアルは、落下する勢いのまま盾を片手剣に対して叩きつけ、ディアブロスの片角を無理矢理へし折った。

 

「なんて方法で折ってんだよッ!」

「使える方法はなんでもやれ。生き残りたかったらな」

 

 角をへし折ったまま地面に突き刺さった剣を拾いながら、バアルはネルバのいた場所まで後退した。あまりにも無茶苦茶な攻撃にネルバは抗議の声をあげるが、バアルはモンスターを狩る為ならばなんでも使い、なんでもやる現実主義者である。ネルバの言葉を鼻で笑ったバアルは、すぐにネブラボルヌスを構え直してディアブロスへと向かって走り出した。

 

「くそッ! 俺だってやってるやる……そのためについてきたんだよッ!」

 

 自分の考え方が硬く、バアルはのような考え方をするハンターがどんどん上に昇って行くのだろうことはネルバにも理解できていた。バアルとは少し違うが、ジークもモンスターを狩る為ならばなんでも利用する合理的な考え方をする。臨機応変に対応することが苦手なネルバは、ハンターとしての基礎的な動きを忠実に行う能力は存在しても、バアルやジークのように武器の使用方法としてギルドが提示している活用方法以外を咄嗟の判断で繰り出すことができない。故に、ジークやバアルのように狩場を自由自在に駆け回るハンターたちには一種の憧れを抱いていた。

 一人で叫ぶネルバを置いて、ディアブロスとバアルは既に次の行動に移っていた。角を破壊された反動をなんとか制御しながら、ディアブロスは怒りを超えて純粋な殺意を抱いた視線をバアルに向けていた。当然、モンスターの視線程度では怯みすらもしないバアルは、ネブラボルヌスから滴る毒をディアブロスに与える方法を考えていた。片手剣を揺らしながら走るバアルに殺意を向けながらも、ディアブロスはその場で地面を掘り返して地上から姿を消した。

 

「怒り心頭のディアブロスには音爆弾が効かない……なんとか振動と音で場所を把握しなければ……」

 

 砂塵をまき散らしながら地面を潜ったディアブロスに対して、バアルは舌打ちをしながらも冷静にディアブロスが地中を潜航する振動を足から感じ取っていた。正確な位置を把握できる程の行為ではないが、振動の大きさで大まかの位置を把握することは、バアルにとって造作もないことだった。

 

「ネルバッ! お前の右前方から飛び出してくるぞ!」

「お、おう! なんでも来いっ!」

 

 振動が止まったことを確認したバアルは、自身の左後ろ側、ネルバから見た右前方からディアブロスが飛び出してくることを忠告した。言われた通りの場所に向かってライトボウガンを構えたネルバは、その直後に砂塵を上げながら飛び上がったディアブロスに向かって徹甲榴弾を発射した。空中を飛びながらバアルの方へと向かって残っている片角を振り上げたディアブロスは、翼に刺さった徹甲榴弾を無視しながら地面に降り立つと同時に角を突き刺した。

 

「ちっ!」

 

 紙一重で避けようと横に動いたバアルは、ディアブロスの身体が横を通り抜ける瞬間に発生した風圧を受けながら、ディアブロスが再び巻き上げた砂塵から逃れるために盾を横に振った。動作通りに砂塵が横にずれていく中、バアルは微かに聞こえた甲高いモンスターの鳴き声に反応してその場で屈んだ。一見すると無意味な動作を行ったバアルだが、屈んだ瞬間にその頭上をガノトトスの水流ブレスが通り過ぎていった。巻き上げられた砂塵を薙ぎ払うように通り過ぎていった水流ブレスを見ながら、バアルはガノトトスの方へと視線を向けた。

 

「……さっさと終わらせるか」

 

 ティナとジークが少し離れた場所でガノトトスと戦っている姿を見たバアルだが、二人の動きが明らかに攻め手を欠いているのを理解していた。いくらジークであるとしても、変種ガノトトスを二人で攻略することは難しいのだろうと考え、バアルは目の前の怒り狂っているディアブロスを最短で沈黙させる方法を求めていた。

 

「もう一本の角を……いや、それではディアブロスの気勢を削ぐだけか。必要なのはディアブロスの命を確実に奪い去る方法……しかもなるべく早く、か」

「おい、大丈夫か?」

「問題ない。だが、さっさとディアブロスを片付けなければ、ジークとティナが危ない」

「そうか……わかった」

 

 翼に刺さった徹甲榴弾が爆発を起こしているのを見ながら、バアルはネブラボルヌスを構えた。剛種オオナズチの素材によって生み出された片手剣は、遅効性ではあるが確実に命を削る毒が滴っている。それをディアブロスの心臓に近い部分に差し込めば、自ずとディアブロスの命は短くなる。

 

「……お前、まだ徹甲榴弾はあるよな?」

「おうよ。必要になると思って結構持ってきたぜ」

「なら問題無いな。徹甲榴弾を頭に向かって撃て……どんな方法でもいいからアイツの目を俺から逸らせ」

「任せろ……そういうのは得意だ」

 

 ネルバの得意とする狩猟スタイルは誰かの補助となることである。それは自らの背中で人を引っ張っていくジークとは違い、周囲を立てることで集団を成り立たせるネルバ故の狩猟スタイルだった。それが理由なのか、ネルバは自分主体で動きたいと思いながらも最後は片手剣やライトボウガンといった人を支援することに特化した武器を得意としている。ネルバが頷いたのを見てから、バアルは再びディアブロスに向かって駆けだした。

 

「……チャンスはそれほど多くないはず。けど、俺は凄腕ハンターとして必ずなり上がって見せる……そのためにメゼポルタまで来たんだッ!」

 

 徹甲榴弾を装填したネルバは、丁寧に照準をディアブロスの頭に向けた。徹甲榴弾はその爆発の性質上、頭に上手く直撃させることでモンスターの脳を揺らし、その行動を制限したりハンマーで頭を殴った後のように一時的に気絶させることもできる。当然、徹甲榴弾を正確な場所に連続で刺しこむ必要がある。徹甲榴弾は反動も大きく、慣れていないハンターが放てば想定外の方向に飛んでいくブレ弾でもあるため、正確に頭に衝撃を与えることは上位のハンターでも難しいとされており、ネルバのようにメインで普段から使用している訳ではないハンターが狙ってできることではない。しかし、今のネルバは極限まで集中した状態であり、普段発揮できるパフォーマンスを超えた能力を発揮していた。結果的に、ネルバの放った四発の徹甲榴弾は、寸分たがわずディアブロスの眉間に突き刺さった。

 

「いいタイミングだッ!」

 

 バアルに向かって角を振り回しながら暴れていたディアブロスの眉間に、四つの徹甲榴弾が突き刺さったのを見て、バアルはネルバに対する評価を改めた。片手剣を専門としているバアルにとってライトボウガンは専門外の分野ではあったが、ほぼ同じ場所に四発の徹甲榴弾を撃ちこむ難しさは理解できていた。頭に突き刺さる徹甲榴弾を無視したまま突進しようと助走を付けたディアブロスは、四つ連続で爆裂した徹甲榴弾によって動きを止めた。

 

「霞龍の致死毒……受けてみろッ!」

 

 ディアブロスは徹甲榴弾の爆発で気絶することは無かったが、まったく予想外の方向から飛んできた爆発の衝撃によって、動きが完全に止まった。バアルは弾かれるように急加速し、ディアブロスの足下へと潜り込んでから、全身へと血液を巡らせるために存在する人間よりも巨大な心臓がある胸へと向かってネブラボルヌスを突き刺した。

 

「ちぃっ!? 浅いかっ!?」

 

 胸に突き刺さったネブラボルヌスからは十分な毒が溢れていたが、ディアブロスが咄嗟に身体を逸らしたことでバアルの突きの威力が半減されてしまい、心臓の近くにまで刃が達していなかった。それでも大量の血液を周囲にまき散らしながら苦しむディアブロスを見れば、バアルの攻撃がどれだけモンスターの命に迫った一撃なのかを理解できる。しかし、ガノトトス変種に苦戦しているジークたちを助けに行くためには、バアルとネルバは早急にディアブロスを倒す必要があった。命に迫るだけでは、ダメなのだ。

 

「ネルバッ!」

「おう! 任せろ!」

 

 ネブラボルヌスを引き抜き、ネルバへと力の限り叫んだバアルはそのまま足下から脱出し、今度は生物の血管の集まっている首へと向かって刃を向けた。同時に、バアルからの掛け声に反応してライトボウガンを構えたネルバは、すぐに貫通弾を装填してディアブロスへと向かって連射した。パイモンなどが扱う剛種の素材によって生み出されたライトボウガンのように、超速射を放つだけの機構は存在していないが、ネルバの持つライトボウガンも貫通弾の速射には対応していた。速射される貫通弾はディアブロスの外殻を削りながら全身に傷を刻んでいくが、痛みから回復したディアブロスはすぐさま尻尾を振りまわして砂煙を起こした。

 

「くそッ! これじゃあバアルの居場所が見えねぇぞ!」

「やってくれる……だが、お前の命は俺が握っている」

 

 唐突に巻き上がった砂塵に全身を隠したディアブロスを見て、ネルバは万が一にでもバアルに弾丸が当たることを恐れて連射することが極端に難しくなっていた。意図して起こしたことなのかは誰にもわからないが、バアルはネルバの攻め手が減ったことに舌打ちをしながらも、ディアブロスの首筋を既に捉えていた。剛種の素材によって生み出されたネブラボルヌスは、上位個体相当のディアブロスが有する外殻をバターのように切り裂き、鮮血を散らした。まき散らされる血の中に、ネブラボルヌスから滴るオオナズチの毒が混ざり、鈍い紫色へと変色していく様を見ながらもバアルは砂塵から抜け出した。

 

「今だ!」

「ふぅ……これで、ディアブロスは終わりだろう」

 

 正確な位置を掴めなかったバアルが砂塵から飛び出した瞬間に、誤射の可能性が消えたことによってネルバは再びディアブロスに向かって貫通弾を連射し始めた。砂塵の中から痛みに喘ぐような声を残して、ディアブロスは地面にその身を投げた。しばらくもがき苦しんでいた巨体は、ゆっくりと全身に回っている毒によってその動きを徐々に弱くしていき、そのままゆっくりと絶命していった。砂塵が晴れてその目でディアブロスの死を確認したバアルとネルバは、ジークとティナが戦っているガノトトスの方へと走り出した。

 

 


 

 

「避けろッ!」

「は、はい!」

 

 ジークの掛け声と共にしゃがんだティナは、頭上を水流ブレスが通り過ぎていくのを感じながら、矢筒から新しい矢を取り出していた。暴れまわるガノトトスの猛攻は激しく、ジークとティナの二人では攻め手を欠いていることを理解しながらも、ティナはジークの指示に従ってガノトトスへと攻撃を続けていた。

 既に何度も水流ブレスを避けられているガノトトスだが、自身が持つ最も殺傷能力の高い武器である水流ブレスを切り捨てることはできず、定期的にガノトトスはブレスを口から吐いていた。ジークとティナはガノトトスに対する攻め手が無かったが、かと言ってガノトトスが二人を追い詰めることができるかと言えば一概にそうとは言えなかった。優れた観察眼を持つティナと、天性の直感と才能で攻撃を最小限にいなすジークを相手に、ガノトトスもたった二人の人間を追い込めずにいた。

 

「……ディアブロスの方は片付いたのか?」

 

 ガノトトスの攻撃を掻い潜りながら、数回大きな音の鳴っていたバアルたちの方へと視線を向けたジークは、砂塵の中で横たわるディアブロスを視認した。ディアブロスが上位個体であったとしても、考えられない速度でバアルとネルバがディアブロスを仕留めたことになるが、秘伝防具を持つバアルの実力を考えれば十分現実的な範囲内だと内心で納得していた。ディアブロスを早めに片付けてくれたということは、自分たちがガノトトス相手にまともに攻めることができていないことも察しているだろうと考えたジークは、迫りくるガノトトスの牙を避けながら、ガノトトスの顔を踏み台にして首筋に向かって殻王獄刀【鋼】を振り下ろした。金属音と共に鱗が裂かれ、薄く血が滲んだのを確認してからジークはガノトトスの首から飛び降りた。

 

「先行する」

「バ、バアルさん!?」

「よし、俺たちで援護するぞ!」

「ネルバさんまで……ディアブロスは倒せたんですね!」

 

 無茶苦茶な動きをするジークに配慮しながら矢を構えていたティナは、後方から凄い速度で走り抜けていった純白のハンターを見て目を見開いた。ディアブロスを討伐した勢いのままガノトトスへと走っていくバアルに驚きながら、横に立ってライトボウガンを構えるネルバを見て二人がディアブロスを狩猟したことを確信した。こうなればガノトトス相手に四人のハンターを全て動員することもでき、この膠着状態も解消させる。狩猟の終わりが見えたことに希望を持ったティナは、先程よりも強く弓の弦を引き絞った。

 

「一回下がれ」

「それはバアルさんもでは? 討伐したまま来たの、見てましたよ」

「ディアブロスは上位個体で、ガノトトスは変種だ。お前の方が武器の消耗は大きい」

「…………わかりました」

 

 チラッと殻王獄刀【鋼】へと視線を向けたジークは、変種ガノトトスの硬い鱗を攻撃し続けた結果生まれた刃毀れを視認していた。ジークが先程与えた首筋への傷も、込めていた力に対して浅いものであることを理解していた。バアルに任せることに多少の抵抗を感じているジークだったが、実力的に考えてもバアルならば問題無いと結論を下して、ジークは後ろに下がった。ハンターとしての天性の才能はジークの方が上だが、経験や技術などを含めるとまだバアルの方に軍配が上がる。バアルとジークは、互いに実力を理解しているからの会話と交代だった。

 

「ティナ、ネルバさん……バアルさんの援護お願いします」

「おう!」

 

 ジークが後退していく姿を見送りながら、ティナは弓を構えた。ジークとは違った形で、人間離れした動きを見せるバアルに苦戦しながら、有効な場所を見極めて矢を放った。

 ジークと入れ替わりで突然現れ、剣を振るってくる相手に警戒心を示すガノトトスは、その巨体で押し潰そうとその場で軽く跳ねてから足を畳んだ。衝撃と共にバアルを弾こうと身体をくねらせようとしたガノトトスは、着地して地を揺らすのと同時に飛び上がっていたバアルの姿に一瞬硬直した。

 

「はぁッ!」

 

 跳躍したガノトトスに合わせて同じく跳躍したバアルは、ジークが与えた首筋の傷に向かってネブラボルヌスを突き刺した。鱗を削がれていた場所への攻撃は当然深く刺さり、ガノトトス痛みの余りにその場をのたうち回った。傷口にネブラボルヌスを突き刺す行為は単純に傷を広げるだけではなく、ディアブロスの命をじわじわと追い詰めたオオナズチの毒をガノトトスに撃ちこむ行為でもあった。同種でも類を見ないほどの巨体を持つ変種ガノトトスの全身に毒が回るには時間もかかり、致死量に到達するにも一撃だけでは足りないことはバアルも察していたが、それでも強力な毒であることには違いはない。痛みにのたうち回るガノトトスは、苦し紛れに口からブレスをやたらめったらに放った。

 

「今ですっ!」

「お、おう!」

 

 ガノトトスの不規則な動きに避難が頭に過ったネルバは、声を上げながら一気に距離を詰めるティナを見て、頭を振ってからその背中を追うように距離を詰めた。自分がジークたちについてきた目的のためにも、ネルバはここで消極的な選択をすることはできなかった。

 

「よし……」

 

 砥石を使って太刀の切れ味を回復させていたジークは、ガノトトスを狩るには充分なほど研いだ太刀を手に、立ち上がってガノトトスの方へと視線を向けた。痛みにのたうち回っているガノトトスに向かって接近していくティナとネルバを見て、バアルがなにかをやったのだと理解したジークは殻王獄刀【鋼】を背負って走り出した。砂の集まる地面の上を走っているとは思えない速度でガノトトスに接近するジークは、弓とライトボウガンを構える二人の射線に入らないように回り込んでいた。

 

「ジークさん……流石に早いですね」

「こいつも食らいやがれ!」

 

 バアルがネブラボルヌスによって毒を仕込んでいることを理解していたティナは、毒ビンを装填した矢をガノトトスの首筋に目掛けて放っていた。バアルの持つネブラボルヌスのように強力な致死性の高い猛毒ではないが、ないよりはマシと考えての行動だった。逆に、ネルバはバアルの動きなど考えずに余っている徹甲榴弾を全て発射していた。人間離れした動きを見せるバアルやジークのことを考えながら攻撃しても無駄だと考えたネルバは、着弾から爆発までタイムラグの存在する徹甲榴弾ならば、二人は見てからでも避けられるだろうとの判断である。

 

「好き勝手撃ちやがって……だが、悪くない」

「加わりますよ」

 

 ティナが冷静に毒矢を撃っているのに対して、ネルバが全く考えずに徹甲榴弾を放っている姿にバアルは若干呆れながらも、消極的な行動よりはよっぽどマシだと思って笑みを浮かべていた。暴れまわるガノトトスの尾びれから身体を逸らしたバアルの横を通り抜けたジークは、背中から太刀を抜刀して背びれの付け根に突き刺した。切れ味の回復した殻王獄刀【鋼】は、変種ガノトトスの鱗を容易く両断してに筋肉まで食い込んでいた。大量の出血と共に更に大きく暴れ始めたガノトトスに対して、バアル冷静にジークが傷つけた場所に狙いを定めていた。

 

「そろそろこいつの命を終わらせる」

「頼りにしてますよ!」

「任せろ……変種だろうが、剛種の毒から逃れることなどできん」

 

 暴れるガノトトスの背中を踏み台にしてバアルと立ち位置が入れ替わったジークは、太刀に付着している血液を振り払いながらバアルの止めに視線を向けていた。扱うハンターすらも蝕みかねない猛毒を振るうバアルは、ジークが傷つけた背びれの付け根を数回斬りつけた。飛び散る血液の中に混じる濃い紫色に、ジークは笑みを浮かべた。

 

「このまま押し切れ!」

「おう!」

「当然だ。お前はそのまま引っ込んでてもいいんだぞ?」

「誰が……俺もやりますよ」

 

 意気揚々と突撃してくるハンターたちに危機を感じ取ったガノトトスは、痛みを我慢するようにのたうち回るのを止めて、前方に向かって水流ブレスを放った。狙いを全く絞らずに放たれたブレスは、ジークたちには掠りもせずに地面に切断跡を残すだけであったが、ガノトトスは懲りずにそのまま水流を口から放ち続けていた。冷静に水流を避けながら太刀を振るうジークと、そもそもブレスが届かない足下で悠々と片手剣を振るうバアル。そんな二人を援護するように毒を垂らした矢を放つティナと、紙一重でブレスを避けながら貫通弾を速射するネルバ。既に、勝敗は決していた。

 

「……終わった?」

 

 しばらく続いた攻防の中、徐々に動きが鈍っていたガノトトスはゆっくりと倒れこんだ。数回痙攣した後に動くことのなくなったガノトトスを見て、ネルバは呆然と戦いが終わったことに口を開いていた。ディアブロスの乱入から始まってイレギュラーが溢れた狩りだったが、結果的にはジークとバアルの活躍もあって狩りに成功していた。

 

「ふぅ……すぐに人を呼ぼう」

 

 腰にぶら下げていた信号弾を上空に向かって発射したジークは、疲れた様子を見せずにディアブロスとガノトトスの解体を早めにしなければと考えながら太刀を納刀していた。バアルも同じく、特に疲れた様子もなく周囲へと視線を向けていた。

 

「素材はパローネ=キャラバンが買い取ってくれるんだったな?」

「そうらしいです。まぁ、キャラバンとして世界を巡る人たちは素材も沢山いるんでしょう」

「まぁ、妥当だな」

 

 これからのことを喋りながらディアブロスの死体へと歩いていく二人を見ながら、ティナは大きく息を吐いた。ティナは常人や、他の弓を扱うハンターよりもスタミナがある。しかし、一撃でも直撃すれば命にかかわるような変種相手に、集中して弓を引き続けているだけでかなりの体力を消耗していた。

 狩りを終えたばかりのはずなのに、全く疲れていないような姿を見せるジークとバアルの姿に唖然としていたネルバだが、ティナが大きく息を吐きながら膝に手をついているのを見て自身がハンターとして貧弱なのではなく、二人がメゼポルタのハンター中でもおかしいだけなのだと安堵の息を吐いた。




まだまだキャラバンクエストは続きます。
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