狩人の頂 作:ばるむんく
砂漠でガノトトス変種とディアブロスの狩猟を終えた四人は、パローネ=キャラバンの飛行船に戻って休息を取っていた。パローネ=キャラバンはガノトトス変種とディアブロスが討伐されて静かになった砂漠を探索しているらしく、飛行船にはオリオールしか船員が残っていなかった。
「お疲れっス。まさかディアブロスまで出てくるとは思ってなかったっスけど……やっぱりメゼポルタの凄腕ハンターは凄い!」
「まぁ、結構危なかったですけどね」
「紙一重で壊滅していたな……だが、こういう狩りも悪くない」
709航路が幸先よく進んだことに喜んでいるオリオールの言葉を、ジークは苦笑で返した。実際、体力的にはそこまできつくない狩りであったとジークも考えていた。狩猟にかかった時間もそれほど長くなく、変種を討伐しに行ったとは思えない速度での討伐ではあったが、時間以上に危険が付き纏った狩りであった。改めて変種の危険性を認識したジークは、次から続く航路も気を引き締める必要があると頬を叩いた。逆に、普段から剛種や古龍種ばかり狩猟しているバアルは、狩場に他のモンスターが乱入してくることなど最近は経験になかった。剛種や古龍種は生態系の頂点であり、近づいてくるモンスターが存在しないからである。イレギュラーの挟まる狩りを久方ぶりにしたバアルは、ジークとは対照的に楽しそうに笑っていた。
「頼もしいっス! セクメーア砂漠の探索が終わったらクルプティオス湿地帯を予定してるっス。探索はパローネ=キャラバンの人員に任せて、ゆっくり休んでください」
「そうさせてももらうぜ……はぁ疲れた」
「あはは……」
異常な体力を見せるジークたちとは違い、ネルバは身体を投げ出すようにベットに倒れこんだ。そもそも上位以上のモンスターである、変種や奇種との戦闘経験が少ないネルバは凄腕ハンターになってから狩りでは苦戦ばかりである。ネルバの腕が悪いのではなく、彼はまだ上位個体を凌駕するモンスターに慣れていないのだ。それはティナも同様ではあるが、彼女はジークたちと共に一度剛種ベルキュロスを狩猟している経験があり、強力なモンスターへの対応はティナの方が少し先輩だった。
「砂漠の特産品か……」
「十中八九鉱石だろう」
「あー……セクメーアパール、とか?」
「他にも色々な」
パローネ=キャラバンはその飛行船技術と、世界を巡ってきた実績から貿易商としてもかなりの規模である。基本的にメゼポルタの付近でしか活動していないので、メゼポルタギルドに所属しているハンター以外に恩恵はないのだが、ドンドルマの方からパローネ=キャラバンの巨大で大量にある航路を頼って商人がやってくることもある。航路クエストによって開拓された航路はそういった貿易などに使われる。
「でもパローネ=キャラバンがメゼポルタにやってきてまだそれなりなんですよね?」
「あぁ……一年くらいのはずだ」
「あの……」
水を片手に会話を続けるジークとバアルの元に、ティナがやってきた。猟団長として『ニーベルング』をまとめ、同盟の長としても活動しているジークが話していることに興味を持っていた。
「どうした?」
「えーっと……どうして、ジークさんはそんなにお強いんですか?」
「強い、か?」
「充分強い部類に入るだろう」
ティナが二人の会話内容に興味を持っていたのも事実だが、今はティナから見てジークがなぜ圧倒的なまでの能力を有しているのかが気になって仕方がなかった。バアルのように年齢が離れているのならばティナも経験で納得できる領域だが、ジークは年齢も近く、メゼポルタにやってきた時期もそれほど変わりはない。にもかかわらずジークは猟団長にふさわしい強さを持ち、狩猟の最中でも咄嗟の判断でティナの危機を救うことも多い。
「ティナだって凄い才能だと思うけど、そういうのが欲しい言葉じゃないんだろ?」
「はい」
「うーん……でも、やっぱり経験じゃないか?」
「でも年齢は近いじゃないですか」
「どう取り繕っても場数の差だろう」
「でも……」
どう説明すればいいのかわからない感覚的なことを聞かれているジークは、頭を捻りながら言葉を考えていたが、横で聞いていたバアルはティナの言葉を切り捨てた。場数の差とはすなわち経験の差であり、言っていることはジークと全く変わりなかった。
「ジークは15からハンターになってG級まで駆け上がった。そこにあるのは異常なまでのクエスト回数だろう……ギルドが評価するのはそこだからな」
「……私にはクエスト回数が足りない、と?」
「勿論それだけではないだろうが、一番大きいのはそこだ」
メゼポルタでハンターになったティナにはわからない話だが、と付け加えたバアルは静かに水を飲んだ。ティナは姉であるセティを追いかけてメゼポルタでハンターになった過去があり、バアルの言う通りティナにはG級ハンターになるという感覚が全くわからなかった。区分としては上位ハンターの上であり、凄腕ハンターとなにも変わらないとも考えていた。
「メゼポルタと違って外のギルドは人手不足なことは殆どない。数年でG級ハンターになった奴なんざ、俺は聞いたことが無いな」
「……確かにG級ハンターで近い年齢は見かけたことないですね」
「当たり前だな。そもそもG級ハンターなんてのは、ベテランが名乗るものだ」
ジークとバアルの言葉を聞いて、ティナはなんとなくG級ハンターというものの価値を理解し始めていた。メゼポルタの凄腕ハンターとは違い、G級ハンターは大陸に数百人単位でしか存在することのない、ギルドの最高峰である。
「早くジークに追いつきたいなら、兎に角多くの種類のモンスターと相対することだ」
「多くの、種類……」
「それが大きな経験になる……一朝一夕で身につくものじゃないのさ」
先輩であり、ジークとは違う方向で狩人として規格外の能力を持つバアルの言葉はティナの心に沁み込んでいた。
「俺は実力だとか才能より、多種類の武器を自由自在に操る方が異常だと思うがな」
「手癖が悪いんですよ」
「手癖が悪いだけでそんなことができるなら、誰だって苦労してない」
苦笑いを浮かべながら殻王獄刀【鋼】に触れるジークを見て、バアルは呆れた様な顔をしていた。秘伝防具を装備することができるほど片手剣を極めているバアルだが、ジークのように全ての武器を扱うハンターは見たことがなかった。メゼポルタのハンターは他のギルドのハンターに比べても複数種類の武器を扱う者が多い。実際、バアルは片手剣ばかりを使っているが、遠距離武器であるライトボウガンとヘヴィボウガンもそれなり以上で扱うことができる。しかし、ジークのように全ての武器種を自在に扱うことはできなかった。
「強く……なる」
「気負い過ぎるな……お前はまだハンターになったばかりだろう」
「……はい!」
ハンターになって一年も経たずに凄腕ハンターになっているティナは、バアルから見ても異常な成長スピードである。本人の周りにいるのは誰もが先輩であり、全てが大きく見えているのだろうと察しながらも、いつかはジークに勝るとも劣らない化け物になるとバアルは確信していた。
「ふぅ……クルプティオス湿地帯は相変わらずジメジメしてんな」
「そりゃあ湿地帯ですからね」
「おい、道を外れるなよ。地面には人体に有毒な物質が染み出ている場所もあるんだぞ」
「わかってるよ」
セクメーア砂漠の探索を終えたパローネ=キャラバンと共に、次の目的地であるクルプティオス湿地帯へとやってきたジークたちは、ぬかるんだ地面の上を歩きながら目的のモンスターを探していた。
ドンドルマ北西部に広がるクルプティオス湿地帯はその地形の影響で年間を通して降雨量が非常に多く、日照時間も短い。昼間は年中雨が降っているような気候であり、地面からは毒素が浮き出てくることもあるが、雨が降っている間は雨水が毒素を薄めることで活動範囲が広がる。洞窟内は気温も低く、常に足元には水が溜まっている地形の影響なのか、フルフルのように寒冷地帯に生息する様なモンスターもいれば、鉱石を求めてなのかグラビモスも時折姿を現す不思議な狩猟場である。
「目標は?」
「ババコンガの変種とドスファンゴの変種。どっちも牙獣種ですね」
「牙獣種か……ババコンガとドスファンゴの食性から考えて、湿地帯の奥にある草木の多い場所にいる可能性が高いな」
水の上に浮く蓮の葉に似た植物をどかしながら歩くバアルは、ジークから伝えられた狩猟対象を聞いて大まかな位置を予想していた。
「ババコンガってあの……臭い奴、ですよね」
「あー……そうだったな」
「消臭玉はパローネ=キャラバンに貰ったはずだろう。なんとかなる」
「あの匂いが染み付いた状態だとまともにもの食えないからな」
ババコンガは威嚇と同時に放屁する生態を持ち、その放屁は離れていても涙が流れる程の激臭である。また、縄張りを主張する為に糞を投げるような行為も行い、ババコンガはその激臭を扱うことで敵対するモンスターなどを撃退する。この激臭がかなりのもので、放屁に直撃すれば簡単には匂いが落ちずに泣く泣く装備を買い替えた者もいると言う。放屁も単純に威嚇や撃退のために放たれるのではなく、人を軽く吹き飛ばす程の風圧で放たれるため、直撃すると装備にこびりつく匂いと同時に、無防備に受けると簡単に骨が砕けてしまうこともある。そのため、ババコンガは「珍獣」と呼ばれてハンターに限らず多くの人間に嫌われ、その悪食もあって商人からは蛇蝎の如く嫌われている。
「嫌だなぁ……臭いの」
「文句言うな」
ネルバの言葉に呆れた様な声を出すバアルだが、人間であれば誰だって糞を投げたり放屁で攻撃してくるモンスターは嫌である。声には出していないが、ジーク、ティナ、バアルもできれば狩りたくないモンスターであった。そう考えるハンターはかなり多く、ババコンガはどの大陸でも貿易路などに出現すれば討伐依頼がすぐに出されるが、狩りに行くハンターは多くない。
「ドスファンゴの変種ってどんな感じなんでしょうか」
「さぁ? でも、そこまで強くはないだろ」
どう取り繕っても、ドスファンゴは初心者ハンターが挑むようなモンスターである。変種であろうともそこに変わりはなく、ババコンガとは違った意味でやる気のでないモンスターだった。初心者が対応するようなモンスターが相手であろうとも手を抜くつもりなど全く無いが、それでも心のどこかには慢心が生まれてしまうものである。
「文句言っても仕方ない……さっさと終わらせようか」
「そうだな……沼地のジメジメとした気候も不快だ」
ババコンガの狩猟、ドスファンゴの狩猟、そして沼地での狩猟。全てがなんとなく嫌な気分になる組み合わせではあったが、709航路開拓のためには必要な手順である以上、依頼を受けたハンターであるジークたちはその依頼を完遂しなければならない。
「はぁ……ガノトトス変種が一番の強敵だったんじゃないかな……」
709航路は開拓が進んでいないと聞いていたジークは、変種が三種類の時点でかなりの難易度であることは理解していても、既に剛種でもなければ苦戦することなどほぼないだろうとため息を吐いた。
適度な会話を挟みながら沼地の奥へと向かっていたジークたちは、木々を掻き分けた先に広がる湿地帯の草原に出た。雨の中でもランゴスタが飛び、ぬかるんだ地面の下から背の高い草が群生する場所に辿り着いたジークは、奥で揺れる桃色の物体を視認していた。
「……バアルさん」
「いたな……ブルファンゴも数匹見える。ドスファンゴも近くにいるかもしれんな」
鼻を揺らしながら歩く茶色の猪、ブルファンゴも数匹うろついている中でも目立つ桃色の毛の牙獣種を見て、ジークはため息交じりに太刀へと手を伸ばした。
「じゃあ作戦通り、俺とネルバさんが周囲の掃除。バアルさんとティナがババコンガの相手でいいですか?」
「それでいい。片手剣だとランゴスタも捉えにくいからな」
「わ、わかりました!」
「ドスファンゴが来たら俺たちの獲物、だな」
草原に辿り着くまでに決めていた作戦を復唱したジークに、全員が頷いた。
周囲を飛び回っているランゴスタは鋭い針を持ち、痛みこそ大型モンスターの攻撃に比べればそれほどでもないが、注入される神経に作用する麻痺毒を持つことである。刺されて注入されてしまえば、数秒は一歩も動くことができず、数分間は身体に痺れが残り続ける厄介な甲虫種である。ランゴスタが狩猟場にいれば、先に全滅させてしまうのがハンターの定石であり、安全確保のために教わる基本の戦術である。わざわざ手分けしてまでランゴスタを全滅する必要はないが、ジークたちはババコンガ変種との戦闘中にドスファンゴ変種が乱入してきた場合のことを考えて、周囲の安全確保とババコンガ討伐の二つにパーティーを分けた。
「じゃあ行きますよ!」
「おう!」
ババコンガがジークたちとは反対の方向に顔を向けた瞬間に、背の高い草に隠れていた四人はそれぞれの方向に走り出した。最初に四人のハンターに気が付いたブルファンゴは、バアルが通りすがりにネブラボルヌスで喉を掻き切った。大量の出血と共に毒で即死したブルファンゴに反応して、周囲のランゴスタがざわめき立つが、バアルはそれを無視して真っ直ぐババコンガへと向かった。バアルの背中を見ながら、ジークは抜刀し、空を飛んでいたランゴスタへと向かって太刀を勢いよく振りぬいた。
「逃がすかっ!」
目の前まで迫っていたジークに反応して空に逃げようとしたランゴスタは、通常の太刀よりもリーチの長い殻王獄刀【鋼】によって身体を真っ二つにされて砕け散る。同時に、ネルバは貫通弾で周囲のブルファンゴを狙い段取りよく絶命させていく。
「さぁ……さっさと終わらせる!」
背後で立て続けに生物が絶命していることに気が付いたババコンガが振り返ると、既に目の前までバアルが迫っていた。威嚇の為に後ろ足だけで立ち上がりながら放屁しようとしたババコンガに対して、バアルは情け容赦なく腹を逆袈裟に切り裂いた。突然の奇襲で傷を負ったババコンガは、放屁することもできずに怯み、そのまま後ろに向かって大きく距離を取るように飛んだ。ババコンガのように後ろ足だけで立つことができる牙獣種が、身の危険を感じた時に行う退避動作に、バアルは笑みを浮かべた。
「もうお怒りか? よほど人間に奇襲されたことが気に入らんらしいな……草原のど真ん中で優雅にキノコを食っていた代償だと思え」
一気に顔が真っ赤に変色していく姿を見て、ババコンガが興奮状態になっていることを察したバアルは不敵な笑みを浮かべながらも、迷うことなくババコンガとの距離を詰めた。興奮状態になったモンスター相手には慎重に行動する、というハンターの基礎的な行動とは真反対の行動だが、バアルにはそれを無視できるほど実力と判断能力故の行動であり、背後から飛んできている援護射撃に気が付いているからの行動でもあった。
バアルとティナがババコンガとの戦闘を開始している間に、ジークとネルバはひたすらにランゴスタとブルファンゴの相手をしていた。ライトボウガンで狙いをつけ辛い、空を飛びまわっているランゴスタの相手をしているジークは、毒針から発射された腐食液を避けて身体を切り裂いた。
「次!」
ランゴスタの素材はハンターの装備によく使われるものだが、ランゴスタの身体は脆く、ハンターの扱う武器で攻撃すれば殆ど使い物にならなくなってしまう。不規則な飛行をする生態に、腐食液や麻痺毒も相まって需要に対して供給の少ない素材だが、ジークはタンジアで似た様な甲虫種であるブナハブラの相手を幾度もしたことがあるため、ランゴスタの羽や甲殻をなるべく傷つけずに討伐することもできる。しかし、この状況ではランゴスタの素材などもはやどうでもよかった。
「よし! 次!」
「後ろ来てるぞ!」
「了解!」
二匹のランゴスタをまとめて薙ぎ払ったジークが次のランゴスタに向かって走り出そうとした瞬間に、ブルファンゴを狩猟していたネルバの声に反応して背後へと振り向き様に太刀を振るった。高さが合わずにランゴスタには当たらなかったが、無防備だと思ったハンターに突然反撃されたランゴスタは上下左右へと不規則に飛び回って逃げた。
「くそ……あと数匹か」
「ブルファンゴもあと一匹だ!」
ジークがランゴスタ狩りに苦心している間も、ネルバはブルファンゴに向かって貫通弾を放っていた。いくらブルファンゴが小型モンスターであり、大型モンスターに比べて生命力が低いと言っても、走り回る猪相手にボウガンの弾丸を当てるのは至難の業である。それでもネルバがブルファンゴに対して貫通弾を当てることができるのは、射程と連射性能のおかげであった。
「来たな……食らいやがれ!」
周囲の仲間が全員やられたブルファンゴは、怒りのままネルバに向かって突進していた。小型モンスターと言っても人間一人を簡単に吹き飛ばし、命を奪うことができるモンスターには変わりない。ネルバは油断することもなく、一直線に向かってくるブルファンゴに対して引き金を引いた。速射機能によって発射された三発の貫通弾は、ブルファンゴの身体を穿ちその命を終わらせた。ようやく周囲のブルファンゴを片付けられたネルバは、ランゴスタの相手をしているジークの方へと視線を向けながら散弾を装填していた。
「散弾、撃つぞ!」
その名の通り弾が散りながらモンスターを攻撃する散弾は、ハリの実の硬く鋭い性質を利用して敵を殺傷する。射程が短く、一ヶ所を狙って撃つことができない弾であるため、大型モンスターとの狩りではあまり使われない弾だが、ランゴスタのように周囲を飛び回って身体の脆いモンスターならば効果的に攻撃することができる。性質上、周囲にいる味方のハンターにまで弾が飛んでしまうこともあり、発射する前に叫ぶのは味方を撃つ可能性を減らす為である。もっとも、ハンターの身に纏っている防具ならば散弾に掠る程度ならば命の危険にもなりはしないが。
「砕け散りやがれ!」
「……そんなに当たってないですよ」
「射程外なんだよ!」
「はぁ……ネルバさんはなんでこう、肝心な時に上手くいかないんでしょうね」
「肝心な時ではねぇだろ!」
ネルバが発射した散弾は一匹のランゴスタに手傷を負わせることはあったが、三匹狙って一匹にしか当たらなかった上に倒しきることもできなかった姿を見て、ジークは呆れた様な声で首を振っていた。散弾の射程把握はかなり難しく、ましてやランゴスタのような小さな相手を狙い撃ちするのはほぼ不可能な弾である。ハリの実を不規則に射出する弾であるため、毎回同じ場所に散弾の欠片が飛んで行く訳ではないのだ。
ジークはネルバの格好付かない姿に呆れながらも、散弾を当てられて動きの鈍ったランゴスタをばっさりと斬り裂いた。
「終わらせますよ」
「わかってる!」
残った二匹を片付ければランゴスタの相手は終わるため、ジークとネルバは最後の敵のために走り出した。散弾を放たれて不規則に逃げ回っていたランゴスタに対して、ジークが一匹を叩き斬り、もう一匹に対してネルバが散弾を放って絶命させた。ランゴスタ狩りが終わって一息ついたネルバは、すぐにババコンガと戦っているバアルたちの方へと視線を向け、貫通弾を装填して参戦しようとしていた。
「っ! 避けてください、ネルバさん!」
「へっ?」
既に小型モンスター討伐からババコンガ討伐に意識が向いていたネルバは、ジークの警告に反応するのが遅れた。ジークの声に反応して周囲へと視線を向けようとしたネルバは、身体の横から突然伝わってきた衝撃と鈍い痛みによって意識を揺らされながら草原を無様に転がされた。
「な、なんだよ……」
「ネルバさん!」
気合でなんとか衝撃から立ち直ろうとしたネルバは、すぐに起き上がろうとしていた。普段のネルバならばもう少し慎重に行動するのだが、この航路クエストに着いてきた時に決めていた普段よりも勇気をだそうとした結果がネルバに危機をもたらそうとしていた。
「こ、こいつはッ!」
起き上がったネルバの視線の先には、大きな牙を二本携えた大きな猪だった。ネルバが先程まで狩っていたブルファンゴをそのまま大きくしたような姿でありながら、ブルファンゴよりも牙が大きく太く、頭部には群れの主であることを誇示するような白い鬣。間違いなく、ババコンガ変種と同時に狩猟対象となっているモンスター、ドスファンゴ変種だった。ネルバを横から転がしたドスファンゴは、相手がまだ起き上がってくる姿を見て再び突進を始めた。
「くそッ!」
倒したと思っていた相手がまだ生きていることで突進し始めたドスファンゴに対して、ネルバはすぐに直線上から逃れようと動き出したが、横から追突された衝撃で足元がふらついて満足に動くことができなかった。対象がふらついて動けずにいることを確認して、更に加速したドスファンゴはそのままネルバの正面から突撃した。
「ぐぁッ!?」
「しっかりしてください、ネルバさん!」
ドスファンゴの牙がネルバに向かって突き出される寸前に、ドスファンゴとネルバの間にジークが入った。殻王獄刀【鋼】を突き出すようにドスファンゴへと向けたジークに対して、ドスファンゴは回避することもなく牙を突き出した。剛種シェンガオレンの素材によって生み出されている殻王獄刀【鋼】は、ドスファンゴ変種の牙を受け止めることができたが、その突進力は確実にジークを押していた。ジークが無理矢理間に入ったことで、ネルバはジークの背中に押されてその場でひっくり返っていたが、後輩の叱責に対して頭を振ってその場から離れた。
「こ、のッ!」
お構いなしに足を動かしていたドスファンゴを、ジークは全身で力を込めて押しのけようとしていたが、変種個体の膂力は凄まじく、ジークはすぐに諦めて身体を横に逸らした。牙と太刀が擦れ合う音を響かせながら、ドスファンゴは対象を無くした突進を止めた。
「全く……厄介な猪だ」
ドンドルマ管轄の所属ハンターにとって、ドスファンゴというのはドスランポスに次いで狩りやすいモンスターとして有名である。群れでブルファンゴを率いて行動しているが、群れの数は
「さぁ……来い」
狙いをつけて突進しようとするドスファンゴに対して、ジークはゆっくりと刃を向けて迎撃の構えを見せた直後、バアルとティナが相手していたババコンガが沼地に響き渡るような大きさの咆哮を上げた。ババコンガの咆哮に反応したドスファンゴは、ジークから視線を外さずに鼻息を荒くしながら同様に唸り声を上げた。
「な、なんだ?」
「…………やってくれたな」
ババコンガとドスファンゴの咆哮を聞きながら態勢を立て直していたネルバがジークへと近づいてきた。太刀を構えてドスファンゴを迎え撃とうとしていたジークは、ババコンガとドスファンゴの咆哮の仕草を見て、タンジアで何度も相手をしていたモンスターの動作とその行動を重ねて苦い顔をしていた。ジークに対してネルバがその表情の理由を問おうとした瞬間、周囲の茂みから幾つもの視線を感じたネルバはライトボウガンを構えながらその茂みへと視線を向けると、そこにはハンターたちを狙うように血走った目をしたモンスターが複数頭並んでいた。
「こ、これは……」
「奴らは群れのボスですよ……当然、ボスの危険には駆け付けてくる」
茂みの中から顔を現したのは先程まで草原にいた数の倍ほどのブルファンゴと、地面を掘って地中から飛び出してきたコンガの群れだった。ババコンガとドスファンゴは、目の前のハンターは群れにとっても無視できない敵であると認識したのだ。全員が自分達の生存域を守る為に、鼻息を荒くしながらもゆっくりと取り囲むように近づいてきていた。群れを守るためにボスが呼び寄せた群れは、外敵を排除するまで止まることは無い。
「……結局、乱戦になってしまいましたね」
「しょうがねぇさ……全員蹴散らせばいい!」
「簡単に行けばいいですけど、ねッ!」
ババコンガとドスファンゴの咆哮に反応して出てきた時点で、この大量のモンスターがジークたちに襲い掛かってくるのは確実だった。意図しない硬いで乱戦となってしまったことにため息を吐きたくなっているジークは、ネルバの適当な言葉に対して苦笑を浮かべながらも、ブルファンゴの群れの奥へと下がっていったドスファンゴに視線を向けながら、ブルファンゴを突破するために刃を向けて走り出した。