狩人の頂   作:ばるむんく

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709航路⑤(キャラバンクエスト) 桃毛獣(ババコンガ)大猪(ドスファンゴ)

「バアルさん!」

「わかってる! 面倒な奴らが大量に出てきたな……」

 

 ジークとネルバがドスファンゴとブルファンゴの乱戦に巻き込まれている中、バアルとティナもコンガの出現によってババコンガと乱戦になろうとしていた。ババコンガとドスファンゴの咆哮によって現れたコンガとブルファンゴの数はかなり多く、二人で相手するにはかなり厄介な状況へと変わっていた。ババコンガは怒り心頭で顔を赤く染めており、群れの長であるババコンガの怒りに同調するようにコンガたちも牙を見せて今にも襲い掛かろうと距離を詰めていた。

 

「……ティナ、お前はババコンガの相手を頼む。俺ができるだけ早くコンガを片付ける」

「わかりました……でも、精々近づけさせない程度が限界ですよ?」

「それでいい……ジークなら恐らく……」

 

 自分たちと同じくモンスターに囲まれているジークの方へと視線を向けたバアルは、彼が何を考えながらネルバと共にドスファンゴと戦っているのかをある程度理解していた。バアルのするべきことはコンガを全滅させることではなく、時間を稼ぐことにあった。

 

「いくぞ!」

「はい!」

 

 ティナが先制攻撃でババコンガに向かって矢を放った瞬間に、一番手前まで来ていたコンガがティナへと飛び掛かった。冷静に飛んでくるコンガへと片手剣を走らせたバアルが、そのまま身体を縦に切り裂き簡単に一匹を絶命させると、周囲で牙を見せていたコンガたちが一斉に接近した。ババコンガは放たれた矢を爪で弾くと、コンガの群れから一歩下がって自らの安全を確保しようとしていた。

 バアルたちがコンガたちとの戦闘を開始するのと同時に、ジークも先頭のブルファンゴを切り捨てると、ネルバに散弾を撃たせて開いた隙間へと向かって走り出した。

 

「こっちですネルバさん!」

「おう!」

「ドスファンゴとブルファンゴならッ!」

 

 包囲を簡単に抜け出そうとするジークとネルバに向かって、鼻息を荒くしながら突進を始めた複数頭のブルファンゴを尻目に、ジークはがむしゃらに走っていた。敵前逃亡はハンターの取れる選択肢の一つとしてハンターライセンスを取る時に学ぶが、ジークは一切逃げる気などなかった。ネルバを連れて走る先には、コンガの群れとの乱戦を繰り広げるバアルと、ババコンガへと向かって矢を放つティナがいた。

 

「バアルさん!」

「任せろ!」

 

 ジークはすれ違いざまにコンガを切り捨て、バアルはジークとネルバを追いかけて突進していたブルファンゴの頭に向かってネブラボルヌスを突き刺した。致死毒によって簡単に息絶えたブルファンゴを捨て、バアルはジーク、ネルバと背中合わせに立った。

 

「ネルバさんはティナの支援をお願いします。ブルファンゴとコンガは俺たちがやります」

「大丈夫なのかよ」

「問題ない。こうなれば後は早く片付けるだけだ」

「……お前たちの判断を信じるぞ!」

「お願いします」

 

 ネルバは納得しきれてはいなかったが、ジークとバアルが自分とは違い頭を働かせる狩りが上手いことを知っている。二人の判断を信じて、ネルバはジークとバアルがこじ開けた隙間から飛び出してティナの方へと向かった。

 

「全く……結局こうなるとはな」

「早く終わらせましょうか」

「了解だ!」

 

 ジークとネルバがコンガの群れに向かって走った結果、それを追いかけていたブルファンゴの群れはコンガの群れに突撃するこになった。元々、食性が似通っているババコンガ率いるコンガの群れと、ドスファンゴ率いるブルファンゴの群れは縄張り争いをする程ではなくとも、互いを意識している仲ではあった。乱戦に乗じてそれを混ぜることでコンガとブルファンゴの群れをぶつけようとジークは考え、バアルはそれを察知していた。結局は思惑通り、コンガとブルファンゴは互いを威嚇してハンターと三つ巴の戦況となりつつあった。

 最初に動いたバアルは、手前にいたコンガの首を掻き切るように片手剣を滑らせ、流れでそのままブルファンゴの胴体を切り裂いた。反応して飛び上がったコンガをジークが切り捨て、突進してきたブルファンゴをバアルが盾で受け止めてジークが首を刈る。一瞬の攻防で四匹の敵を下したジークとバアルは、再びコンガとブルファンゴの群れに向かって刃を向けた。

 

「くっ!?」

「ティナッ! 野郎ッ!」

 

 ジークとバアルが小型モンスターの殲滅をしている間に、ティナは一人でババコンガの相手をしていた。前方から素直に放たれる矢の半分程度が爪によって叩き落される中、遂に射程に踏み込んだババコンガは長く鋭利な爪で草原の草ごとティナを切り裂こうと薙ぎ払った。真正面からの攻撃を受けるほどティナも鈍重ではなかったが、腕の勢いで発生した風圧に目を閉じた瞬間に、ババコンガは自らの巨大な身体でティナを押し潰そうと上体を逸らしていた。それを阻止すべくライトボウガンを向けたネルバは、背後から突撃してきたドスファンゴを紙一重で躱してからババコンガへと向かって通常弾を放った。

 

「た、助かりました……けど」

「悪い、囲まれちまったな」

 

 ライトボウガンと弓を使用している二人は、もっとも安全であり最大火力を叩き込むことができる適性距離が存在する。放った矢がもっとも加速している地点であり、放たれた弾丸がもっとも威力の高い地点。どれだけ狩猟中にその距離を保ち続けるかが、遠距離武器を扱うハンターの技量に直結する。しかし、想定外の乱戦に巻き込まれたことで上手く距離を取ることのできていなかったティナは、ネルバに危機を救われる代わりに、背後のドスファンゴに接近を許してしまった。適性距離を取るにはどちらかに近づかなければならないという矛盾を抱えた戦況になってしまっていた。

 

「……ババコンガに集中しながら、ドスファンゴの攻撃を避けるしかない」

「……何故か、聞いても?」

「両方と対峙して、明らかにババコンガの方が格上で、ドスファンゴは基本的に突進しか能がない……つまり、ドスファンゴの突進を避けながらババコンガを攻撃する」

「やってみるしか、ないですね」

 

 ジークとはまた違う理由、メゼポルタで新米ハンターとして始めたティナはドスファンゴにあまり馴染みがない。直線的な突進しかしないことは知識として知っているが、果たしてババコンガを倒すまで避け続けることができるのかと不安が過っていた。ネルバはティナのそんな不安を感じ取って、苦笑いを浮かべた。

 

「大丈夫だ。ジークとバアルが戻ってくるまで、耐えるだけだ」

「……はい!」

 

 コンガとブルファンゴの群れを相手に戦い続ける二人が戻ってくるまで、その言葉を聞いてティナは覚悟を決めた。常にジークと狩りに出掛けていたティナは、彼の能力をよく知っていた。すぐに小型モンスターなど片付けて救援に来ることを信じて、ティナはババコンガに弓を向けた。

 二人で代わる代わるコンガとブルファンゴを切り捨てているバアルの顔には、楽し気な笑みが浮かんでいた。

 

「ふッ!」

「交代!」

「あぁ! なんだか楽しくなってきたなッ!」

「なに言ってッ、んですか!」

 

 突然変なことを言い始めたバアルに呆れた様な顔をしているジークは、遂にバアルがベレシスと同レベルになったのかと思っていたが、バアルは単純に連携して小型モンスターを薙ぎ倒している現状が楽しかった。他人の動きに合わせ、互いの死角を補いながらモンスターを討伐するジークは、バアルにとって最高にやり易く、安心して背中を預けられる相手だった。バアルのハンター人生で背中を預けられる様なハンターをあまり多くない中で、出会ってまでほんの少ししか経っていないジークが信頼できるハンターであることが、バアルにとっては嬉しかったのだ。

 

「お前にはッ! いるのか? こうやって背中を預けながら戦える仲間が!」

「……背中を預けるような仲間はバアルさんぐらいですよ」

「そうか」

 

 ジークはタンジアでG級ハンターまで駆け上がった最中でも、多くのハンターと交流しながら大成していった。その中には当然、先輩のハンターも後輩のハンターも同期のハンターも存在していた。教え導いてくれたハンターはいる。自分が助け、導いたハンターもいる。共に成功を笑い合った仲間のハンターもいる。しかし、ジークは狩猟人生の中でバアルのように実力を信頼しきって背中を預けた仲間は存在しなかった。

 

「突出した才能は人を孤独にするものだが、メゼポルタでは突出するまでにはならなかったか?」

「そうですね。ある意味、感謝してますよ……ハングリーで居続けられるんでッ!」

 

 会話しながらブルファンゴを切り捨てたジークは、その場でしゃがみ込んだ。バアルはしゃがみ込んがジークを踏み台にして飛び上がり、空中から襲い掛かろうとしていたコンガを切り捨て、着地地点で爪を振り上げていたコンガをジークが薙ぎ払った。

 

「これでッ!」

「最後!」

 

 同時に最後のブルファンゴとコンガを切った二人は、息を吐いてから笑みを浮かべた。モンスターとの狩猟で囲まれることなどまず有り得ないことなのだが、二人はそんな危機も楽しみながら切り抜けた。笑みを浮かべて肩の力を抜いたジークとバアルだが、ババコンガの咆哮を聞いて、すぐに気を引き締めてババコンガとドスファンゴへと向かって走り出した。

 

「……バアルさん、ドスファンゴから片付けますよ」

「二人がババコンガの相手をしているからか?」

「そうです。遠距離武器使いは背後が安全じゃないと、気が気じゃないですから」

「違いない」

 

 ジークの言葉に苦笑を見せ、加速して先行したバアルはネブラボルヌスを容赦なくドスファンゴの胴体へと振るった。突然背後からの攻撃を受けたドスファンゴは、まとわりつくバアルを振り払う為に頭についた牙を振りながら暴れていたが、バアルは既にその場から離れており、二本の牙の間から狙いすましたように太刀を突き入れたジークの攻撃によって、白い鬣が赤い血に染まった。

 

「ジークさん!?」

「は、早かったな」

 

 ドスファンゴの苦痛を耐えるような叫びを聞いて何が起きたのかと振り返ったティナとネルバは、小型モンスターの群れに囲まれていたはずのジークとバアルが、ドスファンゴに攻撃している姿を見て驚いていた。ババコンガもドスファンゴと協力していた訳ではないが、同じハンターと戦っていたモンスターが違うハンターによって傷つけられている姿を見て警戒心を上げていた。

 

「変種とはいえドスファンゴか……狩らせてもらう!」

 

 反撃に牙を振り回すドスファンゴだが、単調な動きを完全に見切っていたバアルはジークに牙を抑えさせて自身は首筋に向かって的確に片手剣を振るった。急所を狙われたドスファンゴは、なんとかバアルの攻撃を避けようとするが、牙に絡みつくように刺しこまれた太刀によって動きを制限されていたことにより、無防備な首にそのまま攻撃を許してしまった。ガノトトス変種やディアブロスも苦しんだネブラボルヌスの毒を受けたドスファンゴは、先程の様にハンターを退けるような動きではなく、苦しむように頭を振り始めた。

 

「これでドスファンゴは終わりだ」

「油断しないでくださいよ」

「そこまで馬鹿じゃないさ」

 

 ジークはネブラボルヌスの毒がどれほどの致死性を持つ毒かというのは、振るっているバアルに聞いていた。安易に触れてしまえばハンターも肌を焼かれ、身体の中に入れてしまえば下手をすれば命にかかわる危険な毒。ドスファンゴの体躯は人間とあまり変わらないことを考えれば、ドスファンゴにとっても致命的な毒になる。かと言ってバアルもそれだけで油断することはなく、ドスファンゴの動きが止まるまで手を緩めるつもりもなかった。

 

「毒でゆっくりと身体を焼かれていく前に、命を刈り取っておいてやる」

 

 毒で苦痛を感じながら死ぬまで放置するという残酷な選択をすることは、ハンターという職業上絶対にしてはいけない。そのことを理解しているバアルとジークは、暴れるドスファンゴの隙を見て、攻撃を差し込んでいく。段々と抵抗が小さくなっていくドスファンゴに、とどめの一撃を決めたのはジークだった。毒と出血によって動きが鈍り、致命的な隙を晒した瞬間に首に向かって太刀を突き刺した。刃先が貫通したことを手の感触で理解したジークは、草原に散らばる大量の血を横目に、ゆっくりと太刀を首から抜いた。

 

「ちょっと刃に血が付き過ぎましたね……一回研がないと刃毀れしそうです」

「研いでおけ……俺はすぐにババコンガの方に参戦してくる」

「お願いします」

 

 血を拭いながら懐から砥石を取り出したジークに頷いてから、バアルはネブラボルヌスが刃毀れしていないことを確認してからババコンガの方へと向かって走り出した。

 ジークたちがドスファンゴと戦っている間も、ネルバとティナはババコンガと戦い続けていた。しかし、ババコンガはティナとネルバが遠距離攻撃をする度に腹を大きく膨らませてそれを弾いていた。

 

「あの腹、何が仕込んであんだよ」

「別に何も仕込んでないと思いますけど……厄介ですね」

 

 貫通弾すらも弾かれたのを見て、ネルバは頬を引き攣らせていた。どうすれば弾丸を通らせることができるのかを考えながら、距離を詰めようとしてくるババコンガを牽制していた二人に対して、怒り心頭のまま顔を真っ赤にしていたババコンガは、唐突に尻の方に手を向けた。

 

「なにを……」

「げッ!? 逃げるぞ!」

 

 謎の動きを始めたババコンガに首を傾げたティナと、ババコンガのその動きになにか思い当るものがあるのかネルバは本気で嫌そうな顔をしてライトボウガンを背負った。唐突なネルバの行動とババコンガの謎の行動、どちらも理解できていないティナは弓を構えようとしてネルバに引っ張られた。

 

「な、なんですか?」

「糞を投げてくるつもりなんだよッ!」

「えぇ!?」

 

 ネルバからババコンガが何をしようとしているのかを聞いて、目を開いたティナがババコンガへと視線を向けると、そこには手に糞を持ったババコンガがこちらに向かって投げようとしている直前の姿だった。

 

「ひぇぇぇッ!?」

「おわぁッ!?」

 

 逃げ惑うハンター二人に向かって容赦なく糞を投げたババコンガは、ハンターに当たらなかったことを察して余計に怒り、今度は先程まで弾丸を弾いていた腹でハンターを押し潰す為に、その体躯の大きさからは考えられない程の跳躍を見せた。ジークが狩っていたランゴスタよりも更に高く跳躍しているババコンガを見て、目を剥いたティナは着地点を計算して弓を構えた。

 

「ここでッ!」

 

 ババコンガがネルバを狙って跳躍している姿を見て、計算して予測した着地点に向けて矢を放つために弓を構えたティナだが、着地したババコンガはその勢いのままもう一度跳躍した。

 

「そんなっ!?」

 

 着地のバウンドを腹の脂肪で吸収しながらもう一度跳躍したババコンガは、今度はティナに向かって飛んでいた。弓を構えていたティナは当然、ババコンガの跳躍には反応することができずに押し潰されるのを待つばかりだったが、横からバアルがティナを攫って行った。

 

「あ、ありがとうございます……ドスファンゴは?」

「もう倒した」

「えっ!? もうですか!?」

 

 なんてことはない風に言うバアルに驚愕の表情を浮かべたティナは、ドスファンゴが草原に横たわり、その傍でジークが太刀を研いでいる姿を見て事実として受け入れた。

 

「ババコンガ相手に手こずっているようだな」

「まぁ……矢も腹で弾かれちゃいますし」

「そうか。爪を狙え」

「え?」

 

 攻撃対象を見失ったババコンガは振り返ってバアルとティナを発見し、息を荒くしながらゆっくりと近づいてきていた。しかし、ティナはバアルが言った爪を狙えとの言葉に頭に疑問符が浮かんでいた。ババコンガ変種の爪はかなりの硬度であり、それこそハンターの防具もろとも人を切り裂いてしまえる程の硬さがある。そんな爪に対して矢を放ったところで、腹に向かって矢を放つのと同じ結果になるだけではないだろう。

 

「問題ない。爪の付け根を狙えばそれで終わる」

「終わるって……なにがですか?」

「この狩りが、だ」

 

 その言葉だけを残して、バアルはティナを置き去りにしてババコンガに向かって急加速した。突然向かってきたハンターに対して、ババコンガは爪を振り下ろすが、バアルはそれを冷静に見極めて右手の盾で逸らしながら片手剣を振るった。咄嗟に頭を屈めたババコンガのトサカだけを掠めたバアルの剣は、そのまま一周してババコンガの腹へと向けられた。

 

「確かに、こいつは硬いなッ!」

 

 頭を屈めたまま今度は大きく腹を前に突き出したババコンガは、狙い通りバアルのネブラボルヌスすらも弾いて見せた。バアルもネブラボルヌスの切れ味を過信している訳ではないが、それでも弾かれる事実に目を剥いた。強力な毒が仕込まれているネブラボルヌスは、小さな傷でも与えればそこから毒を流し込むことができるが、ババコンガの膨らんだ腹は硬く、表面に生えている毛を少し刈り取った程度しか傷らしいものを与えられていない。当然、毛を刈り取った程度では毒を流し込むこともできず、バアルは反撃として振り回される両爪から逃れるように後退した。

 

「通常のババコンガならこちらの攻撃に合わせて腹を膨らませることなんてないんだが……こいつが特別なのか、変種だからそんなことをするのか。どちらにせよ面倒くさいことだ」

「援護するぜぇ!」

「ネルバか」

「ババコンガから離れてろよッ!」

 

 バアルが後退したのを確認してから、ネルバはライトボウガンから非常に重い弾を発射した。反動も大きく、ブレも大きな弾丸だったがなんとか手元で修正しながら発射された弾丸は、ババコンガの膨らんだ腹に当たった。

 

「弾けろぉッ!」

 

 ババコンガの腹に弾かれた瞬間に弾が分裂し、再びババコンガの腹に当たると同時に大きな爆発を起こした。突然の爆発と痛みに驚いたババコンガは後退しながら転げ回っていた。

 

「拡散弾か」

「おうよ。弾かれるならそのまま爆発させればいいんじゃねぇかってな……そう何発も撃てないのが欠点だがよ」

「悪くない。ババコンガもどうやら、かなり頭にきたらしいな」

 

 しばらく転げ回っていたババコンガは、仰向けの状態で動きを止めて空を見上げて停止していたが、唐突に起き上がって大きな咆哮を上げながら放屁していた。怒りと威嚇のために放屁している姿を見て顔を顰めたバアルだが、拡散弾を見て大体の攻略法は編み出していた。

 

「待ちました?」

「そうでもない」

 

 バアルの元にゆっくりと近づいてきたのは、殻王獄刀【鋼】の整備が終わったジークと、爪を狙いながらもあまり隙がなくまだ矢を放てていなかったティナだった。四人のハンターが並んだ状態だが、ババコンガは気にすることも無く牙を見せたままハンターたちのほうへと全力で突進していた。

 

「取り敢えず、俺は斬れるところ斬るんで」

「それでいい……ババコンガに毒は効き目が薄いからな」

 

 普段から毒キノコを平然と食べているババコンガは、そもそもネブラボルヌスの致死性の毒にも耐性があるとバアルは考えていた。沼地に生息しているから毒が効かないと言う訳ではないが、沼地に生えている毒キノコを好んで食べているババコンガ相手に、毒で勝負するのは少し分が悪いだろうと考えていた。

 

「私は?」

「そのまま爪を攻撃すればいい」

「俺は?」

「何故お前らは俺に聞く……拡散弾と散弾だけは撃つなよ」

「それはわかってる」

 

 ティナとネルバに指示を求められて、バアルはそういった参謀的な役割は本来真っ先に突っ込んでいったジークの仕事だろうと思いながらため息吐いた。ボウガンの撃てる拡散弾と散弾はハンターを巻き込んでしまう可能性がある弾なので、協力してモンスターを狩っている場では使い辛い。そのことはネルバも理解していたが、バアルは念押しのために言ってからジークを援護する為にババコンガに向かって走り出した。

 

「ふっ! 鈍重な敵は慣れてるんでねッ!」

 

 ジークは一人、ババコンガの攻撃を紙一重で躱しながら太刀を振るって小さな傷を作っていた。こちらの攻撃に合わせて腹を膨らませ、それを盾にして攻撃を防ぐことは砥石で太刀を研ぎながら見ていた。ならば、とジークが考え出した戦法は実に単純であり、効果的な方法であった。ババコンガが攻撃している最中は腹を膨らませることができないのならば、こちらから攻撃するのではなく、ババコンガの攻撃にカウンターするように攻撃すればいい。危険の伴う作戦ではあったが、ジークはババコンガの攻撃を見切って反撃に成功していた。

 

「このまま押し切るッ!」

 

 ババコンガが勢いに押されてゆっくりと後退していることに気が付いていたジークは、攻撃の手を緩めずに猛攻を加えていた。遂に攻撃を捌き切ることが不可能だと悟ったババコンガは、再び腹を膨らませてジークの攻撃を防ごうとしたが、それを読んでいたジークは振るっていた太刀を腹の前で止め、膨らんだ腹から外れて爪の根元に向かって殻王獄刀【鋼】を突き刺した。

 

「あっ!?」

「ババコンガの爪を割ったのか!?」

 

 根元に大きな力を加えられたババコンガの左爪は、大きな音を立てながら粉々に砕け散った。刀身は薄く鋭いように加工されている殻王獄刀【鋼】だが、剛種シェンガオレンの力は変種のババコンガ程度では止められなかった。腹を膨らませて完全に攻撃を防ぎきったと慢心していたババコンガは、まさかの攻撃を受けて完全に慌てふためいていた。怒りで赤くしていた顔もジークの攻撃による痛みのせいで元の顔色に戻り、その瞳は既に敗北していた。

 

「肩を借りるぞ」

「どうぞっ!」

「右爪は私たちで破壊しましょう!」

「任せろ! 徹甲榴弾で吹っ飛ばしてやる!」

 

 ジークの肩を踏みながらババコンガの頭上を飛び越えたバアルは、前後でババコンガを挟み撃ちにしながらジークと共に武器を振るった。ジークとバアルがとどめを刺そうとする中、ティナとネルバももう片方の爪を狙ってそれぞれのできる攻撃を行った。徹甲榴弾が爪を傷つけ、ティナの放った渾身の一矢が根元から破壊する。バアルの振るったネブラボルヌスは生物の急所である首筋を捉え、ジークの太刀は無慈悲に膨らんでいない腹に突き刺さった。苦し気な声を上げながらも爪を振り上げようとしたババコンガだが、既に両爪はハンターに奪われ、腹に太刀を突き刺しているジークに対して攻撃することができなかった。

 

「これでっ!」

 

 最後の手段として、その体躯でジークを押し潰そうとしたババコンガは、ティナが放った矢が眉間に突き刺さったことでバランスを崩して後ろに倒れこんだ。

 

「し、死にましたよね?」

「これで生きてたら怖いぞ」

「安心しろ。もう死んでる」

 

 吐血しながらゆっくりと倒れこんだババコンガを尻目に、ジークは大きく息を吐きながら納刀した。変種にしては随分と簡単に狩れたような感覚があったティナは、ゲリョスのように死んだふりをしているのではないかと疑うように弓を構えたままババコンガの死体に近づき、ネルバは地面がぬかるんでいることもお構いなしに座り込んでいた。

 

「正直、それなりに苦労しましたね」

「そうか? お前はこの程度なら楽勝だと思っていたが」

「いやぁ……小型モンスターの群れを相手にするのは慣れていないので」

 

 バアルはジークの言葉を意外そうに聞きながらも、G級ハンターまで駆け上がる過程ではあまり小型モンスターを狩っていないのだろうと考えて一人で納得していた。

 

「それで、群れごと始末したから後処理には時間がかかるが……」

「まぁ、パローネ=キャラバンの人に手伝ってもらうしかないですよ。どうせパローネ=キャラバンの人たちもここら辺を散策するんですし、少しくらい手伝って貰っても問題ないと思いますよ?」

「まぁ、そうだな」

 

 頷いたバアルは腰にぶら下げていた狩猟対象が絶命したことを知らせる照明弾を上に向かって打ち上げた。沼地の雨の中でも燦々と煌めく照明弾はパローネ=キャラバンの飛行船にまで届き、すぐにパローネ=キャラバンの人員がやってくるだろう。

 

「さて、へし折ったババコンガ爪の回収と、小型モンスターの解体ぐらいはしておきますか」

「……仕方ない」

「ほら、座り込んでないでネルバさんもティナも手伝って」

「お、おう」

「わかりました……」

 

 ブルファンゴとコンガの解体程度ならば簡単にできるので、ネルバとティナも断る理由はない。しかし、解体する数が途方もなく多いことを除けば。実際、モンスターの死骸解体をにがてとしているハンターは多い。その最たる理由が、面倒くさいからであるのだが、タンジア時代は一人で狩りをすることが多かったジークは、その影響でモンスターの解体が得意だった。バアルも変種モンスター特有の汎用素材を解体するのには慣れていたが、ネルバとティナは未だにモンスターの解体が上達しない。

 

「ほらほら。早くしないと他のモンスターが近くまで来ちゃいますよ?」

「はぁ……」

 

 早くモンスターを解体して使える素材を確保したいジークは、ワクワクが抑えきれずに解体用のハンターナイフを手で器用に回転させていた。慣れているからと言って、積極的にモンスターを解体したい訳ではないバアルは大きなため息を吐きながらも、愛用の解体用ハンターナイフを取り出した。

 沼地の一部を牛耳っていた変種モンスターを群れの長とする二つのモンスター群が消滅したことで、沼地の生息域は今後大きく変わっていくことになるだろう。新たな危険なモンスターがババコンガ変種とドスファンゴ変種の元縄張りを奪いに来る前に、ハンターたちは後処理を終わらせ、パローネ=キャラバンの人員たちは沼地の散策をしなければならなかった。

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