狩人の頂   作:ばるむんく

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709航路⑥(キャラバンクエスト) 鎧竜(グラビモス)

「ババコンガ変種とドスファンゴ変種の討伐、お疲れ様っス」

「ありがとうございます」

 

 パローネ=キャラバンの飛行船まで戻ってきたジークは、笑顔で水を手渡してきたオリオールに感謝の言葉を述べながら水を一気に飲み干した。湿気の強い沼地での狩りでも、生死がギリギリのラインで狩りを続けているハンターは相応の体力を消耗するため、一気に水を飲み干すことができる。雨の中の狩りであったので、身体に熱はあまりこもっていないが、雨に打たれながら狩りをするのは想像以上にキツイものなのだ。

 

「後は火山を周って、樹海を少し散策したら終わりっスね」

「そうか……709航路も終わりか」

 

 多くの変種と戦うことになると覚悟して挑んでいた709航路だが、遂に折り返し地点まで到達していた。凄腕ハンターとしての腕前のお陰もあるが、危険度で考えてもかなりのペースで狩りを進めていた。

 

「長かったような短かったような……」

「いやー……パローネ=キャラバンとしては、それなりの期間開拓されていなかった航路が遂にって感じなので、悲願の達成っスよ」

 

 ハンターたちはなんとなくもっと死にかけることを考えていたが、パローネ=キャラバンは変種を数頭まとめて狩猟してくれるハンターに大助かりだった。と言うのも、パローネ=キャラバンの出している航路クエストを受けているメゼポルタのハンターは、大抵が上位ハンターまでなのだ。凄腕ハンターも参加してはいるが、やはり上位ハンターほど数も多くなく、手の空いているハンターも少ない凄腕ハンターは航路クエストに頻繁に参加することが難しい。ジークたちも剛種シェンガオレンを討伐した直後の空白期間を利用して、興味本位で航路クエストを受けているだけなのだ。

 

「ところで、沼地ってなんか特産品とかあるんですか?」

「色々あるっスよ? ゲリョスイショウとか……桃毛獣の秘玉とか!」

「秘玉?」

 

 先程までババコンガ変種と戦っていたジークは、桃毛獣の秘玉と聞いて顔を上げた。解体した時に特産品となるような素材は発見できなかったので、パローネ=キャラバンの人員がなにかしらの素材を見つけたのかと思って反応したが、オリオールは首を横に振った。

 

「今回のババコンガ変種からは桃毛獣の秘玉は見つからなかったス」

「そうか……」

「でもゲリョスイショウは欲しいっスね……」

 

 毒怪鳥(どくかいちょう)ゲリョスの名前を持つゲリョスイショウは、紫色に光り輝く巨大な水晶のことである。光り物を好み、ハンターのポーチから空きビンなどを盗んでいくことで知られるゲリョスを悩殺できるほどの輝きを持つ希少な鉱石である。沼地のごく限られた場所から採掘することができず、耐久性も脆く大きさも巨大である為、完全な状態で採掘されることが殆どない。単価は火山で採掘される希少な功績であるメテオテスカトルに並ぶ程であり、特産品としては十分な価値を持つ。

 

「まぁ特産品集めは俺たちの仕事じゃないので……ラティオ活火山に着くまでに武器の整備と、身体を休めないと……」

「そうっスね。ゆっくり休んでください! 付近にモンスターがいないことはうちのメンバーが確認してるんで!」

 

 各地を放浪するキャラバンの特性上、パローネ=キャラバンにも専属のハンターは所属している。ハンターライセンスを持って武器を船に持ち込み、飛行船の操舵をしながら現地では小型のモンスターなどを討伐して安全を確保する人員もいる。ジークたちのように専門のハンターではないので、上位相当の大型モンスター相手に勝てるかも怪しいような人も多いが、飛行船の周囲を確保する程度なら造作もない。

 オリオールとの話を終えて、簡易的に作られた鍛冶施設にやってきたジークは、そこにいる職人に武器を手渡してバアルたちが休んでいる部屋にまで戻ってきた。

 

「お疲れ」

「ありがとうございます……なんですかお疲れって」

 

 既に横になっているバアルからかけられたいたわりの言葉に、反射的に礼を言ったジークだが、直後に言葉の意味がわからずに首を捻った。モンスターの狩猟に対してお疲れと言われているのならば、バアルもジークと同じようにモンスターを狩っているため、お疲れと言われるのはおかしいだろう。

 

「いや、パーティーのリーダーとしてお前は頑張ってるだろう」

「あんなもの別に……そもそもバアルさんだって、ティナに指示出してたじゃないですか」

「あの程度なんぞ指示にもならん」

 

 適当なことを言いながらジークも自分の寝床に向かって飛び込み、枕に顔をうずめた。雨の中の狩りは、ジーク本人が思うよりも身体の体力を奪っていた。ゆっくりと降りてきたまぶたを意識しながら、逆らうことなく意識を落としたジークを見て、バアルは微笑みながら目を閉じた。

 

 


 

 

「ふぁ……」

「起きたか?」

「……眠いですけど」

 

 ゆっくりと眠っていたジークは、既に飛行船が空に浮かび上がっている感覚を全身で味わいながら大きな欠伸をしていた。

 

「クルプティオス湿地帯から一度ドンドルマを経由して補給。その後にラティオ活火山に行くらしい」

「あぁ……クルプティオス湿地帯とラティオ活火山はドンドルマを挟んで反対にありますからね」

 

 王立である古生物書士隊や、大長老の直轄である古龍観測隊を超える飛行船技術を持つパローネ=キャラバンと言えども、補給無しで大陸全てを周る程の万能性ではない。故に、パローネ=キャラバンはどのような航路クエストでも一度はドンドルマに立ち寄って補給を受ける必要がある。

 ドンドルマに降り立った飛行船の横で、ジークは身体をほぐしながらドンドルマの街並みを見ていた。メゼポルタとは比べ物にならないほどの規模の街であるドンドルマは世界の中心として存在する、国家とは無関係の都市である。大陸には多くの国が存在するが、ハンターズギルドはそのどれにも所属しない中立の団体であり、多くの国より権力を持つ途轍もない規模の団体である。それを統括するのがドンドルマにあるハンターズギルドであり、世界のハンターズギルドはドンドルマから派生した分家なのだ。

 

「シェンガオレンの時には人、いなかったからなぁ」

「私も、活気のあるドンドルマには初めて来ました」

 

 ジークと共に街に出掛けていたティナは、人の通りが多い街並みに驚きながらもジークの後ろをついてきていた。

 

「あ、ハチミツ」

「結構良質だな……店主、これくれ」

「はいよ!」

 

 大きな商店街を歩いていたジークとティナは、必要そうなものを物色しながら適時金を払って狩りの準備を進めていた。商店街に並ぶ商品はハンターがよく使う物や、日用品なども取り揃えてあり、商店街を一度見ているだけで全ての生活が成り立つような状態だった。

 

「……こうやって見ると、ハンターって高給取りであすよね」

「そりゃあな。命かけてモンスターと相対してるんだから、そんなもんだろ」

 

 ドンドルマの物価を見て呟くティナに、ジークは苦笑しながらも理由を語った。世界はモンスターで溢れ、人はモンスターの脅威から逃れながら生きている。本来なら逆らうのも馬鹿らしい強大なモンスターに立ち向かうハンターは、当然報酬として多額の金銭を貰う。ハンターが高給取りなのは、命をかけて大型モンスターと戦うという理由ともう一つ、そもそもなろうと思う人間が少ないからである。

 

「小型モンスターを狩ったり、モンスターの住みかで採取できる素材を取ってくるだけのハンターも世の中にはいるけどな……そんなのはごく少数だし、採取専門のハンターは報酬だってそこらの職業と変わらない」

 

 高給取りなハンターは、みんな等しく大型モンスターと戦うことが多い。G級ハンターや凄腕ハンターのように実力も実績もあり、際限なく金が手に入るようなハンターほど金に対する意識が薄くなっていく。多く持っているから頓着しないのではなく、実力のあるハンターは金よりも自身の名誉やギルドに対する貢献を気にする者が多いからである。

 

「小型モンスターを専門で狩るハンター……いるんですね」

「はは……お前はハンターなり立ての頃から大型モンスターばっかりだったな」

 

 メゼポルタハンターズギルドでハンターライセンスを取得したティナは、下位ハンターの頃から大型モンスターとばかり戦っていた。ジークたちと出会い『ニーベルング』に所属してからはそれがさらに加速して、すぐに上位ハンターに昇格してしまった。

 

「私にはよくわからない感覚です」

「そんなもんだろ。俺だってハンター以外の職業に従事したことなんてないからな。国の軍人なんかも、モンスターと戦うからそれなりに給料はいいらしいぞ?」

 

 ハンターをしている人間の大部分は、生涯ハンター以外の職業を経験しない。それを狩りの魔力に憑りつかれたと表現する人間もいるが、ハンターライセンスを取れる年齢からハンターをしていたジークは、ハンター以外の職業をしている人間の方が理解できなかった。メゼポルタに来るようなハンターなど大抵そんなものであり、ティナもいずれはそうなっていくだろうとジークは思っていた。

 

 


 

 

 ドンドルマでの補給を終えたパローネ=キャラバンはラティオ活火山へと降り立っていた。年中を通して暑すぎる気候のラティオ活火山は、人間からすれば資材の宝庫であると同時に死の世界でもある。対策もせずに足を踏み入れれば待っているのは無慈悲な熱による死か、生息する大型モンスターに襲われての死だけである。

 

「……もう暑い」

「文句言うな」

 

 海岸沿いに停泊している飛行船の上で既に暑いと訴えるジークに、バアルは呆れながらもクーラードリンクを手渡していた。火口の近辺や溶岩が流れている場所以外はクーラードリンク無しでも生きていくことはできるが、気温が高いか低いかで言えば間違いなく高い。

 

「えーっと……火山の標的は?」

鎧竜(よろいりゅう)グラビモスだ」

「グラビモスって、あのグラビモスですか?」

 

 角竜ディアブロスを矛とした場合の盾として知られる鎧竜グラビモス。ジークはタンジア時代にディアブロスと戦ったことはあっても、対になる存在であるグラビモスとは出会ったことがなかった。話には聞いたことがあり、どういう特徴のあるモンスターなのかは知っていても見たことも戦ったことのあるモンスターでもない。

 

「お前の考えてるグラビモスであってると思うぞ……厄介なモンスターだがな」

「火山の重鎮グラビモスは危険な相手っスけど、変種モンスターすら倒せるジークさんたちなら大丈夫っス!」

「頑張るよ」

 

 元々メゼポルタのハンターに対してかなり友好的で、実力を信頼しているオリオールだが、航路クエストで連続して変種を討伐するジークたちを見て更に期待を高めていた。期待を背負わされるのは慣れているジークとバアルは笑って流していたが、あまり経験の無いネルバとティナはオリオールに期待の言葉に顔を引き締めていた。

 

「それじゃあ行きますか……」

「そうだな」

 

 パローネ=キャラバンの準備も終わったのを確認して、ジークはゆっくりと立ち上がった。航路クエストの間ずっと無茶をさせている殻王獄刀【鋼】を労わるように一度撫でてから、バアルたちの方へと視線を向けた。準備完了していると視線で伝えてくるバアルを見て苦笑いを浮かべ、ネルバとティナの張り切った顔を見て頷いてから飛行船を出た。オリオールはハンターたちの背中を眺めながら、いっそ自分もハンターにでもなればよかったと思っていた。

 

 


 

 

 鎧竜グラビモスは火山の中枢に生息している大型の飛竜種である。飛竜種の中でも最大級の大きさに最重量級の体躯は、まさしく火山の重鎮。岩竜(がんりゅう)バサルモスが長い年月をかけて成長しきった姿が鎧竜グラビモスであり、両者は幼体と成体の関係にある。全身を岩のように硬い甲殻で覆い、生半可な攻撃は自分の方を傷つけてしまうと言われるほどの鎧を持つグラビモスは、砂漠の暴君ディアブロスと同じようにハンターたちから恐れられている。

 

「……グラビモスって鉱石食なんですよね?」

「らしいな。俺もモンスターの生態になんでも詳しい訳じゃないが、結構な頻度で相手をするから知っているだけだ」

 

 バアルの言葉を聞いて、ジークはタンジアが存在する大陸にある火山に生息していた鉱石食の大型モンスターを思い出していた。

 

「鎧竜グラビモス……どんな強大な敵なんでしょうか」

「滅茶苦茶戦い辛いモンスターだぞ」

 

 戦った経験のないティナは想像でグラビモスの姿をイメージしていたが、ネルバは過去に戦ったグラビモスのことを思い出して心底嫌そうな顔をしていた。

 ドンドルマの管轄範囲内で活動している上位ハンターは一度は戦ったことがあるような有名なモンスターだが、クエスト失敗率の高い非常に強力なモンスターでもある。個体数もそれなりの数はいるが、それ以上にグラビモスは討伐依頼の絶えないモンスターである。討伐依頼の絶えない理由は、その異常なまでの縄張り意識の高さにあった。幼体であるバサルモスは縄張りに外敵が侵入しても岩に擬態して素通りさせたり、その硬い身体で応戦することはあっても積極的に攻撃する方ではない。しかし、成体となったグラビモスは縄張りへの侵入者を目視した瞬間に攻撃してくる。

 

「グラビモスの縄張りまでもう少しらしいですよ」

「パローネ=キャラバンが事前にグラビモスの縄張りを調べていたのか」

「まぁ……危険なモンスターですし」

 

 縄張り意識の非常に強いグラビモスだが、見た目通り動きは鈍重で翼は飛べないように退化している。逃げようと思えば幾らでも逃げることができるほど動きは遅いが、グラビモスが鉱石食であるが故の危険性がそれを難しくさせている。火山性の鉱物を食べているグラビモスだが、燃石炭や紅蓮石のように爆発するような鉱石を好物としている。グラビモスは生き物の少ない火山で生きて行くために、鉱石類からエネルギーを得て生きているが、爆発性の鉱物を分解する過程でどうしても体内に非常に大きな熱エネルギーが籠ってしまう。基本的には下腹部から火山性のガスを放出することで体内の過剰なエネルギーを放出して生きているが、グラビモスはその過剰なエネルギーを外敵排除に利用することがあるのだ。それこそが、角竜ディアブロスの突進と対になる、鎧竜グラビモスの熱線ブレスである。体内に溜まった熱エネルギーを圧縮して口から熱線として吐き出すブレスは、直撃した火山の地形を容易く貫通する威力と温度を持ち、人間が真正面から受ければ人の形を保つことなど不可能な程の威力を持っている。

 

「グラビモスの正面に居座り続けるのは止めておけ。命が幾つあっても足りないぞ」

「わ、わかってる」

 

 バアルに忠告されているネルバは、グラビモスの放つ熱線の危険性を知っているからこそ激しく頷いていた。本来ならば今更言われるようなことではないと反応するネルバだが、グラビモスの熱線に関しては特に反論することも無く素直に頷いていた。いくらモンスターの素材を使った防具を着込んでいようと、グラビモスの熱線を真正面から受けて生きていられるはずがないのだ。

 岩のように硬い外殻、異常なまでの縄張り意識、鉱石食故の熱エネルギーを圧縮した必殺の熱線ブレス。グラビモスに天敵はいないと言われる理由は、生態を考えれば当然の結果だと言えるだろう。

 

「それにしても……暑いですね」

「火口に近づいてるからな……グラビモスはもっと奥に居座っているだろうがな」

 

 紅蓮石を主食にしている関係上、火口付近のもっとも暑い場所にグラビモスは縄張りを持っていることが多い。岩の様な外殻は硬いだけではなく熱伝導率が極めて低いため火口に近づこうが、例え溶岩の中に飛び込もうが平気な顔をしているグラビモスにとっては当然のことである。

 

「……いたな」

「そりゃあ当たり前ですよ」

 

 洞窟を抜けた先、開けた場所にある溶岩溜まりの付近で壁に顔を向けて鉱石を食べているグラビモスの姿があった。飛竜種の中でも最大級であるグラビモスの体躯にため息を吐きたい気分になりながらも、ジークは巨大な飛竜種との戦い方を頭の中で考えだしていた。

 

「まず、俺とバアルさんがあの外殻を何とかしないと、ネルバさんとティナは何もできない」

「あの見た目通りなら貫通弾は通らねぇよなぁ……」

「間違いなく通らない。熱伝導率が低いから徹甲榴弾の効き目も薄いはずだ」

「あぁ……マジでどうすんだよ」

 

 遠距離武器でグラビモスに対して出鱈目に攻撃したところでなんの効果も与えることは無い。近接武器で近づいて攻撃しようにも、並の武器ではまず弾かれてしまう。ハンター泣かせのモンスターだが、ジークは古龍種よりはマシと適当に考えていた。

 

「じゃあ取り敢えず突っ込んで、なんとか外殻を剥がしてみますよ」

「下腹部が狙い目だが、突っ込み過ぎると噴出する爆発性のガスに巻き込まれるから注意しろよ」

「了解です」

 

 対グラビモスの序盤戦はバアルとジークが突っ込んで攻撃を敢行する。シンプルではあるがそれ以外に選択肢のない状況にジークは苦笑しながらも、殻王獄刀【鋼】に手をかけた。

 

「こいつならグラビモスの外殻も切れそうだけどな」

「どうだかな」

 

 航路クエストの道のりで切れ味が途轍もないことを理解しているジークだが、初見の相手であるグラビモスに剛種シェンガオレンの素材でどこまで相手できるのか不安な面もあった。バアルは何度もグラビモスを狩った経験があるため、どの程度の武器ならばあの要塞の様な外殻を切り裂けるのかを理解できているが、剛種シェンガオレンという今まで見たことも聞いたこともない素材で組み上がっている、殻王獄刀【鋼】の切れ味がどの程度なのか理解しきれていなかった。

 

「出たとこ勝負の采配だけど、たまには悪くない!」

「俺は勘弁してほしいがな……」

 

 楽しそうに笑いながら駆けだしたジークの戦闘狂のような発言を聞いて、大きなため息を吐きながらジークを援護するようにすぐ背後を駆けていた。走るハンター二人の足音に気が付いたのか、紅蓮石を夢中で食べていたグラビモスがゆっくりと背後を振り返り、ジークとバアルを視界に収めた瞬間に目の色が変わった。

 

「くるぞ」

「えぇ」

 

 威嚇と牽制のために大きな咆哮を上げたグラビモスは、ハンターが威嚇などまったく気にしていないことを理解したのか、口を大きく開けて二人のハンターに狙いを定めた。緋色の光がグラビモスの口から漏れだした瞬間に、ジークとバアルはそれぞれ左右に別れてグラビモスの直線状から避けた。ハンター二人の素早い動きについていけていないグラビモスは、そのまま誰もいない自分の真正面に向かって全てを焼き尽くす熱線を放った。

 

「こ、これが……グラビモスのブレス」

「撃たれてるのは俺じゃないってのに、命の危険しか感じないぜ」

 

 火山性の耐熱に優れているはずの岩がドロドロに溶かされ、ブレスの放たれた場所からかなり離れているにもかかわらず余波を感じるほどの熱量。初めて見る鎧竜グラビモスの熱線ブレスに、ティナは息を呑んでいた。

 

「俺が先に出る」

「了解です」

 

 放たれた熱線ブレスに恐れおののいているティナとネルバに対して、狙われたはずのジークとバアルは特に反応することなくそのままグラビモスへと接近していった。熱線を避けられたグラビモスがどう動くのかを確認しておきたかったジークの思考を読み、グラビモスとの戦闘経験があるバアルが加速してネブラボルヌスを抜いた。

 

「こっちを見ろ!」

 

 ジークの方へと視線を向けようとしていたグラビモスの視界にわざと入り込み、バアルはネブラボルヌスを首筋に向かって振るった。バアルの接近を避けるような動きはできないグラビモスは、振るわれるネブラボルヌスを避けることなく熱線のために圧縮した熱エネルギーを下腹部から排出した。当然、バアルはその程度の反撃など受けることはなく、盾を構えながら後ろに下がってガス攻撃を避けた。

 

「……相変わらず硬いな。ネブラボルヌスでも無駄な所に攻撃すればこうか」

 

 グラビモスの攻撃を完璧に避けたバアルだが、思い切り振りぬいた反動で痺れた腕と外殻に多少傷が入っただけで血の一滴も出ていないグラビモスを見て表情を歪めていた。

 

「ここなら、どうだッ!」

 

 バアルの攻撃が不発に終わったことを大して問題視していなかったジークはすぐさま距離を詰め、無造作に振るわれた噛みつき攻撃を避けて下腹部に向かって殻王獄刀【鋼】を突き出した。岩の様な外殻とぶつかり金属音が鳴り響いた瞬間に、ジークの突き出した太刀はゆっくりとグラビモスの外殻を貫通して傷をつけた。鮮血が飛び散るような傷ではなかったが、ジークが抜いた太刀にはグラビモスの血が滴っていた。

 

「これでなんとか戦いにはなってくれそうだが……」

「まるで効いてないな。流石にここまでの巨体だと、有効的な攻撃もそう多くないか」

 

 腹部を攻撃されたはずのグラビモスは、多少の痛みを感じているだろうが動きに大した違いはなく、むしろ懐に一度入り込まれたことで怒りをジークに向けて、先程よりも動きが素早くなっていた。グラビモスの直線状に立って喋っている二人だが、グラビモスの放つ熱線ブレスのことを考えると自殺行為にも見える。しかし、ジークは事前にバアルからグラビモスの熱線ブレスがどのような原理で口から放たれているのかを聞いていたため、警戒心をそこまで持っていなかった。体内の熱エネルギーを可能な限り圧縮して放つ熱線ブレスだが、グラビモスとしても連発することは避けたい攻撃なのだ。

 

「じゃあ俺が下腹部の装甲をなんとか剥がしてみますよ」

「頼む……俺の毒もそれほど効かないだろうからな」

 

 グラビモスの幼体であるバサルモスが身体から猛毒を排出することからわかるように、グラビモスも火山性の毒ガスなどを体内に入れてしまってもそこまでの影響を受けない。当然、古龍種であるオオナズチの猛毒であるため全く効果がない訳ではないが、ガノトトスやディアブロス、ドスファンゴのように劇的な効果は見込めない。毒が効かない相手には、片手剣の特性上ジークの補助に回った方が効率的である。

 

「次のグラビモスの行動次第だが……」

「来ますよ」

 

 自身に武器を向ける縄張りを荒らす相手に対して、怒りを持って対応しているグラビモスは、小さく咆哮をしながら近づいてくる速度を徐々に上げていた。飛竜種最大重量級のグラビモスが自らの身体の大きさと重さを利用した突進をしようとしている姿を見て、ジークとバアルも走り出した。エスピナスの突進のように勢いや速度はないが、巨大な要塞が意思を持って人を押し潰そうとする姿は圧巻である。突進を避けるために左右に別れた二人を見て、自らの身体に傷をつけたジークを狙う為にゆっくりとジークの方向へと曲がりながら突進していた。

 

「しつこいな……思ったより持久力もありそうだ」

 

 複雑な岩場をひょいひょいと避けながら走るジークの後ろから、小さな岩を粉砕しながら突撃するグラビモスは、執拗にジークを追いかけていた。既にバアルのことは頭から抜けており、自分の脅かす相手であると認識したジークを狙っていたのだ。なんとか道を探しながら走っていたジークは、突然方向転換して横へと逸れたが、それなりの距離を走って速度のついていたグラビモスはその緩急についていくこともできずに溶岩の川へと沈んでいった。

 

「……羨ましいよ。全く」

 

 溶岩の中へと入っても全く関係ないグラビモスの耐熱性を見て、ジークは呆れた様な言葉を口にしてから、溶岩に沈むグラビモスの口が開いたことを確認して横に転がった。溶岩の中から熱線が飛び出してくる光景を見て、ジークは舌打ちしながらなんとかその熱線を避けて岩の上を転がっていた。溶岩の中からジークを狙ってブレスを吐いたグラビモスは、そのまま首を下に向けていきさっきまでジークとグラビモスが走っていた岩場をその温度で溶かしていた。

 

「まずいな……このままブレスを吐き続けられたら足場が無くなる可能性がある」

「場所を変えようにもグラビモスが縄張りから出るとは思えんぞ」

 

 ジークの呟きを拾ったのは左右に別れてからグラビモスの視界から消えていたバアルである。ちらりとネルバとティナへと視線を向けたジークは、二人が溶岩の中にいるグラビモスへと照準合わせているのを見て頷いた。現状では二人の放つ遠距離攻撃ではグラビモスに手傷を負わせることもできないが、それでもグラビモスの視線を散らすには有効だと考えていた。

 

「また来るぞ」

「溶岩に沈んでいた間に熱を放出する気ですかね」

「ついでに外敵排除もできる。一石二鳥だな」

「石じゃなくて熱線ですけどねッ!」

 

 溶岩からゆっくりと上がってきたグラビモスの身体はほんのりと赤く変色していた。溶岩の中に入っても生きていくことができるグラビモスだが、当然その分の熱量は身体の内側に溜められることになる。その熱量を排出しなければグラビモスは生きていけないため、外敵排除のために熱エネルギーを身体の外に放出する。再びグラビモスの口から熱線が放たれたのを確認してから、ジークとバアルはグラビモスへと向かって駆けだした。熱線の勢いに押されて首も振れないグラビモスは、ネルバが遠くから放った徹甲榴弾の爆発を受けながらも口から熱線を放ち続けていた。

 

「当然の様に無傷かよ」

「大丈夫です。今の役割は目を逸らすことですから」

「わかってるよ!」

 

 熱線の影に隠れて接近するジークとバアルへと向けられる視線を可能な限り遅らせる。有効打を放つことも考えることもできないネルバとティナに与えられた、現状での唯一の役割だった。遠距離から放たれる攻撃に煩わしさを感じながらも、傷にもならない攻撃に意識を向ける必要はないと考えたグラビモスは、視線に入り込んできたバアルに反応して身体を大きく逸らした。

 

「押し潰すつもりか?」

 

 懐に入り込もうとするバアルを撃退する為に上半身を逸らしたグラビモスだったが、視線から消えていたジークは既に懐に飛び込んでいる。

 

「これでもまだ、無反応でいられるかな」

 

 グラビモスの不意をついたジークは、殻王獄刀【鋼】によってつけられた刺し傷へと向かってもう一度太刀を突き出した。

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