狩人の頂 作:ばるむんく
キャラバンクエストはグラビモスで終了です。
生命の少ない灼熱の大地に、真っ直ぐ伸びる熱線が夜空に向かって放たれていた。飛行船でハンターたちの帰りを待っていたパローネ=キャラバンの面々にもその熱線が目視でき、ハンターたちが目標のモンスターと激しい戦いを繰り広げているのだと理解させた。
「おっと」
「大丈夫か?」
「なんとか無事ですよ」
足元に溶岩が迫ってきていることに気が付いたジークは、逃れるために岩の上に移動した。少し離れた岩の上から声をかけてきたバアルに手を挙げながら無事を知らせたジークは、下腹部から血を垂れ流しながら怒り狂ったように口から熱線ブレスを吐くグラビモスへと視線を向けた。ジークの二度目の刺突攻撃は見事にグラビモスの外殻を貫通し、グラビモスに対して初めて有効な攻撃に成功した。そこまではよかったのだが、自身が傷つけられたことに怒り狂ったグラビモスは、手当たり次第に熱線ブレスを吐き続け、足場をどんどんと崩していった。熱線によって溶けた窪みに溶岩が流れ込み、着実に戦いにくくなっていく状況に焦りを感じているジークは、グラビモスへの攻撃を強めていたが下腹部への警戒度が高く有効な攻撃をできずにいた。
「ここまで怒ってるなら誘導も可能だと思うぞ」
「……やっぱり外まで誘導しますか」
「それしか狩り方がない。ここはあまりにも相手に分があり過ぎる」
すぐ近くを溶岩が流れる地形でグラビモスと戦うのはあまりにも無謀だった。溶岩の流れをある程度堰き止めていた岩は既にグラビモスによって溶断され、足場は既に三分の一が溶岩に飲まれていた。グラビモスの放つ熱線ブレスはかなりの距離を撃ち抜き、遠距離攻撃をしていたティナとネルバも足場を失って射程外へと逃れていた。
「じゃあ俺が囮になるんで、危ない時はお願いします」
「了解した」
現状、グラビモスに狙われているのはジークだけである。鎧である外殻を貫通して攻撃してきたジークに狙いを定めているグラビモスは、囮となって走り出したジークを追いかけるように動き出した。バアルは注意深くジークとグラビモスの動きを観察しながら、手だけでティナとネルバに後退の指示を出した。
「ネルバさん、後退します!」
「お、おう!」
バアルのハンドサインが一瞬わからなかったネルバは、即座にハンドサインを理解したティナに半分引きずられるような形で洞窟の中に逃げ込んだ。ジークが囮として逃げていった方向とは反対だったが、辿り着く先は同じ開けた場所である。二人が離脱したことを確認したバアルはグラビモスの死角からひっそり近づきながら、ジークとグラビモスの攻防を見守っていた。
ジークたちと別れたネルバとティナは、襲い掛かってくるイーオスの群れをいなしながら洞窟の外へと飛び出した。溶岩が近くを流れておらず、グラビモスが多少熱線ブレスを吐いたところで崩壊するような大きな崖も存在しない。しかもグラビモスの視線を切ることができる程度の小さな岩は無数にあり、明らかにハンターが有利な地形。先に辿り着いた二人は、すぐにジークとグラビモスが向かっていた洞窟へと繋がる道の出口にシビレ罠を仕掛け、事前に用意して置いた大タル爆弾Gを運び込んだ。
「ジークさんの指示ならこれで終わりですか?」
「おう。シビレ罠と大タル爆弾G……あとは岩場に隠れて二人が来るのを待つだけだ」
事前にジークが地形を見て用意しておいたメモを確認する二人の元に、グラビモスの咆哮が響いた。洞窟内を反射して聞こえてきた音と共に何かが崩落する音が響くと、洞窟の出口からバアルとジークが飛び出した。シビレ罠と大タル爆弾Gが既に仕掛けられていることを確認したバアルは近くの岩の後ろに隠れ、ジークは罠を超えて洞窟の方に顔を向けたままその場で仁王立ちしていた。
「……そろそろ来るぞ」
「わかってる……頼むティナ」
「わ、私ですか? いいですけど……」
岩を経由しながらネルバとティナの所までやってきたバアルは珍しく息を切らしていた。グラビモスからジークを守りながら洞窟内を全力疾走していたバアルは、流石に息を整える時間が必要だった。ジークも同じように息を切らせてはいたが、太刀を納刀することも無く罠を前にして微動だにせずにグラビモスを待っていた。グラビモスが罠にかかったらすぐに大タル爆弾を起動する必要があるのだが、重要な場面でミスショットをしてしまったらどうしようと考えたネルバは役割をティナに代わってもらうつもりだった。モンスターの急所に的確な狙撃ができるティナならば問題無いと考えたバアルは、余計な口を挟まずに水を飲みほしていた。
「きた!」
しばらくじっと待っていたハンターたちの元に、グラビモスが洞窟の壁を破壊しながら走ってきていた。洞窟の外にジークの姿を見つけたグラビモスは目の色を変え、仁王立ちのまま動かないジークの姿を見て加速した。
「かかった!」
「ふぅ……ッ!」
足下も見ずにジークへと向かって走っていたグラビモスは当然のように罠にかかり、発生した強力な電撃によって動きを止めた。シビレ罠が発する強力な電撃はモンスターの部位である麻痺袋から発生する神経毒に近い麻痺であり、強力な外殻を持つグラビモスの足すらも止めてしまえる。グラビモスが罠にかかった姿を見て、ティナは全力で引き絞っていた矢を放った。放たれた矢は真っ直ぐに飛んでいき、グラビモスの足元に置かれていた大タル爆弾G四つのうちの一つに着弾し、そのまま誘爆しながら大きな爆発を起こした。
「グラビモスにこの程度の爆発がきくかどうか……」
「効いてくれないと困りますよ」
バアルの言葉にティナが苦笑しながら答えたが、溶岩の中に入っても平気な顔をしているような耐熱性を持つグラビモスに、大タル爆弾程度の爆発では効果がないのではないかとバアルは懸念していた。
「……元気、ではなさそうだな」
すぐ近くで大タル爆弾の爆発を見ていたジークは、未だ太刀を納刀せずに油断なく構えていた。爆発の黒煙の中から白い鎧を纏った飛竜がゆっくりと出てきた姿に、ジークは満足そうな笑みを浮かべていた。グラビモスは大タル爆弾G四つを同時に受けても致命傷にはなり得ない。しかし、下腹部で爆発した大タル爆弾の爆風によって、鎧の一部が破損して零れ落ちていた。
「さて……これで鎧の一部は剥がした訳だが、グラビモスは当然もう怒りで前が見えないって感じか」
下腹部の外殻が剥がれ落ち赤い筋肉から血液が滴り落ちているグラビモスだったが、既にそんなことは全く気にせずにただただ殺意だけを乗せた視線をハンターに向けていた。伝わってくる強烈な殺意に押された様子もないジークは、冷静に下腹部の鎧が禿げたのならばティナとネルバの攻撃が使えるようなったことしか考えていなかった。ジークの意識が自分へと向いていないことに気が付いたのか、グラビモスは大きな咆哮上げてから容赦なく熱線ブレスを吐きだした。
「おっと」
思考を別の所に割きながらも全く警戒を緩めていなかったジークは前動作だけでグラビモスのブレスを避け、好機とばかりにグラビモスへと急接近した。基本的に鈍重な動きしかできないグラビモスは、ブレスを避けられた時点でジークの攻撃を防ぐ手立てなど全く存在しない。鎧が剥がされた下腹部に向かって太刀を滑らせたジークは、勢いのまま尻尾側に回り込んで根元に向かって殻王獄刀【鋼】を振るった。腹部からは大量の血液が噴き出し、口からブレスを吐きながら怯んだグラビモスに向かって、岩場から三人のハンターが飛び出した。
「こうなればこっちのもんだ!」
「ようやく反撃できます!」
「ジークの援護頼むぞ。俺も前に出る」
ライトボウガンを構えるネルバ、弓を構えるティナ、そして片手剣を手に加速して接近するバアル。死角へと消えていったジークを含めて一気に敵が四人に増えたグラビモスは、連続して熱線ブレスを吐いて全てを焼き尽くそうとしたが、背後に回り込んでいたジークがそれを妨害するように再び下腹部に太刀を突き刺した。
「毒が効きにくいと言っても、全く効かん訳ではない!」
ジークの攻撃によって再び怯んだグラビモスの腹下に入り込んだバアルは、全力でネブラボルヌスを振りぬいた。グラビモスの下腹部は巨大な身体を支える筋肉が詰まっているだけであり、重要な臓器も下腹部の近くには存在していないが、血管があるだけでネブラボルヌスの猛毒は身体に染み込んでいく。今や鉄壁の城砦に開いてしまった大きな穴になっている下腹部に続けざまに痛みを感じたグラビモスは、ジークに中断されて身体の中に留まっていた圧縮された熱エネルギーを下腹部から解放した。
「ちッ!?」
「バアルさん!」
太刀を突き刺していたジークはすぐに異変に気が付いていたが、毒を仕込む為に深くまでグラビモスの腹下に入り込んでいたバアルは解放された熱エネルギーの影響を受けていた。圧縮されたことで殆ど爆発に近い解放を間近で受けたバアルは、肌が焼けるような感覚を味わいながらも咄嗟に盾を前に出したことで致命傷は逃れていた。バアルの撃退に成功したグラビモスだが、身体の違和感からなにかをされたのだと気が付き、再び体内の不純物を外に吐き出そうと熱エネルギーを放出していた。
「すまん、少し戦線離脱するぞ」
「そうしてください。なんとか俺が耐えてみますよ」
「あぁ……ネルバとティナもいる。無茶はするなよ」
自分が抜ければ前衛で残るのはジークだけであり、太刀という武器の性質上ヒット&アウェイにはあまり向かない。盾もなければ双剣や片手剣のように軽く攻撃することもできず、かと言って大剣やガンランスのようにいざという時の必殺の一撃も存在しない。バアルが回復するまでにジークが耐えきれなければ、必然的に一度撤退する必要が出てくるのだ。
「わかってます……だからなるべく早く帰ってきてくださいね」
「ふっ……善処しよう」
ジークの冗談とも本気とも取れる言葉に苦笑を浮かべたバアルは、懐から秘薬を取り出しながら近くの岩場に向かって走り出した。一人のハンターが離れて行く姿を見たグラビモスは、逃がさないと言わんばかりに口から熱線を吐こうとするが、接近して来ていたジークに気が付き足下に向かってブレスを放った。足下に放たれたグラビモスの熱線は、ジークに直撃することも無く地面を抉るだけで終わっていた。
「ふッ!」
「ネルバさん! ジークさんの援護ですよ!」
「わ、わかってる!」
ジークがグラビモスの熱線を紙一重で躱しながら懐に入り込んでいく姿を見ながら、ティナは弓を構えながらライトボウガンに弾を詰めているネルバに声をかけた。グラビモスの視線が全てジークに向いている今こそ好機であると考えていたネルバも、ティナの言葉に反応しながら最大威力が出せるであろう貫通弾を装填していた。
「下腹部以外は攻撃は通らないですよね」
「そりゃそうだろ。なにせ下腹部以外は鎧のままだからな」
上位個体相当のグラビモスですら、変種の素材から作られているティナとネルバの武器を弾く装甲をしている。遠距離武器との相性が絶望的に悪いとも言えるグラビモスだが、下腹部のように鎧が剥がれてしまえば硬い装甲に刃を通す必要のない遠距離武器の方が一気に有利になる。ジークも、一度鎧が剥がれてしまえば、グラビモス相手に有効なのは自分やバアルの武器ではなく、ティナとネルバの攻撃なのだと考えていた。
グラビモスは懐から敵を追い出すためにガスを噴出させるが、噴出している時には既に逃れているジークは、ガスの届かない尻尾に向かって太刀を振り上げていた。飛竜種の中でも最大級の体躯をしているグラビモスの尻尾は当然高い位置に存在しているが、ジークの持つ殻王獄刀【鋼】は通常の太刀よりもリーチの長い特殊リーチ武器である。使いこなすには相当な腕が必要だが、使いこなせれば通常の武器よりも威力を発揮することができる。ジークは届きにくいはずのグラビモスの尻尾に向かって太刀を斬り上げることで特殊リーチ武器のメリットを活かしていた。
「今だ!」
「わかってます!」
ジークに尻尾を攻撃されたグラビモスは、痛みを感じながらすぐにジークを追撃する為に重厚で太い尻尾を振り回しながら後ろに振り向いた。ジークは振り払われた尻尾を避けるために付け根の方向に一度移動してから、二人が下腹部を狙っている姿を見て足の下をすり抜けるように横に逃れた。瞬間、ティナとネルバの放った矢と弾丸がグラビモスを襲った。
「……流石にいい目してるな、ティナは」
ネルバの貫通弾が下腹部の筋肉を削りながらグラビモスの頭方向へと流れて行くのを見ながら、ティナの放った矢はジークが先程からずっと傷つけていた尻尾の傷痕に刺さっていた。ネルバの判断はモンスターの弱点を狙うというハンターとして当然のものである。それでも、ジークが何をしたいのかを即座に理解してティナが目敏く援護射撃したことに彼は笑みを浮かべていた。傷口に刺さった矢のことを特に気にせず、下腹部に伝わった痛みだけに意識が向いていたグラビモスは、振り返った先に姿が見えなかったジークがなにかをしたのだと思って更に怒りを募らせ、腹から滴る血液など関係なしにガスを噴出させていた。
「ちッ! 耐熱性に優れすぎているってのも考え物だな……痛みなんてありもしないか」
下腹部の鎧を剥がされ、剥き出しになった筋肉もかなりの攻撃を加えられて血が大量に零れ落ちていると言うのに、グラビモスは自身の傷など関係なく熱エネルギーを解放する。自分の放出した爆発性のガスが傷に影響したりしないものかと考えていたがジークだが、全くお構いなくガスを噴出し、熱線を口から吐き出しているのを見て考えを改めた。グラビモスの耐熱性の異常さを再認識したジークは、再び口から放たれようとしている熱線を見て苦笑を浮かべてから横に向かって走りだした。
「ジークさんのあの動き……私たちに視線を向けさせないため、ですか?」
「そうみたいだな。て、なると……今回のメイン火力は俺たち二人だ」
「わかりました……なんとかグラビモスを倒しましょう」
「おうよ!」
ジークが視線を向けられ熱線ブレスの標的にされながらも、グラビモスの死角に入り込まずにティナとネルバとは反対方向に走っていく姿を見て、ティナは一人気合を入れた。ネルバもティナにつられて気合を入れ直し、再びグラビモスの下腹部を狙うために貫通弾を装填し始めていた。揺れ動く尻尾に視線を向けたティナは、麻痺ビンを懐から取り出した。
「これならもしかしたらグラビモスの動きを……よし!」
シビレ罠に簡単にかかり、全身を麻痺させて動けなくなっていたグラビモスを思い出したティナは、ジークが尻尾を狙っていることも考慮して一度動きを止めさせるために麻痺ビンを用意していた。鏃に麻痺ビンの中に詰まっていた神経に作用する強力な麻痺毒をたっぷりと塗ったティナは、細心の注意を払いながら矢をつがえた。狙うべき場所は大量の血が滴り落ちている下腹部周辺。グラビモスほどの巨体では全身に麻痺毒が巡る時間の間に、ジークやバアルがなんとかしてグラビモスの命を絶ってしまうからもしれない。それでも、ティナは狩りを優位に進めるために息を吐いて下腹部へと狙いを定めて麻痺毒つきの矢を放った。
「当たった!」
「こっち見たッ!?」
ジークへと向かって攻撃を続けるグラビモスの下腹部に、ティナの放った矢は刺さった。ジークやバアルに幾度も傷つけられた下腹部に刺さった矢では、今更反応することがないグラビモスだが、通常の矢ではなく麻痺毒の塗られている矢には感じることがあったのか、ジークを追いかけるのをピタリと止めてゆっくりとネルバとティナがいる方向へと振り返った。
「任せろ」
「バアルさん!」
ネルバとティナに視線が向いたグラビモスはそのまま熱線ブレスを口から吐き出そうとしたが、斜め方向から走って近づいてくるバアルに視線を向け、そちらに熱線を解き放った。地面を溶かすような温度のブレスを横目に、バアルは急速にグラビモスへと接近して首にネブラボルヌスを振るった。大タル爆弾の爆風を受けたことによって下腹部の鎧は剥がれていたが、それと同時にグラビモスの全身にもダメージが及んでいた。その影響を見逃していなかったバアルの一振りは、グラビモスの首を守っていた鎧の綻びをついて大量の血を吹き出させた。
「す、すごい!」
「畳み掛けるぞ!」
バアルの攻撃がグラビモスを大きく仰け反らせたことに驚愕していたティナは、隣で貫通弾を装填し終わっていたネルバの言葉に頷いてから、麻痺毒を塗りたくった矢を再び放った。ネルバの貫通弾はバアルが剥がした首を掠めて足に食い込んだ。鎧を着こんで動いているようなグラビモスだが、当然関節部分は折り曲げる為に鎧が薄く、速射した貫通弾が食い込んで傷をつけることができる。足の関節を狙われたグラビモスは、大きくバランスを崩しながら横に倒れ、首と下腹部にティナの放った麻痺毒の矢が同時に刺さった。
「バアルさん!」
横倒しになった状態のまま、全身に回ったネブラボルヌスの猛毒とティナの使った麻痺毒の影響で動きが極端に鈍っているグラビモスに、追いついてきたジークはバアルへと声をかけながら太刀を抜刀した。ジークが尻尾に向かって力の限り太刀を振り下ろした姿を見て、バアルは下腹部を狙わずに首筋に片手剣を突き刺した。身体の深くに毒が染み込むように力いっぱい片手剣を突き刺したバアルは、背後から飛んでくる貫通弾と矢を見て笑みを深めた。
「ッ! 硬いが……ティナの矢をつかえばッ!」
一方、尻尾に向かって太刀を振り下ろしたジークは、グラビモスの尻尾の太さと肉質の硬さに手が痺れるような感覚を味わっていたが、グラビモスの尻尾に刺さっている矢を尻尾の奥に叩き込むようにして太刀を振り下ろした。矢が半ばで折れると音と共に、尻尾から流れ出ている血の量が増えたのを確認して、尻尾の中心に存在する骨を断つために、ジークは殻王獄刀【鋼】の切れ味を信じて骨に太刀を突きこんだ。何かが折れるような音と共にジークの手に返ってきていた反動が減り、同時にグラビモスが飛び上がって前方に向かって飛んでいった。
「な、なに?」
「ジークかっ?」
毒で動けないはずのグラビモスが突然飛び上がって壁に激突した姿を見て、尻尾を攻撃していたジークの方へと視線を向けたバアルは、ジークの足元に大量の血溜まりができ、その横に大きく太い尻尾が転がっているのを視認した。
「グラビモスの尻尾を斬り落としたのか……」
壁に激突したグラビモスは痛みと尻尾を失ったことによるバランス感覚の喪失によって、フラフラと力なく立ち上がっていた。それでも瞳に怒りを灯しているのを見て、火山の重鎮は伊達ではないと苦笑を浮かべたジークは勢いのまま地面に突き刺さっていた太刀を抜き、べっとりと刀身にこびりついている血を振り払いながら立ち上がった。既にグラビモスの絶命は近い。グラビモスも、相対しているハンターたちもその事実に気が付いていたが、どちらも最後まで油断することなく命が終わるまでその攻防は続いた。
「……手こずりましたね」
「仕方ない。それが狩りだ」
力なく地に横たわるグラビモスの横で、尻尾の状態を確認していたジークは大きく息を吐いた。上位個体と言っても火山の重鎮の異名通り、最後までハンターの命を脅かし続けた強敵。ブレスだけで地形を破壊し、ハンターを殺すことができる強力なモンスターの討伐に、流石のジークも疲労が顔に出ていた。
「あとは密林に帰って終わりか……」
「長旅でしたけど、なんとか成功しそうで良かったです」
メゼポルタを出発してから既にかなりの日数が経過している。『ラグナロク』のメンバーには航路クエストに出るのでかなりの期間を開けてしまうことは伝えてあったが、『ロームルス』と『ニーベルング』の猟団長がこの場にいるのだからある程度の混乱はあるだろう。『ゴエティア』の猟団長であるベレシスは集団をまとめる才能に溢れているとは言い難いため、恐らくウィルかメルクリウスがまとめているだろうと信じながらも、ジークは少しだけ不安に思っていた。
「この位置なら海岸からも近くて、パローネ=キャラバンの人も早く来れそうですし……寝たい」
「解体はしていけよ」
グラビモスを縄張りから引きずり出した場所は、比較的パローネ=キャラバンの飛行船が停泊していた海岸から近く、危険なモンスターもあまり出現しない場所である。狩猟したモンスターの死体を解体するのはハンターの仕事だが、ジークは囮や近接戦闘をしていただけあり普段以上に疲れていた。もしかすれば、航路クエストで飛行船の中でしか休めていない故のストレスもあったのかもしれない。普段の狩りでは決して見せないジークの疲労の色にバアルも苦笑を浮かべていた。
しばらくしてやってきたパローネ=キャラバンの地質調査隊や、ハンターたちの回収にやってきた人員たちは、山のような巨体を横たわらせているグラビモスのすぐそばに落ちている、切断された尻尾を見て息を呑みながらもそれぞれの仕事にとりかかっていた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ……疲れただけだ」
「そうですか。疲労回復用の飲み物です」
「ありがとう……」
パローネ=キャラバンの中心であるアルバーロ三兄弟の長男である、アシエル=アルバーロの開発した疲労回復効果が高いという飲み物を渡された、ジークはその色に一瞬難色を示しながらも腹を決めて一気に飲み干した。
「あ、結構美味い」
「……この見た目で、ですか?」
躊躇いが一瞬しかなかったジークに目を見開いていたティナだが、ジークの感想を聞いて嫌そうにしながらもなんとかチビチビと飲んでいた。アシエル=アルバーロの作った疲労回復用の飲み物と聞いて興味が湧いてきたジークは、飲み干した容器を眺めていた。
パローネ=キャラバンをまとめる三兄弟の長男であり、研究者気質故にパローネ=キャラバンのカシラをキエル=アルバーロに任せ、自分は開発したいものを開発する男。古龍観測所よりも優れた飛行船技術は、研究者であり長男であるアシエル=アルバーロの頭脳あってのものである。
「……そう言えば、グラビモスの尻尾はもう粗方解体したんだが……こんなものが見つかった」
「そ、それはっ!?」
疲労していた身体に鞭打ってグラビモスをなんとか解体していたジークは、尻尾を解体している最中に奇妙な物質を発見していた。淡い光を生み出しながらも美しい球体の形を保っている不思議な素材を手に、ジークはパローネ=キャラバンの調査隊のメンバーに見せた。驚きの声を上げた後にしばらく黙りながらジークの持っていた球体を見て、触った人は一人で頷いていた。
「これは間違いなく鎧竜の秘玉です。グラビモスの中でも生成されている個体は殆どいないと言われる貴重な素材ですよ」
「へぇー……天玉みたいなもんか」
「さ、流石に天玉ほどではないですよ」
秘玉と呼ばれるそれが貴重な素材なのだと聞いて、ジークはG級モンスターの中でも限られた個体からしか見つからないと言われる天玉を思い浮かべたが、パローネ=キャラバンの調査隊員はジークの言葉に苦笑いを浮かべていた。天玉ほどではなくとも、限られた個体からしか採取できない素材と言うのは古今東西、高値で取引される。
「これ、装備の素材に使えるのか?」
「いやー……宝玉や天玉とは違って、それ自体に大きな力がある訳じゃないので、あまり使えないと思います」
「そうなのか。じゃあオリオールに売りつけるか」
「それがいいかと」
ハンターとして生きているジークにとって、モンスターの素材で重要なのは貴重かどうかではなく、装備に使えるのか使えないのかである。聞けば、鎧竜の秘玉は大変貴重な素材であり、当然の様に高値で取引される素材ではあるものの、それはあくまでインテリアや装飾品としての価値しかない。となればジークにとっては無用の長物であり、火山の特産品を探しているパローネ=キャラバンに渡すのがいいだろうと考えたのだ。
「よし、じゃあグラビモスの残りの解体頼むな」
「はい。装備に使える貴重な素材が傷なしで手に入ったらお譲りしますよ」
「助かる」
ただでさえ連続狩猟で身体を疲れさせている中、砂漠で狩猟したガノトトス変種にも劣らない巨体のグラビモスを完全に解体するのはジークとしても避けたいことだった。
「おーい、飛行船帰りましょうよ」
「そうするか……この場にいてもやることなどないしな」
「おっしゃ!」
「ふぅ……なんとか飲み終わりました……これ美味しくないですよ、やっぱり。ジークさんの味覚大丈夫ですか?」
それぞれが自由な行動を取っていた三人に声をかけたジークは、ジークは、疲れ切った身体を解すように大きく動かしてから太刀を背負って飛行船に向かって歩き始めた。
ラティオ活火山でかなり破天荒な狩りをした自覚があるジークは、初めて相対したグラビモスの弱点や危険な行動などを逐一記憶していた。飛行船に戻ればその特徴や相対した感想を全て自分の手記にまとめ、ギルドで購入したモンスター図鑑のページに挟み込む。これがジークの狩りを支える大事なことなのだ。狩場では誰にも理解できない天性の直感に従うことの多いジークだが、ギルドに戻れば勤勉な若者であった。
ようやくキャラバンクエストが終わりました。
これからパローネ大航祭やラヴィエンテなんかを書く時に必要になると思って書き始めたキャラバンクエストでしたが、ほぼ二月分になってしまいました。
次からはようやく狩人祭に入る予定なので、それが終わればシーズン10の話はおしまいになります。