狩人の頂 作:ばるむんく
なるべく投稿頻度を上げられるように頑張ります。
今回は説明多めで話殆ど進んでませんが、これからの展開に必ず必要になることなので。
とりあえずフォワード1の話までは流れが決まっているので、頑張ります。
「えーっと……マイハウスがこっちで、マイガーデンがこっち。マイトレが……」
「こっちの通路だ」
ジークと教官は、猟団受付から移動してこれからずっと使い続けることになるであろう自宅付近へとやってきていた。メゼポルタ広場から少しだけ移動した洞窟から、分岐するように幾つかの道に分かれている場所でジークと教官は道を確認していた。
「マイガーデンとマイハウスはよく使うことになるから覚えておけ。特にマイハウスなどこのメゼポルタでハンターをやっている間はずっと住むことになるかもしれんのだからな」
「成程……住居は用意してくれるんですね」
マイハウスの前までやってきたジークは、かなりの大きさの建物を下から眺めていた。集合住宅の様な形になっている石で作られたマイハウスは、三階建てでかなりの高さになっている。
「まだメゼポルタに来たばかりのお前は三階の部屋だな」
「来たばかりは?」
「言っていなかったな。マイハウスは三段階の部屋の広さがあるんだが、ハンターとしての実力が高ければ高いほどより広い部屋に住むことができるようになっている。一番下の階が『凄腕ハンター』と呼ばれている者たちが暮らしている場所だ」
そう言われて、建物をよく見れば上に行けば行くほど部屋の扉の間隔が狭くなっているのが分かる。それは、上に行けば行くほど部屋が狭くなっていることを示している。反面一番下の扉の間隔はかなり広く、どれだけのスペースを一人一人に割いているかを指し示していた。
「まぁお前の実力ならばすぐに一番下まで行くだろう。因みに凄腕ハンターが一番下の階にいる理由は、クエストに行く頻度が上位、下位のハンターに比べて多いからだ」
「はは……狩りに行きやすいようにってことですね」
教官の言葉に苦笑しているジークは、その言葉にとても聞き覚えがあった。なにせ自分がG級ハンターとしてタンジアで過ごしていた時、クエストに行く頻度が高いからという理由だけで一番下の階に住んでいたのだから。それと同じことをメゼポルタでは大勢のハンターが考えているのだろう。
「後は大衆酒場と交流酒場だが……これはまだ使う機会が無いかもしれんからいいか。必要になったらそこら辺のハンターに聞くといい」
「酒場ですか」
「簡単に言ってしまえば仲間内で集まる場所だな。そして、これでメゼポルタ広場の案内はほぼ終了だ」
喋りながら階段を上がり、ジークが住む予定である部屋の前までやってきた。教官がポケットから鍵を取り出して、三つをジークに渡した。
「三つともこの部屋の鍵だ。紛失しないようにと三つ与えられるが、それ以降は作るのに金がかかるからな」
「はは……」
「もし心配なら、部屋の中にいる給仕ネコに一つ預けておくといいだろう」
「給仕ネコ、ですか?」
苦笑しながら受け取った鍵を一つ一つ確認しているジークは、教官の口から出てきた給仕ネコという名前に首を傾げた。名前から察するに給仕をしてくれるアイルーのことなのだろうが。
「マイハウスで過ごしているハンター一人一人には必ず給仕ネコのアイルーが付くことになっている。そのハンターがマイハウスで過ごしている間はハンター専属として付いてくれる故に合鍵を渡すことが多い」
「成程」
まさか下位ハンターにまで専属給仕を付けてくれるとは思っていなかったジークとしては、かなりの好待遇に頷いた。ここまで待遇を厚くしても年々新規のハンターが減っていると言うのだから、このメゼポルタでの生活がどれだけ辛いものかを示していた。
「ジーク……今のメゼポルタは、はっきりと言ってしまえば衰退し始めていると言っていい」
「え?」
狩人たちが求める全てがあると思えるメゼポルタが、まさか衰退していると言われるとは全く思っていなかったジークは、教官の言葉に驚いていた。何処のギルドよりも優れた加工技術に、何処のギルドよりも高いハンターへの待遇に、ハンターならば誰もが求める膨大な名声。全てが揃っているこの地が衰退する理由が、ジークには理解できなかった。
「昨今新発見されるモンスターは、どれも普通のハンターでは手に負えないものが多い。それに比べて、実力が順調に育っているハンターは……お世辞にも多いとは言えないのだ」
猟団受付も、教官も、ギルドマスターですらもハンターたちを見て時々寂しそうな顔をしているのをジークは見ていた。そしてそれが、何かしらの要因――はっきりと言ってしまえば、人間関係から来るものだと薄々理解していた。
「いずれ知ることだろうが今、メゼポルタは二つに割れている」
「……二大、猟団」
「そうだ。このメゼポルタで最も大きい派閥を持つ二つの猟団が険悪になり、それが広場全体に広がりつつある」
人間関係によって崩壊しようとしている現状を、ジークは瞬間的に否定しようとして言葉に詰まった。
「理解しているだろうが、二大猟団の仲が険悪になった理由は……メゼポルタに回ってくる依頼の危険度が増したからだ」
教官の言葉を聞いて、ジークは自分の頭に過った考えが正しい物だったのだと理解した。単純に、力を持つ二つの猟団に依頼が集中することによってギルドの評価が割れ、それによって二つの猟団に不和が発生し、ハンター間の連携が上手くいかずに依頼効率が著しく低下している。
「猟団の名前は『アイギス』と『カリバーン』だ。それぞれ凄腕のハンターが猟団長をやっている」
「アイギスとカリバーン、ですか……」
「もしかしたら君も、そのどちらかに所属する必要性が出てくるかもしれない。今のメゼポルタは、二つの派閥に所属しなければ、余りにも生きにくい環境なのだ」
沈痛な面持ちでそう言う教官に、ジークは苦笑を一つ零した。
「大丈夫です。俺だって自分の身の振り方は考えていますから」
笑うジークを見て、教官は安堵の息を一つしてから笑みを浮かべた。
「では、私が研修として付いていくことができるのはここまでだな。無論、誘われれば幾度でも狩りについていくこともできるがな」
「引退してるんじゃなかったんですか?」
「ふっ……老人の道楽だと思ってくれ」
後ろを向いて歩き始めた教官は、手を挙げて道楽だと零してから去っていった。その背中にあるのは先程までの弱々しい年長者ではなく、歴戦のハンターが持つ風格が滲み出ているのを見て、ジークは本当に引退しているのかどうかを疑いながらも部屋に入った。
ジークがメゼポルタにやってきてから数週間の時間が経ち、それなりの初心者用装備としてククボという装備を全身に纏ったジークは、あるハンターたちに呼ばれて交流酒場にやってきていた。ハンターたちが仲間内だけで交流する為に使うことの多いこの交流酒場には、既に数名のハンターの姿があった。
「お久しぶりです。ネルバさん」
「おう……名前覚えてくれたのか」
「そりゃあキャラが濃いですから」
親方に作ってもらったイニティソードという銘の太刀を傍に立てかけて椅子に座ったジークは、正面に座っている男に挨拶をした。片手剣の盾を手に付けたまま手を挙げてジークに返事をしたネルバは、キャラが濃いという発言を聞いて苦笑しながらエールを口にした。
「それで、何か用ですか? 団員まで使って俺を呼び出して」
「まぁ単純なことだ。なぁ、スロア」
「用件だけで言えば単純だね」
ネルバの言葉に返事をしながら隣に座った男は、双剣を背負ったまま持ってきたつまみを口にした。昼間からエールを口にしているネルバの為に持ってきたのだろうその姿に、ジークは笑みを浮かべた。
「単刀直入に言うと、だな……俺の猟団に入らねえか?」
「ネルバさんの、ですか。まだできたばかりなんでしたっけ?」
「そうそう。僕とネルバと、後マルクとエルスって言う双子姉妹と立ち上げたんだけどね」
最初に会った時から勧誘の様なことを言われていたので、ジークはネルバに何を言われるのかは大体想像していた。単純に狩りに出掛けようと誘うのならば交流酒場に呼び出す必要性もなく、それこそマイハウスのポストに手紙を入れるだけでいいだろう。
「今、何人いるんですか?」
「今は十数人だな。後衛多めだけど」
十数人いるという言葉に、ジークは少しばかり感心していた。ネルバとスロアの装備を見ても、メゼポルタ管轄のモンスターが余り分からないジークには実力を図ることができないが、持っている武器の刃を見るだけでジークは相手の大体の実力を理解できる。
ジークが感心したのは、ネルバとスロアが上位の中でもまだ下の方の実力であろうことを理解していたからである。勿論、ジークよりも上に位置する実力ではあるが、それでも十人程度のメンバーを後から集めることができるのは、ネルバの人柄のお陰なのだろう。
「へぇ……では一番重要なことですけど……
「……まぁ、知ってるよな」
ジークが目を細めて口にした言葉にネルバはため息を吐き、スロアは肩を竦めて大袈裟な反応をしていた。猟団に勧誘された時は必ずこれを聞け、と猟団受付に聞かれていたが故に投げかけた言葉だったのだが、予想以上の反応にジークもメゼポルタの問題が根深い物であることを理解した。
「誰にも言うなよ? 俺たち『ロームルス』は……どちらにも所属していない」
「……は?」
一瞬、ジークはネルバが質問の内容を理解できていないのではないかと勘違いをした。彼が聞いたどちらの所属なのかという質問は、今メゼポルタを二つに割っている『アイギス』を親とした同盟である『プレアデス』か『カリバーン』を親とした同盟である『円卓』のどちらに所属しているのかと言うものである。
「俺たちは盾にも剣にも所属してない」
ネルバの言う盾と剣は『アイギス』と『カリバーン』の略称名みたいなものである。それぞれの団長が防御特化のランス使いと攻撃特化の大剣使いなことからつけられた名前である。
二大派閥どちらにも所属していないということは、このメゼポルタにおいては全てを敵に回しているようなものである。
「……革命を起こす」
「革命?」
「かっこよく言ってるけど、簡単に言えば二つの猟団を仲直りさせようってことだよ」
深刻そうな顔で革命だと口にするネルバに対して、スロアはあくまでもいつも通りの緩い顔のまま仲直りだと主張した。
「仲直りって……ダサい言い方するなよ」
「ダサくないでしょ。別に倒したい訳じゃないんだから」
「つまり『ロームルス』は第三勢力として『プレアデス』と『円卓』に割って入り、勢力の均衡を保つってことですか?」
「そういうことだね」
ジークの分かりやすい纏め方にスロアが頷き、均衡を保つという言葉がかっこいいと思ったネルバもまた満足そうに頷いていた。
「無理ですよ」
「まぁだよね」
「おいおい! やる前から弱気になるなよ!」
しかし、ジークとスロアはどちらかというと現実思考を持っているので、革命とやらを起こすことが『ロームルス』にはできないことを理解していた。ネルバはそれだけを信じて『ロームルス』を立ち上げているので、否定されてしまえば勢いよく立ち上がるのは当然だろう。
「だって相手は60の団員を持つ大猟団を親としている団員数180の同盟二つですよ? おまけにその同盟二つに付き従う形の同盟も数多く存在する訳ですし、実質的には片方の派閥でも1000を超えるんじゃないですか?」
「そうなんだよねぇ……普通に考えても自殺行為だし、僕たちみたいな小さな猟団じゃあギルドには見向きもされないから、影響力なんて夢のまた夢だよ」
「お前なぁ……だから今、人を集めて次の『狩人祭』に向けて頑張ってんだろ?」
「狩人祭?」
団員数十人弱程度の弱小猟団ではメゼポルタへと強大な影響を及ぼす猟団二つに喧嘩を売るとなると、スロアの言う通り自殺行為でしかない。しかし、ネルバはそれでも全く諦めるつもりも無く『狩人祭』に向けてコツコツと人員を集めている最中なのだと言う。
ジークはネルバの口から出てきた聞き慣れない単語に首を傾げていた。
「そっか、ジークは知らないよね。メゼポルタ広場では一年に一回『狩人祭』って言うお祭りが開かれるんだ」
「お祭りが、猟団に関係あるんですか?」
「めっちゃ大事」
普通に祭りだと聞いてしまえば今の二大猟団の話など全く関係もなさそうなことだが、実際はかなり重要な話である。
「いいかい? 今、大陸は全体が温暖期なんだ」
「温かいってことですか?」
「そういうこと。君がこのメゼポルタにやってきた少し前に、丁度狩人祭は終わったんだ」
それだけを聞くと、ジークは祭りの最中に来ればよかったと少しだけ後悔していた。誰だって祭りがやっている最中かやっていない時どちらに来たいかと言われれば、祭りがやっている時の方がいいと言うだろう。基本的に派手なことが好きなハンターは猶更である。
「そもそも狩人祭は繁殖期によって凶暴化、大発生するモンスターたちの数を調整する為に、メゼポルタのハンターが総出で狩りに出るんだ」
「あ、そうなんですね……メゼポルタのハンターがやっている数の調整って言うのは狩人祭のことだったのか……」
「そうそう。そして、その期間中にどれだけ依頼を消化できたかをハンターたちに競わせることで、依頼効率を上げる目的で始められたのが狩人祭なんだ」
メゼポルタのハンターたちが総出で富と名誉を得る為に、数多くのモンスターを狩って自然を調整する。ドンドルマやタンジアで活動している普通のハンターたちからすれば途方もないことである。
「問題は、ハンターを個々人で管理することができない程、ギルドも忙しくなることだ」
「そりゃあ……そうですよね。大発生するってことはそれだけ受付の人も忙しくなる訳ですから」
どれだけ有能な受付が二、三人いたとしても、数万と依頼が舞い込んでしまっては全てをさばき切ることなど不可能である。
「そこで考えられたのが、ハンターを個人ではなく猟団単位で参加させようとすること。猟団内のハンターたちは自分で数を集計して、猟団長に報告、そこから猟団長が団員全員分の数を集計してギルドに渡す。これが今の狩人祭の姿なんだ」
「成程……理にかなってますね」
「だろう?」
そうなってくれば先程までの二大猟団の不和がメゼポルタに与える影響も、ネルバとスロアの言っていたどちらにも所属せずに均衡を保つという言葉の意味も理解できる。だが、それだけでは納得できないことも出てくる。
「それなら、二つの猟団が強いですねで終わりじゃないですか? いくら強いハンターが60人いる猟団が二つあっても全体の不和には繋がらないんじゃ……」
そもそもハンターというのはどうしても我の強い者が多い。そもそもこの圧倒的な大自然の中鍛えられた武器と防具を持っているとはいえ、我が身一つで強大なモンスターに挑もうと言うのだからそれ程の個性がなければハンターとしてはやっていけないだろう。
「そこが問題なんだ」
そんなジークの真っ当な疑問にいち早く頷いたのがネルバだった。
「個人を管理することができないから猟団単位にした。だがこのメゼポルタに猟団は幾つある? お前がさっき言ったが、メゼポルタでハンターをやっている奴はかなりの数いる。勿論実力で見れば凄腕クラスのハンターはそんな多くねぇ。だがな、俺たちでも猟団は作れる」
「……猟団の数が増えて、近年は猟団単位でも管理しきれなくなった、ですか?」
「そういうことだ」
ネルバの肯定を受けてジークは天を仰いだ。ネルバとスロアがこれから何を説明してくれるのかを全て理解してしまったからだ。
「お前が想像した通り、狩人祭は「蒼竜組」と「紅竜組」の二つに猟団を分けて競わせるようになった」
「奇しくも、ギルドがメゼポルタを分断したということだね」
「……根深そうですね」
そこから先は二人に言われなくとも、ジークは容易に想像できた。
当時上位二つの猟団だった『アイギス』と『カリバーン』の影響力を考慮して必ず二つの猟団を紅竜と蒼竜で分けることにした結果、その二つの溝がどんどんと深くなっていったうえに、どちらかにつけば狩人祭に勝利してギルドからの報酬が貰えると下位の猟団がそれぞれの猟団に追従するようになって、いつしか狩人祭は『アイギス』傘下と『カリバーン』傘下の猟団による戦争状態にまで発展した。
「でも、それだとどちらかだけを打ち倒す話になりません?」
「そうだけどな? 二大猟団以外の巨大猟団が現れたとなればギルドもアイツらも無視できないだろ」
「要は二大勢力図を三大勢力図に変えて、あわよくば色んな猟団で入り乱れるメゼポルタにしようっていうこと」
狩人祭は必ず二つにしか分かれない特性上、三つ目の巨大な猟団ができれば勢力図を混沌とすることができるだろう。そうなってくればどちらかにつかなければやっていけなかったという下位の猟団たちも独自の道を歩き始める可能性は十二分にあった。
「そう言う訳だから、俺らは絶賛人集め中。今は繁殖期終わりの温暖期だから、猶予はもう一年もないんだがな」
「温暖期に動きたいのは分かるんですけど、寒冷期はどうなるんですか? 狩人祭目当てのハンターたちもいるでしょう?」
「それがねぇ……寒冷期はメゼポルタの人口が減るんだよ。だから温暖期が一番人を集めやすいの」
寒冷期にメゼポルタから人が減ると聞いて、ジークは首を傾げた。温暖期は日差しが強くなって原則としてセクメーア砂漠に立ち入ることが禁止になり、寒冷期は逆に猛吹雪によってフラヒヤ山脈付近への立ち入りが禁止となる。しかし、フォンロン地方に位置するメゼポルタ広場には季節は依頼以外では殆ど関係のない話であると思っていた。
「寒冷期は古龍種が活発に動き始める季節なんだ。だから下の方のハンターはどうしても数が少なくなっちゃってね」
「古龍種ですか」
ジークはかつて遭遇した古龍種を思い出して少しだけ苦い顔をした。二つ名の通り煉獄より現れたのかと思う程の熱量と禍々しさ、圧倒的なまでの破壊力で瞬く間に幾つかの港を破壊して周辺海域を荒らしていた。タンジアでは異例の大人数による撃退作戦が実行され、その最前線で武器を振るって立ち向かった記憶。あれ程の巨体を持つ古龍も少なくはない。となれば誰だって寒冷期に不用意に狩りに出掛けたいとは思わないだろう。
「だから一番安全な温暖期を、ですか」
「そうそう。まぁ、テオ・テスカトルみたいな古龍種はこの温暖期が一番活発になるけど」
「後、リオレウスの気性が荒くなるな。若い奴の番探しの時期だし」
「……大変ですね」
「ハンターだからね」
結局どの季節も何かしらのモンスターが頻出するのがこの大陸の特徴である。世界の人間はモンスターを脅威とみなし、自然との調和を保つ形でハンターたちはモンスターを狩る。
「それで、入ってくれるか?」
「……やめておきます」
「それは……どうして?」
まさか新人に断られるとは思っていなかったネルバとスロアは、少し驚いた表情をしてから理由を聞いた。ここで仮にジークが、既に剣か盾の猟団に勧誘されていたりすると、それはとても面倒くさいことになる。
「相手はメゼポルタを代表とする二つの猟団を中心とした大同盟『プレアデス』と『円卓』ですよ?」
「……保守的な奴にはよく言われるよ」
誰がどう見ても分の悪い賭けにしか見えないこの勧誘に乗ってくるのは、かなりの変人か余程博打好きでないと無理だろう。新人ハンターならば猶更である。この話を聞いて余計に入りたくないと言われたことも、ネルバとスロアは今までに何度も経験していた。
「だからです。そもそも『ロームルス』みたいな一つの猟団じゃ勝てないんですよ」
「耳が痛いよ」
「だから……俺は自分で新しい猟団を作ります」
「は?」
勝てないと断言されてしまって、苦笑しているスロアは続くジークの言葉に呆けていた。
「俺の作る猟団がそれなりの大きさになったら、同盟を組みましょう」
「それって……」
「一つの猟団で勝てないなら、俺らも一つの同盟を作りましょう」
「ジークっ! お前って奴は!」
不敵に笑みを浮かべるジークに、ネルバは感極まって勢いよく飛びついた。いきなり大柄の男が飛びついてきたことで反射的にそのハグを避けたジークは、目の前で手を差し出しているスロアと握手をした。
「ありがとう。これらも狩り仲間として、同じ目標を持つ者としてよろしく頼むよ」
「はい!」
「避けることねぇだろ」
「いえ、痛そうだったので」
ネルバが頭を抑えながら立ち上がる姿を見て、ジークは苦笑していた。ジークの言葉に違いないと言って笑っているスロアを見て、二人も笑みを浮かべてから小さな宴会へと発展していった。
「と、言う訳で猟団を作りたいんですよ」
「ふむ……同盟を結ぶから、か。猟団受付をギルドから任されている以上ハンターたちには公平に接したいが、個人的には君たちを応援させてもらうよ」
「ありがとうございます」
後日、猟団受付の元を訪れたジークは、粗方の経緯を説明して猟団を設立できないかを相談した。今の険悪な雰囲気になっているメゼポルタをなんとかしたいと言うジークに、賛成だと微笑む男にジークは猟団への愛を感じていた。
「全面的に賛成だし、君の実力を疑う訳ではないが……」
「猟団を作るのに必要な人数とか、ですか?」
「うむ。猟団は一人からでも作れるんだが……一ヶ月間誰も入団しなければ強制的に解散になってしまうんだ」
「そうなんですか……」
ネルバたち『ロームルス』は初期から四人のメンバーが存在するのでそんな話はしていなかったが、ジークは身一つでタンジアから渡ってきたばかりである。当然、猟団に入ってくれそうな人の心当たりなど全く無い。
「一応作ってから人を勧誘するって方法もあるが、君はまだ下位ハンターだしね」
「人が集まりにくいですよね」
当然、猟団長が強ければ強い程人は集まりやすい。それだけギルドから猟団への支援も多くなるのだから当然である。
「とりあえず、当面は依頼をこなして実力を付けながら、交友関係を広げるといい」
「分かりました。相談に乗ってくださってありがとうございます」
「なに、将来猟団長になる男の相談なら幾らでもいいさ」
常に猟団のことを話す男に苦笑しながら、ジークは広場へと坂道を降りていった。
ジークは現在新人ハンターであり、誰も見向きもしない程の実力しかない。ハンターIDを交換した相手も、ネルバとスロアだけである。時間が空いたら一緒に狩りに行こうと言われたが、上位ハンターである二人と狩りに行くには少しばかり実力が足りないだろう。
「と、なると本当に依頼を地道にこなしていくしかないか」
まだまだこのメゼポルタに来てから数週間しか経っていないジークは、まだ見ぬモンスターたちにも出会っていない。
一人で考え事をしながら受付までやってきたジークは、何か適当な依頼を受けようと考えていた。
「こんにちはユニスさん」
「ジーク、今日も一人ね」
「傷つくこと言わないでくださいよ」
不愛想に見える程の無表情のまま喋るユニスだが、ジークは既に見慣れてしまった。他の新人ハンターよりもクエストに行く頻度が高いジークは、既にユニスから顔と名前を覚えられていた。
「今日は何にする?」
「いつも通り近隣の採取でもいいだけどなぁ……『樹海の眠鳥』って大型モンスターですか?」
「眠鳥ヒプノック。睡眠ガスを口から吐く鳥竜種」
昨日まではなかった、メゼポルタ近隣のバトュバトム樹海にいるモンスターをターゲットとしたクエストを見て、その名前に首を傾げた。眠鳥ヒプノック、と聞いたことの無い名前にジークは少しだけ高揚感を覚えていた。自分があったことも無いモンスターと戦えるというのは、ジークにとって恐怖することにはならなかった。
「イャンクックっと同じ鳥竜種か……これにしようかな」
大型の鳥竜種と言われても、ジークはタンジア周辺にいたクルペッコとイャンクックぐらいしか出会ったことが無い。基本的に中型が多い鳥竜種の大型は、どのモンスターも特徴的な進化を遂げている。
「じゃあバトュバトム樹海の眠鳥ヒプノックの狩猟。契約金は400z」
「大丈夫です」
依頼の詳細を見せられて、ジークは契約内容を確認してサインをする。
「人は集める?」
「集まりますかね……」
「どうかしら。今は温暖期の初めで新人も多い」
「確かに」
依頼書を掲示板に貼ってしまえば、その掲示板に貼られた契約書にサインして四人まで参加することができるのは、どこのギルドでも同じである。
「でも、貼らなくていいですかね」
「そう? でも一人参加してくれそう」
「え?」
「あ、あの」
さっさと行ってさっさと帰ってこようと思っていたジークは、ユニスの言葉に反応して後ろを振り返ると、少し前の自分と同じルーキー装備に大剣背負ったハンターが立っていた。ジークよりも少し下の身長、少しだけ幼さを残す顔つきは、ジークにハンターなり立てだった自分を思い出させた。
「ヒプノックに行くんですよね?」
「そのつもりだな」
「同行してもよろしいですか?」
「勿論、全然いいよ」
「わぁ……ありがとうございます!」
初心者だからなのか少し遠慮がちに言う新人ハンターに、ジークは早速交友関係を広げるチャンスだと考えていた。それも自分と同じ初心者となれば、まだまだどこの猟団にも属していないだろう。狩りで性格を見て気の合う奴だったら勧誘しようと考えてジークは笑った。
「俺はジーク。よろしくな」
「僕はウィルと言います! よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げるウィルに、ジークは薄く微笑んでいた。
シーズン10を想定しているので本来、交流酒場はまだ存在しないのですがそこら辺は許してください
次話は当然ヒプノックです。