狩人の頂   作:ばるむんく

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狩人祭④(フェス) 黒角竜(ディアブロス亜種)

 アクラ・ヴァシム変種の特異個体を狩猟したジークたちはセクメーア砂漠からドンドルマまで戻り、ドンドルマに開かれていた狩人祭中のみのメゼポルタギルドドンドルマ出張所でクエストをもう一つ受けた。狩人祭中ということもあり、メゼポルタの凄腕ハンターたちが多くドンドルマを歩いている光景に、ドンドルマのハンターたちも何事なのだろうかと気にしていたが、メゼポルタの詳細を知る者など多くはないので大した騒ぎにはなっていなかった。

 

「それにしても、このクエストはどうなんですか?」

「いいだろ? 砂漠の死神の討伐依頼はかなりいいぞ」

 

 ジークたちが受けたクエストはディアブロス亜種の討伐依頼だった。繁殖期ならばドンドルマでも普通に出回ってそうなクエストだが、ジークたちが受けたクエストは単純なディアブロス亜種の討伐依頼ではなかった。

 

「ドンドルマの上位ハンターがディアブロス亜種の討伐に失敗、ですか……」

「全くあり得ない訳じゃないだろうが、考えにくい話ではあるな」

 

 現在はドンドルマを中心にハンター稼業で生活する者が多い時代であり、ドンドルマのハンターは百万を優に超える程のハンターが在籍しているとすらも言われている。そんなハンターたちの多くは、生涯を下位ハンターで終える者の方が圧倒的に多い。命を落としたりするのではなく、単純に上位ハンターに昇格するのがとても難しいと世間での共通認識なのだ。ドンドルマでは、上位ハンターに昇格できた時点で名前の売れる実力派ハンターとして数えられる。

 ディアブロス亜種は繁殖期に甲殻が黒く変色した雌のディアブロスであり、生物学的には亜種ではないのだが、あまりにも危険度が高いことから便宜上亜種とすることで通常のディアブロスと分けているのだ。ディアブロス亜種は確かに危険なモンスターではあるが、上位ハンターが見誤って討伐に失敗して大怪我を負って帰ってきたという話に、ジークは違和感を覚えていた。

 

「取り敢えず、その討伐に失敗したっていうハンターの話を聞きに行くか」

「そうですね」

 

 ジークたちがアクラ・ヴァシムを狩猟していた頃とほぼ同じ時に失敗された依頼らしく、討伐に失敗したディアブロス亜種がどのような個体なのかの調査もまだ済んでいないらしく、依頼書には大きく詳細不明のスタンプが押されていた。ドンドルマに出張所を立てていることもあり、大老殿から横に流れてきた依頼らしく報酬の「魂」を通常よりも多く設定されていた。

 ダルクを伴って広場を歩いていたジークは、雑貨屋の前で雑談しているフルトとヴィネアに手を振った。

 

「よさそうな依頼あった?」

「狩人祭としてはとてもよさげな依頼ですよ。普段だったら絶対受けませんけど」

 

 ヴィネアの言葉に苦笑いを浮かべながら依頼書を手渡したジークは、雑貨屋に売られている音爆弾を見て金を取り出した。

 ヴィネアと共に横から依頼書を見ていたフルトは、詳細不明のスタンプを見て顔を青褪めさせていた。本来ならばハンターとしては下の下である詳細不明の危険な依頼なのだが、ヴィネアは報酬の「魂」の数を見て、ジークが受けた理由に頷いた。

 

「それで?」

「今からその失敗したハンターの人に話を聞きにいこうかと」

「そっか。じゃあ行こう」

「反対しないんですかぁッ!?」

 

 特になにか言う訳でもなく簡単に依頼を受けいれたヴィネアに、フルトが悲痛な声をあげていた。ダルクは苦笑しながらもジークが言うのならば、と全く話にならず、ヴィネアは報酬がいいのだから受けるに決まっているだろうと言わんばかりの顔をしていた。

 

「まぁ、アクラ・ヴァシムの変種特異個体だって狩れたんですから大丈夫ですよ」

「……不安しかない」

 

 絶望の表情を浮かべるフルトに明るく笑いながら告げるジークの方が、フルトにはディアブロス亜種よりもよっぽど死神に見えていた。

 

 


 

 

「確かに、俺がその依頼に失敗したハンターだ」

「そうですか。俺たちが調査と討伐を受けまして……少しでも情報があればいいなと」

 

 ドンドルマの病院で身体のあちこちに包帯を巻きながら、ベッドで横なっている強面のハンターに話を聞きに来ていた。ベッドの横には頭に包帯を巻きながらも入院している訳でもなさそうな女性のハンターが果物の皮を剥いていた。

 

「あの黒角竜(こっかくりゅう)に? 止めておきな……俺みたいになるぜ?」

 

 強面で渋い声をしているが、言葉からはジークたちを気づかうような優しいニュアンスを含ませるハンターに、ジークは笑顔のまま首を横に振った。

 

「ちょっと用事があって、このクエストを受けなきゃいけないんですよ」

「用事で受ける? 懲罰か?」

「違うわよ。貴方たちは多分、メゼポルタのハンターよね?」

「そうですね」

 

 無言で果物を剥いていた女性が呆れた様な声を上げた。入院している男のハンターは、女性の言葉に目を見開いてジークの身体を頭から足まで見つめた。ドンドルマで上位ハンターを名乗っているようなハンターでも、メゼポルタのハンターを見たことが無い、もしくは見ていても気づかなかったことも多いだろう。それでも、ドンドルマのハンターとしてメゼポルタの名前とそこに所属するハンターたちの腕前を知っているからこそ、女性の言葉を疑った。どう見ても自分より年下の男がメゼポルタのハンターだと言われてもしっくりと来ないのだろう。

 

「お前が?」

「どう見てもそうじゃない。武器も防具も見たことない素材だもの……貴方、メゼポルタの前は何処で?」

「海の向こうのタンジアでG級ハンターやってましたね」

「ほらね?」

「G級ハンター……か」

 

 男も元G級ハンターと名乗られれば話さない訳はなかった。多くのハンターが生涯下位ハンターで終わる世で、上位ハンターの更に上であるG級ハンターを名乗る者の影響力は凄まじいのだ。

 

「……ディアブロス亜種のクエストがあるって聞いたから、俺は砂漠なら近いからいいかと思って受けたんだ。そしたらあのディアブロス亜種と遭遇した。見た目が違うだけと割り切りながらも、やっぱりハンターの生存本能って言えばいいか……逃げなきゃやばいって頭の中で思いながら戦ってた」

 

 遭遇したディアブロス亜種のことを思い出しながら喋る男の手は震えていた。自信過剰な性格には見えない男だが、上位ハンターとしてのプライドはやはり存在したのだろう。狩猟依頼が失敗することはG級ハンターでもあることで、ハンターとしてなんら恥じることのないことだが、モンスターを前にして恐怖心に駆られてしまったことが彼のプライドを大きく傷つけていた。

 

「見た目の違いなんかはありましたか?」

「見た目……左の角が歪に大きくなってた。目が水色で……全体的に普通のディアブロス亜種より黒かった」

「黒い……」

「翼膜が灰色で、全体的に禍々しい感じだった。見た時にやばいと思ったんだが……背を向けられなかった。背を向けたら、殺されそうな気がして」

 

 その見た目と危険性から「死神」とまで称されるディアブロス亜種だが、男の遭遇したディアブロス亜種は見ただけで人を恐怖に陥れるほどの強さを持つらしいことがわかる。

 男の話を聞いたジークがちらりとヴィネアの方へと視線を向けると、小さくため息を吐きながら頷いた。

 

「ありがとうございます」

「だ、大丈夫なのか? 俺は見た目の話しかしてないが……G級ハンターとはいえ、あれと戦うのはまずいんじゃ……」

「問題ないですよ。そのために俺たちがいるんですから」

 

 自分の味わった痛みと恐怖を思い出した男は、自分よりもかなり若いであろうジークのことを本気で心配していた。上位ハンターとしての自負もあるだろう男が、完全に遭遇したディアブロス亜種をのことを恐れている。そのことにフルトが唾を飲み込んでいた。

 

「俺が出会ったのは……本物の死神なのか?」

「いえ、ディアブロス亜種ですよ」

「ならなんであんなに見た目が違うんだ……あれは、人が挑んでいいものなのか?」

 

 古龍種などに遭遇したハンターが、すぐにハンター生活から抜け出したくなると言う話をジークは聞いたことがあった。自然の猛威をそのままモンスターの形にしたような強力な古龍たちを前にして、人が戦っていいモンスターではないと感じてハンター生活を終える者たちである。男は今回のディアブロス亜種でそれを感じていた。このまま心が折れてしまってハンターを辞めるのか、それとも恐怖を乗り越えてハンターとして一皮むけるのか。彼はまさしくその境目にいた。

 

「貴方が遭遇したディアブロス亜種は、恐らく奇種特異個体でしょう」

「奇種? 特異個体? それってなにかしら……もしかしてメゼポルタでしか狩れないモンスター?」

 

 ジークの言葉に反応したのは傍にいた女性だった。私服姿の上からでもわかる鍛え抜かれた身体を見て、彼女がハンターであろうことに気が付いていたジークは、彼女の疑問の声に頷いた。

 

「詳しい説明は長くなるので言いませんが、奇種は上位個体よりも更に強い個体、特異個体は通常個体とは違う行動、違う習性、違う見た目をしている強力なモンスターのことです」

「へぇ……じゃあ下位の特異個体もいるんだ」

「いますけど、メゼポルタのハンターじゃないと狩猟の許可がでないですよ」

「そうなのね……やっぱりメゼポルタって面白そうだわ」

 

 女性の面白そうとの言葉に苦笑いを浮かべたジークは、男に向き合った。ディアブロス亜種相手に恐怖を感じ、背を向けることもまともに抗うこともできずに敗北した男は、沈んだ様子を見せていたが、ジークは笑みを浮かべていた。

 

「貴方の腕が足りないから失敗した訳ではありません。奇種特異個体は相応の装備がなければすぐにやられてしまうものなんです。だから安心してください」

「……そうか」

 

 ジークの言葉が気休めでしかないことは男も知っていた。彼は自分の力だけで上位ハンターにのし上がった実力派ハンターであるため、どうしても実力の差がはっきりと感じ取れてしまった。目の前にいる四人のハンター全員が自分よりも上であることを。

 

「……あんた、名前は?」

「俺ですか? ジークと言います……メゼポルタギルドの凄腕ハンターで、『ニーベルング』という猟団の猟団長をしています」

「そうか……俺はシーザー」

「私はアカナ。一応シーザーの妻よ」

 

 シーザーと名乗った男はジークが猟団長をやっていると聞いて、夫婦二人でしかハンターをしてこなかった自分の世界の狭さを感じて苦笑していた。同時に、シーザーは自分よりも年下でありながら実力はかなりの差があるであろう男が仕切る猟団が存在すると言うメゼポルタに、興味が湧いてきていた。

 

 


 

 

「奇種特異個体か……ギルドもしっかり把握してくれないと困るんだけどな」

「何事も完璧にはならない」

「そりゃあそうですけどね……」

 

 ジークはディアブロス亜種の情報を聞きだしたシーザーのことを少し気に入っていた。そっけないように見えてジークたちのことを本気で心配していた彼は、ハンターとしても珍しく優しい性格なのだろう。アカナと名乗っていたシーザーの相棒兼妻の彼女の尻に敷かれていそうなのも、ジークには面白そうに見えていた。

 

「それで、ディアブロス亜種はいつ狩りに行くの?」

「流石に奇種特異個体ともなれば準備も必要でしょうから……今夜ですね」

「矛盾してないですかッ!?」

 

 ヴィネアの言葉に少し考え込んだジークが出した答えに、背後にいたフルトが悲痛な声を上げていた。ジークとしては、そもそもアクラ・ヴァシムを狩りに来た装備でディアブロス亜種も行けると思い、ドンドルマならば物資も簡単に手に入ると考えていた。逆にフルトは、ジークの準備が必要だという言葉が一日くらいの時間が必要だと解釈していた。

 

「あんまり時間かけても意味ないですよ」

「私もそう思いますよ? フルトさん、諦めましょう!」

「ひぇ……」

 

 ジーク信奉者であるダルクは最初から反対する気などなく、ヴィネアはアクラ・ヴァシムならまだしもディアブロス亜種にそこまで大がかりな準備が必要無いことに賛同していた。周囲に味方がいないことを察したフルトは少し項垂れながらも、多数決を考えて頷いた。

 

「そんな無茶な行軍はしないので安心してくださいよ、フルトさん」

「うぅ……信じるからね?」

「勿論ですよ!」

 


 

 

「…………無茶な行軍だと思うんだけど」

「そうですか?」

「アクラ・ヴァシムに比べたらマシとか思ってない?」

「思ってますよ」

 

 ディアブロス亜種の対策をしっかりとした状態で、砂漠を横断することを考えてジークはドンドルマで砂塵を防ぎながら防寒対策にもなるマントを四つ購入していた。アクラ・ヴァシムの時と比べて無茶な行軍をしていないと言うジークに、フルトは大きなため息を吐いた。

 

「これもメゼポルタの未来のため、ですよ」

「それはそうなんだけど……」

 

 笑顔のまま言うダルクにフルトは曖昧に頷いた。『ロームルス』に所属しているフルトは、猟団長である

ネルバから革命の意思を聞いている。フルトも二大猟団によるメゼポルタの統治体制には思う所があるので『ロームルス』に所属しているのは確かだが、まさか凄腕ハンターになっただけで狩人祭がこんな大変なことになるとは思っていなかった。

 

「凄腕ハンターも狩人祭中は上位個体が多いって聞いたのに……」

「あぁ……それ、俺が言ってたな」

「そうだよね!? ジーク君がそうやって言ってたのに……アクラ・ヴァシムは変種だし、ディアブロス亜種は奇種だし、しかもどっちも特異個体だよ?」

 

 ジークも言っていた通り、凄腕ハンターだろうが狩人祭中は上位個体のモンスターを多く狩猟することになる。そもそも狩人祭は繁殖期に大量発生するモンスターの数を調整するために行われる催しであり、変種やら奇種やら剛種なんかはそう簡単に現れることがないので、そこまで多く狩ることにはならないのだ。そのはずなのにジークたちが変種と奇種を連続して狩猟している理由は、単純に運が悪いからとしか言いようがない。

 

「アクラ・ヴァシム変種特異個体は私が提案したんですけど……」

「狩人祭の貢献度的には丁度いい感じの依頼だったしな」

「……ディアブロス亜種もそうなんだよね」

「まぁ……緊急の依頼だって聞いたから、メゼポルタの職員に聞いたら普通より「魂」多めにしてくれるって言うから」

 

 狩人祭では上位個体を多く討伐することには間違いないが、狩人祭の優劣を決めるのはモンスターを一頭でも多く倒したかではなく、ギルドが判断して渡す「魂」を多く集めた方が勝つのだ。緊急性の高い依頼や危険度が高い依頼にはボーナスとして「魂」を多くつけられるので、メゼポルタの上位を狙う猟団は例外なく変種や奇種を狩る必要性が出てくるのだ。

 

「ん。この洞窟の向こう側に多分いる」

「ガノトトスがいた水辺の近くですか」

 

 先頭を歩いていたヴィネアが大きな洞窟の入り口を指差していた。そこは以前、ジークがキャラバンクエストでガノトトスを狩猟しに来た地底湖へと繋がる洞窟であり、反対側にはガノトトスが生息していた大きな川が存在する。

 

「ディアブロス亜種との戦闘経験は?」

「な、ないです」

「一応あります……」

「俺もありますね」

 

 洞窟へと踏み込んだヴィネアは、これから討伐するディアブロス亜種のことを思い浮かべながら背後の三人にディアブロス亜種との戦闘経験を聞いた。ダルクはディアブロス亜種と交戦したことは無かったが、フルトとジークはディアブロス亜種と戦ったことがある。

 

「まぁ当然ですけど奇種特異個体なんて戦ったことないですけど」

「当たり前。私も奇種は()ったことあるけど、特異個体なんてそうそうお目にかかれないから」

 

 ヴィネアの口からなんだか物騒な言葉が聞こえた気がしたが、三人は適当に聞き流していた。

 

「さて、ちゃんといるかな……いたな」

 

 洞窟を抜けた先に、ディアブロス奇種は確かにいた。通常のディアブロス亜種よりも身体も大きく、シーザーの証言通り片角が歪に成長し、尻尾や翼の突起が大きくなっている。漆黒如き身体の中に灰色の翼膜も美しく映えていたが、逆にそれはディアブロス奇種の歪さを際立たせている。

 

「じゃあやるけど……死なないでくださいよ?」

「誰に言ってるの」

「僕ですよね!」

「フルトはあんまり心配してない」

 

 戦いの邪魔になる外套を脱ぎ捨てた四人は、自分の武器を掲げた。フルトが狩猟笛の美しい音色を鳴らした瞬間に、ディアブロス奇種の視線がハンターたちの方へと向いた。元々縄張り意識の高いディアブロスの中でも、ディアブロス亜種は産卵期を控えていることもあって更に縄張り意識が高く凶暴になっている。自身の縄張りにいつの間にか侵入していたハンターを視認して、ディアブロス奇種は咆哮を夜の砂漠に轟かせる。

 

「いくぞ!」

 

 咆哮を皮切りにジーク、ヴィネア、ダルクが走り出した。ディアブロスとの戦いにおいて基本中の基本とも言われるのが、相手に肉薄することである。少しでも離れて逃げの姿勢を見せれば、ディアブロスは地の果てまでも突進しながら追いかけてくる。突進の威力も人間が真正面から受けていいものではないため、ディアブロスにはなるべく突進する回数を減らさせるために、狩猟中は誰かが張り付いて攻撃する必要があるのだ。

 ディアブロスとの戦いの基本である接近戦を仕掛けようとしたジークたちに対して、ディアブロス奇種は定石を嘲笑うかのように前触れもなく突進を始めた。

 

「くっ!?」

 

 なんとか直線状から退避した三人がディアブロス奇種の方へと視線を向けると、既に突進の前動作に入っていた。連続の往復突進を仕掛けてくるディアブロス奇種の運動能力に内心で舌打ちしながら、ジークは懐から閃光玉を取り出して投げた。ジークが閃光玉を投げた瞬間に全員が目を背けていたことで、閃光玉によって目を焼かれたのはディアブロス奇種だけだった。

 

「出鼻はちょっとくじかれたが、行くぞ!」

「はい!」

 

 視界を塞がれたディアブロス奇種に急接近した四人は、全身に攻撃を加えていた。ヴィネアはハンマーを頭に向かって叩き込み、ジークは尻尾に大剣を振り下ろす。ダルクは双剣で足を斬りつけ、フルトが腹に狩猟笛を叩きつける。目を焼かれた状態のままハンターに全身を攻撃されたディアブロス奇種は、通常のディアブロスとか桁違いの早さで閃光玉の光に適応して視界を取り戻し、怒りを滲ませていた。

 

「まずい、もう閃光切れた」

「早すぎじゃないですかッ!?」

 

 頭を狙っていたヴィネアがディアブロス奇種の行動にいち早く気が付き、近くにいたフルトに伝えた。もう一度だけ頭を狙ってハンマーを振り下ろそうとしたヴィネアは、肥大化した角で軽々とハンマーを受け止められたことで、先日狩ったばかりのアクラ・ヴァシム変種特異個体と大して変わらないほどの強さなのを察した。

 ハンターに縄張りを侵され、視界を潰された上で全身を殴られた事でディアブロス奇種の怒りは頂点まで到達しており、口から大きな咆哮をあげた。

 

「うわっ!?」

「ぐっ!?」

 

 轟竜(ごうりゅう)ティガレックスの咆哮のように、咆哮の音圧と風圧だけで四人のハンターを吹き飛ばしたディアブロス奇種は、角を狙って攻撃していたヴィネアに狙いを定めて角を振るった。咄嗟に身体能力にものを言わせたバク転で角を回避したヴィネアは、自分が立っていた地面に角でつけられた溝に視線を向けながら、ハンマーをしっかりと構えた。

 

「こいつ、手強い……フルトは下がって」

「ぼ、僕だって行けますよ!」

「違う。こいつは今、私しか見てない」

 

 フルトのことなど全く視界に入れず、角を攻撃していたヴィネアだけに殺意を向けるディアブロス奇種の姿に、フルトは唾を飲み込んだ。自分に向けられていないとわかっているのに、放たれる殺気だけで自分が嬲り殺しにされるのではないかと錯覚するほどの怒りと殺気。ディアブロスという種族にとってそれだけ角というものは大事な物なのだ。

 

「ダルク、次にディアブロスがヴィネアさんに攻撃したら背後から近寄って足を斬れ」

「……いいですけど、効きますかね?」

「後々に響いてくる。今は我慢の時だな」

 

 狩猟開始早々に我慢の時なのはどうかと思いながらも、ジークは目の前のディアブロス奇種が、自分の知るディアブロス亜種を遥かに超越した存在であることを感じ取っていた。ティガレックスのように咆哮だけでハンターを攻撃するモンスターなど、ジークは見たことも聞いたこともない。だからこそ、ジークはこの大陸に来てティガレックスのことを知り、その攻撃方法に苦笑いを浮かべたことがあるのだが、目の前のディアブロス奇種はそれと同じことを平然と行った。メゼポルタの非常識なところをまた一つ見つけてしまったジークは苦笑を浮かべながらも、内心楽しくて仕方がなかった。

 

「……速い」

 

 ハンマーを構えて反撃の機会を窺っていたヴィネアだが、特異個体ディアブロス奇種の動きはヴィネアの予想するよりも速く、突進の構えを見せてからヴィネアの元に辿り着くまでにまともに反撃する様な隙間はなかった。仕方がなく横に突進を避けたヴィネアが振り向いた時には、既にディアブロス奇種は身体の半分を地面に潜らせていた。

 

「後ろっ!」

「わかってる」

 

 ディアブロス奇種が砂中を高速で移動してヴィネアの背後を取ったことを叫んだジークに、ヴィネアはすぐに前に転がって背後へと視線を向ける。同時にディアブロス奇種が砂の中から勢いよく飛び出してヴィネアに角を向けるが、ヴィネアはそれをハンマーで迎え撃った。

 

「ヴィネアさんっ!?」

 

 ディアブロス奇種の速さも計算に入れてハンマーを完璧に角に当てるように振るったヴィネアだが、ディアブロス奇種はハンマーを打ち付けられてもびくともせず、逆にヴィネアを勢いのまま吹き飛ばした。ハンマーを手放しながら吹き飛んでいくヴィネアに、ダルクが名前を呼びながら走っていき、ジークはディアブロス奇種へと走り出した。ジークが走り出したのを見てからフルトも走り出し、ディアブロス奇種の尻尾の先へと向かって狩猟笛を振るうが、ディアブロスの尻尾は岩をも砕くハンマーの役割をしているため、狩猟笛は容易く弾かれた。

 

「はぁッ!」

 

 翼膜に向かって大剣を振るうが、ディアブロス奇種は身体をねじることで攻撃を避けてジークに向かって角を突き刺そうと頭を振った。咄嗟に大剣で角を受け止めたジークだが、その見た目からは考えられない怪力を持っているヴィネアですら止められなかった角を、ジークが簡単に受け止められる訳もなく、角を当てられた勢いだけで、後ろに滑るように押し戻されていた。

 

「くそッ!」

「だ、大丈夫ですかジークくん!?」

「押し戻されただけですから、問題はないんですが……どうしましょうかね、こいつ」

 

 怒りを表すように尻尾を地面に叩きつけながらジークとフルトを威嚇するディアブロス奇種に、ジークは苦笑いだった。パーティーの最大火力にして最前線で戦っていたヴィネアを簡単に吹き飛ばす力に、ジークでもギリギリ反応できるかどうか行動速度を持ち、それでいて産卵期のディアブロス特有の執念深さと気性の荒さを兼ね備えている凶暴なモンスター。ジークは内心で、上位ハンターがなにもできずに返り討ちにされて恐怖を味わった気持ちを理解して、少しだけシーザーを侮ってしまったことを心の中で謝っていた。

 

「さぁ、来ますよ!」

「う、うぅ……どうするのこんな怪物ぅ」

 

 威嚇で小さな咆哮を口から出しながら、足で砂を蹴って突進の前動作を見せるディアブロス奇種を相手に、ジークとフルトは武器を構えた。

 

「ヴィネアさん! しっかりしてください!」

「ん……意識はある」

「意識だけですか?」

「身体も問題ない。ハンマー手放してよかった」

 

 倒れ込んでいるヴィネアの下に駆け寄ったダルクの声に反応して、ヴィネアは簡単に起き上がった。ディアブロス奇種の攻撃を受け止めた瞬間に、抑え込める力じゃないと感じ取ったヴィネアは、攻撃の威力を幻雷槌『雷電』を上に投げるように手放すことで受け流して、自分の身体に伝わる力を最小限にしていた。それでも一人の人間が吹き飛ばされる程度の衝撃はあったが、剛種防具であるブリッツFを纏っていたので殆どダメージはなかった。

 

「それにしても、二回連続でこんな風に攻撃を受けるなんて……屈辱」

「そ、それは仕方ないんじゃないですか?」

 

 アクラ・ヴァシム変種特異個体とディアブロス奇種特異個体を相手にしているのに、対して大きな攻撃を受けている訳ではないジークの方が異常なのであり、ヴィネアのように大きな攻撃を受けてしまうくらいが普通なのだ。

 

「ジークさんは生き残ることに長けている人ですから」

「それには同意する……前衛がこんなところでお喋りしてたら駄目ね。そろそろ戻る」

「は、はい!」

 

 回復薬を一本だけ飲み干したヴィネアは、すぐに立ち上がって傍に転がっていた幻雷槌『雷電』を手にした。ダルクも、ジークに言われた通りに足を攻撃することができていない。ジークに指示されたことをできませんでしたで済ませるつもりなど、ダルクにはなかった。

 二人の女性ハンターが立ち上がっている一方で男性ハンター二人は、ディアブロス奇種の攻撃を紙一重で避けながらなんとか攻撃を当てていた。

 

「伏せろッ!」

「うわぁっ!?」

 

 角を紙一重で避けられ、突進を幾度もいなされたディアブロス奇種の怒りはどんどんと溜まっており、怒りが蓄積するのと比例するようにディアブロス奇種の動きがどんどんと速くなっていく。身体ごと回転するようにして振るわれた尻尾を避けたジークは、ディアブロス奇種の背後から近寄るヴィネアを視認した。

 

「チャンス」

 

 吹き飛ばして完全に仕留めたと思っていた敵が、いきなり背後から現れたことにディアブロス奇種の動きが鈍った隙に、ヴィネアは持ち前の怪力を発揮して、幻雷槌『雷電』をディアブロス奇種の角に叩き込んだ。




ディアブロス奇種特異個体です
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