狩人の頂   作:ばるむんく

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狩人祭⑦(フェス) 蒼眠鳥(ヒプノック繁殖期)

「と、言う訳で……ベリアルさんがついて来てくれることになった」

「わぁ……ありがとうございます!」

「いやいや。僕も狩人祭に乗り遅れたからね……ジーク君が帰ってきてくれて好都合だったよ」

 

 翌日、ヒプノック奇種討伐依頼に同行することになったベリアルは、ダルクとルーナに挨拶を行っていた。面識が全く無いわけではないが、ジークと違って寒冷期後に凄腕ハンターに昇格しているダルクとルーナは、ジークほど『ラグナロク』の凄腕ハンターとの関りがある訳ではない。

 

「よろしく」

「そう……よろしく。あたしはルーナ」

「私はダルクです!」

 

 軽薄そうな笑みを浮かべているベリアルに、警戒心を抱きながらもルーナは彼が本物の実力あるハンターだと見抜いていた。立ち振る舞いや仕草から、自分よりも格上のハンターであることを理解したルーナは、胡散臭い笑みを抜きにして取り敢えず挨拶しておこうと考えた。相方であるダルクは、ジークが連れてきたハンターであることベリアルのことを最初から信じ切っている。

 

「ヒプノック繁殖期は、変色したことによって体毛の質が変化している。だから原種のヒプノックと違って熱に強い特性があるんだ」

「熱に、ですか」

 

 ジークが親方に頼んで作成してもらっているアクラ・ヴァシムの武器は、結晶液を使用している関係で神経性の麻痺毒を含んだ武器になる。熱に強い特性を持つと言われれば、それだけ火属性の武器を持っていき辛くなるが、ジークは最初からアクラ・ヴァシムの武器で行くことを決めていたので関係ないことだった。

 

「僕は普段からガンランスしか使わないから、今回は雷属性のガンランスを担いでいくよ」

「雷属性のガンランス、ですか?」

 

 ジークは『ゴエティア』に所属している凄腕ハンターたちの持つ、剛種武器が気になって仕方がない。ジークは多くの剛種モンスターを討伐したことがある訳ではないが、剛種ベルキュロスの双剣である真舞雷双【迦楼羅】の威力は理解していた。同じように、剛種モンスターの素材によって生み出された数々の武器は、他を圧倒する様な性能を持つ物ばかりであり、ジークは『ゴエティア』のハンターたちの持つ剛種武器を毎回見せて貰っている。

 

「僕が使う雷属性のガンランスは「真舞雷銃槍【朱雀】」だよ」

「舞雷……ってことは」

「剛種ベルキュロスの武器だね」

 

 ジークもベレシスたちと一度だけ狩りに行き、その素材で武器を作ったことがあるベルキュロスの武器と聞いて、少しだけ驚いていた。凄腕ハンターの持つ雷属性の剛種武器と言えば、幻獣キリンか舞雷竜ベルキュロスの武器が定番らしい。

 

蒼眠鳥(そうみんちょう)の体毛程度なら簡単に焼き切れそうだけどね」

「それは頼もしいですね」

「期待してくれて構わないよ」

 

 舞雷竜の名前を聞いて少しだけ驚いた様子を見せたルーナだが、未だにベリアル本人に対する警戒は緩めていなかった。軽薄そうな笑みを浮かべている人間に、あまりいい思い出がないらしいルーナの態度に対しても、ベリアルは特に何も言わなかった。

 

「まぁ、夜になったら狩りに行くか」

「なんで夜になったら、なんですか?」

 

 ルーナは警戒しているだけで、ベリアルのことを嫌っている訳ではないと理解しているジークは、二人の痛い沈黙など全く無視して、依頼書を手に取った。そこに反応したのはダルクである。ジークならばすぐにでも狩りに行こうと言うと思っていただけに、ジークの夜になったらという言葉に疑問符を浮かべていた。

 

「繁殖期のヒプノックは昼間は求愛に夢中で、基本的に複数頭がまとまって動いていることが多い。夜になればそれぞれの縄張りに帰って行くから、一頭のところを狙いやすいんだよ」

「だから夜なんですか?」

「そうさ。もしヒプノック繁殖期を複数頭狩りたいと思うほど迷惑に思っていても、誰も受けてくれないからねぇ……ヒプノック繁殖期の複数頭なんて」

 

 原種のヒプノックがあまり凶暴ではなく、小型モンスターに対しても睡眠ブレスを吐いてから、そのまま放置して逃げ出すような臆病な性格をしているため、繁殖期と言われてもイマイチ理解できない人間も多い。しかし、繁殖期のヒプノックは睡眠ブレスを吐いて相手が眠れば、確実に命を取りに来ると断言できる程気性が荒い。それに加えて、一呼吸するだけで人間を失神させるフェロモンを放つ。繁殖期のヒプノックは、原種から考えられないほどに凶暴になっているのだ。

 

「そう言う訳だ。夜までにしっかり準備しておいてくれよ?」

「わかりました!」

「そうするわ。あたしだって死にたくはないし」

 

 ダルクとルーナの返事を聞いてから、ジークは親方に頼んでおいた武器を取りに行くために、工房へと向かっていった。

 

 


 

 

 数時間後、夜のバテュバトム樹海を歩く四人のハンターは、狩猟対象であるヒプノック奇種探して歩き回っていた。

 

「夜の樹海は薄暗いわね……」

「大雷光虫がその辺にいるのは、少し怖いな」

「んー……ヒプノックも大樹の麓にいると思うけどな」

 

 松明を片手に進むジークの後ろを歩くダルク、ルーナ、ベリアルは、周囲を飛び回っている大雷光虫に視線を向けながら警戒していた。大雷光虫は雷光虫が突然変異を起こして巨大化し、それが群体となって集まった姿である。本来ならば雷光虫一匹の放つ電撃は人間を殺す程のものにはならないが、巨大化した雷光虫が寄り集まってできている大雷光虫は、何故か統率された動きで全ての個体が発電しながら群れで突進してくるため、人間ですら感電してしまうと麻痺して動けなくなってしまう程である。

 

「外回りで歩いてから、ヒプノックを探しましょうか」

「それがいいと思うわ」

 

 ルーナはジークの言葉に一番早く同意した。合理的な狩りを好むルーナは、個人的な過去の因縁などを抜けば、ジークと最も相性のいいハンターと言ってもいい。

 大雷光虫に見つからないように樹海を歩いているハンターたちは、すぐに大樹の空洞の中に入らず、外周を歩いてヒプノック奇種がいた痕跡を探していた。大雷光虫へと視線を向けて警戒しているダルク。一番前を歩いて安全を確保しているベリアル。そして、ルーナと共に最後方で今後の動きのことを話し合いながら歩くジーク。縦列に並びながら鬱蒼として視界が通りにくい樹海を歩くハンターたちは、草むらの揺れる音に全員が反応して武器を構えた。

 

「……ブルファンゴか、ランポスか」

「大雷光虫って可能性も……」

「警戒するに越したことはない」

 

 既に真舞雷銃槍【朱雀】を構えて警戒を続けているベリアルの視界に、草むらから飛び出してくるブルファンゴと大雷光虫が目に入った。一番近くにいたジークが、アクラ・ヴァシムの素材で作られたランスである「ヴァシムホーン」で、突進してきたブルファンゴを絶命させるのと同時に、背負っていた弓を構えていたルーナが大雷光虫の大部分を始末した。

 

「……フルフルボウか?」

「詳しいのね。て、あんたは武器なんでも使えるんだったわね」

 

 ジークはルーナが構えている弓を見て、それがフルフルの素材によって生み出されたフルフルボウであることを見抜いた。正確にはフルフル変種の素材を使って強化された「フルフルボウⅣ」である。武器からフルフルの不気味さが伝わってくるような見た目に感心していたジークは、武器を見せるためにこちらを向いていたルーナの背後から迫るモンスターに気が付いた。

 

「ちっ!?」

「きゃぁっ!?」

 

 悲鳴を上げながらジークに押し倒されたルーナは、すぐに顔を上げてさっきまで自分が立っていた場所を見ると、薄暗い樹海の中でも目に焼き付く様な色鮮やかな羽が見えた。月光を反射するように怪しく光るその羽色が、突然草むらから飛び出してきたことに驚いているベリアルとダルクは、すぐさま武器を構えてジークとルーナを救出するために動き出した。

 

「ジークさん!」

「っ、わかってる!」

 

 ルーナの上から飛び退いたジークは、すぐにランスを拾ってから極彩色の羽を持つヒプノック奇種に向かって突き出した。草むらから奇襲を仕掛けて失敗したヒプノック奇種は、右から迫るジークのランスと、左から迫るベリアルのガンランスを見て上に避けるために飛び上がる。同時に、奇襲を仕掛けられたショックから立ち直ったルーナが放った矢を、空中で器用に避けたヒプノック奇種は、そのまま低空飛行で見えづらい草むらの中から飛び出した。

 

「あいつ、いい動きするな」

「感心しないでよ!」

「これは思ったより強敵かな?」

 

 三方面からの連携攻撃を軽く避けられたジークは感心したように呟き、ルーナはそれに呆れ、ベリアルは冷静にヒプノック奇種の実力を見極めていた。ハンターたちの中で唯一攻撃していなかったダルクは、誰よりも早くヒプノック奇種に追走して双剣を構える。

 

「私も続きます!」

「ルーナ、ダルクの援護頼む」

「任せなさい。あの突撃娘の援護は慣れてるのよ!」

 

 ロックラック時代からダルクと組んでいたルーナは、すぐにモンスターに向かって突撃していくダルクの援護など慣れ親しんだものだった。ダルクはメゼポルタにやってきてから、ハンターとしての実力をメキメキと伸ばしているが、それはルーナも同じことである。向かってくるダルクを迎撃するように、睡眠ブレスを口から同時に複数吐いたヒプノック奇種に対して、ダルクはそれの間を掻い潜るように走り抜け、アクラ・ヴァシム変種の素材から生み出された双剣「ヴァシムセーバー」を振りぬいた。睡眠ブレスを避けられたことに、反応しきれていないヒプノック奇種が反射的に顔を逸らし、ダルクの攻撃をいなすと同時に、ルーナの狙いすましたような一射がヒプノック奇種の喉元へと突き刺さった。

 

「あ、あんまり効いてない?」

「ベリアルさん!」

「大丈夫」

 

 純白の秘伝防具に身を包むベリアルは、ガンランスの重みなど毛ほども感じていないかのような速度で加速していた。ガンランスを極めた者にのみ着ることが許される「サファイア」防具は、ガンランスを振るう者を絶対に邪魔しないように緻密な計算によって生み出されている。高速で駆けるベリアルは、それでもヒプノック奇種への追撃が間に合わないと考え、走りながらガンランスの穂先を自身の背中方向へと向ける。自分の背後に穂先を向けた状態のまま、ガンランスの内部を冷却する為に存在する排熱機関をフル稼働させて一気に空気を押し出したベリアルは、その勢いにのって急加速してヒプノック奇種へと接近した。

 

「遅い!」

 

 喉元に鋭い痛みを感じたヒプノック奇種は、その場から逃げようと翼をはためかせていたが、上に飛び立つ前にベリアルが接近していた。排熱を利用した加速でヒプノック奇種へと接近したベリアルは、真舞雷銃槍【朱雀】をヒプノック奇種の片方の翼に突き刺した。舞雷竜の荒々しさを彷彿とさせる真舞雷銃槍【朱雀】によって、ヒプノック奇種の傷口から蒸気が上がる。死してなお、素材から超高圧の電流を発生させるベルキュロスによって、ヒプノック奇種はその場に叩き落された。

 

「俺も前に出る」

「私の射線に入らないでよね」

「善処しよう」

 

 ベリアルがヒプノック奇種の翼にガンランスを突き刺した瞬間に、ジークは既に駆けだしていた。ルーナの軽口に適当に返しながら、ヒプノック奇種の命を狙ってジークは走る。攻撃を避けられたダルクは、ガンランスの砲撃の範囲を予測して、ベリアルの直線状に入らない場所を狙って双剣を持ったまま加速する。狙いは刃の通りやすい腹と足だけであった。

 ベリアルによって地面に叩き落されたヒプノック奇種は、前方から接近してくるジークと、背後を駆けるダルクに意識を向け、迎撃のために身体を揺する。身体を少し揺すったことで、身体から放出される肉眼で確認できる、ピンク色の胞子のようなものを見て、ベリアルは即座に砲撃を放った。

 

「これがっ!?」

「……あれがフェロモンか」

 

 ヒプノック奇種のすぐ背後を走っていたダルクは、身体から放出されたピンク色の煙を見て一気に飛び退いた。ランスを構えたまま、ヒプノック奇種へと向かって走っていたジークにも、そのピンク色が夜の中でもしっかりと視認できていた。ベリアルが放った砲撃によって、漏れ出していた少量のフェロモンが吹き飛ばされ、ベリアルはそのままヒプノック奇種へと追撃する為に一歩前に出た。大きな盾を持つガンランスという武器を扱うベリアルにとって、張り付いたも同然の距離から更に一歩踏み込んだモンスターへの近さこそが、最大の力を発揮できる領域である。

 

「覚悟してもらおうかな」

 

 更に近づいてきたベリアルに、ブレスやフェロモンでは迎撃が間に合わないと判断したヒプノック奇種は、首だけを前に出して嘴での攻撃を行った。咄嗟に出る一撃にしては狙いが正確で、速度も並みのモンスター以上である嘴による攻撃を、ベリアルはタイミングよく盾を前に出すことでいとも簡単に弾く。攻撃を防がれたことに一瞬気が付けなかったヒプノック奇種に対して、ベリアルは容赦なく顔に砲撃を放った。

 

「……えげつねぇな」

 

 ジークはヒプノック奇種の顔に向かって容赦なく砲撃を放つベリアルの狩りに苦笑いを浮かべていた。モンスターを傷つけることに忌避感がある訳でもないが、眉一つ動かすことなく相手の顔に向かって砲撃を放つベリアルは、正しく世間で認知されている『ゴエティア』のハンターだった。

 顔に砲撃を受けて混乱しているヒプノック奇種は、羽をばたつかせてフェロモンをばら撒き始めた。ベリアルに対しての攻撃が防がれ、追撃として砲撃を受けたヒプノック奇種は、このままベリアル相手にまともに戦えばただでは済まないと即座に判断したのだ。一呼吸するだけで失神する様な危険なフェロモンを、大量にまき散らされると、ベリアルがいくら優れたハンターであろうと退くことしかできない。今度は自分の前方に排熱噴射を行うことで後ろに移動してから、勢いを止める為にガンランスの装填を行った。

 

「はは……本当にすげぇ……尊敬しますよ。ベリアルさん」

「そうかい? 何に感心したかわからないけど……ありがとう」

 

 一つ一つの動作に全く無駄がなく、全てが効率的な動きをしているベリアルは、ジークが理想としているハンターの狩猟方法に近い。ジークとの違いは、ベリアルは効率のいい動きしかしていないが、動きを見るとガンランスの扱う上での基礎的な動作しか行っていない。ジークのように、自分が動きやすいように動く柔軟な狩りではなく、基本に忠実で自分の身に迫る危機をなるべく減らす堅実な狩り方である。

 フェロモンを発生させることでベリアルを遠ざけたヒプノック奇種は、甲高い鳴き声を上げながらベリアルを威嚇していた。

 

「……忘れてもらっちゃ困るんだけど、ね!」

 

 人を失神させるフェロモンを発生させることで、ハンターとの戦闘を振り出しに戻したと考えているヒプノック奇種の視界に、ルーナが放った矢が入る。なんとか身体を逸らすことで矢を避けたヒプノック奇種が顔をあげると、既にルーナは二の矢を放っていた。

 

「ナイス。やっぱり長年の相性ってのはあるもんなんだな」

 

 ヒプノック奇種が二の矢、三の矢を避けるために大きく動いたことで、周囲に散らされていたフェロモンの中からヒプノック奇種が飛び出す。接近できるようになったヒプノック奇種に対してジークとベリアルが動き出す前に、既にダルクがヒプノック奇種の背後を取っていた。突然背後から斬りつけられたヒプノック奇種は、燃えるような熱を感じながらも状況を打開するために尻尾を振り回した。

 

「今のうちに責め立てようか」

 

 不意打ち気味に放った初撃を完璧に避けられたベリアルは、ヒプノック奇種の強さを未だに警戒している。ジークも侮っている訳ではないが、最初ほどの緊張感を持って戦っている訳ではなかった。

 尻尾を振り回してダルクを遠ざけたヒプノック奇種に、ベリアルが急速接近してガンランスを突き出す。ベリアルに近づかれることを警戒しているヒプノック奇種は、身体を後ろに反らすことで槍を器用に避けた。無理やりな体勢で攻撃を避けた相手を的確に追撃するため、ルーナは首に向かって矢を放つ。

 

「ダルク!」

「はい!」

 

 再び喉に矢を受けて痛みに悶えるヒプノック奇種は、翼を大きくはためかせてフェロモンを発生させる。自分にとってなんの苦にもならない行為である、フェロモンを発生させるだけで敵を追い払うことができると学んだヒプノック奇種は、接近してくるベリアルとジークを警戒してフェロモンをまき散らした。

 

「もう、見飽きた」

 

 フェロモンによる防護壁を作り出した気になっているヒプノック奇種に対して、ベリアルは小さく呟くとフェロモンが届かない外からガンランスを構える。真舞雷銃槍【朱雀】の穂先から、青白い光が見えた瞬間にダルクはベリアルの直線状から外れるように動き出す。状況を理解できていないヒプノック奇種が金切り声を上げた瞬間に、爆竜轟砲がフェロモンを吹き飛ばして蒼眠鳥を包み込んだ。砲撃というよりもはや爆撃の様な衝撃をモンスターに与える爆竜轟砲を受けて、光に飲まれたヒプノック奇種は地面に横たわる。痛みに喘ぎながらなんとか立ち上がろうともがく中、ダルクとジークが挟み込むように接近してアクラ・ヴァシムの力を遺憾なく発揮する。

 

「はぁっ!」

 

 ヴァシムセーバーとヴァシムホーンが同時に傷を与えると、痛みと共に流れ込んでくる強烈な麻痺毒に抵抗するようにヒプノック奇種が暴れ始める。好機と見たルーナも、強撃ビンを装填して弓を構え、その流れのまま暴れるヒプノック奇種へと矢を放つ。喉、羽、腹、足へと矢が突き刺さっていく中、ジークは全く背後を見ずにヴァシムホーンを突き出す。なんだかんだと言いながら、ルーナならば人に当てることなくヒプノック奇種を追い詰めることができることを信じていた。

 

「ムカつくのよね……あんたに一方的に信頼を向けられるの。だからこそ、絶対に信頼は裏切らないわよ」

 

 ルーナも、ジークのことを認めているからこそ全く手加減などせずに遠慮なく矢を放っていた。ジークかルーナ、どちらかの動きが崩れれば、ルーナが放っている矢はヒプノック奇種ではなく、ハンターの誰かに接触することになるだろう。だが、ルーナとジークは全くそんなことを考えてなどいなかった。

 

「ジーク君は、人と無意識にでも協力できるタイプかぁ……団長とは違うハンターなんだね」

 

 ベレシスから自分の同類であると聞いていたベリアルは、戦闘を楽しむような部分は同じでも、本質的には大分違うハンターであることを、共に狩りに出ることで知った。無意識にでも人を引っ張て行くジークと、一人で突っ走りながら周囲がなんとかそれを助けようとするベレシス。やっていることは同じでも、方向性は反対だと言えるだろう。どちらが正しいハンターの在り方である、などというつまらないことはベリアルは考えていない。ただ、将来的に猟団として成功するのはベレシスよりもジークの方であろう。

 

「おっと……考え込んでる場合じゃないかな。僕も加勢しようか」

 

 ルーナと信頼関係が築けている訳でもないベリアルは、複数人狩猟の基本である、他人の射線に入らないことを意識しながらヒプノック奇種へと近づく。爆竜轟砲を撃ったことで、真舞雷銃槍【朱雀】が軋むような音を上げているが、ベリアルはそれを無視してヒプノック奇種へと向かって砲撃を放つ。

 矢を突き刺され、複数人に囲まれて窮地に陥っているヒプノック奇種は、原種同様逃げることを考えていた。繁殖期に気性が荒くなるとはいえ、ヒプノックという種族の本質は消えてなどいない。ヒプノックは命の危険を感じればどんな状況からも逃げ出そうとする大型モンスターなのだ。

 

「んっ!?」

「これはっ!?」

「ダルクッ!」

 

 ハンターの攻勢から逃れるために、フェロモンを染み込ませた羽をわざとダルクに攻撃させ、周囲に濃度を上げたフェロモンをまき散らす。即座に後ろに下がったジークとベリアルとは違い、直接攻撃してしまったダルクは、フェロモンが広がるのを見てから呼吸を止めようとしたが、判断が一瞬遅くすぐに気を失って倒れた。

 

「このっ! 絶対ダルクに手を出すんじゃないわよ!」

 

 すぐさまルーナが、ダルクから引き離すように矢を放つと、ヒプノック奇種は更にフェロモンを放ちながら倒れているダルクから距離を取った。その瞬間に、ジークとベリアルはヒプノック奇種がわざとルーナに矢を放たせたことに気が付く。ルーナがダルクからヒプノック奇種を遠ざけるために放った矢は的確に、ジークとベリアルの追撃を邪魔したのだ。

 

「あいつ、やっぱり頭いいな」

「手強いかい?」

「頭だけは、ですね」

 

 ヒプノック奇種の知能の高さを評価したジークは、身体能力に関しては理不尽さを感じるようなものではなかった。総合的に見て、ヒプノック奇種は原種よりも凶暴になり、ハンターに襲い掛かってくることは確かであるが、身体能力の向上などは見られず、危険度の高さは原種ヒプノックとの違いであるフェロモンに集約されている。

 ジークとベリアルが離れて行くヒプノック奇種を見ながら分析を続けている中、ルーナはダルクからヒプノック奇種が遠ざかったことに安堵の息を吐きつつ、自分の矢が二人の妨げになっていることにも気が付いていた。

 

「気にすんなー」

「……本当にムカつく!」

 

 ルーナの口から謝罪の声が出る前に、先読みするかのように許しの声がジークから飛んできた。呆気にとられたルーナは、ジークが自分の謝罪に関して言っているのだと気が付くと、眉間に皺ができるような表情で矢を構えた。ベリアルは二人に苦笑しながら、未だに意識が朦朧としているダルクを助け起こしていた。

 

「大丈夫かい?」

「あ……は、はい……」

「ダルク、頼みます」

「わかった……無茶はしないでね」

 

 フェロモンを少量しか吸っていなかったおかげで、比較的すぐに意識を取り戻しはしたが、やはり未だに意識を朦朧とさせていた。ダルクをベリアルに任せたジークは、ルーナが矢を放つと同時に駆けだす。ベリアル本人、ルーナの矢、囲まれることそのもの。ヒプノック奇種が警戒するものがどんどんと増えて行く狩りだが、ジークは初めて本気で走っていた。速度自体は、普段からガンランスを扱っているベリアルよりも遅いものだが、ジークの移動速度もランスを持っている者としては異常な速さであった。

 

「……あたしは絶対に喉狙いだからね。気を付けなさいよ」

 

 ジークには決して届かないような小声で矢を構えるルーナは、ヒプノック奇種へと走るジークの口元に笑みが浮かんだ気がした。まるでルーナの声が聞こえていて、彼女の指示に従うかのように真正面を避けて腹と羽を狙う姿に、ルーナは一瞬見惚れていた。

 

「て、なんであたしがあいつに見惚れなきゃいけないのよ!? 本当にムカつく!」

 

 言っていることはもはや八つ当たりの領域だが、ルーナの放つ矢はヒプノック奇種を的確に追い詰めていた。喉に二度も矢を受けているヒプノック奇種は、ルーナから飛んでくる矢にはとても敏感だった。基本的に生物の弱点である、頭と喉を狙って放たれる矢に対応しながら、ヒプノック奇種はジークと交戦するつもりだった。

 

「舐められたもんだな。ヒプノックの身体能力如き、モンスターの知恵如きで、俺と一対一ができるとでも?」

 

 ヒプノック奇種の誤算は、今までの戦闘からして一番脅威性が低いと判断していたジークが、ルーナの矢を気にしながら相手ができるハンターではなかったことである。喉に目掛けて飛んでくる矢を、顔を反らすことで避けたヒプノック奇種は、腹にヴァシムホーンを突き立てられる。痛みを感じてその場で回転すれば、当たるはずだった尻尾を盾で器用に逸らされ、嘴を傷つけられる。ジークの攻撃に警戒する為にルーナへの意識が粗末になれば、ジークはそれを狙ったかのようにルーナが攻撃しやすいように攻撃を盾で捌く。

 

「お前はもう、終わりだ」

 

 ヴァシムホーンを再び腹に突き刺されたヒプノック奇種は、怒りのままフェロモンをまき散らそうとして、そのまま動けなくなった。アクラ・ヴァシムの麻痺毒によって身体を自由に動かすことができなくなったヒプノック奇種は、ジークの言葉と共に放たれたルーナの矢が、眉間に突き刺さることで夜の樹海に血をまき散らして倒れこんだ。誰がどう見ても死んでいると思うほどの出血を見て、ジークは構えていたヴァシムホーンをおろした。

 

「そこまで狩りにくいモンスターって訳でもなかったな」

 

 最近はアクラ・ヴァシムやディアブロス奇種を相手にしていたせいか、ジークにとってヒプノック奇種は物足りない相手になっていた。フェロモンにだけ気を付ければ大したことはない相手に、ジークは大きく息を吐いた。

 

「お疲れ」

「……狩りの最中に三回はあんたにムカついたわ」

「本当に? 一種の才能だろ、俺」

 

 ムカつかれた理由がさっぱりわからないジークは、肩を竦めながらおどけていた。ルーナとしても自分が理不尽なことを言っている自覚はあったが、ジークのおどけるような態度に謝る選択肢はどこかに消し飛んだ。

 

「見事だったよ」

「殆どとどめ刺しただけでしたけどね」

「それで十分だよ」

「お、おつかれさまです……」

 

 最後の戦闘に参加していなかったベリアルとダルクは、対照的な顔をしていた。ジークの実力をしっかりと見極められたことに、満足そうな笑みを浮かべているベリアルと、途中でフェロモンを受けて離脱してしまった不甲斐ない自分を責めているダルク。ジークとしては、ダルクの落ち込むような理由も理解できるが、ハンターの狩りは水物である。刹那の判断ミスで命を落とすことなど珍しくないハンターの世界では、ダルクの行動は褒められたものではなかったかもしれないが、誰もが完璧な狩りなどできるものではない。

 

「ダルク、気にすんな!」

「は、はい!」

「……あんた、単純になったわねぇ」

 

 ジークの励ましの言葉一つで半分以上立ち直ったダルクに、ルーナは完全に呆れていた。

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