狩人の頂   作:ばるむんく

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フルフルです

奇怪竜の名称はライズになってからなので、こちらは韋駄天なんかで使われていた白影を使っています

まぁ、そんなこと言ったらキリンのこと散々幻獣って書いてますけどね(言い訳するなら、フルフルの奇怪竜はライズ以前には影も形も存在しませんでしたが、キリンは昔から雷獣とか幻獣とか呼ばれてましたから)


狩人祭⑧(フェス) 白影(フルフル)

「寒いわ……」

「雪山だしな」

 

 ダルク、ベリアル、ルーナと共にヒプノック奇種を狩猟したジークは、狩猟した翌日の朝にはメゼポルタ広場を出発していた。雪山でフルフルが数頭確認されたことを聞いて、すぐにフルフル狩猟のためにポッケ村へと向かっていた。

 普段はアプトノスが牽引している竜車だが、フラヒヤ山脈方面へと向かうハンターや行商人の中継地点で、寒さに強い草食種である、ポポが牽引する竜車に乗り換えていた。ジークの後ろで寒さに震えているのは、ジークと共にポッケ村に向かうことになったルーナだった。

 

「ダルクと残らなくてよかったのか?」

「いいの……あんたともじっくり話す時間、作りたかったし」

「……向こうにいた時はゆっくり話す機会なんてなかったからな」

 

 ルーナが一方的にジークのことを詳しく知っているだけで、ジークはルーナのことをロックラックに所属していた優秀な若いハンター程度のことしか知らなかった。ヒプノック奇種を狩猟しに行ったことで、ある程度互いのことを知ることができていたが、詳しいとはお世辞にも言えない。

 

「それに、あたしはフルフル変種の討伐経験があるもの」

「そうか……頼りにさせてもらうよ」

 

 優しく笑うジークを見て、ルーナはなんだから自分のペースを乱されるような感覚を味わっていた。

 

 


 

 

「んー……肌寒いけど、いい空気だな」

「山の空気ってなんでこんな美味しいのかしらね?」

「さぁ?」

 

 数日をかけてメゼポルタからポッケ村へとやってきたジークとルーナは、山の空気を肺に取り込みながら身体を解していた。

 雪山の麓に存在して年中雪の積もる、人が住むには少し過酷な土地だが、フラヒヤ山脈ならでは特産品などがドンドルマなどの都市部では需要が高いこともあり、経済的には困窮していない村である。ポッケ村に存在する集会所はギルドの出張所も兼ね備えられており、フラヒヤ山脈を中心としたクエストを受けるハンターたちが訪れることも珍しくない。

 

「やぁ、思ったより早かったね」

「どうも、マルクさん」

 

 マルクとエルスの姉妹が、ポッケ村を拠点にしてフラヒヤ山脈で狩猟を行っていることを知っていたジークは、メゼポルタから二人に向けて手紙を出していた。ただ向かうから力を貸してほしいことを書いただけであり、返事を待つつもりもなかったジークは、ヒプノック奇種を討伐した夜にそのまま手紙を出し、その翌朝にはルーナと共に出立していた。ポッケ村で温泉に入っていたマルクとエルスが、ジークからの手紙を受け取ったのはつい昨日のことであり、手紙が届いてからこんなに早くジークが到着するとは二人も思っていなかった。

 

「だ、団長……よかった……男だ」

「あー……ウルフ、何があったのかは大体理解したが、その安心の仕方が誤解を生むぞ」

 

 男である団長の姿を見て安堵の息を吐くウルフに、ジークは苦笑いを浮かべていた。ポッケ村に滞在している『ラグナロク』のハンターは、マルクは言うまでもなく、エルスもディアナも個性的な性格をしている。物静かで思慮深い面があると思えば、妙に頑固で譲らない部分は絶対に譲らないエルスと、自分は清楚ですと主張しながらモンスターの解体が好きでたまらない変態である。

 

「ジーク、フルフル変種の話を聞きに来たの?」

「そうなんだよ……やっぱりフルフル多いのか?」

「温暖期の依頼の数を一としたら十ある程度ですわ」

「めちゃくちゃ多いじゃないか……」

 

 ディアナの言葉にジークは頬をひきつらせていた。ただでさえ見た目の気持ち悪さから、狩猟を断るハンターすらもいると言われるフルフルが、繫殖期とはいえ普段の十倍も討伐依頼が出されていると聞けば、流石のジークもドン引きである。

 

「まぁいいか……俺たちはフルフル変種を狩りに行くけど、ディアナとウルフはどうする?」

 

 元々、フルフル変種を目標にしてポッケ村を目指していたジークとしては全く問題ない話なのだが、ディアナとウルフはまだ上位ハンターであるため、今回のフルフル変種討伐依頼には規則的についてくることができない。マルクとエルスに連れられて、ラージャンを始めとした上位モンスターを何頭か狩猟している二人が、どうするのか『ラグナロク』のトップとして気にしていた。

 

「俺はこの狩人祭中はポッケ村に残るつもりです。元々寒いところ出身なんで、肌に合ってるっていうか……」

「私もポッケ村でフルフル討伐を中心に活動しますわ。幸い、もうすぐポッケ村に『ラグナロク』のハンターが何人か来るようなので」

「そっか」

 

 ジークから見ても、ディアナとウルフの実力は既に凄腕ハンターでも問題ないレベルである。狩人祭が終われば、間違いなく二人は凄腕昇格試験に挑むことになるだろう。そんな未来の戦力である二人の答えに、実ジークは笑顔を見せた。

 

「じゃあ、ルーナ、エルス、マルクさん……狩りの準備といきましょうか」

「うむ! 私に任せたまえ!」

「はぁ……テンション高い」

 

 ジークの言葉に勢いよく返事をしたマルクを見て、ルーナは大きなため息を吐いた。

 

 


 

 

 ポッケ村の集会所には、仮設として作られたにしてはそれなりにしっかりとしたメゼポルタの出張所が存在した。ジークは当然知らないことだが、メゼポルタハンターズギルドの狩人祭は、既に開催回数がそれなりに嵩んでいる。故に、ドンドルマギルドの出張所である集会所がないココット村やジャンボ村などにも、狩人祭の時期である繫殖期全盛の時期になると、メゼポルタ出張所が仮設で作られる。

 

「あら? メゼポルタのハンターさんかしら~?」

「えぇ……まぁ」

 

 ポッケ村の集会所へと足を踏み入れたジークは、入り口近くで受付嬢となにか喋っていた竜人族の女性に話しかけられ、少し身構えた。彼女がこのポッケ村集会所のギルドマネージャーなのだろうと判断したジークは、曖昧に頷きながらマルクに視線を向けた。

 

「ん? あぁ……彼女はこの集会所を取り仕切っているドンドルマのギルドマネージャーだ。名前は知らないが」

「名前なんていいじゃない。それより、新しいメゼポルタのハンターさんが来たってことは……強いフルフルの討伐に行ってくれるのかしら~?」

「そういうこと」

 

 ギルドマネージャーは見慣れない男であるジークがマルク、エルスと集会所に入ってきたことで、彼がメゼポルタのハンターであると考えた。新しいメゼポルタのハンターがやってきたとなれば、彼らの目的が最近フラヒヤ山脈で大量に発生している中でも、特に強力な個体に関してだと推測した。ドンドルマからは、絶対にメゼポルタの凄腕ハンター以外に受けさせてはならないと、語気が強い知らせの来ているクエストを受けるハンターに、ギルドマネージャーは個人的に興味があった。

 

「まぁいいかしら。倒してくれるなら誰でも」

「……随分と適当な人だな」

「仕事はそれなりにできるらしいわ」

 

 なんだか緩い空気を作り出しているギルドマネージャーの言葉に、ジークは苦笑いを浮かべていた。彼が知っているギルドを取り仕切るギルドマスターは、遠い大陸であるタンジアにいる酒飲みでありながらも頼りになるギルドマスターと、メゼポルタにいる威厳あるギルドマスターであり、彼女の様な若い竜人族の女性がギルドマネージャーやギルドマスターといった重役についている姿を見たことが無かった。補足してくれたエルスの仕事はそれなりにできるとの言葉に、一応納得を示したジークは、メゼポルタのハンターが受けるクエストを取り扱っている受付嬢の元へと向かった。

 

「マルクさんにエルスさん。また狩猟ですか?」

「そう」

「狩猟対象はフルフルの変種だ」

「あー、あれですね。大量発生してる関係で報酬金が結構つり上がってますよ。その代わり、フルフルの取引価格が暴落気味ですけど」

 

 クエストの報酬金は個人や団体が依頼するものであれば、余程の事情が無い限り報酬金が変動するものは多くない。しかし、ハンターたちを束ねるギルドが直接出すモンスター狩猟依頼は、モンスター自体の危険度や、その討伐依頼がギルドから出された理由によって同じモンスターでも狩猟時期によって報酬金が変動する場合が多い。

 クエストの報酬金とは別に、討伐したモンスターの装備に使えない部位の素材などが市場価格としてギルドから提示される。この取引価格は、市場の需要と供給によって価格が変動する。今回フラヒヤ山脈に大量発生したフルフルのように、短期間で多くの素材が持ち込まれることがあれば、当然市場の取引価格はどんどんと下がっていく。下限は当然存在するが、フルフルの取引価格は通常時の半分以下に落ち込んでいた。

 

 

「あれ? フルフルは変種ですか? ウルフさんとディアナさんは上位ハンターでしたよね?」

「仲間がメゼポルタから来てくれたの」

「かなり心強い味方が来てくれたんだ。おかげでフルフルの変種にも憂いなく挑める、という訳さ」

 

 言われた通りフルフル変種の依頼を取り出してから、しばらくエルスとマルクについてきていたウルフとディアナが上位ハンターであることを思い出した受付嬢だが、二人の背後からジークとルーナが顔を出したことで納得していた。

 

「初めまして」

「どうも。俺はジークって言います」

「ジークさん、ですか……もしかして『ラグナロク』のトップの?」

「あはは……なんで知ってるんですか?」

 

 変種クエストを受注手続きをする為に、ジークのギルドカードを確認しようとした受付嬢は、名前を聞いて書類から顔を上げてジークの顔をマジマジと観察し始めた。まさか受付嬢にまで『ラグナロク』の頂点であることを認知されていると思っていなかったジークは、いきなり言い当てられたことに動揺していた。

 

「それは当然ですよ。ユニス先輩が言ってましたから」

「ユニスさん……」

 

 メゼポルタ広場で下位から凄腕まで、全てのクエスト受注手続きを一手に担っている受付嬢ユニスを思い浮かべて、ジークは苦笑いを浮かべた。どうやらジークの前にいる受付嬢はまだ若いらしく、メゼポルタの受付嬢の中でも若い方であるユニスのことを先輩と呼び慕っていた。

 

「フルフル変種の狩猟クエスト。参加者はエルスさん、マルクさん、ジークさんにルーナさんですね。受注いたしました!」

 

 受付嬢はハンターランクを確認する為に提示してもらった、ジークとルーナのギルドカードを返却しながら、フルフル変種が最後に確認されたフラヒヤ山脈の地点を告げた。山脈の中でも一際大きい山の山頂で目撃されたのが最後だと聞き、ジークは当たりを付けてその山を探索することにした。

 

「通常のフルフルと見た目に差異があるとの報告が届いてます。確認は十分に取れていませんが、特異個体の可能性がありますので、気を付けてください」

「特異個体か……わかりました」

 

 モンスターの特異個体を正確に把握するのは難しい。なにしろ危険すぎて無暗に近づくこともできず、多少の見た目の変化と言っても、通常種の個体差程度で済まされてしまう場合が多い。特異個体であることがわからずに、メゼポルタのハンターではないドンドルマのハンターが狩猟に行って、あまりの危険さに逃げ帰ってきたという報告も数多く見られる。

 特異個体というのはどんなモンスターでも厄介なものである。ジークとしては普段以上に警戒度を高める要素ではないが、普通の感性をしているハンターは特異個体というだけで狩猟を見送る場合もある。

 

「じゃあ行こうか」

「……特異個体って聞いても、全く動じないわね。そういうところは相変わらずよ」

「そうかな?」

 

 ルーナの言葉に笑顔のまま首を傾げるジークに、エルスは呆れた様なため息を吐いた。

 

 


 

 

「寒い……ポッケ村は暖かったんだ」

「そりゃあ山の麓だし。それに、ポッケ村は温泉も湧いてるからな」

 

 雪山を歩くルーナが、ホットドリンクを飲みながら寒そうにしているのを見て、ジークは笑っていた。既に山の中腹までやってきているジークたちは、横薙ぎの雪が降る中を歩いていた。知識のない人間が歩けば遭難しそうなほどの雪景色だが、ジークたちのようなハンターは必ず雪山を登る訓練をさせられている。ハンターをやるものは全員が常人以上に第六感が敏感であり、加えて方向感覚を簡単に失わないように常日頃から意識させられている。

 

「さて……フルフルは山頂で最後に見つかったらしいが……」

「さっき出会ったハンターたちが、洞窟で様子の違うフルフルを見たと言っていたな」

 

 受付嬢から教えられた最後の目撃情報を頼りに山を登っていたジークたちだが、先ほど偶然にも山を降りている、ジークたちが狙っているフルフルとは違うフルフルの討伐を終えたハンターたちに遭遇していた。ポッケ村を中心に活動している彼らの言葉によると、ジークたちが登っているこの山には中に大きな空洞があり、そこに通常種とは違うようなフルフルを見たとのことだった。

 

「まず間違いなくフルフル変種だろう。さぁ、我々の武勇を示そうではないか! いざ行かん!」

「……おー」

「無理に乗らなくていいわ」

 

 なんとなくテンションの高いマルクに、取り敢えず乗っておこうとしたジークを、エルスが首を振って止めた。これが砂漠や密林だったら絶対に暑苦しいと反応しているであろうルーナは、謎のテンションの高さに少しだけ感謝していたため、何も言わなかった。

 

「断崖絶壁じゃない……まさかこの蔦で上までとか言わないわよね?」

 

 テンションの高いマルクを先頭にしながら雪山を進んでいた一行は、その先で断崖絶壁にぶつかった。回り道をしようにも道がなく、行けそうな道はルーナの言う通り上から垂れ下がっている蔦だけだった。こんな吹雪の中で蔦を登ろうものなら、死を覚悟するようなことになるのは明白だったが、ジークが耳をすませていた。

 

「ここ、空洞があるんじゃないか?」

「どこよ」

「ここのことだよ」

 

 蔦の横に広がる雪の塊を指差すジークに、ルーナとマルクは首を傾げた。雪山を登っている最中に何度も見た、ただ頭がおかしいくらい積もっているだけの雪にしか見えないもの指差すジークに、疑問符を浮かべる二人だったが、ジークが声をかける前にエルスがヘヴィボウガンを構えた。

 

「貫通弾でも撃ってみる」

「そうしてくれ」

 

 積もっている雪に向かって平然と貫通弾を放ったエルスに、ルーナは目を点にしていたが、エルスが放った貫通弾は雪に飲み込まれて行って音など返ってくることも無いはずだった。

 

「……穴、ね」

「穴だな」

「穴があるわね」

「入り口か?」

 

 エルスが放った貫通弾は雪の塊を貫き、その向こうにある空洞へと消えていった。ルーナ、マルク、エルス、ジークの順番で感想を述べた後に、ルーナが弓を構えた。

 

「プロミネンスボウか」

「そうよ」

 

 火竜リオレウス変種の素材で作られた弓「プロミネンスボウⅣ」を構えたルーナは、火竜の熱が籠った矢を放つ。凄まじい蒸気を発生させながら雪を溶かした矢を連発するルーナを、ジークたちは黙って見ていた。

 

「ふっ!」

「……やばい、崩れるぞ」

 

 プロミネンスボウの火力で雪を溶かしていたルーナだが、人間が一人通れるぐらいの穴が開く頃には、山のように積もっていた雪が崩れ落ちそうになっていた。このまま崩れ落ちれば小さな雪崩が発生してしまう。小さな規模とは言え、雪崩を真正面から受ければ人間は簡単に死んでしまう。ハンターとてそれは例外ではない。

 

「取り敢えず、一回離れるか」

「っ!? なにか来るわ!」

 

 雪から距離を取ろうとジークが辺りを見回した瞬間、雪に向かって矢を向けていたルーナが、雪壁の向こうから聞こえてくる音に反応して矢を放った。同時に、巨大な雪の塊を破壊しながら白い身体をした大型の飛竜種が飛び出してくる。

 

「フルフル!?」

「おいおい……勘弁してくれよ。俺らの後ろは崖だぞ」

 

 洞窟の入り口から飛び出してきたフルフルを見て、ジークたちは自分たちが初手から追い込まれていることに冷や汗を流していた。受付嬢の情報通り、通常のフルフルよりも大きな体躯と異なる姿。ジークたちの目の間にいるのは、間違いなくフルフル変種特異個体だった。鼻を動かしてジークたちの正確な位置を把握したフルフル変種は、大きく口を開いたまま尻尾を雪に向かって突き刺した。

 

「ブレスが来るぞ!」

 

 マルクの言葉にいち早く反応したルーナは、フルフルのブレスが三方向へと伸びてくることを理解していた。急いでフルフル変種の前から移動したルーナは、弱点である火属性の矢を放った。粘液に覆われたブヨブヨとした皮膚を纏い、鱗や甲殻を全く持たないフルフルは、その粘液が熱に弱いために火属性の攻撃が有効だと言われている。

 フルフルがゆったりとした動きからブレスを吐いた。目の前にいるハンターのことを嗅覚で感じ取っているフルフルは、まだハンターたちのことを餌程度の認識しかしていなかった。ルーナが放った矢もフルフルが動いたせいで当たることはなかった。ただでさえ吹雪で視界が悪い中、雪の中で保護色のように認識し辛い身体である。しかも、フルフルは洞窟の中で吸盤上になっている尻尾や足を使って天井を這いまわる生態のため、目が完全に退化しきって嗅覚でのみ獲物を認識する。つまり、視界不良になる吹雪の中でも、フルフルにはハンター四人の位置がはっきりと認識できているのだ。

 

「おぉ!?」

「数が多いっ!?」

 

 フルフル変種の口から、人間の胴体ぐらいの大きさの電撃の塊が地面を這いながら真っ直ぐ飛び出した。特殊な形状のブレスに驚いたジークがブレスを一つ避けると、次のブレスがすぐ目の前に迫っていた。咄嗟に腕の力だけで自分の身体を浮かせたジークの下を通り抜けていったブレスの次に、再びブレスが放たれる。三方向へと放たれる雷のブレスを幾度も発射するフルフル変種に驚きながら、ジークはなんとかブレスの射線上から逃れた。ヘヴィボウガンを構えようとしていたエルスと、双剣を持って突っ込もうとしていたマルクもなんとかブレスを避けきっていた。

 

「おいおい。どんな発電量してんだ?」

 

 途方もないほどの電気を口から放っていながら、フルフル変種は平然と鼻を動かしていた。ブレスでは誰も仕留められなかったことに気が付いたフルフル変種は、大きく空気を吸い込んでから咆哮を放った。雪山に響くフルフル変種の咆哮は、フルフル自身が崩した雪の塊を吹き飛ばした。

 

「上等じゃない!」

「私は突っ込むぞ!」

 

 極大の咆哮による威嚇を受けて、ルーナとマルクが走り出した。それなりに血気盛んな性格をしている二人が走り出すことを予測していたのか、エルスは冷静にヘヴィボウガンを構えてジークの方へと視線を向けた。

 

「さて……俺はどうしようかね」

 

 エルスの視線に肩を竦めたジークだが、実はルーナとマルクの行動が正解なのだろうと考えていた。フルフルが口から放つ電撃は人間が真正面からなんの対策もせずに受ければ、身体がまともに言うことを聞かなくなるほどの電圧である。フルフルがブレスを吐く状況は、獲物が遠く離れた所にいる時だけであり、ブレスを吐かせないために接近するのはそれほど悪手とも言えない。

 

「はぁッ!」

 

 マルクは自らの双剣である「メルトコマンダー」を握りしめ、フルフル変種の身体へと振るう。フルフルの身体を覆うブヨブヨとした皮は、打撃に極端に強いが斬撃には弱い。マルクの振るった双剣は特に抵抗もなく、するりとフルフル変種の皮を切り裂いた。それに気分を良くしたマルクは、そのまま双剣をもう一度振りぬくと、今度はまるで金属を斬りつけたかのような感触が手に響いた。

 

「な、なんだぁっ!?」

「馬鹿! フルフルの尻尾は硬いのよ!」

 

 身体を斬りつけられたフルフル変種は、マルクの二度目の斬撃に合わせて身体を回転させて尻尾をぶつけた。基本的に身体全体が斬撃弱いフルフルの肉体だが、尻尾だけは例外としてなんの攻撃も通さないほどの硬度が存在する。弾かれはしなかったが、途轍もなく硬い部位を攻撃したことによって腕が痺れるような感覚を味わったマルクは、振り返ったフルフルの首が伸びてきたのを見て頬を引き攣らせた。

 

「いやぁっ!?」

「あぁもう!」

 

 生物としては本来あり得ないような首の動きに生理的な嫌悪感を隠せないマルクを助けるため、ルーナはフルフルを牽制するように矢を放った。首の関節を自ら外して首を伸ばしていたフルフル変種は、放たれたルーナの矢を嫌って首を元に戻すと、羽を使って空に飛んだ。

 

「狙い撃つわ」

 

 飛竜種らしく翼を使って空を飛んだフルフル変種だが、まだハンターたちのことは獲物と認識しているのか、地面すれすれの高度のまま旋回していた。ヘヴィボウガンを構えてタイミングを待っていたエルスは、フルフル変種が旋回する場所を狙って貫通弾を数発放った。飛竜種の中でも身体能力が秀でている訳ではないフルフルだが、変種である狩猟対象のフルフルは、空中で滞空しながらエルスが放った貫通弾を器用に避け、一発の被弾で済んでいた。同時に、口に電撃を溜めながら滞空を続け、その口を狩りが始まった瞬間から動いていなかったジークへと向けた。

 

「ん? 俺か?」

 

 フルフル変種が地面に着地すると同時に、口に溜めていた電撃ブレスを解放した。地面を這いなら一直線に向かってくるブレスを見て、ジークは笑みを浮かべてブレスに向かって走り出した。向かってくるブレスを飛び越えるように飛んだジークは、着地すると同時に背中に背負っていたランスを突き出したままフルフル変種へと向かって突っ込んだ。

 

「無茶苦茶な狩りするんだから!」

「くっ! 負けていられない!」

 

 勢いのままヴァシムホーンを胴体に突き刺さしたジークを見て、ルーナは無謀な男を支援するために矢を構え、マルクは一見すると無謀にしか思えないような行動をしていながら、攻撃を受けることも無くフルフルへと接近する技術に負けていられないといいながら双剣を構えた。

 胴体へヴァシムホーンを突き刺したジークは、通常の飛竜種と違い、筋肉や骨格の動きから相手の行動を把握できないフルフルに対し、どう攻撃していくのが効果的かと考えながら、伸ばされた首を盾で防ぎ、振り回される尻尾も姿勢を低くして避ける。物理的な攻撃が通用しないと悟ったフルフル変種は、尻尾の先を再び地面へと貼り付けて、身体の内にある発電器官を稼働させていく。人間が受ければ一瞬で身体の自由を奪われてしまうような電撃だが、フルフルはそのブヨブヨとした特殊な皮膚の影響もあって電撃などまるで感じずに放電することができる。

 

「放電するわよ! 下がるなさい!」

「おっと」

 

 矢と共に放たれたルーナの言葉で、ジークはフルフル変種から距離を取る為に槍を引いた。自身の身体だけ引いても、槍がフルフルの身体に突き刺さっていればジークへとあっという間に感電してしまう。人を簡単に殺せるような放電を始めたフルフル変種は、放電した瞬間にジークが傍にいないことと、ルーナとエルスの放つ遠距離攻撃が風を切って身体に突き刺さったことを感じとる。プロミネンスボウから伝わる火竜の熱と、ローゼンプリーマから放たれた火炎弾を受けて、フルフル変種は放電を半端なところで止めた。

 

「はぁッ!」

 

 姉の火炎弾でフルフル変種が絶対に怯むと、謎の確信を持っていたマルクは、フルフル変種が放電を止めるよりも先に走り出していた。結果的にジークよりも動き出しの早かったマルクは、一気にフルフル変種へと接近してメルトコマンダーを首筋に突き刺した。グラビモス変種の素材によって生み出された双剣は、熱と共に出血性の毒をフルフル変種の体内に流し込んでいく。変種特異個体ともなると毒に対する耐性も、並のモンスターよりも遥かに高いが、マルクの持っているメルトコマンダーもまた、変種の素材によって生み出された業物である。

 

「チャンス!」

「わかってる!」

 

 マルクが生物の急所である首筋に剣を突き立てた瞬間に、ジークはルーナとエルスに向かって叫んだ。すぐに矢を構えるルーナと、既に火炎弾を放っていたマルクの対応速度の違いは、マルクへと理解度の差である。ルーナがロックラックでずっと組んでいたダルクの動きを予測できるのと同じく、エルスは双子の妹であり、ドンドルマ時代にずっと組んでいたマルクの動きを完全に予測していたのだ。首を攻撃されたフルフル変種が放電をしようと動いた瞬間に、左足へと火炎弾が突き刺さり、一瞬遅れて火属性をまとった矢が翼に刺さる。

 

「流石だ、姉さん!」

 

 ルーナの矢は確実にフルフル変種へとダメージを与えていたが、エルスの放った火炎弾はフルフル変種にはそこまでのダメージになっていなかった。しかし、マルクはエルスが火炎弾を足に放ったことに笑みを浮かべたまま、双剣を首から抜いて迫りくる口を避け、雪を滑るように移動しながら火炎弾が刺さって軽い火傷になっている足へと双剣を振るった。

 

「俺も前に出る!」

「任せなさい!」

「……ジークの援護もしないとね」

 

 火炎弾を受け、間髪を容れずにメルトコマンダーによって足を斬りつけられたフルフル変種は、バランスを保てずにそのまま雪の上に倒れ込んだ。その隙を逃すつもりもないジークは、すぐさまランスを構えたまま走り出し、ジークの動きに合わせるようにルーナは弓を構えた。

 ジークたちの視界を阻害していた雪山の吹雪は、少しずつ弱まっていた。




(ところで、フルフルの奇怪竜ってゼルレウスの輝界竜と読み一緒ですよね)
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