狩人の頂 作:ばるむんく
「ここで畳み掛ける!」
「勿論だとも!」
足を掬われて転倒させられたフルフルに、ジークとマルクが追撃を加えた。もがきながらハンターから逃れようとするフルフル変種は、続けざまに身体へと与えられる傷に悲鳴を上げていた。
「二人して勝手に動いてくれて! 援護するのだって簡単じゃないのよ!?」
双剣を持つマルクが怒涛の連撃をしかけ、攻撃の合間にジークが前に出てランスを突き刺す。ジークとマルクは、示し合わせたかのように二人で前後に動きながら手数と威力を補っていた。縦横無尽に動き回る二人に当たらないように矢を放とうとするルーナは、通常のハンターからは考えられないような、アクロバティックな動きを見せる二人に文句を言いながらも、二人の動きを完全に見切って矢を連射していた。普通の弓使いのハンターならば、他のハンターがモンスターに肉薄していれば手数を減らしたり、近接武器を持つハンターが狙っていない部位を攻撃する。しかし、ルーナは二人の動きを頭に入れて、狩場に吹いている風の強さや方向などを瞬時に頭の中で計算することで、二人に当たらないようにしながらも矢を連射し続けることができていた。
「……才能かしら。正直、羨ましいわ」
口からは文句ばかり出てくるルーナの、その圧倒的なまでの弓を扱うに長けている才能を目にして、ヘヴィボウガンを構えているエルスは苦笑を浮かべた。ジークとマルクも、ルーナとは違う方向に天性の才能を示している中、エルスは徹甲榴弾を装填して頭に狙いをつけていた。
「私にできるのは、皆が狩りやすくすることね」
しっかりと頭に狙いをつけて放たれた徹甲榴弾は、弱まってきているとはいえ、雪山の吹雪をものともせずに真っ直ぐ頭に向かって飛んでいき、フルフル変種の頭に突き刺さった。数秒後に徹甲榴弾が爆発を起こし、フルフル変種は頭に衝撃を受ける。
フルフル変種はなんとか立ち上がることに成功したが、左半身は既にハンター四人によってボロボロにされ、身体中から血液が垂れ流されていた。口から少量の電撃を発しながら、フルフル変種は大きな咆哮を上げた。それは、狩りの最初に行った餌に対する威嚇行為ではなく、外敵を殺す為に放たれた殺意の咆哮である。ここにきて、フルフル変種は嗅覚で感じ取った四人の人間が、自分に食べられる餌ではなく、自らの命を脅かしに来た外敵であることを認めたのだ。
「ビリビリ来るな……威圧感が変わった。マルクさん、突っ込み過ぎないでくださいよ」
「問題ない。突っ込んでも死ぬことはないからな」
「そういう話じゃないんですけど……ねッ!」
マルクのよくわからない自身に苦笑いを浮かべながら、全身に電撃を纏って突進してきたフルフル変種を、横に転がることで避けたジークは、続けざまに伸ばされた首を盾で弾いた。頭を盾で弾かれた衝撃で動きが止まった瞬間に、フルフル変種の頭には再び徹甲榴弾が突き刺さる。同時に、マルクは徹甲榴弾の爆発範囲から逃れながら、双剣を胴体に振るった。
「流石姉妹。俺たちとは連携の上手さが段違いだな」
「誰があんたと連携なんかしてるのよ。あたしは自分のタイミングで撃ってるだけよ」
「それを連携って言うんだよ。頼むぞルーナ」
「き、気安く呼ぶな!」
破天荒な動きだが、しっかりとした連携を行っている双子に感心したような顔をしているジークは、背後から近づいてきたルーナに信頼を向けながら、フルフル変種に向かって走り出した。ジークに信頼を向けられて顔を赤らめたルーナは、否定する様な言葉を吐きながらもフルフル変種へと向かって矢を放った。
「仲がいいのか?」
「俺としては仲良くしたいんですけどね」
「そうかい……なら、さっさとこいつを倒して女性の扱いに関して、レクチャーしてあげようじゃないか」
「……結構です」
芝居がかったような言動を見せるマルクに、エルスは離れた距離から呆れた様なため息を吐いた。ジークも狩りの腕はそれなりに信用しているが、個人の相談相手としては全く信用していないマルクの言葉には素っ気ない返事をした。ジークの返答に少し不満気な顔をしたマルクだったが、フルフル変種が身体から電気を放出した瞬間に目つきを変えて、メルトコマンダーを強く握り直した。
「……なんだか放出量が上がっていないか?」
「気のせい、じゃなさそうですね。動きも早くなってますし……だいぶキレてますよ、これ」
全身に青い血管が浮き出しているフルフル変種は、息を荒くしながら口からも身体からも電気を自然に放出していた。外敵と相対した状態のフルフルがどうなるかなど、詳細を知っている訳ではないジークだが、今のフルフルの見た目が普通ではないことはすぐに理解できた。
身体から電気を放出しながらゆっくりと歩いていたフルフル変種は、前触れもなく口から電撃の塊をジークとマルクに向かって吐き出した。
「おっと」
「はぁ!」
ジークは盾を前に構えながら後ろに下がり、マルクは双剣を手にしたままフルフル変種へと接近した。同時に、フルフル変種は全身から電撃を発しながら勢いよく地面を蹴ってマルクへと向かって加速した。フルフル変種の突進に咄嗟の反応しかできなかったマルクは、メルトコマンダーで自分を庇うように防御の態勢を取ったが、ランスの盾のようにはいかずに全身に伝わる電撃と共に後ろに吹き飛ばされた。
「ちょっ!? 大丈夫ですか!?」
ランスを構え、フルフル変種へと踏み出そうとした瞬間に横を抜けていったマルクに、ジークは声をかけたが、そんなことはお構いなしにボディプレスをしてくるフルフル変種から逃れるため、ジークは横に転がる。受け身を取ると同時にランスを突き出したジークだが、フルフル変種が身体を捩ったことで首を掠めただけで終わり、フルフル変種は再び身体に電撃を纏った。
「くぅ……流石に、効くな……」
「馬鹿。見境なく突進するからよ」
「手厳しいな、姉さん」
ヘヴィボウガンを構えていたエルスの隣まで転がってきたマルクに、ため息を吐きながら回復薬を差し出したエルスは、ジークとルーナがフルフル変種と一進一退を続けているのを見ていた。電撃のブレスを放てば予測していたようにジークがそれを避け、空いたスペースからルーナが矢を放つ。ジークがランスを突き出せば、フルフル変種は柔らかい身体を利用して無理やりな態勢で攻撃を避け、飛んでくる矢を噛み砕く。どちらも有効な一撃を繰り出せない状況になっているのを見て、エルスはスコープを覗き込んだまま引き金を引いた。
「っ! エルスさんか」
「チャンスよ!」
「わかってる!」
ジークを襲おうとしていたフルフル変種の頭に、正確無比に突き刺さった徹甲榴弾を見て、ジークは背後からの援護であることにすぐに気が付き、地面に落ちていた槍を拾って接近した。
首を伸ばした先で的確に徹甲榴弾を受けたフルフル変種は、一瞬の空白の後に起こった爆発を受けて、身体をよろめかせた。狩猟が始まってから幾度か受けた頭への爆発に、怒りを見せるフルフル変種だったが、その足取りはふらふらと覚束ないものだった。徹甲榴弾の爆発が与える衝撃は、ハンマーには遠く及ばないものの、モンスターの脳を揺さぶるには充分なものである。頭を揺さぶられたことで思考が安定しないフルフル変種は、嗅覚による索敵が一瞬止まった。その隙に、ジークとルーナは自らの位置を悟らせないように大きく場所を変えた。
「残念。外れだ!」
頭を無理やり働かせたフルフル変種は、先程までジークとルーナが立っていた方向へとブレスを何度も放ったが、既にルーナとジークは全く別の方向にいる。ジークはフルフル変種の斜め後ろ方向から足の付け根へとランスを突き刺し、ルーナは背後から胴体と翼に矢を放つ。
「私も、まだやれるさ……」
「ならお願いするわ。ジークのこと」
「……複雑な気分だな。姉さんに人のことを頼まれると」
「そうかしら? でも仕方ないわ。私たちの大事な猟団長だもの」
マルクの複雑そうな顔に対して、エルスは小さく笑みを浮かべながらも念を押した。割り切った様な頷いたマルクが駆けだすのを見て、エルスは妹に信頼を寄せられることに少しだけ爽やかな気分を味わいながらも、しっかりとフルフルに照準を合わせていた。
「お前の敵であるマルクはここだ! ここにいるぞッ!」
「……フルフルって聴覚はどうなんだ?」
「さぁ? それなりに良さそうに見えるけど」
自分の存在を誇示するように叫びながら走るマルクを見て、ジークはフルフルが聴覚に優れているのかどうかを疑問に思った。視覚が失われていることは知っているが、聴覚を失ったとは聞いたことが無いルーナは、ジークの言葉に適当に返事をしながら、しっかりとマルクの方へと顔を向けたフルフル変種に狙いを定めて弓を構えた。
尊敬している姉から、自分以外のことを信頼しているような言葉を聞かされ、なんだかモヤモヤとした気持ちを抱えながら走るマルクは、名乗りを聞いてしっかりと顔を向けたフルフル変種を前にして余計な思考を捨てて加速した。
「あそこからまだ速くなるのか……」
「……援護しにくいわね」
「俺に合わせて援護してくれ。そうすればマルクさんにも当たらない」
「わかったわ……あんたを信頼してる訳じゃないからね?」
「余計な一言さえ無ければなぁ」
「うっさい!」
苦笑いを浮かべながら走り出したジークに強い言葉をぶつけながら、ルーナはしっかりとジークの動きだけを見ていた。とんでもない速度で無茶苦茶な動きをするマルクを援護するために、ルーナはジークの動きに集中していた。無茶苦茶な動きをしているマルクだが、それに対して的確な援護をしているエルスも含めて、ジークの動きを阻害する様な攻撃は行っていない。つまり、ジークの行動に合わせて最適な援護をすれば、ルーナは必然的にマルクを邪魔せずに済む。
「っ! やるな、ジーク!」
「そちらこそ、正直マルクさんの実力を過小評価してましたよ」
「そうか。なら正当な評価に改めるといい!」
フルフル変種の放電を避けるために動いたジークとマルクは、同じ場所へと避けていた。横にやってきたマルクがジークへと楽しそうに声をかければ、苦笑と共にマルクを侮っていたという告白をする。二人が共に狩りに出たのはこれが初めてのことであり、ジークがマルクの実力を過小評価していたのも無理のない話である。なにせ、ジークが普段からエルスに聞かされるマルクの話は、失敗談が基本なのだから。マルクもそのことを理解していたので、挑戦的な笑みを浮かべていた。
「さぁ、あとひと押しだ!」
「あぁ!」
既にフルフル変種は瀕死状態である。全身から血を流し、ルーナが放った矢が幾つも刺さっている。マルクとジークが与えた裂傷も数多く、エルスが放った貫通弾が貫いた部分も数か所あり、未だに動いて放電を続けていることの方が不思議なくらいの傷を負いながらも、フルフル変種は足を止めていなかった。近寄ってくるジークとマルクに向けてブレスを吐き、飛来してくる矢と弾丸を無視して、左右に別れたジークの方へと向かって飛び掛かる。
「んっ!?」
飛び上がったフルフルを見上げたジークの顔、その横すれすれを飛んでいった矢が、空中にいたフルフル変種の下腹部に突き刺さった。空中でバランスを崩したフルフル変種は、そのままジークを飛び越えて雪の中に顔を突っ込みながら、全身から電気を放っていた。
「……終わりだな」
雪の中でもがいているフルフルに、容赦なく降り注ぐ矢と弾丸を見ながら、ジークはヴァシムホーンを構えて、首に狙いを定めた。全身から放たれていた電撃が緩んだ瞬間に、ジークは一歩踏み込んでフルフル変種の首へとランスを突き出し、吹き上がった大量の鮮血が真っ白な雪を赤く染め上げた。
「フルフル変種特異個体の討伐、お疲れ様でした! いやー、変種特異個体なんて討伐してくれる人あんまりいないので、助かりましたよぉ。メゼポルタのハンターじゃないと駄目だーって上の人も言いますし、でも狩人祭ももう中盤なんてとっくに過ぎて、上の方の人たちはクエストが多いから、ってみんなドンドルマの方に行くじゃないですか!?」
「そう、ですね?」
「なのに変種特異個体なんて出てこられたらたまったもんじゃないですよ。ねぇ?」
「そうねぇ……でも、あなたたちが狩猟してくれて助かったわ~」
フルフルの討伐を終えたジークたちは、ポッケ村へと帰還してテンションの高い受付嬢の言葉を聞いていた。メゼポルタ出張所に何故かいるポッケ村ギルドマネージャーも、受付嬢と一緒に頷いていた。仕事ができそうな見た目をしているのに、実はそこまでできる訳ではないという評判があるポッケ村のギルドマネージャーだが、おっとりとした天然系で受付嬢の言葉に適当に頷いているようにしかジークには見えなかった。
「……まぁ、よかったですね」
「適当に諦めるんじゃないわよ。あたしらだって忙しいのに」
「あ、ごめんなさい。ハンターさんに愚痴を言っても仕方ないですよね……でも、流石話題の『ラグナロク』親猟団の猟団長さんですね!」
「ど、どうも?」
なにが流石なのかもわからずに報酬を受け取るジークに、ルーナは大きなため息を吐いた。
受付嬢のテンションはおかしいが、彼女の言っていることは全て正しいことだった。メゼポルタのハンターたちも、狩人祭が終盤になろうかというこの時期になると、クエスト数が多いドンドルマの方へと集中していくことになる。狩人祭中、フォンロン地方へと移転する前にドンドルマ近郊で開かれていた、旧メゼポルタ広場を仮設で復活させて、メゼポルタ出張所として活用しているドンドルマには、多くのメゼポルタハンターが入り乱れており、この時期に限ればフォンロン地方のメゼポルタ広場よりもドンドルマの旧メゼポルタ広場の方が賑わっている。
「それで、これからジークさんたちはどうするんですか?」
「俺はミナガルデの方に行って、リオレウスとリオレイアの狩猟でも行こうと思ってたんですけどね……」
「あら。もう行っちゃうの~? もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「あはは……そうも言ってられないんですよ」
狩人祭もそろそろ終盤になろうかという状況で、ジークたち『ラグナロク』は狩人祭のランキングで上位に位置していた。上にはまだ幾つかの同盟があるが、一番上に位置している『円卓』と『プレアデス』に追いつくためには、更にスパートをかけて行かなければならない。紅竜組と蒼竜組の勝負は、単純に『プレアデス』と『ラグナロク』がいる蒼竜組が押している状況だが、同盟単体で見ると『円卓』と『プレアデス』はまだ『ラグナロク』よりも上にいた。
「あたしはメゼポルタに戻るわ。色々と狩りたいモンスターもいるし」
「マルクと私はポッケ村に残る」
「姉さんもいるし、ウルフとディアナも残っているからなぁ」
「そうか」
ここで三人とは別れて、ジークは再び一人で違う場所へと向かうことになる。狩人祭中にはいくつかの拠点を経由しながら色々なモンスターを狩っているジークは、入魂数を個人で見ると最上位に位置している。
「大変ですねぇ……頑張ってください!」
「あ、あぁ……」
フルフル変種特異個体を狩猟した分の「魂」を、計算し終えた受付嬢から用紙に記入してもらいながら、ジークは苦笑いを浮かべていた。
「ちっ……思ったよりやるじゃねぇか」
「ど、どうするんですか?」
「あ? なにもする必要はねぇよ。ただ、無視できる影響力じゃねぇのは確かだな」
ドンドルマにあるハンター専用の客室で、狩人祭の中間結果が記された書類を見ながら呟く男と、周囲には少し焦った様な顔をしているハンターたち。彼らは『カリバーン』の名前を背負うハンターたちであり、同盟『円卓』のリーダーを務めるメゼポルタの双璧、その一角である。
「エイン、俺たちは特別なことはしなくていい、と?」
「どっちにしろ俺ら紅竜組の負けはほぼ確定みたいなもんだ。だが、同盟一つとしての貢献度で見れば問題はねぇ……はずだったんだがな」
「『ラグナロク』か……あの『ゴエティア』が入る同盟なんぞ、碌なもんじゃないと思ったんだがな」
自身の副官の言葉に頷いた猟団長エインは、書類に書かれているメゼポルタ双璧のもう片方である『アイギス』へと目を向けた。
「ランスロット、狩りに出るぞ」
「また、か?」
「当たり前だ。あの女に負けてられっかよ」
副官であるランスロットに声をかけながら大剣に手をかけたエインを見て、周囲のハンターたちは息を呑んだ。言葉は大人しいものだったが、エインの口には凶悪な笑みが浮かんでいた。
「……楽しそうだな」
「久しぶりに、あの女以外に歯ごたえのある連中が出てきたんだ。楽しくもなるさ」
「そうか」
獰猛な笑みを浮かべる猟団長の姿に、猟団員は恐怖を覚える者と、逆に興奮している者の二通りに分けられていた。
「俺ら『円卓』が数だけで強いと思ってもらっちゃ困る。さくっとモンスターでも狩りに行くぞお前ら!」
「うぉー!」
「やっとか団長!」
興奮が高まったハンターたちが、エインの言葉に呼応するように立ち上がって雄叫びを上げていた。まるで獣の群れが動くように、歯を剥き出しにして獰猛な顔を見せる猟団員たちを見て、ランスロットは苦笑いを浮かべていた。
「クソッ!? あの生意気な連中が私たちのすぐ下にいるだと!? 認められるか!」
「ひっ!? で、でも……メゼポルタの公式発表ですよ?」
「ふざけるなッ!」
「ひぃっ!?」
メゼポルタの猟団部屋で、エーギルは報告に来ていた猟団員に怒鳴り散らしていた。団員が持ってきた中間発表の用紙には、愚かしくもメゼポルタの双璧であるどちらの猟団にも同時に喧嘩を売った『ラグナロク』の文字が、エーギルが所属している『プレアデス』のすぐ下にまで迫っていた。
「見苦しいことは止めなさい」
「団長! しかし!」
「二度は言いません」
「……申し訳ありません」
怒り狂っていたエーギルを鎮めた『アイギス』猟団長であるセティは、ほっとしたような顔をしている団員から受け取った書類を見て、一瞬だけ顔を顰めた。普段から殆ど表情の変わらないセティの表情が動いたことに、周囲のハンターたちは驚いたような視線を向けるが、セティはそんなことなかったかのように視線を無視していた。
「ティナ、何故貴女が……」
金髪を揺らしながら、セティは『ラグナロク』の文字をずっと見つめていた。彼女の妹であるティナが『ラグナロク』の親猟団である『ニーベルング』の副猟団長であるとセティが知ったのは、狩人祭が始まってからだった。宣戦布告してきた同盟の主力メンバーを調べておこうとした時に、その名前を副猟団長の欄に見つけてしまったのだ。
「……エーギル」
「なんでしょうか」
「各地に散った『プレアデス』の様子は?」
「順調に狩りを進めています。このままやっていれば蒼竜組は勝ち、同盟としてもトップに立てるかと」
「…………特別なことをしなければ、ですか」
エーギルは敬愛するセティが統べる『プレアデス』に逆らった『ラグナロク』のことを、気に入らない生意気な同盟程度にしか考えていなかったが、セティはその脅威性を正しく認識していた。
メゼポルタで双璧をなしている『円卓』と『プレアデス』には、上限である、80人程度の凄腕ハンターが所属している。加えて傘下の同盟も数多く存在し、その規模と組織力は小さな地方の小さなハンターズギルドをも超えるものとなっている。そんな二つの猟団に喧嘩を売った『ラグナロク』のことを、セティも当初は無謀な物だと思っていたが、狩人祭中にどんどんと頭角を現してくるハンターたちに脅威を感じ取っていた。
「明日には狩りにでます」
「せ、セティさんが直接、ですか? お言葉ですが、セティさんはもう狩猟に出なくとも勝てると……」
「本気で思っているのですか? この中間結果を見て?」
セティの狩猟に出掛ける宣言に難色を示すエーギルに対して、セティは中間結果を見せた。同盟だけで見た場合には『円卓』と『プレアデス』が上二つに君臨していること以外、別に読み取ることがない。そう考えたのはエーギルだけではなく、その場にいた他の猟団員たちもそう考えていた。
「その考えではこの狩人祭、負けることになりますよ」
その一言だけを残して猟団部屋から去っていくセティを、エーギルたちは呆然と見ていることしかできなかった。
「ふぅ……ミナガルデまでもう少しか……」
「ん? 我らが盟主じゃないか」
リオレウスとリオレイアの二頭を目的として、ミナガルデまで移動する中間地点として立ち寄ったドンドルマで、ジークは声をかけられて振り返った先にいた女性の姿を見て苦笑いを浮かべた。
「どうも、ベレシスさん」
「狩人祭というのは、どうも退屈な狩りが多くて……な」
「あはは……上位相当のモンスターも多いですからね」
ジークもヒプノック奇種からフルフル変種を倒し、そのままドンドルマまで向かって来ている前、ディアブロス奇種を討伐してからしばらくはドンドルマに留まって、多くのモンスターを狩っていた。同行していたヴィネアが欠伸するような戦闘ばかりだったが、かなりの「魂」を稼いだのも事実だった。
「これからどうするつもりだった? 暇なら是非とも狩りに付いて来てもらいたい所だが……移動中のようだな」
「このままミナガルデの方まで行こうかと。ネルバさんたちも森丘にいると聞きましたし」
「そうか。ならまた会おう」
「……案外さっぱりしてる人だよなぁ」
ジークがミナガルデへと行くことを告げると、納得したような顔を見せるとすぐに踵を返して、旧メゼポルタ広場へと向かって歩いていった。ドライとも取れるような行動だったが、ジークにはさっぱりした人という風に見えていた。
「さて、さっさと行くか」
標的としているリオレウスとリオレイアは変種かどうかもわかっていないらしく、すぐに行かなければ誰かに横から取られてしまうこともあり得る。ベレシスに語ったように、ネルバたち『ロームルス』の主力メンバーが、森丘を拠点にして動いていると聞いていたのも、理由の一つではあった。
ジークから離れたベレシスは、少し残念そうな顔をしながらドンドルマの街を歩いていた。
「ふむ……森丘と言えば、最近新しいリオス夫妻が、ココット村近くに巣を作ってしまったと聞いたな……それ目当てか……」
「あ、ベレシスさん!」
「なんの用だ、ハルファス」
「なんの用だ、じゃないですよ……何処行ってたんですかぁ……」
ドンドルマを走り回ってベレシスを探していたのか、肩で息をしながらベレシスに非難の目を向けるハルファスだったが、ベレシスはさっさと用件を話せと言わんばかりの、面倒くさそうな目をしていた。これ以上、彼女に何を言っても無駄だと判断したハルファスは、顔にかかっていた髪をかきあげながらベレシスに近づいた。
「沼地が急に立ち入り禁止になったんです。噂だとギルドナイトも調査に出た、とか」
「なに? ギルドナイトが?」
周囲に聞こえないように小声で喋ったハルファスの言葉に、ベレシスは興味を向けた。クルプティオス湿地帯と言えば、ベレシスも最近狩りに行ったばかりの土地であり、立ち入り禁止になるような場所ではない。しかもドンドルマ直属のギルドナイトが出張るような状況となれば、密猟者でも出た可能性があると考えるのが妥当である。しかし、ベレシスの頭には違う考えが浮かんでいた。
「立ち入り禁止になった理由は説明されているのか?」
「そ、それが全く説明されていないんですよ。密猟者の処分とかだったら、多分説明しないんでしょうけど」
「……そんなものより、面白いものが出たんだろう」
「お、面白いものですか?」
今や世界の中心として、もっとも栄えた街であるドンドルマ。そこに所属するハンターは、筋金入りのエリート集団ではあるが、そんな彼らでも狩ってはいけないモンスターが存在する。ベレシスが獰猛な笑みを浮かべた理由がわからないハルファスは、びくびくしながらベレシスの言う面白いものがなにかを聞いた。
「同じように砂漠が立ち入り禁止になった過去を私は知っている。あの時もなんの説明もなく、砂漠に立ち入ることだけが禁止されていたな。ドンドルマのハンターたちも密猟者が出たのではないかと大騒ぎになっていたが、その「原因」は私たちが狩猟して終わった」
昔を懐かしむように遠くへと目を向けるベレシスの言葉を聞いて、ハルファスは息を呑んだ。過去を語るベレシスは大抵、今のように獰猛な笑みを浮かべるか、つまらなさそうに思い出しているかのどちらかである。そして、昔を思い出しながら笑みを浮かべている時は、総じて過去の狩猟を思い出している時だ。
「げ、原因を狩猟?」
「間違いない。古龍の剛種が出たと見るべきだろう」
「こ、古龍の剛種ッ!?」
ベレシスが断言した古龍の剛種という言葉に、ハルファスは意識が遠のきそうだった。上位ハンターとして『ゴエティア』に所属しているハルファスだが、人外のような動きを見せる主力メンバーと違って、彼女は基本に忠実な模範的なハンターである。そんな彼女にとって、古龍の剛種というのは過去にメゼポルタ広場を壊滅寸前まで追いやった、クシャルダオラ剛種の話を知っている程度である。あれだけの凄腕ハンターが揃うメゼポルタ広場を、壊滅寸前まで追いやった過去の話を聞いた時から、ハルファスは絶対に古龍の剛種になど近寄らないと決めていた。
「ど、どうするんですかッ!?」
「ギルドナイトの調査が終了して、無事に帰還したらすぐに狩猟依頼が出る……帰還出来たら、な?」
「ひぃッ!?」
何頭かの古龍の剛種とも戦ったことがあるベレシスは、ドンドルマ直属のギルドナイトとは言え、高い確率で全滅して帰ってくるだろうと予想していた。メゼポルタのハンターと比べて実力が足りないと言う訳ではなく、単純に剛種という存在に対する経験と理解が圧倒的に足りていないからである。
「ジーク……なるべく早く帰ってこい。楽しそうな狩りは全部私が持っていってしまうぞ?」
ベレシスはさっき別れたばかりのジークを思い出し、一人で騒いでいるハルファスを無視して、好戦的な笑みを浮かべていた。
リオス夫妻は書きません
次は沼地に現れた古龍の剛種を狩りに行きます
次の狩りで狩人祭が終わります
長かった……