狩人の頂 作:ばるむんく
この小説の目標であるMHFのオリジナルモンスターを全て書く、の第一歩であるヒプノックです。
因みに、オリジナルモンスターは極み個体、辿異種とラヴィエンテ三種類を含めて(ロロ、レイを一種扱いで)92種です。
「いやー……樹海は近くていいな」
「そうですね」
アプトノスの引く荷車に乗りながら呑気に言うジークに、ウィルは苦笑していた。それでもしっかりと武器を手入れしていることから、自分よりも少しだけ先輩のハンターなのだろうと思った。
「ジークさんは何歳なんですか?」
「俺は今年18になるな。ハンター歴で言うと三年かな?」
「そうなんですか……僕はまだハンターなり立てで……今年16になります」
自分よりも年下のハンターに今まであまり会ったことの無かったジークとしては、珍しい物を見たと言わんばかりに少しだけ驚いてからウィルを観察していた。ハンターとしては小柄で、ジークよりも頭一つ低い身長に背丈程もある大剣を持つアンバランスさに、不思議と危な気を感じない雰囲気を持つ。
「大剣はよく使うのか?」
「はい。僕は大剣とガンランスとヘヴィボウガンが得意ですかね。何故か重い武器の方がしっくりきて」
少しだけ照れた様に笑うウィルに、ジークは成程と一人で納得した。小柄のまま大剣を背負っているのに違和感を覚えない理由は、その使い慣れている所作にあったのだろう。実際、大剣などの大型武器を使う場合は当然筋力があるに越したことは無いが、ハンターの技量次第ではいくらでも補うことができる。
「ジークさんは太刀ですか?」
「いや、俺は基本的になんでも使うよ」
「なんでも、ですか? すごいですね」
ウィルの質問にさらっと答えたジークだが、ハンターにおいて得意武器が明確に存在しないハンターは大変珍しい。扱える武器が無いのではなく、全ての武器をそれなりに扱えるということがジークの異常性を表していた。
「ヒプノックなんて聞いたことも無いから、取り敢えず一番新しく作って貰った武器でいいかと思ってな」
親方に作って貰った太刀であるイニティソードは、それなりの切れ味でモンスターの甲殻を易々と切り裂いてしまえる。これ程の武器を簡単に初心者ハンターであるジークに渡せると言うのだから、メゼポルタの技術は途方もない物である。
「ヒプノックの資料、僕持ってますよ」
「へぇ……王立古生物書士隊のモンスター資料か」
「はい。幸いにもヒプノックは結構目撃情報も多くて情報もばっちりです」
ウィルが懐から取り出した小さめの冊子には、王立古生物書士隊が事細かに調べて書いたモンスターの資料集だった。幾つかのページをパラパラと捲っていくと、鳥竜種のカテゴリーの後ろの方にヒプノックの名前が記載されていた。
「えーっと……眠鳥ヒプノックは餌として摂取した眠魚やネムリ草の成分を吐きだして、相手を昏睡させるらしいです。基本的には臆病な性格で、外敵に対しても眠らせたまま放置して逃げることが多いそうです」
「へぇ……」
それならばヒプノックにとって睡眠成分のあるガスはとても有用なのだろう。どんな外敵も眠らせてしまえば逃げきることは容易であるのだから。臆病な性格であるのならばそれ相応の戦い方が存在する。
これから遭遇する、ジークにとっては未知のモンスターであるヒプノックの情報を見ながら、荷車はアプトノスに引かれて樹海の奥地まで入り込んでいく。
雨がまばらに降っている中、ジークとウィルはヒプノックを狩るための準備を進めていた。相手は大型モンスターの中でもそこまで強くないと言っても、当然それなりの力を持っているモンスターなので、準備からして念入りにしているのだ。
「えーっと……支給品は半々で持っていくとして……」
青の支給品ボックスから支給品を取り出したジークは、テント内の卓上へと適当に並べてからそれを半分に分けてから自分のポーチへと詰めていく。応急薬や携帯食料を詰めながら、地図を広げて樹海のどの辺りにヒプノックがいるのか考えていた。
「雨降ってるしこの大樹の中にいるかもしれないな。鳥竜種の生態とかは詳しくないけど、やっぱり雨の中動き回るものじゃないだろう」
「そうですね……樹海はいつも雨ですから、歩き回っていてもおかしくないですけど」
ジークから手渡された支給品を片手に、ウィルはヒプノックの生態を思い返していた。基本的には縄張りで眠っていることが多いと書かれていたのを思い出して、樹海の何処までが縄張りなのかを地図で把握しようとしていた。
「行くぞ。自分の足で探したほうが早い」
「はい!」
地図を眺めているウィルに対して、迷いなく歩き出したジーク。慌てて後ろをついていくように走りだしたウィルは、少しだけその行動力に疑問を持っていた。確信が持てない前に動きだすその行為は明らかに初心者ハンターのようだと内心で少し思いながらも、その力強い歩き方には歴戦のハンターのようなイメージを感じさせる。
「……ランポスか」
「何頭いますか?」
「二頭だけだ。片方任せる」
背中の太刀に手をかけながらジークは草むらの中からいきなり飛び出した。突然飛び出したジークに驚きながら、ウィルも追随するように草むらから飛び出した。一番最初に飛び出したジークを認識した瞬間、二頭のランポスは威嚇を始めた。
「遅いな」
二頭が威嚇を始めるのと同時に、不敵な笑みを浮かべながらジークは太刀を抜刀して手前のランポスへと刃を見せて軽く横に振ると、二頭のランポスはジークを警戒して一度後ろに飛ぶ。それを見て、もう一度笑みを浮かべたジークは急加速して手前のランポスを無視し、奥にいるもう一頭のランポスへ接近した。
ウィルはジークがランポスの視線を集めているのだと一歩遅れてから気が付き、大剣を手に取って走る勢いのままジークに視線を奪われたまま背中を向けているランポスに振り下ろした。
「やぁ!」
突然背後から大剣を振り下ろされて、ランポスはその身体に鋭い刃を受けて大量の血を周囲にまき散らしながら簡単に絶命した。予定通りランポスを倒すことができたウィルが少しだけ嬉しそうにジークに視線を向けると、既に太刀を納めて地図を見ていた。
「この先だな」
「あの穴の中ですか?」
ジークが指差した方向に視線を向けると、大樹の根が割れて中に入れるようになっていた。当然大樹の中では雨がまばらにしか降っておらず、雨宿りをするにも最適な場所だった。
「よし……静かに行くぞ」
「はい」
地図をしまって先頭を歩くジークに続き、ウィルも背丈ほどもある草を掻き分けながら樹海を進んでいく。
「っ」
「ジークさん?」
草に溶け込むように少し姿勢を低くしながら歩いていたジークが、不意に息を呑んで止まった。背後を歩いていたウィルにはその行動が顕著に見えていたので、気になってジークの視線の先へと自分も目を向けると、立ったままいびきをして眠っている鳥の様な大型生物が見えた。人間と比べてもかなりの大きさがあることがある程度の距離があってもわかることと、鮮やかな体毛を見てあれが眠鳥ヒプノックであることを理解した。
「本当に寝てるんですね。なら今のうちに近づいてしまっていいですよね」
「待てウィル! そいつの眠りは――」
寝ている相手に対して息を潜めているジークに首を傾げたウィルは、ジークの静止を無視して草むらから出てヒプノックに近づく。瞬間、目をパッチリと開けてウィルを視認した瞬間に甲高い鳴き声を上げた。
「――え?」
次の瞬間、ヒプノックは持ち前の瞬発力で持って健脚で茫然としているウィルを蹴り飛ばそうとして、横から飛んできたペイントボールが頭に当たって怯み、僅かに狙いがずれてウィルのすぐ横にあった大樹の根を切り裂いた。
「ぼさっとするな!」
「ッ!? はい!」
ハンターとなる為の教習所で幾度となく教官にどやされたことと同じ言葉をジークから言われて、ウィルは瞬間的に立ち直って武器を構えた。すぐ横に草むらから転がり出てきたジークが立ち、イニティソードを抜刀していた。
「気を付けろよ……こいつ、結構警戒心が高い」
ジークはヒプノックが立ったまま寝ていた場所の周辺に散らばる虫の死骸を見ながら呟いた。散らばる虫の死骸は、ランゴスタやカンタロスと言った大型甲虫類のものであることからして、小さな物音に反応してその度に睡眠から覚醒して身体がバラバラになるまでつついて殺していたのだろう。
ペイントボールの匂いが気になるのか、顔を必要以上に左右に振りながらもジークとウィルが立っている場所まで近づいてきた。
「気を引き締めろよウィル。狩人としてモンスターの前に立つ以上は、俺たちが食物連鎖においてあいつらより上でなければならないんだ」
「は、はい」
少なくとも、現時点でジークたちの目の前に優雅に歩いているヒプノックには、自分が目の前の狩人に劣るなど全く感じてなどいないだろう。ヒプノックからしてみれば、ただ睡眠を脅かすランゴスタやカンタロスとなんら変わりはないのだ。
それでも、ヒプノックは自分の縄張りに対して不用意に侵入する生物へは容赦はしない。臆病なのは外敵と縄張りの外で出会った時だけである。
一際甲高い声で威嚇するように鳴いたヒプノックに、ジークとウィルは武器を持つ手が自然と強くなる。
「来るぞ!」
ヒプノックの脚に力が加わったことを察したジークは、隣にいるウィルに警告を飛ばしながらも自分は前に走り出した。その動きに驚愕の表情を浮かべるウィルだったが、次の瞬間に小さく跳躍して嘴で啄まんとするヒプノックの動きを見切っているのか、ジークは的確にヒプノックの股下をくぐり抜けた。
「ウィル!」
「はい!」
自らの股下をくぐられて嘴による攻撃も外したヒプノックは、狙っていたジークを視線で追いかけるように股下を覗き見た。隙だらけの今を絶対に逃すなと言わんばかりのジークの声に反応して、既にウィルはヒプノックの頭に狙いを定めていた。自分の体重を全て乗せるように振るわれたウィルの大剣は、後少しというところで気が付いたヒプノックが数歩後ろに下がったことで、狙いがずれて翼の先端部分を掠めただけだった。
「がら空きだ!」
続けざまにカウンターの様にウィルに対して足を突き出そうとしたヒプノックは、背後から迫った鋭利な太刀の一閃を翼に受けて、橙色の羽根と共に血を散らした。突然の衝撃に悲痛な叫びを上げながら、反撃で即座に尻尾を振ってジークを攻撃したが、反射的に頭を下げたジークは頭防具の上部分を掠める感覚を得て、後ろに転がった。
「ふっ!」
「ナイスだ」
一回転して距離を開けたジークに対して追撃の姿勢を見せたヒプノックだったが、振り下ろしたままの大剣を今度は振り上げるようにしてヒプノックの左足を足元から胴体まで切り上げた。大剣は本来振り下ろす為のものであり、その圧倒的な重量故に今のウィルの様な振るい方は全くと言っていいほど威力の出ない行動である。見る者が見れば、余りにもおざなりすぎるその動きは、ハンターが二人以上存在するときならば評価が一変する。
ウィルの切り上げによって完全に態勢を崩したヒプノックに、瞬時に肉薄したジークは流麗な太刀筋で無傷な右足へと切り傷を生み出していく。
「ウィル、下がれ!」
素人目に見ても、もう少しで完全に転倒するだろうとわかる程ふらついているヒプノックに、ジークは追撃を止めて再び下がり、ウィルは今度こそ頭に叩き込むことができるように大剣を構える。この時ウィルにジークの声は聞こえていたが、明らかなこのチャンスに自分が下がる理由はわからないと考えてウィルは大剣をもう一度上段で構えていた。
「やあぁぁ!」
「馬鹿野郎っ!」
体重を込めて重力に従って振り下ろされた大剣を、足元がふらついているヒプノックに避けられるはずがないと確信していたウィルは、そのままジークの言葉を無視して勢いよく振り下ろそうとし、翼をはためかせて態勢を立て直したヒプノックが、後方に飛びながら睡眠ガスを吐き出した。
「なっ……ん、で……」
ヒプノックが口から吐き出した睡眠成分が多分に含まれたブレスは、一瞬でウィルの意識を奪い去った。今度は一転してふらつくウィルの腹部に、ヒプノックの放った強烈な前蹴りがめり込んだ。
いっそ綺麗なほどのくの字になって吹き飛ぶウィルを見て、ジークは舌打ちをした。ジークが今のヒプノックの動きを正確に見切れたのは、タンジアで数多くのモンスターと戦ってG級ハンターにまで上り詰めた過程で手に入れた観察眼と直観力であった。まだハンターになりたてのウィルにその判断をするには、圧倒的に戦闘経験が足りていなかった。そして、ウィルに足りないもう一つのことは、単純に狩るべきモンスターを自分と同じ生物だと見ることができていないことだとジークは思っていた。それがこんな悪い形で出るとはジークも思っていなかったので、少し焦るように太刀を振るってヒプノックの注意をこちらに向けさせる。
「こっちに来い! 俺ならお前の相手ぐらいしてやれるよ!」
相方であるウィルを生かすために太刀でヒプノックの翼を傷つけ、的確にその攻撃を避けるジークは、大樹の根元で血反吐を吐きながら必死に立ち上がろうとするウィルを視界に収めた。意識があることを確認したジークはヒプノックの視界をふさぐように、太刀に付着した血を振りまいてから素早くウィルを抱えて大樹の外側へと飛び出した。
「しっかりしろ。応急薬でも飲んで息を整えろ」
「げほっ! は、はい」
かなりの痛みを感じているのか、とても辛そうにしながら応急薬を一気に呷ったウィルは、徐々に落ち着きを取り戻しながらもジークへと視線を向けた。自分と同じくらい若いハンターであるジークならば、自分とそう動きに大差ないのではないだろうかと思っていたウィルだったが、結果はこの有様である。無様にもヒプノックに殺されかけたと言ってもいいウィルは、酷く自信を失くしていた。
「……なんで、あの時ヒプノックが態勢を立て直すと分かったんですか?」
「勘だ」
「え?」
「だから勘だって」
呼吸を落ち着けようとしているウィルを横目に、イニティソードを丁寧に研いでいるジークは、投げやりにそう答えた。あまりにも意味の分からない回答に対して、ウィルは自分がからかわれているのではないかと思っていた。
「本当だよ。正確に言うとハンターをやってきた中で培った勘、だけどな」
「……ジークさんは、ハンターになってまだ三年ではないんですか?」
「そうだよ。だけどその間に俺は数多くのモンスターと戦ったし、新種のモンスターと戦うのだって初めてじゃない」
ジークはかつての自分を思い出しながら笑って話していた。無茶無謀は今のウィルと大差なく、自分の知らないモンスターだろうと平然と突っ込んでいって死にかけ、引き際を見誤って死にかけ、仲間を助ける為にと飛び込んで死にかけた。思い返してみれば随分綱渡りな人生だった、と自分で振り返りながらウィルに向き合った。
「いいか? ヒプノックはモンスターだが俺らと同じ生物だ。考えて動くこともあるし、本能に任せて動くこともある」
「生物……」
「あいつはおとぎ話から飛び出した指向性のない怪物じゃない」
ジークの言葉は不思議とウィルの中に簡単に入り込んできた。どうして自分がジークと比べて劣っていたのかを簡単に表していた言葉だったかもしれない。ウィルにとってヒプノックというモンスターは、依頼によって討伐するべき怪物になっていたのかもしれない。
「行けそうか?」
「……はい!」
二重の意味で問うジークの言葉に、今度こそ強く頷いたウィルは大剣を背負って立ち上がった。自分が未熟なことを理解したのならば、次はそれを挽回する為に立ち上がるべきだと考えたウィルは、しばらくジークの動きから狩人としての能力を学ぼうと思っていた。
「ヒプノックは多分もう移動してるだろうから……ペイントボールの臭気を追っていこう」
大樹の中を覗いて、ヒプノックがいないことを確認したジークは、少しだけ鼻を触ってから周囲の匂いを嗅ぐように鼻を動かした。ペイントの実が発する独特な匂いはジークの鼻にもよく匂うほどである。
「うっ……俺、ペイントの実の匂い好きじゃないんだよなぁ……」
「はは……多分モンスターもですよ」
我慢できる程ではあるが、あまり好んで匂いを辿りたいと言うものではない。モンスターも嫌って水で洗い流す個体も存在するが、全く頓着しない個体も存在したりと様々である。
「よし……北の方にいるみたいだな」
「北の方ってことは……水場ですね」
「綺麗好きなんだろ」
ヒプノックが顔にぶちまけられたペイントボールの匂いを取る為に水のある場所まで行ったのだろうと考えたジークは、そのまま匂いを嗅ぐのを止めて草木を掻き分けながら開けた湖がある北まで直進した。ヒプノックの縄張りに入ることを恐れているのか、道中はハンターを見かけても遠目に威嚇する程度ですぐに去っていってしまうランポスの群れがあったが、ジークとしてはすぐにヒプノックを追いかけたいところだったのでかえって有難いことだった。
しばらく草木の間を抜けて歩いていると、少しだけ開けた場所が見えたのでジークとウィルは二人で姿勢を低くして草の間から前を見た。
「いたぞ」
「やっぱり顔を洗ってますね」
身体につけられた傷が痛むのか、所々で小さな鳴き声を上げながら顔を思いきり水面に突っ込んで左右に振っていた。
「突っ込むぞ。今のあいつは警戒心が半端じゃないからな」
「下手に隠れても見つかるってことですか?」
ジークは静かに頷いて太刀の柄へと手を伸ばした。
特に何も言わずに草むらから飛び出したジークを見て、今度こそ自分で判断して見せろと言われていることに気が付いたウィルは、ジークが飛び出した草むらか少し移動してそのまま隠れていた。
「よぉ!」
太刀を抜刀しながら走ってくるジークを見て、傷をつけられた相手であることを認識して、怒り狂ったかのように甲高い声を上げて膂力全開で突進し、ジークを轢き潰そうとするが当然ジークはそれを横に避けることで簡単に射程外へと逃れる。横への回避から流れるように太刀を突き出して、ウィルが刻んだ左足へと追撃するように差し込んだ。大量の血をまき散らしながら、ヒプノックは痛みを感じていないかのように的確にジークのいる位置へとブレスを吐き出す。
「はっ、死に至る眠りか」
ヒプノックのブレスが引き起こす睡眠を、王立古生物書士隊の調査員は死に至る眠りと著していたが、前にウィルが受けた眠りからの前蹴りを見れば頷けることである。それこそが、ランポスたちがヒプノックの縄張りに入ることを躊躇する理由なのだろう。
「クソっ」
余程太刀による攻撃を警戒しているのか、ジークが回避する度に新しいブレスを吐き出して決して近寄らせないように立ち回っていた。厄介極まりないこの動きは、いずれジークの体力が先に尽きてブレスを避けきれなくなることは目に見えていた。幾らハンターが超人の如く身体を鍛えているからと言って、無限に横へと飛び続けることができる訳ではないのだ。しかし、それはジークが一人で狩猟をしていればの話である。
「こっちを……見ろ!」
ジークは横へと転がりながらウィルが隠れている少し高台になっている草むらの前までヒプノックを誘導していた。ジークが最後に笑みを浮かべながらヒプノックのブレスを避けた瞬間、ヒプノックの背後からウィルが飛び出した。突然背後から現れたウィルに対してヒプノックが即座に反応して振り向くが、ブレスを吐かれなくなったことで自由になったジークが最短距離で近づいてヒプノックの右足の付け根へと深く太刀を突き刺した。
「終わりだ」
太刀を引き抜いてジークが一人で呟いた次の瞬間、ウィルの全体重と高台から落下する勢いを全て乗せた大剣の一振りがヒプノックの頭に直撃する。そのまま首筋を伝って身体を切り裂くように振り抜いたウィルは、今の一振りがヒプノックに対して絶命の一撃であることを理解していた。
今までのどの攻撃よりも勢いよく血を噴き出して、地に倒れるヒプノックを見て、ウィルは大きく息を吐きだした。
「お疲れさん」
「は、はい」
小さな悲鳴を少し上げてから、全く動かなくなったヒプノックを見下ろしながら、ジークは太刀を納刀していた。大剣で身体を支えて笑みを浮かべているウィルに、ジークは確かな才能を感じていた。
「じゃ、さっさと剥ぎ取って帰るぞ」
「そうですね」
既に疲れ果てているウィルは、まだまだ余裕のありそうなジークを見てやはり見習わなければと思って気合を入れ、大剣をそのままに剥ぎ取り用のナイフをポーチから取り出した。
「んー……結構疲れたな」
「僕は死にかけましたけどね」
「よくあることだ」
帰りの荷車に乗って樹海の奥地からメゼポルタ広場まで帰ってきたウィルは、見えてきたメゼポルタ広場を見て安堵の息を吐いていた。ジークは樹海から帰る間に短い睡眠をとって言葉とは裏腹に、既にクエストへ行く前と同じような顔をしていた。
「あ、一個忘れてた」
「なんですか?」
荷物を全て持って荷車から降り、アプトノスを撫でていたジークは何かを唐突に思い出して、ウィルへと向き合った。
「お前、俺の作る猟団の副猟団長になってくれない?」
「……へ?」
唐突な勧誘に、ウィルは固まっていた。自分が参考にしようとしていたハンターからまさか勧誘されるなんて全く思っていなかったウィルだったが、よく考えなくてもジークと行動を共にすることは自分のレベルアップにも繋がることだとすぐに気が付いて、ジークの手を即座に取った。
「入ります! やります!」
「おう。助かる……実はやりたいことがあってな。それはまた追々説明していくとして……猟団設立するか」
「はい!」
かなり食い気味に反応してきたウィルに首を傾げながらも、仲間になってくれるならばそれはそれでいいかと適当に考えていたジークは、二人でクエスト終わりの姿のまま猟団受付へと向かった。
猟団受付では相も変わらず猟団愛に溢れている男が誰かに熱弁しているのだろうかと思ったジークだったが、遠目から見て誰かに絡まれているのかタジタジだった。
「その、猟団に入らないと会えないんですか?」
「でも『アイギス』は猟団員も満員状態で入ることはできないけど……ハンターとしてなら広場でも会えるのではないかね?」
「どうしても『姉』に会いたいんです!」
受付の男に必死に詰め寄る少女を見て、ジークは首を傾げながらも近づいた。
「姉に会いたいってどういうこと?」
「わっ!? す、すいません……受付の前で騒がしくしてしまって」
後ろからジークに声をかけられて、少女はその長い金髪が激しく動く程早く頭を下げた。突然頭を下げられて、ジークもウィルも微妙な顔をしながらその少女の頭を見ていた。
「わ、私姉に会いにメゼポルタまで来たんです」
「へぇ……じゃあハンターじゃないんですか?」
「い、いえ。私も一応ハンターなんですけど、今日ここに来たばかりで……それで姉が『アイギス』って猟団の団長だって言うから……」
「『アイギス』の団長?」
少女の言葉に一番最初に反応したのはジークだった。続いて、猟団受付の男は目を見開いてからその少女の顔をじっくりと見て一人で頷いていた。ウィルはまだこのメゼポルタで何が起きているのか理解できていないので、『アイギス』と言われても首を傾げていた。
「成程。何処かで見たような顔だと思ったら猟団長セティの妹だったのか」
「……無理を言ってしまってすいません……また出直してきます」
会えないことを理解したのか、少女は落ち込みながらも何処かへと走って行ってしまった。その後ろ姿を見ていることしかできなかったジークは、少しだけポカンとしていたが、すぐに動き出して猟団受付の男にウィルを紹介し始めた。
「えっと……こいつが副団長やってくれるんで、猟団作ってもらってもいいですかね?」
「早速二人目を見つけたのか! 幸先がいいな」
「はい。気が合うと思ったので」
ウィルが頭を下げると、とても嬉しそうな顔を浮かべながら猟団を設立する為の記入用紙を渡してきた。
「猟団名と猟団方針を記入して、猟団長の名前を頼む」
「猟団方針か……どうする?」
「初心者歓迎、とか?」
「それでいいか」
副猟団長であるウィルに対して適当に聞けば、とてもまともな答えが返ってきたことにジークは少し感心しながらも『初心者歓迎』と猟団方針の欄に記入し、自分の名前であるジークを記入してそのまま猟団名で筆が止まった。
「猟団名、どうする?」
「……どうするって言われても、決めてなかったんですか?」
「いや、考えてはいたんだけどな……猟団を結成しようと考えたの今日なんだよ」
「そうだったんですか……それでも、ジークさんが考えてくださいよ。僕は貴方についていくと決めたんですから」
実際、猟団名はその猟団を簡単に表すものといっても過言ではない。センスのない名前に成れば当然人は寄り付かないし、かっこいい名前にすればそれだけ人も集まると言うものである。
ジークが結成しようとする猟団の副猟団長ではあるものの、ウィルとしては彼が直感的にいいと決めたものが第一だと考えていた。
「じゃあ『ニーベルング』で」
「何か元の名前があるんですか?」
「勘」
ジークの言葉にウィルが苦笑を浮かべていた。ジークとしては『ロームルス』や『アイギス』や『カリバーン』の様なかっこいい名前がいいと考えてつけた名前なのだが、直観にしてはいい名前だと自画自賛をしていた。
「よし。これで猟団が設立できるんですか?」
「大丈夫だ。それと、ウィル君にも名前を書いてもらえば猟団員になれるぞ。本当は猟団長の承認などが必要なのだが、団長の推薦なら必要ないからな」
「じゃあ書きますね」
書類の代わりに差し出された猟団員リストへとウィルが名前を書き、副団長として印をつける。猟団受付はジークに証明用の判子を渡し、副猟団長にも非常用の証明判子を渡して猟団の結成となる。
「うむ、猟団の設立を認めよう。これからも何か困ったらメゼポルタ猟団組合に相談するといい」
「ありがとうございます」
受付から猟団に関する書類と猟団関連の説明書などを全て受け取って、ジークとウィルは二人で交流酒場へと向かって歩きだした。
次回も狩りに行くかも?
まだこの序盤はオリジナルモンスターは少ないですね。