狩人の頂 作:ばるむんく
猟団受付から受け取った書類を片手に持ちながら歩いているジークは、猟団長として守らなければならない色々な資料を流し見しているが、大体はハンターになる為に受ける試験の筆記とそこまで変わっていなかった。
「んー……そこまで面倒くさそうな規則はなさそうだな」
「基本的にハンターたちの自主性に任せるって感じなんですかね?」
「さぁな……取り敢えず交流酒場行こうか。待たせてる人がいるし」
メゼポルタ広場に来てから一度も行ったこともない交流酒場に行くことになるウィルとしてはそれなりの緊張感を持っているのだが、ジークは『ロームルス』の猟団長であるネルバと副猟団長のスロアとはよく会っているので慣れたものである。
「知り合いですか?」
「話しただろ? 将来の同盟相手」
ジークの言葉に、ウィルは一人で納得したように頷いていた。ジークが猟団を立ち上げた理由でもあり、将来的には同盟を結んで協力していく相手ともなれば失礼はできないとウィルは再び緊張し始めた。そんなウィルの様子には全く気が付かずに、ジークはずんずんと広場を進んで交流酒場へと足を踏み入れた。
「昨日ぶりですねネルバさん、スロアさん」
「おう。猟団は無事にできたみたいだな」
交流酒場へと入って一番最初にジークが見つけたのは、見慣れた二人の飲んだくれハンターの姿であった。言葉をかければ、何故か猟団を設立させとを知られていることにジークは首を傾げたが、スロアが苦笑しながら手に持っている資料を指さしたことでジークも理解して苦笑した。
「まだ同盟を結ぶまでの規模ではありませんが、これから少しずつでも大きくしていくつもりですよ」
「頑張ってくれ。こっちも結構勧誘してるんだが……やっぱり『プレアデス』と『円卓』の名声が邪魔をしてくる」
「こればっかりは仕方ないですね」
ネルバの言う『プレアデス』と『円卓』の名声が邪魔するとは、以前までの狩人祭における功績や団員たちの実力がメゼポルタに訪れたばかりの新人ハンターの耳には入っているのでそれ以外の有象無象には見向きもしない話である。
「まぁ大きなところに行った方が安心安全なのは間違いないんだけど……悔しい話だよね」
エールを一口呷ってから、スロアはため息をと共にそっと零した。結局ギルドにも二大巨頭にも全く認識されてすらいない猟団になど誰も入りたがらないのが現実である。
「こっちが俺の猟団の副猟団長をやってくれるウィル。俺と同じような初心者ですけど、かなり動けますよ」
「へぇ……有能そうな参謀を味方につけたな」
思い出したかのようにウィルを紹介するジークに、ネルバとスロアは興味津々といった様子でウィルの顔を覗き込んだ。いきなり先輩ハンター二人に顔を覗き込まれたウィルは冷や汗をかきながらも震える声で自己紹介をしていた。
「ふむ。これが団長の言っていた同盟相手か?」
「お、やっと来たか遅刻姉妹」
「誰が遅刻姉妹だ」
ネルバの向かいに座っていたジークは、突然背後から肩を掴まれて声を頭上からかけられたことに異常なほど驚き、その手を振りほどいてから大袈裟に距離を取った。いきなり椅子から飛び退いたジークの姿にウィルが少し驚きながら首を横に傾けていたが、ジークとしては内心たまったものではない。
「どうした? そこまで驚かなくてもいいではないか」
悪戯に成功した子供のように笑みを浮かべる女性と、その横で黙ったままジークに視線を向けるもう一人の女性を見て、ジークは顔が少しだけにやけるのが止められなかった。
圧倒的な若さでタンジアにおいて、一握りの者にしか与えられなかったG級ハンターという称号を与えられたジークは、背後から寄ってくる生物の立てる物音に関してはとても敏感だった。にもかかわらず、二人の接近には全く気が付けなかったという事実は、目の前の二人が自分よりも優れた狩人であることをジークに理解させていた。それと同時に、後ろから声をかけた本人はジークが反応してから距離を取る速度と、飛び退いた距離間が今彼の背負っている片手剣の適性距離であることを見て目を白黒させていた。
「あんまり新人ハンターを脅かすなよ」
「新人? あれが?」
「そうだよ」
ネルバの言葉に訝しげな表情をした後、沈黙を貫いていたもう片方の女性がジークの方へとチラリと視線を向けた。先程ジークが見せた咄嗟の対応能力は、既にベテランハンターの領域であり、ネルバの言う新人ハンターとは結び付くことができないからだった。
「驚かせたなジーク。こいつらが前に言った猟団設立時のメンバーのマルクとエルスだ」
「へぇ……よろしく少年」
「因みに双剣背負って五月蠅い方がマルクで、さっきからほとんど喋らずにお前と見つめ合ってるのがエルスな」
「見つめ合っている訳ではないんですけど……」
何故かずっとジークの方へと視線を向けているエルスは、ウィルの方へと視線を向けてからもう一度ジークへと振り返った。
「エルス。よろしく」
「よ、よろしくお願いします……」
「取り敢えず、驚かせて悪かった。私はマルク……メゼポルタに来る前はそれなりにドンドルマを騒がせていたハンターだ」
何処か尊大で役者のような喋り方をするマルクと、無口で表情の変わらないエルス。個性的な自己紹介をする双子は、見た目と違って性格は真反対のようである。マルクはすぐにネルバの隣に座り、料理を摘まんでいるが、エルスはずっとジークのことを見つめていた。
片手剣に手をかけていたジークは、すぐにその手を降ろして再びウィルの隣に座り、水を一気に飲み干した。
「これで人はみんな揃ったね」
スロアが笑顔のままそう言うと、マルクとエルス、そしてジークとウィルがスロアとネルバへと視線を向けた。
「そもそも何で俺たち呼ばれたのか聞いてませんでしたね」
「簡単に言うと、これからどうしていこうか互いの猟団の重役で話し合おうってことなんだけどね」
「重役って……そもそもウチは二人しかいませんけどね」
こういう場ではいつもスロアが発言しているのか、ネルバもマルクもエルスも止めずにそのまま話を続けている姿を見ながら、ジークは隣で緊張から身体を固めているウィルに苦笑していた。
「ジークたちの……」
「『ニーベルング』ですか?」
「そう『ニーベルング』も俺らの『ロームルス』もまず足りないものは人手、そんでもってギルドの評価だ」
スロアの言葉に頷きながら言うネルバは、紙にメモするように『ニーベルング』と『ロームルス』のメンバー構成とハンターランクを記していく。
「お前らがハンターランク11くらいだろ?」
「先日11になったばかりですね」
そもそもジークたちが狩りに行ったヒプノックの狩猟条件はハンターランク11以上なので、彼らがハンターランク11以上であることは確定している。ハンターランクを11にするには公式狩猟試験を受ける必要があるのだが、相手は所詮ダイミョウザザミ一頭の討伐である。ジークはダイミョウザザミを狩猟して簡単に狩猟試験を突破し、既にランクを11に上げていた。
「んで、俺らが主力メンバーが50前後で、最近入った奴が30過ぎぐらいだな」
「……一応聞きますけど『円卓』と『プレアデス』は?」
「そりゃあ全員999で止まってるよ」
ジークは内心で知ってたと思いながらも、二大猟団と呼ばれるハンターたちへの壁の高さを再確認した。そもそもジークたちがこのメゼポルタにやってくる前からやっているハンターたちだっているのだから、当然相手側の方が強いのなんてわかりきっていることではあった。
「当分の問題はハンターランクと人手ですかね」
「999までって言うと遠く聞こえるかもしれないけど、実際は100まであれば十分だけどね」
「スロアさん、その話はどういう意味ですか?」
ウィルがハンターランクと同時に人手が全く足りないのだと頭を抱えて言うと、スロアが付け足すように言葉を重ねた。
「簡単な話、ハンターランク100以上のハンターはメゼポルタでは「凄腕ハンター」と呼称するんだ。そして、この凄腕ハンターっていうのがメゼポルタの中でもかなり数が少ない。今大体メゼポルタ全体のハンター数が二万弱って言われてて、そのうちの3000人程度が凄腕ハンターだって言われてるけど……」
「二万!? このメゼポルタだけでですか!?」
スロアは簡単に言ったが、他のギルド出身からするとあり得ない程のハンター人口数であった。第一にメゼポルタ周辺に大きな都市などが存在しないのにも関わらずそれだけのハンターが存在すると言うこと。ドンドルマの周辺地域などは大きな街であったり、国力の大きな国などが存在しているが、メゼポルタ広場が存在しているフォンロン地方にはそもそも大きな街が存在しない。
「みんながみんなハンターって訳じゃないよ? あくまでハンターライセンスを持っている人だけ。外ではハンターだったけど、今では職人をやってる人なんかもいるし……メゼポルタに所属するハンターみんながマイハウス利用している訳でもないしね」
「そう、なんですか……」
だとしても意味の分からない程膨大な数のハンターが在籍しているのは事実だろう。実際、メゼポルタ広場には常に誰かしらがいるのに、狩りから帰ってくるハンターも大量に存在しているのだからそれぐらいの数はいるのだろう。
「広場を経由せずに猟団部屋からクエストを受けたり、パローネキャラバンで移動したり、ここから少し離れたメゼポルタ管轄の別ギルドから出発したりって具合に、沢山あるし……一概にみんなメゼポルタにいるとは言えないんだ」
「そ、そんなメゼポルタを二分する猟団があるんですよね?」
スロアの説明を聞いて改めて『プレアデス』と『円卓』の二大同盟の大きさに身震いしているウィルは、不安気にジークの方へと視線を向けた。モンスター被害の少ない村に生まれたウィルからすれば、これだけ大人数の人間が徒党を組んでいること事態が理解できないことであるのに、それを束ねる二つの同盟がどれだけの規模なのかなど想像することもできなかった。
「凄腕ハンターが3000人、その全てが派閥に所属しているとは言わねぇが、凄腕ハンター以上じゃないと奴らにとっても派閥の内にすら入ってない。正直、凄腕ハンターですらない俺ら程度じゃ勝ち目なんて最初からない」
「……凄腕ハンター、か」
ネルバの言葉に、ジークは目を細めて難しそうな顔をしながら顎に触れていた。
スロアとネルバの話を聞く限り、メゼポルタギルド周辺におけるハンターの全体数は大体二万程度でありながらも、実際に影響力を持って狩人祭などに深く関わることができるハンターはメゼポルタ広場全体で3000人程度。ただし、凄腕ハンターの殆どが現状『プレアデス』か『円卓』のどちらかに所属する形で派閥を形成している。
ジークは二人から聞いた情報を頭の中で整理しながら、狩人祭の内容を思い出してネルバの方へと視線を向けた。
「狩人祭で無視できない存在になるって話ですけど、狩人祭は蒼竜と紅竜の二つに猟団を分けて競わせる訳ですけど……どちらか片方しか倒せないから意味が無いのではって……この話前もしましたね」
「その話を聞いて考えたんだけどよ……俺らの最終的な目標は『プレアデス』の後ろ盾を得て『円卓』をぶっ倒すことだと思ったんだ」
「『プレアデス』の後ろ盾?」
ネルバの言葉に一番最初に反応したのはマルクだった。そもそも今の二大猟団を引っ掻き回してやろうと言われて『ロームルス』に参加したのだから、今のネルバの言葉は一種の裏切りに近い物でもあった。当然マルクのその反応も予想していたネルバは、焦ることも無くその場の全員を見た。
「狩人祭がメゼポルタを二つにしか分けない以上、どちらかの猟団は味方側になる」
「道理だな。しかしその二つの猟団どちらも倒すと言って私を勧誘した君が、それを言うのかい?」
「落ち着きなよ。ネルバの言いたいことは分った……つまりまだ話が通じやすい『プレアデス』と共に狩人祭に勝利した上で、その二つの同盟以上の戦果を残すってことだろう?」
マルクの責めるような視線の中で説明するネルバの言葉を先にとって、スロアは情報を簡単に纏めた。
「どれだけやっても『円卓』と『プレアデス』に目を向けてもらわねえと勝負すらできないからな」
「成程な……それならば問題はない。早とちりをしてしまったよ」
「……マルクはいつもそう」
エルスの言葉に肩を竦めながらマルクは形だけの謝罪をして、再びスロアとネルバに視線を向けた。
「じゃあ『プレアデス』のトップと話をしないといけませんね」
「おう……いや、そうだけど早くないか?」
「早い方がいいでしょう?」
「お前な……そもそも俺らみたいな下っ端ハンターがメゼポルタのトップハンターに会えるかよ」
「会えるあてならありますよ」
簡単に言うジークにネルバは呆れながらため息を吐いたて、ジークのあてがあるという言葉にエルスとマルクとスロアと共に目を見開いて視線を向けた。隣で黙って話を聞いていたウィルも、いつの間にそんなあてができたのかと思いながら視線を向けると、ジークはウィルの肩を叩いた。
「さっきここに来る前に『アイギス』猟団長の妹と会ったんですよ」
「妹!?」
当然と言えば当然だが、どれだけ有名なハンターになろうがそのプライベートまで知っている人間などそう多くはない。大猟団の団長と言っても、そもそもプライベートなど知る訳が無いのでネルバたちも妹がいるなど初耳である。
「なので『プレアデス』の件はこっちでやっておくので大丈夫ですよ」
「……そ、そうか」
「ふふ、やはり面白い奴だな」
破天荒とも言えるジークの発言にネルバは戸惑いながらも頷き、マルクは楽しそうに笑いながらジークの肩を横から叩いていた。まるで酔っ払いのように絡んでくるマルクに対して、面倒くさそうな顔をしながら相手をするジークは、エルスの視線が自分に向いていることに気が付いた。
「……確かに、面白い」
「だろう? やはり双子で感性が似ているな!」
エルスの言葉に機嫌をよくして喋るマルクだが、感性が同じだと言う発言にハンターとしての装備が二人で全く違うことから、ウィルとジーク、ネルバとスロアは内心で本当にそうなのだろうかと思いながらも絡まれたくないので黙っていた。
「ネルバ」
「団長と呼べ。なんだ?」
「私、この子の猟団に入る」
「んぐッ!? え、エルス?」
機嫌よくエールを口にしたマルクは、続くエルスの言葉に咽ながら正気かと言わんばかりの視線を双子の姉に向ける。
「本気」
「……いや、俺は別にいいけどよ」
「はぁ!? なにを勝手に承認している髭!」
「髭!?」
エルスの目を見て別に盾か剣に行かないならそれはそれで問題ないかと思いながら頷いたネルバに、マルクは勢いよく立ち上がって抗議した。抗議と言うにはあまりにも辛辣な言葉が口から出て気がするが、エルスはそんなことを無視してジークの横までやってきて手を取った。
「貴方の将来が気になるわ。是非連れて行って欲しいのだけれど」
「あ、え、えぇ……ウィル、どういうことなの?」
「さ、さぁ?」
ジークからの縋るような視線に困惑しながらも、ウィルはエルスの言っていることの意味が半分程度なら理解できる気がしていた。共に狩りに出掛けた回数などヒプノックの一回しかなくとも、ウィルから見たジークは才能の塊であり、また仲間を鼓舞することのできる圧倒的なカリスマ性があるとも感じていた。だからこそウィルはジークから猟団に勧誘された時に即頷いて付いていくことにしたのだ。
そんな将来性をエルスが感じ取ったのかどうかは知らないが、マルクが何か騒いでいるのを全く無視してジークを見つめているエルスに対して、先にジークが視線を逸らした。
「ひ、人手はあれば助かりますけど……ネルバさんたちは」
「大丈夫よ。『ロームルス』は私一人抜けた程度で瓦解する程ヤワじゃないわ」
「エルス! 本気か!?」
「さっきも言ったけど、本気」
掴みかかるのではないかと思う程の勢いでエルスのもとまでやってきたマルクだが、いつも通り口数が少ないのに絶対に譲らないと言わんばかりのオーラを感じていた。彼女たちはハンターになった時からずっと二人で行動していたのだから、今更二人の道が分かたれるとはマルクも考えていなかった。
「どっちにしろ『ロームルス』と『ニーベルング』は同盟も結ぶからマルクとも狩りに行ける」
「そう言う問題じゃ……」
「私は自分の直感を信じてる」
「……あぁもう! 分かった! 姉さんはこうなると絶対に聞かないからな……しょうがない」
全く意見など曲げるつもりが無いと堂々としているエルスに、マルクが頭を掻きむしってから大きなため息吐いて、ジークたちの前で初めてエルスのことを姉と呼んだ。双子として振舞っていても、彼女たちの中にはどこかしら姉妹としての基準があるらしく、拗ねるように顔を背けるマルクの頭をエルスが少しだけ微笑みながら撫でていた。
「全く……こっちから人が引き抜かれるとは思わなかったぞ」
「あはは……すいません」
「まぁ、一人ぐらいはそっちに知った奴がいれば関係も強固になるってもんだ。よろしく頼むぞ」
「相変わらずネルバは破天荒だな……」
「ジークさんは自由なんですから……」
猟団長同士で握手しているのを見て、ウィルとスロアも視線をぶつけてから副猟団長同士なにかを感じ合ったのかネルバとジークよりもがっしりと手を掴み合っていた。
「何はともあれ、猟団員が三人になったことだし……そろそろ俺とウィルも上位に足を踏み入れる準備をしたいところだな」
「私はしばらく猟団移動の手続きで動けない。その間にそれなりに勧誘はしておくわ」
「ありがとうございます」
新たに『ニーベルング』に移籍してくれたエルスとウィルと共に広場を歩いていたジークは、これからの活動方針を頭の中で考えていた。エルスの言葉を信じて新人ハンターの勧誘はしばらくエルスに任せ、早く上位ハンターになる必要があると考えていた。勧誘しようとするのが新人ハンターならば、自分と同じ下位の新人ハンターが猟団長の猟団に誘われても普通は誘いを断るものである。猟団員が強ければ強い程、自分がその猟団に入った時に得られる恩恵がでかいのだから当然とも言える。
「最悪次の狩人祭は見送ることになるな」
「寒冷期までにどれだけ『ニーベルング』と『ロームルス』が人を集められるか次第、ですね」
「集めた人も最低上位以上にはなって欲しいところ」
「本当に……時間がないな」
未だ温暖期の始め程度でしかないが、これから古龍種が活発になる寒冷期前までになるべく多くのハンターを猟団に引き入れ、寒冷期に古龍種を撃退ないしは討伐することで『ニーベルング』と『ロームルス』が将来作る同盟へのギルドからの評価を上げよう、というのが今の所ジークが考えた最短の道である。
「よし。取り敢えず何か良い依頼がないか探しに行こうか、ウィル」
「わかりました! でも連戦はきついので出発は明日以降で」
「わかってるよ」
ウィルの切実な言葉にジークは苦笑しながらエルスと別れ、クエストを管理しているユニスの元へと向かって行った。そんな二人の背中を見ながら、将来二つの猟団が組んだ時に出来上がる同盟を想像しながらエルスは猟団受付の方へと視線を向けて、金色の目立つ髪色を発見した。
「はぁ……忙しいのかな……」
何か落ち込んでいるのか、受付の近くにあるベンチに腰かけて悲壮感漂う姿で項垂れている金髪を見て、エルスはなにかを思い出しそうになっていた。少し前に同じような色の金髪を見た気がする、と思いながらも新人ハンターらしき彼女の隣にエルスは腰かけた。
「悩み事?」
「え? あ、すいません……こんな目立つところで落ち込んでいて」
突然隣に現れた美しい顔立ちの女性に驚きながら、金髪の少女は顔を上げてエルスと目を合わせた。
「その……私、姉に会いたくてこのメゼポルタに来たんです。でも、全然会えなくて……」
「そう」
「姉は……ただ笑顔で待っていてと言って故郷を出て……やっぱり嫌われたのかな」
涙を堪えながら俯く少女に、エルスは何を言っているのかわからないという様な顔をしていた。突然過去を話されたことに関しては、自分から首を突っ込んだことなので特に何とも思ってはいないが、それでも何故か自分が嫌われているという少女のことを自分とは違う生物を見るように見てから一度息を吐いた。
「姉は、妹のことを嫌いになれないものよ」
「……貴女は、妹がいるんですか?」
「変な妹が、ね」
「ふふ……」
自分の妹のことを変だと言うエルスに、少女は笑みを浮かべながら彼女の話を聞いてみようと思って顔を上げた。
「私たち姉妹は、元々ドンドルマでハンターをしていた。両親がハンターだったし、そうなることが普通だと思ってハンターになった」
「……生まれた時から」
「そうよ。でも、両親が年齢でハンターを引退してから、旅がしたくなって私がメゼポルタに行くと言ったら、妹もついてきた」
エルスは過去のことを思い返しながら、少女に自分の話を続ける。メゼポルタへ行くと言った時に両親は受け入れてくれたのにも関わらず、マルクが最後まで反対して大喧嘩になったことを思い出しながらも、エルスは楽しかった過去を振り返る。
「正直、私は妹の方がハンターとして才能があると思っている。そんな妹が私と同じ道を歩もうなんて、正直気が狂うかと思ったわ」
過去、エルスはハンターになる為の教習所で自分の双子の妹であるマルクとの才能の差に愕然としたことがある。マルクは昔から近接武器でモンスターの攻撃の合間をくぐり抜け、エルス自身はモンスターの動きが先読みできても身体がついてこなかった。当然教習所の周りの人間たちはマルクを褒め称え、エルスのことをマルクと比較して勝手に失望していた。基本的に感情が表にでないエルスだが、内心はかなり激情型なので怒り狂いもした。
「でもね……やっぱり妹のことは嫌いになれなかった」
自身の劣等感の象徴とも言えるマルクなどエルスは嫌いで嫌いで仕方が無かったはずなのに、自分のことをいつまでも姉として慕い、頼りにしてくれるマルクのことを心の底から憎むことができなかった。
「いい? 姉と言うのは、妹が嫌いになれない存在なの。一人で諦める前に、ちゃんと向き合ってみなさい」
「……はい!」
エルスは少女の頭を撫でながら少しだけ笑みを浮かべていた。少女は、エルスに優しく撫でられながら昔実の姉にもこうして撫でられたことを思い出して、さっきまでとは違う意味で涙を浮かべた。
「あ、あの……お名前を聞いてもいいですか?」
「エルスよ。今は……新しい猟団の人員勧誘中」
「そうなんですね……あの、私も……」
見ず知らずの相手である自分に優しく、そして姉のように接してくれたエルスに対して少女は既に尊敬の念を抱いていた。エルスが新たに加わってくれる猟団員を探していると言う言葉に反応して、少女は恥ずかしがりながらなにかを決意していた。
「私も、エルスさんの猟団に加えていただけませんか?」
「……私は猟団長ではないから判断できない。けど、団長と合わせることはできるわ」
お節介をかけた相手がまさか猟団に入ってくれるとは思っていなかったエルスは、驚きながらも人員確保の為に少女の言葉に頷いた。とは言え、副猟団長でもなければまだ『ロームルス』から移籍が完了した訳ではないので、エルス自身にはその権限がなかった。そして『ニーベルング』の猟団長と副猟団長は明日の狩りに備えて既に眠っているだろうことは明白だったので、しばらくは会えないと考えていた。
「猟団長がいつ帰ってくるか、それは私にもわからない。だから、しばらくは私と二人で行動しましょう」
「わぁ……はいっ!」
エルスの言葉に笑顔で頷く金髪の少女は、エルスの前に立ってお辞儀をした。
「私、ティナと言います! これからよろしくお願いします、エルスさん!」
「そうね……期待してるわ。ティナ」
「はい! 期待に応えられるように頑張ります!」
笑顔いっぱいで挨拶する彼女の姿を見て、一人目からかなりいい人材を勧誘したのではないだろうかと思いながら、エルスはティナの言葉に頷いた。
次回はジーク視点で狩りに行きます。
お相手は多分リオレイアですが……