狩人の頂 作:ばるむんく
サボらないように頑張ります。
遠くの地平線から太陽が昇ってくる姿を見ながら、ジークは一人で早朝のメゼポルタ広場を眺めていた。クエストの受付場所から少し離れた高台に用意されたベンチに座り、広場でクエストを受けているハンターや、総合ショップなどにアイテムを搬入している業者などが広場を歩き回っている人たちを見ていた。当然昼や夜に比べて人は少ないが、それでもかなりの数の人間がこの時間から既に働き始めている姿こそ、この場所が栄えている証拠なのかもしれない。
「……やっぱりどのハンターも強そうだな」
数多くのハンターが喋りながら歩いている。ジークは広場を歩くそれぞれのハンターたちが背負う武器や纏う防具の質を観察して呟いた。タンジアにいた時は自分も周囲からこう見られていたのだろうか、と思いながら眺めてジークは苦笑していた。しばらく高台からハンターの観察を続けていたジークは、横穴からものすごい眠そうな顔をしながら外に歩いてきた男を見て呆れていた。
「ふあぁ……おはようございます……」
「おはよう。もうちょっとシャキッとしろ」
「まだ暗いですよ……」
「もう日は昇りかけだ」
とてつもなく眠そうな顔で挨拶するウィルに、ジークは苦笑しながら尻を弱めに叩いた。太陽が昇り初めて次第に明るくなっていくメゼポルタ広場には、ウィルと同じように活動し始めたハンターが多くなってきた。それこそウィルのように欠伸をしながら歩くハンターや、ジークのように完全に目が冴えているような顔で総合ショップの受付嬢と話しているハンターや、逆に今から寝る為に帰ってきたと身体で疲れを表現しているハンターなどがいた。
「よし、早めに準備していくか」
「そうですね……今日の相手は樹海じゃないくて密林ですし」
「移動の時間も含めて、陽が落ちる前にはメゼポルタに帰ってこよう」
「わかりました」
ジークと共に朝の新鮮な空気を吸って大分目が冴えてきたのか、ウィルは眠っている間に凝り固まった身体を解すように腕を回しながらジークの言葉に頷いた。竜車で簡単に移動できる距離のバトュバトム樹海ではなく、船を使って大陸まで行かなければならないテロス密林での狩猟となれば、色々と用意する物もある。
「狩猟目標は……
「はい。僕は狩ったことないんですが……ジークさんはありますか?」
「そりゃあな」
リオレイアと言えば世界的に見て広く分布している超有名な大型飛竜種である。リオレウスのつがいとして子育てをする雌の火竜であり、飛竜種の中でも特に翼が発達し、飛行能力が群を抜いているリオレウスを「空の王者」と呼称した時に、脚力が発達し、地上での狩りを多く行うことからリオレウスと対になる表現で「陸の女王」と呼称されることがある有名なモンスターである。大きな街に住んでいて、モンスターをあまり知らない人でも知っているリオレウスとリオレイア。その片割れともなればジークのようにG級ハンターを名乗っていたのならば幾度も相対したことがあるモンスターだ。
「棘の毒が厄介なんだよな」
「そうですね……リオレウスが爪に持っている毒を、リオレイアは尻尾に強力な毒を持っているんですよね。それを身体能力でもって空中で回転して外敵にぶつけたりする……聞いただけで恐ろしいですよ」
メゼポルタに来る前は、モンスター被害の少ない小さな村で生まれ育ってハンターとなったウィルは、イャンクックのような中型種は狩ったことがあっても、リオレイアのような大型種などとは一度も遭遇したことが無いのだ。このメゼポルタに来てからもあまり大きなモンスターとは戦っていないので、今回がウィルの人生で初の大型モンスターの狩猟と言える。
「安心しろ。今回の個体は若い個体らしいから、そこまでの力は持ってない。ただ、村に近い所に縄張りの中心を持っているらしくてな……早めに狩っておかないと村が危ない」
「自然と人間の調和。ハンターの基本ですね」
「正直、人間の都合って言われたらそれまでだけどな」
苦笑しながら言うジークに、ウィルも苦笑で返すことしかできなかった。
「よし。総合ショップ寄って解毒薬買ってからまた後で掲示板の前に集合な」
「はい! 今回も大剣で行きますけど……ジークさんはこの間作った」
「片手剣ね」
「わかりました」
ジークの言葉に頷き、片手が盾で比較的自由に動き回れる片手剣がいるのならば、自分は安心して大剣を振りに行けると考えたウィルは、いつもよりも持ち物を少しだけ攻撃的にしようと考えていた。具体的に言えば、荷物の中からペイントボールを抜いて代わりに力の種でも持っていこうと思案している。そして、ジークも同様にウィルが大剣で狩りに行くのならばペイントボールや閃光玉などは自分が持っていくべきだと考えていた。頭の中で順調に狩りの準備を進めている二人は、マイハウスの前で一旦分かれてそのままそれぞれの準備を始めるのだった。
広大な土地であるテロス密林の海岸線に広がる密林地帯を、雌火竜リオレイアは尋常ではない速度で走っていた。口から火炎を漏らしながら怒り狂ったような声を出して走る姿に、波打ち際で何かをつついていたヤオザミは慌てて砂の中に隠れ、ランポスは洞窟の中へと逃げ込み、逃げ遅れたランゴスタがその圧倒的な質量にぶつかって四肢を散らして無惨にも大地にばら撒かれた。木々を薙ぎ倒しながら走るリオレイアは、自分の前を走る人間を追いかけながら聞くだけで震えあがるような叫びをあげる。
「――ッ!? ウィルッ!」
リオレイアの前を走っていた人間――ジークは、密林から抜け出して砂浜へと転がり出た。密林の木々の間を縫うように走っていたジークは、砂浜に出た途端に足を止めてリオレイアの方へと視線を向け、紙一重でリオレイアの足下をくぐり抜けた。陸の女王と称されるリオレイアの強靭な脚力によって巻き上げられた砂から、目を守るように腕で目元を隠したジークは、薄っすらた開けた目からリオレイアが想定通りに勢いを止めることができずに海辺へと滑っていき、用意されていた巨大な落とし穴に落ちた。ハンターが扱う落とし穴は、かなりの大仕掛けで設置するのにそれなりの時間を要するが、今回のように一人が陽動でもう一人が仕掛けるのならば絶大な効果をもたらす。リオレイアはウィルが予め仕掛けておいた落とし穴にジークが誘導する形で嵌り、砂浜に仕掛けられたこともあって暴れれば暴れるだけどんどん足を取られてしまう状態だった。
討伐対象であるリオレイアが落とし穴に落ち、ジークの合図に反応するように木々の間から大剣を背負ったまま走り出したウィルは、重力に逆らうことなく自分の力と大地の力を合わせて縦に振り降ろし、リオレイアの翼についている毒を含んでいる棘を斬り飛ばした。
「よし!」
棘を斬り飛ばされることは人間が想像するよりも痛みがあるのか、リオレイアは先程までの怒り狂った声ではなく、痛みに呻く様な少しだけ高い音を喉から出す。もうしばらくリオレイアが落とし穴から抜け出せないことを察したジークは、アイテムを持ち歩く為の袋から閃光玉を一つ取り出してから片手剣を抜刀してリオレイアに向かって走った。ジークが持つ、眠鳥の羽毛を軸に鉄鉱石、ドスランポスの爪で生産した『フェザーナイフ』をマカライト鉱石と砂竜の鱗と眠鳥の爪でより強固に磨き上げた『フェザーソード』は、リオレイアの背中の甲殻を難なく切り裂いて鮮血を周囲にまき散らした。柔らかい顔を傷つけるよりは出血が少ないが、それでも着実にリオレイアに傷を負わすことができる片手剣を見て、メゼポルタでずっと鍛冶をし続けているのだろう親方に感謝しながら、鋭くリオレイアの硬い鱗に沿って振るう。鱗に沿って刃を振るうことで、その硬い甲殻の下にある柔らかい筋肉の部分を直接斬りつけていた。
「ジークさん! そろそろ落とし穴の限界です!」
「思ったよりコイツがデカかったか……一旦離れろ!」
ジークはこのテロス密林に着く前に、ウィルと相談して予めリオレイアを狩るうえでの手順を考えて来ていた。第一にリオレイアを発見したら今回依頼してきた村長がいる村とは反対方向の海辺の砂浜に落とし穴をウィルに仕掛けさせ、自分がリオレイアをそこまで誘導する。そして、ウィルには大剣で翼の部分にある棘をできるだけ斬り落としてもらって毒を受ける可能性を少しだけ減らすこと。それから狩りを始めることを事前にウィルに伝えていたジークだったが、若い個体と聞いていたリオレイアは思ったよりも大きく成長している影響で落とし穴に入っている時間が短かったことが誤算となっていた。砂浜の柔らかい砂の上に落とし穴を仕掛けることは、暴れる程に埋もれていく罠となるが、大型飛竜種であるリオレイアが暴れればそれだけの量の砂が掘ったはずの落とし穴に入っていくことでもある。
ウィルはジークの言葉に従って大剣を背負い直してから急いでリオレイアから離れた。それと同時に、リオレイアは浅くなってきた砂に力を入れて踏み出しながら翼を広げて上空へと逃げた。
「飛竜種はやっぱり落とし穴が効きにくいか」
「ジークさん!」
空に逃げたリオレイアの闘志は全く萎えず、むしろ小さな人間に傷つけられたことがプライドにさわったのか、怒りの咆哮を上げながらジーク目掛けて爪を立てて勢いよく着地した。分かり切った動きを今更受ける訳もなく、いきなり降ってきたことで生じた風圧すらも姿勢を低くして避け、低くなった姿勢から一気に足を使って左手に持ったフェザーソードをリオレイアの片目目掛けて振るう。目を守るように顔を背けたリオレイアの眉間に一文字の傷をつけた。
「おいおい。冗談だろ」
顔を傷つけられた怒りのまま密林に向かって口を開いたリオレイアを見て、ジークはもう一撃を振るう為に踏み出していた足をそのまま、咄嗟に身体を横に転がして砂浜へと移動した。怒りの対象が移動したのを見て、リオレイアは首を動かして追いかけ、そのまま海に向かって火球を吐きだした。以前狩猟したイャンクックとは比べ物にならない威力の火球を放ったリオレイアに、ジークは苦笑していた。
「密林に放ったら大火事だろうが」
自然との調和を目的として狩りをするハンターは、原則としてあまり自然を破壊する行為を自粛するように求められている。その為に海方向へと転がったジークだが、リオレイアが放った火球は海を蒸発させながら勢いよく浅瀬の海底に当たっていた。もしこんな火球が密林方向へと放たれて大火事にでもなっていたらと考えて、ジークは一回息を吐いた。
「ウィル、俺が援護するから思い切り大剣振ってけ」
「わかりました!」
「よし……行くぞ!」
火球が海の中へと消えていったのを見送って近寄ってきたウィルは、閃光玉を片手に持ったままそう言うジークに頷き、背中の大剣へと手を伸ばした。
リオレイアは二人集まっている人間を見て、傷つけられた怒りを思い出したのか勢いよく息を吸い込んでもう一度火球を海に向かって放った。火球を避けながらリオレイアに突撃するジークと、リオレイアから距離を取るように横へ移動を始めたウィルを見て、リオレイアは向かってくるジークに対して口を大きく開けてその牙で敵を噛み切ろうと動いた。
「動きが鈍重だなッ!」
ジークはタンジアの港を中心に活動をしていた頃にも、雌火竜リオレイアを狩猟する機会は多かった。世界的に見ても広く分布している種なだけあって、大陸ごとに習性が若干違う部分もあるが、基本的な行動心理や筋肉の付き方などは同じ種族である。故に、ジークはリオレイアの強靭な顎による攻撃も紙一重で躱してから的確に顔へと切り傷をつけることができる。容易く反撃されたことに虚を突かれたのか、リオレイア顔の痛みに呻いて身体の動きを一瞬止めた。
「ウィル!」
充分熟練のハンターと言えるジークがその隙を見逃すはずもなく、的確に指示を飛ばす声に反応してウィルは即座に大剣をリオレイアの尻尾に向かって振り降ろした。大型飛竜種の尾は当然がっしりとした筋肉とそれを守るように重なる甲殻と鱗によって守られているが、メゼポルタの鍛冶師たちが鍛え上げた大剣は、容易く大型飛竜種の甲殻を引き裂いて尻尾にざっくりと裂傷を与える。
予想だにしていなかった反撃を受けて硬直していたリオレイアは、すぐに憎悪とも言える程の怒りを燃やした目をしたまま巨大な咆哮を一つあげてから、目の前にいるジークへと向かって全力で突進した。
「っ!?」
突然の突進に対してジークは片手剣の盾を構えながら左手に持つ剣を逆手に持ち換え、リオレイアの突進の勢いをそのまま殺さないように顔に盾を当てて背中に滑り乗ってフェザーソードを背中の甲殻へと深々と突き刺した。
「す、すごい……」
突進の勢いをそのまま利用して周囲に鮮血の雨を降らせるジークのその行動に、ウィルは大剣を背負い直して再び林の中に隠れながら驚愕していた。例え自分が片手剣を持ってリオレイアの前に立ったとしても、あんな風に臨機応変に戦えないだろうことは確実だと理解していた。
「うぉ!?」
「ジークさんっ!」
突進したはずが背中に乗られて深い傷をつけられたリオレイアは、痛みに喘ぎながらも無理やり身体をねじって背中のジークを空中に放り出した。フェザーソードが背中に刺さったまま勢いよく空中に放り出されたジークは、目の前まで迫ってきている血に濡れた尻尾を見て咄嗟に盾で防御したが、モンスターの膂力によって紙屑のように海へと向かって吹き飛ばされた。
「なんとか時間を稼がないと」
リオレイアの背中に刺さっているフェザーソードを見ながら、ウィルは大剣の柄へと手を伸ばしながらも息を殺していた。頼りにしていたジークが海へと放り出されたのなら、そこまで長い時間でなくともウィルは戻ってくるまでの間、一人で大型飛竜種であるリオレイアを相手にしなければならない。先日はヒプノック相手にも手間取っていたと言うのに、今はリオレイアの相手を一人でしなければならないことに苦笑しながらもジークから教わったことを復唱する。
「指向性の無い怪物なんかじゃ……ない!」
背中の痛みにもがき続けているリオレイアの背後から大剣を振り下ろしたウィルだが、背後から近づいてくるウィルの姿見えていたのか、リオレイアはその巨体からは考えられない反射速度で大剣を避けて、大きく息を吸い込んだ。
「くそっ!?」
大剣を持ったまま横に飛んだウィルの背後、先程まで立っていた場所にリオレイアの火球が吐き出され、海岸の砂を天高く巻き上げて爆発した。大地が抉れいているのを見ながらも、自分がしっかりリオレイアの動きを見極められていることに気が付いているウィルは、そのまま身体の余計な力を抜いてリオレイアへと大剣の切っ先を向けた。空から断続的に降り注ぐ砂にリオレイアが一瞬気を取られた瞬間に、ウィルは力強く一歩踏み込んで大剣の腹をジークがつけた切り傷へと叩きつけた。的確に傷つけられた部分を攻撃されて怯んだリオレイアは、もう一度息を吸い込んで砂浜の上に立つウィル目掛けて火球を放ち、小さな穴を作り出して空中に砂をまき散らす。
「ここだッ!」
再度巻き上がった砂に紛れながら大剣を振るったウィルは、その刃の先がリオレイアの足を薄く切り裂いたのを見て顔を歪めた。
「あ、浅い!」
巻き上げられた砂は確かにリオレイアの視線を狭めて、人間一人の身体を隠す程度の死角を生み出したが、同時にウィルの視界も狭められて遠近感を狂わされていた。なにより、ウィルはリオレイアの足を切り裂くために砂浜に大きく一歩を踏み込んだが、砂は彼が思っている以上にその踏み込みの威力を減衰させていた。
足の痛みを感じてウィルの居場所を把握したリオレイアは、すぐさま頭を回転させてから、ウィルをその鋭い牙で噛み砕かんとして、海から上がってくる一人の人間とその手に握られている細長い筒の様な物を視界に収めた。
「やるよ」
不敵な笑みを浮かべるびしょ濡れのジークが放った閃光玉は、ウィルの背後へと放たれて的確にリオレイアの瞳だけを焼いた。突然背後が光ったことに驚愕しながらも、ウィルは砂浜に切っ先を埋めていた大剣を持ちあげて今度こそリオレイアの足を切り裂いた。人間の膂力ではどう頑張ってもリオレイアの足を切断することなど不可能だが、狙うべき場所をしっかりと狙えば幾ら大型飛竜種だろうとその身体を支えきれずに倒れてしまう。
「返してもらうぞ」
「ここで決めます! はああぁぁッ!」
緑色の巨体が倒れたのを見て同時に走り出したジークとウィルは、既にリオレイアが体力の限界を迎えていることに気が付いていた。ジークは背中が降りてきたことに感謝しながら刺さっているフェザーソードの柄を掴み、勢いよく横に移動させるように肉を切り裂き、ウィルは倒れたリオレイアの頭に最後の一撃を放つためにその場から上に飛んで自分の体重全てを乗せて大剣を振り下ろした。背中と顔面から同時に大量の血をまき散らしたリオレイアは、痛みにのたうち回った後に力なく小さく鳴いてからその巨体を大地に倒した。
「ふぅ……痛ってぇ……」
「大丈夫ですか?」
生命活動を停止させたリオレイアを見ながら、ジークは海に吹き飛ばされた時に刺さったリオレイアの尾についていた棘を右肩から抜いた。かなりの量の血が流れ出るが、既に解毒はしてあるらしくジークは回復役を口にしながら止血する為に包帯を片手で丁寧に巻いていた。
「ウィルは成長したな。ヒプノックの時とは見違える程だ」
「あはは……まだまだ未熟ですよ」
初の大型モンスターを討伐した以上に、ジークがいなくなった時間を一人で埋められたことがウィルにとってはなによりも自信となっていた。自分がジークに頼りきりなのではないだろうかと考えていたが、そうではないのだと自分の手で証明したことがウィルにとって重要なのだった。
「にしても……若い個体とか言ったのに結構戦い慣れてたな」
リオレイアの死体を見つめながらそう言ったジークは、戦闘中のリオレイアの行動を思い出していた。確かに容易く誘導に引っかかって罠に落ちたり、予想だにしていなかった反撃を受けて硬直するなどの行動は若い個体ならではの行動だが、それ以上にジークを海に吹き飛ばした動きなど気になる部分も多かった。
「正直上位ハンターにやらせるぐらいではあった気がしたが……メゼポルタだとこんなもんなのかな」
初めての大型モンスター討伐の実感が今更湧いてきたのか、跳ね回らん勢いで喜んで剥ぎ取り用のハンターナイフを腰から取り出しているウィルを見て、ジークは一人で苦笑していた。
肩に受けた傷を治療しながらメゼポルタに帰ってきたジークたちは、まだ沈んでいない太陽を見て日暮れ前までに帰って来れたことに喜びながら広場を歩いていた。
「今帰ってきたの?」
「エルスさん?」
右肩を回しながら歩いていたジークは後ろから突然声をかけられて振り向くと、そこには猟団員の一人であるエルスが立っていた。隣にはジークたちが先日見た少女が立っており、何故エルスがその少女と共にいるのか疑問に思った。
「立ち話もなんですし、取り敢えず猟団受付近くの机行きますか?」
「そうだな」
エルスからなにか話があるのだろうと思ったジークは、ウィルの言葉に頷いてそのまま椅子に座ってエルスと少女に向かい合った。
「この子、私が勧誘した」
「勧誘? 仕事が早いですね、エルスさん」
唐突に用件だけを伝えるエルスに苦笑しながらも、自分たちがリオレイアを狩りに行っている短い間にまさか早くも一人を勧誘してくると思っていなかったジークは苦笑しながらも頼もしく思っていた。エルスの性格上『ロームルス』時代にもあまり勧誘などしていなかったのだろうが、この『ニーベルング』に来てから早速働いてくれたことに感謝しながら、ジークは隣の少女に視線を向けた。
「俺が『ニーベルング』の猟団長ジークだ。こっちは副団長のウィル」
「は、はい! ティナと言います。よろしくお願いします!」
緊張しながらそう言うティナに苦笑しながら、ジークは一番聞かなければならない話をどう聞こうかと考えていた。簡単な話、ジークとウィルの目の前にいるティナと言う少女は、猟団を結成する時に受付で『アイギス』の猟団長である姉に会いたいと言っていた少女と同一人物なのだ。そして、彼女こそがジークがネルバに言っていた『プレアデス』の後ろ盾が得られるかもしれない人物。エルスはそんな人材を知らないうちに猟団に引き入れていたのだ。
「あー……君は、姉に会いにメゼポルタに来たんだよね?」
「え? なんで知って――あっ! あの時の人!」
「やっぱりそうですよね」
「知り合い?」
言いにくそうにしているジークの言葉に反応して首を傾げたティナは、すぐに目の前の人物二人のことを覚えていたらしくわかりやすく声を上げていた。ジークとティナの言葉に、ウィルは自分の気のせいではないと思って息を吐き、エルスは初対面だと思っていた相手が顔見知りなことを不思議そうにしていた。
「いや……ネルバさんに話した『プレアデス』の繋がりですよ」
「……そう。何処かで見たことある金髪だと思ったら【神盾】の妹だったのね」
「し、神盾ですか?」
エルスの言葉に首を傾げたティナは、その言葉が意味するものが姉であることは理解できていたが優しかった姉とは結び付くことができずにいた。
「どんなモンスターの攻撃をも防ぐ鉄壁のランス使い。『カリバーン』の団長【魔剣】と対になるメゼポルタの双璧を成す狩人。それが貴女の探し求める『アイギス』の団長【神盾】セティよ」
「お姉ちゃん……」
エルスの口から出てきた言葉は、ティナの想像していたよりも高みに位置する姉の姿だった。姉に会う為にこのメゼポルタまでやってきたと言っていた彼女にとっては、とても辛い道のりになっているのかもしれないと考えながら、ジークはティナへ視線を向けた。
「君がどうして俺の猟団に入りたいと思ったかは知らないけど、俺たちはいずれ『プレアデス』と『円卓』を超える。もしよければ――」
「――私この猟団に入ります!」
「へ?」
真剣な表情のままティナを本格的に勧誘しようとしていたジークは、勢いよく立ち上がって宣言するティナに呆然としていた。ウィルもエルスも今の情報を聞けば彼女はもしかしたらハンターを辞めてしまう可能性すらあるのではないだろうかと考えていたので、ジークと同じように呆然とした表情のまま彼女を見ていた。
「お姉ちゃんが遠い所にいるなら追いついて振り向かせて見せます! よろしくお願いしますジークさん!」
「あ、あぁ……うん……よろしく?」
「……くっ……ぁははは……面白いことになったわね、団長」
ハンターを辞めるまではいかなくとも、かなり悩むだろうと考えていたジークの期待を反対方向へと裏切ったティナは笑顔のままジークの手を握って上下に振っていた。ティナの言葉を最初に理解したエルスは珍しく感情を表に出して楽しそうに笑いながら、ジークを見つめていた。
「まぁ……彼女がいいって言うならいいんじゃないですか? 副猟団長も二人まで選べることですし」
取り敢えず早く四人は確保した方がいいだろうと考えていたウィルも、何も考えずに賛成することにした。ジークも反対する訳ではないが、それなりに猟団に入ることに迷いがあってもいいのではないだろうかと思いながらも、ウィルもエルスも迷いなく入団したことを思い出して、小さく頷くことしかできなかった。
結構戦闘描写削ったんですけど、それでも結構多かったですね。
リオレイアなんてオリジナルモンスターでもないので、それなりしか書くつもりなかったんですけど……