狩人の頂   作:ばるむんく

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すっごい久しぶりの投稿になってしまいました。
読んでくれている方はそこまで多くないと思うのですが、待たせてしまった方々には申し訳ないです。


呑竜(パリアプリア)

 エスピナス討伐の功績によって、ジークとウィルが上位ハンターへと昇格してから数週間が経った。温暖期も折り返しへと向かいつつある初夏、降りしきる雨の中、ジークは傘を片手にメゼポルタ広場でティナが帰ってくるのを待っていた。

 

「戻りました……」

「お疲れさん」

 

 疲れ切ったと、身体全体で表現するように歩くティナの姿に苦笑を浮かべながらも、ジークは労いの言葉をかけた。エルスにスパルタ教育でハンターとしての基礎を叩き込まれたティナは、姉と同じく狩人として天才とも呼べる才能を徐々に開花させ、その才能にギルドマスターが目を付け、人材不足を理由に異例の速度での上位昇格試験を課され、無事に達成して戻ってきた。

 

「どうだった?」

「凄く怖いモンスターでしたよ……目が合ったらすぐ威嚇してきましたし、すごい力で岩も粉々ですし」

 

 大陸南東部に位置する未開の大地である「高地」へと上位昇格試験に向かったティナは、そこで相対したモンスターである「蛮竜グレンゼブル」の姿を思い出して身震いをしていた。そんな身震いするほどのモンスターを一人で狩猟し、無事に上位へと昇格したのはティナ自身なのだが。

 

「取り敢えずギルドマスターに報告したら休んだ方がいいぞ」

「そうします」

 

 満身創痍と言える状態のティナを気遣ったジークは、そのまま後ろに振り向いて談笑しているエルスとネルバの元へと向かった。

 

「無事、上位に昇格したみたいだな」

「団員四人ですが、これで足並みは揃えられそうです」

「ふむ。団長が望むなら四人で行くのもやぶさかではないな」

 

 目指す場所が同じである『ロームルス』の猟団長ネルバと『ニーベルング』の猟団長ジークは定期的に話し合いの場を設けていた。『ロームルス』から『ニーベルング』へと渡ったエルスの仲介もあり、順調に話し合いも進んでいる二つの猟団だが、未だ戦力は整わない状態である。

 

「もう温暖期も折り返しってぐらいの季節だが、こっちも人が集まらねぇ……やっぱり剣と盾の影響力はでかいぞ」

「こっちも何人か勧誘して見てるんですけどね……」

 

 いずれ同盟を結ぶことになっている二つの猟団だが、合わせる力は互いに強い方がいいと考えている。しかし、現状のメゼポルタでは新人が新興の猟団に集まりにくいのもまた事実だった。

 

「いっそのこと凄腕になってから勧誘した方がいいんですかね」

「あー……凄腕になってから、か……確かに、寒冷期でも勧誘活動を続けるならいい考えかもしれないが」

 

 上位ハンターでは受けられない危険度の高いクエストを受けるハンターたちを、メゼポルタハンターズギルドでは便宜的に「凄腕ハンター」と呼称する。ドンドルマ管轄のハンターでは危険であると判断されるようなモンスターを討伐し、大陸に存在するG級ハンターやギルド直轄のエリート集団であるギルドナイトすらも上回る実力を持つ者もいるハンターたちであり、メゼポルタギルド最高戦力と言える。

 

「俺たちが凄腕になれば、メゼポルタの現状をどうにかしようとする行動を支持するハンターも出てくるはずです。味方は多ければ多い程いい」

「そうだな……どっちにしろ、しばらくは実績を示していかないといけないか」

「了解だ猟団長。なら引き続きティナの育成をしていこう」

「これからは俺たちもティナと一緒に行きますよ」

 

 才能を開花させて上位ハンターへと昇格したと言っても、まだまだ拙い部分があるティナは引き続きエルスが中心に教育し、ジークとウィルは同行しながらも共に装備を充実させる方針で話し合いは解散となった。

 

 


 

 

 数日後、エルスがマルクに呼び出されたことによって不在の時に、ジークはティナを連れてウィルの部屋に訪れていた。ウィルは自分の給仕ネコにお茶を淹れさせながら二人を椅子に座るように促してから、自分も椅子に座った。

 

「それで、どうかしたんですか?」

「ティナも上位に上がったし、そろそろ休養は終わりで俺たちも狩りに行くぞ」

「あー……そうですね」

 

 エスピナスを討伐して上位に昇格したウィルとジークは昇格後も止まることなく狩りを続けていたが、ティナが上位昇格試験を受けると聞いて、ティナの休養に合わせるようにして狩りを一旦止めていた。

 

「そこまで重要な依頼ではないが、面白そうなモンスターを見つけてな」

「面白そう、ですか?」

「ドンドルマギルドから流れてきた依頼だ」

「へー……中央からですか」

 

 ドンドルマハンターズギルドと言えばハンター稼業をする者だけでなく、大陸周辺で生活している全ての中心点に位置する最大規模のハンターズギルドである。大老殿を中心としたドンドルマには、大陸でも一掴みしか存在しないG級ハンターが数十人所属していると言われている。

 

「中央から来るなんて、よっぽど危険な依頼なんですか?」

「内容はドンドルマ、メゼポルタ間の物流が一部滞っているからその原因を討伐して欲しいって依頼だ」

「物流、ですか?」

 

 ジークの言葉にティナが首を傾げた。ドンドルマとメゼポルタが繋がる物流のラインは、ゴルドラ地方と呼ばれる乾燥した山岳地帯を抜けている。聳え立つ山々と乾燥して水も少ない地域である為、モンスターの数も少なく比較的安全に通ることができるラインである。

 

「どうやら近くの峡谷から特定の物資だけ好んで襲う傍迷惑な奴がいるらしい」

「峡谷ですか」

 

 そこまで聞いて、ウィルは初めてドンドルマからメゼポルタに依頼が回ってきた理由を理解した。峡谷と呼ばれる特殊環境での狩りが許可されているのは、メゼポルタハンターだけであり、たとえ危険性の少ないモンスターだったとしても、そもそも峡谷に踏み入ることができるのはメゼポルタハンターだけなのだ。

 

「上位ハンターに回ってきてはいるが、ギルド的にもかなり重要な依頼だ。ギルドからの評価を上げるにはこれ以上にいい依頼はない」

 

 ジークの言葉にウィルとティナは頷いた。いち早くギルドからの評価を得て、凄腕ハンターへと昇格しようとするジークたちにピッタリの依頼に、二人も若干緊張した面持ちをしていたが、その目には闘志が宿っていた。

 

呑竜(どんりゅう)パリアプリア……それが今回のターゲットだ」

 

 すっかりとハンターらしくなったウィルとティナの目を見て、ジークは不敵に笑みを浮かべていた。

 

 


 

 

 作戦会議の当日、早々にメゼポルタを発ったジークたち三人は、いつも通り船に乗ってメゼポルタ近辺の港からテロス密林付近へと降り立ち、そこからドンドルマとメゼポルタの交易路を通りながらゴルドラ地方の峡谷へと向かった。

 吹きすさぶ風の中、峡谷のベースキャンプ地として定められた安全地帯へとやってきた三人は、未知の大地に目を奪われていた。

 

「ここが……峡谷か」

「僕、結構高い所苦手なんですよね……」

 

 ベースキャンプから峡谷の谷間へと伸びていく岩でできた天然の橋から、谷底を眺めながらウィルは笑みを引き攣らせていた。

 

「元々海だった場所が隆起して年月を経って削られた姿、らしい」

「らしい、ですか」

 

 狩人としてウィルやティナよりも遥かに場数を踏んでいるジークだが、当然学者ではないので書物に書かれている程度のことしか知らない。

 谷底に流れる大河を見ながら苦笑を浮かべているウィル、初めての場所にやってきて周囲をつぶさに観察しているティナ、気候と足場を見ながら武器の手入れをしているジーク。三者全員が違うことをしながらも、既に討伐対象であるパリアプリアを狩りに行く心構えはできていた。

 

「さっさと終わらせるぞ」

「はい!」

「任せてください」

 

 上位昇格試験の相手であったエスピナスの素材で作られたハンマー『ローゼンファウスト』を背負ったジークは、二人を先導するように歩き始めた。エスピナスの頭部素材を使ってハンマーにしてしまうという斬新な武器ではあるが、強力な毒が滲みだす角をそのまま使う合理的な武器である。ウィルも同じくエスピナスの素材で作られた大剣『ローゼンテラー』を背負い、ティナも自らの上位昇格試験の相手であった蛮竜グレンゼブルの素材で作られた弓『怒髪弓【夜霧】』を手に歩き出した。

 

「確か鍾乳洞を中心に生活している、だったよな」

「そうですね。水気の多い所で生活し、とんでもない大食漢で常に何かを食べているそうです」

 

 ジークの言葉に、ウィルはギルドストアで購入した携帯用のモンスター図鑑を開いた。呑竜パリアプリアのページを開きながら言うウィルの言葉に、ジークは一瞬タンジアにクエストが回ってきていた恐暴竜を思い出した。

 

「どんなモンスターなんでしょうか……」

「所謂ティガレックス骨格って呼ばれる飛竜種だな」

「てぃが?」

「あー……四足歩行型の飛竜種で、翼が発達していない代わりに、前脚が発達した飛竜種だ」

 

 峡谷を歩きながらモンスターの骨格について話していたジークは、不意に立ち止まった。先頭を歩いていたジークが止まったことで、後ろの二人も首を傾げながらジークの隣まで近づいた。

 

「どうかしたんですか?」

「ウィル、それ以上前に出るな」

 

 ジークの視線の先へと歩こうとしたウィルは、その言葉を受けて立ち止まった。ヒプノック狩猟の時にジークの警告を無視して死にかけた経験があるウィルは、ジークのハンターとしてのセンスを信頼して止まった。ティナも語気を強くしたジークの言葉に唾を飲み込み、身体を強張らせた。

 その場で片膝をついたまま、ジークは鍾乳洞へと続く道を指差した。導かれるまま指し示す方向へと二人が視線を向けると、荷車の車輪と思われる木片と共に、何かを鍾乳洞まで引きずった跡が残っていた。

 

「襲われたのは……ハンター用の生肉を乗せた荷車、だったよな」

「クエストの説明文には、そう書かれていました」

「なら、鍾乳洞の中で食事中だろうな」

「な、なるほど」

 

 生態とクエストが依頼された理由から、パリアプリアが今どこでなにをしているのか大体の予測を立てたジークは、ウィルとティナを連れて慎重に歩き始めた。ハンターとして、ウィル以上に経験の足りないティナは、ジークの行動全てに感心していた。

 

「もう食事が終わってるかもしれないが……行くか」

 

 座り込んで地面に触れていたジークは、風が強い峡谷で引きずった跡が未だ消えていないことから、この跡ができたのはそこまで前ではないだろうと考えていた。既に襲われた荷車の中身は全て食べられているとしても、この峡谷にはパリアプリアの食事対象であるアプケロスが歩いている為、どちらにせよ食事中であろうと予測していたのだ。

 周囲を警戒してローゼンファウストの柄に手を伸ばしながら歩き始めたジークに続いて、ウィルとティナも背後を警戒しながらゆっくりと追いかけ始めた。

 

「一気に気温が低くなった……流石に鍾乳洞なだけはあるか」

「これほどの鍾乳洞が作られるなんて……どれ程の時間をかけたのでしょうか」

「どうだろうな」

 

 未だ開拓が満足にできていない大地である峡谷の幻想的な風景を見て、ティナは感嘆の息を漏らしていた。ウィルとティナが風景に目を奪われている間も、ジークは所々に転がっているモンスターの鱗や魚の骨を見て、ゆっくりとパリアプリアの住みかに近づいている確信を持っていた。警戒を最大限しながら歩いていたジークは、不意に何かを咀嚼する様な音が聞こえて足を止めた。岩陰から鍾乳洞の先を覗くと、予想よりも開けた場所に前脚の発展した飛竜種特有の骨格を見つけた。

 

「いたぞ。食事中だ」

 

 ジークの予測通り、アプケロスを真剣に貪っている飛竜を見て、ウィルとティナは唾を飲み込んだ。想像していたよりも更に大きく、魚としての特徴を身体に持ちながらも、発達した前脚でアプケロスの首元と尻尾を押さえつけていた。ぬめぬめとした体表が洞窟の隙間から入った光を反射し、つぶらな瞳と言える程綺麗で丸い目をもった四足歩行型飛竜種、呑竜パリアプリアはいた。

 

「俺がハンマーだから注意を惹き付ける。ウィルは側面から叩いてくれ」

「わかりました」

「ティナは必ず安全距離を保ちつつ弓で牽制。狙えるようなら顔を狙ってくれ」

「はい!」

 

 武器を構えながら二人に作戦を伝えたジークは、周囲からの邪魔が無さそうなことを確認してから岩陰から一歩前へと出た。

 

「……四足歩行型飛竜種は突進力が高い。引き際を見誤るなよ!」

 

 岩陰から身を出したにもかかわらず、全くこちらに気が付かずに食事を続けるパリアプリアを見て、最後の警告を二人にしてから、ジークは一人でパリアプリアの真正面へと走った。視界の端にいる程度は無視していたパリアプリアだが、食事の邪魔をしようとする相手には威嚇することも無く、独特な高いようにも低いようにも聞こえる声を発しながら大口を開けて噛みつこうとした。

 

「ハァっ!」

 

 噛みつきを紙一重で避けた勢いのまま、ハンマーを振り上げるようにしてパリアプリアの下顎にクリーンヒットさせたジークは、続けて叩きつけるように重力に引かれるままハンマーを頭へと振り下ろした。エスピナスの頭を殆どそのまま使って作られたローゼンファウストからは、エスピナスの持つ遅効性の毒が滲み出ており、打撃で傷つけた場所から相手の体内に毒を送り込む。だが、パリアプリアは二度の打撃をものともせず、発達した前脚で地面を蹴ってジークへと突進を始めた。

 

「うぉっ!?」

 

 重たいハンマーに引っ張られながらもなんとか横に転がったジークは、真っ直ぐ走っていった獲物を追いかけようと走りかけたことろで、パリアプリアが自らの重い体重を苦もなく反転させて再び突っ込んできたのを見てハンマーを背負い直して横に走って避けた。

 

「突進の推進力はそれほどでもない……が、体重があるから受けるときつそうだ」

 

 突進を避けられても無視してそのまま走り続け、先程まで食べていたアプケロスの残っていた身体を、口を地面に付けて岩盤を削りながら丸呑みにした姿を見て、ジークは苦笑いをすることしかできなかった。

 

「岩も敵も肉も関係なしってか」

 

 アプケロスの死体を完全に飲み込んだパリアプリアは、距離の離れた位置にいるジークを見据えてもう一度突進の構えを見せた。直線的で無計画にも見えるパリアプリアの突進だが、四足歩行型飛竜種の例に漏れずに左右の幅が広く、同骨格飛竜種の中でも平均的なサイズが大きく、岩盤を容易く削る程の推進力も発生している。おまけに重めの体重を簡単に、少しのジャンプで真反対へと方向転換する瞬発力を持つ。

 

「中々面倒くさそうなやつだな……」

 

 獲物を狙って突進を始めたパリアプリアの正面で、背負い直したハンマーを再び構えたジークは、パリアプリアの突進を狙って放たれた矢を見て笑みを浮かべた。突進中に横から飛んできた矢が首元に刺さったパリアプリアは、多少横にブレながらもお構いなしにジークへと突進を続けた。全く退く気の無いジーク相手に、アプケロスの死体を飲み込んだ時の様に、岩盤を下顎で削りながら突進していたパリアプリアは、死角から側面に回り込んでいたウィルの大剣に前脚を掬われ、それを把握していたジークによって頭全体を揺らすような両手持ち振り下ろしを頭に直撃させられた。

 

「うぉッ!?」

 

 完全に捉えた当たり確信していたジークだったが、体表のぬめぬめとした質感に衝撃を吸われ、頭の奥まで伝わり切っていないことを手応えで感じたジークは、すぐさまハンマーを振り上げてもう一度パリアプリアの頭に叩き込んだ。エスピナスの素材によって作り出されたローゼンファウストの棘が、そのままパリアプリアの頭に突き刺さるように叩き込まれ、痛みに喘ぐような声を上げながらその場でジタバタ暴れ始めた。

 

「いたッ!?」

「だ、大丈夫ですか?」

 

 突然ジタバタと暴れ始めたパリアプリアによって、ハンマーを持っていたジークはパリアプリアの前方によって吹き飛ばされ、側面から近づいていたウィルも前脚に身体ごと吹き飛ばされて弓を構えていたティナの隣まで転がされていた。装備を着込んでいたウィルとジークは大したことのない傷しか追っていないが、張り付いて動かさないようにしていたパリアプリアは、この隙に再び好き勝手に鍾乳洞内を走り回り始めた。

 

「ティナ、足止め頼む」

「わかりました!」

 

 応急薬を口にしながら立ち上がったジークは、すぐにティナへと指示を飛ばしてから、頭に傷を負いながらも突進する速度が全く変わらないパリアプリアへと視線を向けた。

 

「こいつ……毒が全く効いてないな」

「そ、そうなんですか?」

 

 突進を避けつつジークの隣までやってきたウィルは、隣から聞こえてきた呟きに反応した。ジークとウィルはエスピナスの素材からできている武器を背負っているが、パリアプリアの傷口に幾ら攻撃しても全く毒に対して反応もしなければ、動きが緩慢になっている様子も見られないことから、ジークはパリアプリアには毒の効き目がないと判断した。

 パリアプリアの分析をしていたジークを横目に、ティナはやたらめったらに走り続けているパリアプリアに目測を合わせて矢をつがえていた。ジークから指示された足止めに必要なことは、急所を撃ち抜くことではなく、目や足を撃って動きを止めることだと考えたティナは、パリアプリアが自身の方向へと顔を向けるのをひたすらに待っていた。

 

「ふぅ…………」

 

 モンスターの素材からできているハンターの弓は、強い張力から弾き出される矢がしっかりとモンスターの身体に刺さるようにできている。それ故に、初心者弓使いはまず弓の弦をしっかりと引き、それを維持するための筋力と持久力を鍛えさせられる。ティナはハンターとしてライセンスを取得してから一年も経過していない。にもかかわらず、パリアプリアが暴れ始めてから一度も構えを崩さずに弦を引き絞り続けていた。その圧倒的な集中力と、初心者ハンターとは思えない程の忍耐力を持って、ティナはパリアプリアが止まった一瞬の隙を見抜いて矢を放った。

 

「行くぞ」

「は、はい!」

 

 ジークはティナの目つきが変わった瞬間、パリアプリアの突進に対して挑発する様に真後ろに立ったままローゼンファウストを構えた。パリアプリアは数分間突進し続けるようなスタミナを持つモンスターだが、方向転換をする時に一瞬生み出される硬直こそが弱点だった。ジークの存在を感知したパリアプリアは、すぐさま身体を反転させ、ジークに突進しようと口を突き出し、同時にジークがハンマーを持ったまま走り始めた。

 

「行きます!」

 

 ジークより一拍遅れて走り始めたウィルは、自分が走り始めようとした瞬間に、声と共にパリアプリアの側面から飛んできた一矢が、パリアプリアの左目に刺さるのを視認した。パリアプリアは視界外から飛んできた矢に視界の半分を潰され、突進しようとしていた体勢からバランスを崩し、右方向へと倒れた。

 

「いいタイミングだ! ウィル!」

 

 パリアプリアが倒れるのを見て、ジークは笑みを浮かべながら背後のウィルへと声を飛ばし、自身も走り出していた勢いそのままにハンマーを頭に叩き込んだ。衝撃が洞窟内に伝わる程の力を込めたジーク渾身の一撃は、容易くパリアプリアの脳組織を揺らし、続くウィルの全体重をかけた大剣の振り下ろしに反応することすらできない。容赦なく振り下ろされた大剣の切っ先は、パリアプリアの体表を覆っているぬめぬめとした皮すらも切り裂き、鍾乳洞の地面へと鮮血をまき散らす。追撃するようにハンマーを構えたジークは、ティナへと一瞬視線を向けてから地面を横に転がり、遠心力そのままに左前脚の翼膜を棘で裂いた。

 

「畳み掛けろ!」

「はい!」

 

 突如視界の半分を奪われた挙句に脳を揺らされ、首を斬り裂かれ、翼膜すらも使えなくされたパリアプリアは、悲鳴を上げながら立ち上がろうとするが、地面へと突き立てた左前脚の爪を的確に矢で貫かれ、立ち上がることすらできなかった。立ち上がれないパリアプリアに容赦する気など無いハンターたちは、己の武器を振るい続けた。ジークとウィルは互いの位置を入れ替えるように移動し、頭にハンマーによる打撃を与え、筋肉の発達していない後ろ脚に大剣で裂傷を生み出す。筋肉を切り裂かれる痛みに身体を暴れさせようとするパリアプリアだが、一撃目とは反対方向から叩き込まれたハンマーの衝撃によって、既に上下左右すらも覚束ないほどのダメージを受けていた。

 

「ここで仕留めきります!」

 

 ジークの重い一撃によって動けなくなっているパリアプリアに、追撃をしかけるように皮膚を切り裂いたウィルは、すぐさま大剣を頭上へと持ち上げて体重と共に振り下ろす。ウィルは手が痺れるような感覚を味わいながらも、パリアプリアの胴体に大きな裂傷を生み出した。

 

「終わりだ」

 

 ウィルの作り出した傷から大量の血が吐き出されるのを横目に、ジークはゆっくりとハンマーを構え、渾身の力を込めてパリアプリアの顎へと打ち付けた。なにかを砕く様な音と共に、パリアプリアの苦痛に喘ぐような声は段々と小さくなっていき、そのまま力なく地面に身体を横たえた。

 

「腕が痺れたな」

「大丈夫ですか?」

「お、ありがとう」

 

 パリアプリアの顎の骨を砕いたジークは、ハンマーを地面に置いたまま右手を振っていたところ、後ろから近づいてきたティナが回復薬を差し出した。痺れの取れない右手を振りながら左手で回復薬を受け取ったジークは、ウィルへと視線を向けた。

 

「毒は効かなくても、エスピナスの素材でできた武器なら簡単に斬り裂けましたね」

「そりゃあそうだろう。パリアプリアは飛竜種でも最弱、なんて呼ばれるくらいだからな」

「そ、そうなんですね……」

 

 大剣の刃毀れしていないかを見ていたウィルの言葉に、ジークは苦笑いしながらも答えていたが、ティナのような弓使いにとっては走り回るだけでもとても厄介に感じていた。

 

「さて、さっさとメゼポルタ帰って反省会でもするか?」

「はい!」

「わかりました」

 

 ギルドの流通に迷惑をかけていたパリアプリア狩りを終えた三人は、ぬめぬめとした素材の解体に四苦八苦しながらも依頼を完了するのだった。

 

 


 

 

「団員増やし、ですか?」

「そう。そろそろ本格的に考えないといけないわ」

 

 パリアプリア討伐に成功し、メゼポルタ広場へと帰ってきたジークたちは休養を取ってから、一人で団員候補探しに励んでいたエルスと卓を囲んでいた。猟団『ニーベルング』としてそれなりに活動したことで与えられた猟団部屋の中でそれぞれの準備をしていた時、エルスが団員を増やす方法を考えようと切り出した。

 

「団員増やしかぁ……狙うなら初心者、ですかね?」

「そこら辺がいいだろうな。俺らだって初心者みたいなもんだし」

 

 昼飯を食べていたウィルは、フォークを片手に自分のような初心者ハンターを勧誘するのがいいのではないだろうかという考えを口にした。その案に対して真っ先に賛成の声を上げたのは、猟団受付から貰ったクエスト一覧をクエストボードに貼り付けていたジークだった。猟団部屋にはクエストボードが存在し、メゼポルタギルドが管轄している緊急性のそれほど高くないクエストの写しを、各猟団部屋のクエストボードに貼ることを義務付けている。そんな作業をこなしていたジークだが、ウィルの提案はしっかりと聞き入れていた。

 

「第一、俺らだってまだ上位ハンターなんだからな。いきなり次の狩人祭でひっくり返そうぜ! なんて言っても説得力がな」

 

 全てのクエストを貼り終えたジークは、机の上に置いておいたスライスサボテンを口にしてからウィルの隣に座った。

 

「私は姉を振り向かせる為に猟団に入りましたけど、損得を考えるならどちらかがいいですからね」

 

 メゼポルタギルドすらも真っ二つにするような連中が所属する二大猟団以外に入るなど、普通に考えればあり得ないことである。二つの猟団と敵対するメリットなどまず存在せず、どちらかの庇護下に入ることは大きなメリットとなる。

 

「『ロームルス』も勧誘にはかなり苦労してた。結局、奇人変人しか集まらないよ」

「そりゃあそうでしょうよ」

 

 そもそも二大猟団に入らない理由がないような状態で、尚且つ猟団長と副猟団長が変人の類なのだからそれも当然である、とジークは思っていた。自分たちも奇人変人の類ではないとは言い切れない所が悲しい所ではあるが、兎に角猟団員を勧誘することはかなり難しいことは確かだった。

 

「凄腕になれば、違うんでしょうか」

「そりゃあ……そうじゃないか?」

 

 ティナの呟きにジークは肯定しようとしたが、イマイチ実感を持てないのも事実だった。実際、上位ハンターの上はG級ハンターであるとのイメージが拭えないジークは、このメゼポルタギルドでいう所の凄腕ハンターとはどの程度を指すのかが理解しきれていない。その理由の一つに、大陸のG級ハンターと比べても、メゼポルタギルドの凄腕ハンターの数が圧倒的に多いという事実があった。

 

「そう言えば……凄腕ハンターってどんなモンスター狩ってるんですか?」

「そうね……剛種(ごうしゅ)、とかじゃないかしら?」

「剛種?」

「剛種っていうのは――」

 

 初めて聞く言葉に首を傾げたジークに対して説明をしようとしたその時、猟団部屋の入り口から誰かが布を捲って入ってきた音を聞き、四人が視線を向けると、そこにはギルドマスターがいた。

 

「おお、全員集合か?」

「マスター? どうかしたんですか?」

 

 本来ならばギルドマスターが直々に小さな猟団の猟団部屋に訪れることなど無い。故に四人は突然の訪問に驚いていた。

 

「なーに、新進気鋭のお主らに一つ頼みごとがあってじゃな」

「頼みごと? 内容は?」

 

 ギルドマスターから唐突な頼みごとを頼まれると言う事態に困惑しながらも、ジークがその内容の続きを促すと、ギルドマスターは一呼吸置いてから一つのクエスト依頼書を取り出した。

 

「フォンロン地方北部にある謎の古代文明によって建設されたと思わしき塔。その頂上に居座っておる竜の討伐じゃ」

 

 新たな狩猟地の開拓……それはメゼポルタギルドに所属するハンターの使命である。




パリアプリアは最弱の飛竜種なんて呼ばれるくらいに弱いので、サラッと流してしまえばいいかな、と思いつつ一年以上かかりました。

次回は塔の頂上を住みかにすることがあるモンスターですが、古龍ではありません。
次はなるべく早く投稿したいです。
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