大晦日!酒だ!大量の酒があるぞ!
一通り飲めや唄えのバカ騒ぎやり終え、部屋の角に移動し、升に日本酒を注ぎ一人で飲んでいる。さっきまでは白蔵主と一緒に飲んでいたが潰れ、今はムニャムニャしている。
こうして周り見ると今さらながら酒好きが多い。変な踊りを踊ってる奴に、いい感じで酔っぱらってる奴、泥酔してる奴、眠りこける奴、つーかまだ始まって数時間のはずだが荒れてやがる。ん?狐が真っ直ぐ俺の方に歩いて来た。
「なんじゃ、一人か?」
狐は中腰で左手を膝に、右手で髪を耳にかけていた。
「この通り潰れた」
白蔵主を指差し、なんとなく俺は残りの酒を一気に飲み干した。
「妾がついでやろう」
狐は俺の隣に座り、空になった升に酒を注いできた。
「ありがたく、いただくぜ」
これも、なんとなく一気に飲み干した。
「そちの番じゃ」
空になった升を俺からやんわりと狐は奪い取り、差し出してきた。それにしても細い指だ。やわらけぇし、普通の女の手に見えるのが不思議だ。つか…
「飲むのか?」
これまで、まったく飲まなかったくせによ。
「まぁの、少しならば飲んでも平気であろう」
狐は小首をかしげ、笑っていた。
「ふ~ん、そか。ほらよ」
酒を注ぐと、升の酒に口をつけた。
服とは対照的な赤い唇がやけに目に付いた。
「ふぅ。辛いが、なかなかの味じゃ」
狐は一口飲んで、息を吐き出し、ペロリと唇を舐めた。
くそったれ、無駄に色気があんだよ…
なんだかな。溜まってんのか?俺?
人が真剣に考え事をしていたら…
「うぉぃ!勝負ら!赤鬼!」
すでに呂律が幾分か怪しい狂骨が、一升瓶をバンッと俺の前に置いた。
「お前…、酔ってんなぁ」
ほんのり顔は赤いし、目が若干すわってる。
「酔ってにゃい!見ていてくだしゃい羽衣狐しゃま!今から赤鬼をたしましゅ!」
俺の顔に目と鼻の先まで近づき、ぐるんと狐の方に向き直った。
「そうか。頑張るのじゃぞ」
狂骨は狐によしよしと頭を撫でられら、しまりのない顔でニヤニヤ笑っている。まるで変態のようだな。
「お前、語尾が完全におかしいぞ。お前は煽るなよ」
「しゃあ!やりゅぞ!」
狂骨は一升瓶を俺の顔面にグニグニと押し付けてきた。
この野郎…、今すぐにブッ飛ばしてぇ。しかし狐の前じゃ無理だ。
「仕方ねぇ、やってやるよ」
さっさと潰して馬鹿を眠らせよう。
「どうやって勝負すんだ?」
「こにょの!一升瓶を交互に飲んで、…うんにょ、先に飲み干した方が勝ちりゃ!」
その場で決めたのかよ。つか狂骨が持ってる一升瓶なら普通に一気飲み出来るな。しかし、潰すなら少しだけ飲んで狂骨に回した方がいいのか。よし、やるか。と言い出そうとした瞬間に…
「…狂骨、飲み比べなど辞めて、妾と一緒に飲まぬか?」
「はい!羽ぎゃろも狐しゃまと飲みましゅ!」
…マジなんなんだ。つか、腹が立つわ。
言った通り狐と狂骨は一緒に酒を飲み始めた。狂骨が一升瓶をラッパ飲みしようとしたが狐にとめられ、どこからかコップを持ってきてコップに注いで酒を飲んでいる。狐は俺から奪った升の酒をチビチビと飲んでいた。ちなみに俺は持ってた一升瓶をラッパ飲みしている。
俺が一升瓶を飲み終わった頃…
狂骨が完璧に酔っ払った。
まず最初に狐に抱き付いた。コレはままある事だが、いつもとは違う抱擁だった。ベッタリと抱き付いて狐の胸に顔を埋めてフルフル首を振っていた。その後、狐の胸を鷲掴みムニムニ揉み始めた。しかも狂骨は「ぷにぷにですぅ」とか「いい匂いがしますぅ〜」など呟いていた。まぁ、ここまでは百歩譲って良しとしよう。
だが奴は、狂骨は…
「マシュマロみたいですぅ〜」
狂骨はニャハハと笑いながら、狐の胸をツンツンしていた。
「狂骨、くすぐったいぞ」
狐は抱きつかれて以降、ただ笑顔で狂骨の頭を撫でている。まったく嫌なそぶりを見せないので、マジで本当に嫌じゃないんだろう。
「いただきましゅ」
狂骨は、そんな事を真顔で言うやいなや、狐の胸にハムハムとかぶりついた。
「んっふぅ」
で、狐は、鼻から抜けるような声を出した。
なんつう声を出してんだよ!?アホか!?
「ぐっ!?がはっ!?げほっ!?」
そして、俺は、むせた。
盛大にむせた。馬鹿みたいに、むせた。
「お、お前なぁ…」
ようやく落ち着き、言葉を続けようとしたら…
「貴様は何も聞かなかった。貴様は何も聞かなかった。念の為、もう一度言うが、貴様は何も聞かなかった。わかったな」
狐は凍えるような無表情で俺を見ていた。
「おっ、おう」
俺は頷くしかなかった。
ちなみに狂骨は寝ていた。
やるだけやって寝やがった。
そのあと狐は狂骨を抱き上げ、部屋に帰った。
さっきのはマジで心臓に悪かったな…
もう寝よ、無駄に疲れたわ…
自分の部屋に帰り、俺は寝た。
〜
んぁ?
俺、寝てたよな?
気がついたら、白い世界にいた。暇なので辺りを歩いたりしたが、どこまで行こうと白い世界だ。とりあえず寝ようと、寝っころがったら、いきなり狐があらわれた。
「…よう。ここドコだ?」
俺は寝っころがりながら狐に問いかけた。
「ふむ。おそらく夢の中じゃな」
狐は顎に手をあてて考える仕草していた。
「お前がやったの?」
「妾ではない。誰かが呼んだのじゃろう」
首を横に振りながら答えた。
そのあと狐と軽く話し、俺は寝る事にした。
両腕を枕にし、あおむけになり、目をつぶった。
まどろみの中、ゆさゆさ揺さぶられた。
んぁ?なんだ?目を開けるとバクっぽい生き物が宙に浮いていた。
「こんばんは、どうもボクは『夢食い』のノアです」
少年っぽい声をしていた。
「お前が呼んだのか?」
「はい。そうです」
「なんで?」
「あの説明する前に、羽衣狐様を起こしていただいていいですか?」
夢食いの視線をたどると狐が俺の腹を枕にして寝ていた。
「おい。おい、起きろ。狐、羽衣狐」
少しだけ起き上がり、声をかけた。
「ん?んー?…総司か、何じゃ?」
人の腹に頭を置いたまま狐は聞いてきた。
「さっさと人の腹から頭をどけろ」
重くはないが、邪魔だ。
「うむ。なかなか良い枕であったぞ」
そう言ってから狐は、ようやく腹から頭をどけ起き上がった。
で、やっと夢食いの話を聞いた。
なんでも、やたらめったらなんでもかんでも夢を食べる『夢食い』が居て困ってるらしい。ちなみに何故を俺達を呼んだかと言うと、義侠心が無い妖怪を成敗していると聞いたらしい。なんだそりゃ…
「とっと終わらすぞ」
さっき寝て気がついた。
寝てるはずなのに寝てる気がしねぇ。
「うむ。そうじゃな」
夢食いに案内されて着いた場所は遊園地っぽい場所だった。遊園地を進んで行くと、観覧車並みに馬鹿でかい夢食いがいた。マジででかいな…
無駄に戯れ言をのたまっていたが、無視して一発腹に入れた。で、奴はゲロリやがった。そこからはドバドバと口から夢が吐かれた。
吐き終わったら夢食いは小さいサイズと言うか、元の大きさに戻った。なんでも変な悪夢を食べて、食あたりしたらしい。いったい、どんな悪夢を食ったんだか。
その後、夢食い二人に礼を言われた。
寝れば帰れると言われ、寝た。
〜
元旦の朝日が眩しい…
俺は二度寝した。
昼頃に起き、一階に降りると食堂で狐が昼飯を食べていた。俺も腹が減っていたので食うことにした。
どうやら狐の話からして狂骨は二日酔いでダウンしているらしい。ちなみに昨日の事は覚えてない模様だ。まぁ覚えていたら悲惨だろな。
飯を食べ終わり、狐が食後のティーを、俺は茶を飲んでいた。
「総司、出かけるぞ」
カップをソーサーに置いて狐が言っが…
「どこに?」
「初詣じゃ」
「あぁ。そんな話したな」
「30分後に出る。しっかり支度するのじゃぞ」
「はいよ」
部屋に戻り、タンスから服をテキトーに取り出した。しっかり支度しろと狐が言ったからには、学生服じゃ駄目だろうな。しかし何を着りゃいいかサッパリだ。ん、そうだ。この前、狐が買ってきた服を着るか。えぇと、赤いジャケット、白いシャツ、黒いジーパン、これだな。すぐに服を着替えたが、まだ早いな。茶でも飲んで待ってるか。
「ふむ。総司にしてオシャレだと思えば、妾が買った服か」
微笑みながら狐は食堂に入ってきた。まだ20分ほどなのに今日は服選び早いな。
「へいへい。準備できたなら、行くか」
湯のみを台所のシンクに置き、狐の所に戻ると。
「何か言う事はないのか?」
子憎たらしい笑顔で聞いてきた。
「はいはい。似合ってるよ」
「感情が込もってないのぅ」
ヤレヤレと言った感じで頭を左右に振っていた。今日の狐の服装はいつもと違っていた。黒いスカートは同じだが、黒のシャツ、黒のジャケット、赤いネクタイ、そんな格好だった。
「いいネクタイだ」
玄関に向かいながら、後ろの狐に言うと。
「ふふっ。まぁの」
嬉しそうな声だった。
家を出て、近くの神社に向かった。小さい山の上にある神社に近づくと、人間が多くなってきた。いつもは寂れていい雰囲気だが今日は混んでんな。坂道を登り、鳥居まで来るとアホほど人間が居た。
で、俺が鳥居をくぐろうとした時。
「待て」
狐の明朗な声が聞こえ、振り返ると鳥居の足元の方に狐は向かっていた。
鳥居の足元には、今にも泣き出しそうなガキが居た。五歳くらいの女児で涙目いっぱいだ。狐は膝をおり、目線を合わせて話し始めた。
「総司。肩車をしてあげて」
狐は膝をおったまま俺を見上げてそう言った。
「はいよ」
仕方なく、しゃがみこんだが、なかなか女児が乗ってこないので「おら、早く来い」と言ったら狐に頭をはたかれた。
「見た目はアレだけど、優しいのよ」
笑顔で女児に話し掛け、手を取り、俺の頭に誘導した。落ちないよう足を掴み、よっこらしょと俺は立ち上がった。
「落ちないよう俺の頭に手おいとけ」
「うん」
か細い声で返事があり、その後やんわりと手が置かれた。俺はゆっくり歩き出し、神社の方に向かった。
狐は女児に話し掛けながら俺の横を歩いている。狐に話し掛けられたから段々と女児も話し始めた。
社に近づくと「ママだ!」嬉しそうな声が頭上から聞こえ、それに反応するように「ゆうこ!」と母親らしき人間が声を上げていた。
その後、父親と母親に何度も礼を言われた。女児にも礼を言われ「バイバーイ」と手を振っていた。狐にド突かれ、俺も手を振った。
「ホントにガキには甘いな」
「そうか?」
「そうだろ」
「まぁどうでもよい。おみくじを引くぞ」
…お参りは?
くじを引くと、大凶だった。内容はどれも散々だったが、一つだけ恋愛運だけは良かった。その内容は…、稲荷神に行けば良し、的な事が書いてあった。ちなみに一番最悪な健康運には、落命あり狐に気をつけるべし、と書いてあった。狐が何故か関わってるな…、良い象徴なんだか、悪い象徴なんだか、わけわからん。
ちなみに狐も大凶だった。
やっぱ、お参りしないと駄目なんかね。
木にくじをくくりつけて、俺達は神社を後にした。神社から少し離れると、とたんに人間達は少なくなり、もはや今は俺と狐しか歩いていない。
「そういや昔、お前、幸福をもたらす象徴とか、言われてなかったか?」
「誰か、違う者であろう」
いつもより平坦な声で狐は返事をした。
「そうか?」
「そうじゃ」
狐は前を見たまま、簡素に答えた。
「そうか」
静かな街並みを歩き、家に帰った。