ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
学校が終わり帰ろうと下駄箱まで来たら。
土砂降り、さっきまで快晴だったろ…
「妾の傘に入れてやろう。お主が持て」
横にいた狐が折りたたみ傘をカバンから取り出し、俺によこした。ちっさい。
「二人は入らねぇだろ」
傘を広げたが、ちっさい。しかも狐の傘なので、なおさらちっさい。
「びしょ濡れよりはマシであろう。早くゆくぞ」
元々が狐の傘だし、狐が濡れないよう仕方なく傘を傾けて歩き出した。肩びしょ濡れ確定だな。
「総司、もっと寄れ」
校門を出たあたりで狐が言ってきたが。
「これ以上、どう寄れってんだよ」
「しょうのない奴じゃ」
そう言い狐は俺の腕に絡んできた。
「歩きづれぇ」
「役得であろう」
「はっ」
何を言ってんだが。
それから歩き続け。
帰り道の半ばまで来た時。
殺気。
空から針鼠っぽいのが降ってきた。
しかも針を飛ばしながら。
俺と狐は後ろに飛んで避けたが。
「クソが」
傘がぶっ壊れて、すぐにびしょ濡れになった。
「身の程知らずが、消えろ」
針鼠をぶっ飛ばし終わり、後ろを見やると。
びしょ濡れの狐は、明後日の方向の空を見ていた。妙に色っぽい…
「終わったか。うむ、帰るぞ」
「おう」
そっからは何事もなく家に着いた。
「風呂、入れ」
狐に言い、出迎えた狂骨にはタオルを取りに行かせた。
「一緒に入るか?」
「あ?誘ってのんか」
何故か低い声が自然と出ていた。
「おや、妾に欲情しておるのか?」
微笑みながら狐は首を傾げていた。
「…してるって言ったら」
ゆっくり近づき、狐との距離は一歩程になった。
「驚きじゃ。総司にも、そうゆう欲があったのか?」
さも、おかしそうに狐は笑っていたが。その笑いに腹が立ち、狐の両腕を掴み、一気に床に組み敷いた。
「女は嫌いではなかったか?」
「女は嫌いだが、女の体は嫌いじゃねぇ」
「ほぉ」
狐の目がスゥッと細められ、有無を言わせず、尻尾で吹っ飛ばされた。
「がっ!?」
俺は屋敷の外まで吹っ飛ばされ、大木を何本がなぎ倒し止まった。そして生まれて初めて胃液をビチャビチャと吐き散らした。
くそったれ…
しばらく俺は庭で動けず悶絶していた。
しかし、こんなにもダメージをくらったのは初めてかもしれん。少しして仰向けになり目を閉じ、容赦なく降る雨を感じていた。
〜
うっとおしい。
まとわりつくような霧雨が降っていた。
早く家に帰って風呂入りてぇ。
ほんと、くそったれな雨だぜ。
そんな霧雨の中、俺は狐の隣を歩いている。
あれから狐はご機嫌斜めだ。
普段なら、あのよく回る口で俺の事をボロカスのけちょんけちょんに言うが、あれ以来、雰囲気や目で無言の圧力をかけてきやがる。
しかも一切、狐は無駄口をたたかなくなった。言葉のやりとりも極最小限にとどめてる感じだ。
そうとう怒ってんのか?
なんか悪いことしたか?
いや!
つーか!なんで俺がこんなにも狐の事を考えなきゃいけねぇんだ!阿呆らし!ヤメだヤメ!
今日の夕方のアニメはなんだったかなぁ?と思いを巡らしていたら、前から着物を着た女の妖怪が歩いてきた。
その女は、びしょ濡れで、物悲しい涙を流し、荒涼とした悲しみだけが伝わってきた。悲愴感が半端ないわ。
俺らとすれ違いざまに、女はつぶやいた。
「男は嘘つき、約束を破る、最低な生き物。可哀想、私が救ってあげる」
そして狐を襲ってきた。
俺の傘は、軽い音をたてて、地面に落ちた。
「こいつに手を出すなら容赦しねぇぞ」
女の腕を掴んで止め、睨みをきかしたが、相変わらず女の表情は暗いままだった。
「どうせ裏切るのでしょう?」
女は涙を流し、意味不明な事を言い出した。
「意味がわからん。おまえ何言ってんだ?」
女から手を放し、俺は一歩ほど距離を置いた。
「また嘘の言葉を並べるのでしょう?」
話が通じねぇ…
「…めんどくせぇ。とりあえず、ぶっ飛べ!」
一撃目は避けられたが、かえって逃げ場はねぇ!二撃目で、決める!だらっ!
ちっ。
「ほぅ、逃がしてやったのか?」
背後から狐が嫌味たらしく言ってきやがった。
「右腕は吹っ飛ばしたし、長くは持たねぇだろ」
「まぁどうでよい。しかし哀れな女じゃ。だが、最低な生き物とは同意じゃな」
俺を横目で見ながら狐は静かに言い放った。
「俺は、嘘はつかねぇ。最低かは知らんが、お前を守ると約束した。必ず、お前を守る」
「ふん。帰るぞ、総司」
「あぁ」
にしても、最近濡れてばっかりだな。
〜
雨は!うんざりだ!
また今日も雨だ。学校の帰り道、曇天の空からポツポツ降ってきたかと思えば、今はザーザー降りだ。
狐が濡れるのを嫌がり、今は近場の軒下で雨宿りしてる。
無駄に雨の音を聞いていた。
そんな時、少し前に世話してやった水虎が血相を変えて走ってきた。そして俺に飛びつくように抱きつき、わんわん泣きはじめた。
アホのように泣く水虎を狐がよしよしと頭を撫でながら慰め、ようやく水虎が話はじめた。
助けてください。女の剣士が手当たりしだいに殺し回ってるんです。河童さんに助けを呼ぶように言われて、僕だけ逃がしてくれたんです。川獺さんや蟹坊主さんは殺されました。助けてください。
「あの川か?」
一通り水虎の話を聞き、俺は尋ねた。
「はい。そうです」
泣きながら水虎は答えた。
その返事を聞き、雨の中を俺は歩き出した。
「どこに行くのじゃ?」
ニヤニヤと狐が聞いてきた。
「散歩だ。…ついでに女剣士をぶっ潰す」
「ふむ。ならば妾も行こう」
おかしそうに狐は笑っていた。そして狐は一枚の葉っぱを広い「コンコン」と言うと、何故か葉っぱが和傘になった。
「おい…、なんだ、それ」
「どうした?そのような面白き顔をして狐にでも化かされたか?ん?」
「ちっ、さっさと行くぞ」
川辺には紅い野太刀を持った女が立っていた。
周りには妖怪の死体が転がってる。
女は俺と同じで傘を持たず、制服姿だ。
俺と狐と水虎が近くまで来ると女が声をかけてきた。
「なんですか、あなた達は」
その声は、とても冷淡な声だった。
「俺達を殺し回ってるんだろ。なら、俺の事もやってみろや」
俺は少しばかり妖気を出し、女を睨みつけた。
「…妖怪でしたか。聞きたい事があります。一週間前、私の友人が消えました。容姿は黒髪のポニーテール、性格は世話づきのお節介です。何か知っている事があれば話してください」
「知らねぇよ。つか覚えてねぇな。人間を殺すことなんて俺達にとっちゃ当たり前の」
俺が言い終わる前に、女は斬りかかってきた。刀が風を切る音を聞きながら、一応は刀を避けていた。腕はまだまだ、だが刀は良いモノ使ってやがる。
「お前程度じゃ、俺は斬れねぇよ」
腕で刀を受け止めると女は驚いた顔をしていた。
「じゃあな」
腕を振りかぶり、女の顔に拳を叩き込んだ。
人間の死体が一つ出来上がった。
「ふむ。獅子王か、いい刀だ」
狐は死んだ女には目もくれず刀を手に取り眺めていた。
「この刀は総司が持っておれ」
「あ?なんでだよ」
「お主が殺るといつもグチャグチャじゃ。子供の衛生上よくないであろう?」
そう言い狐は俺に刀を手渡してきた。
「別に変わらん気がするがな、つかコレどうするよ」
女の死体を指差し狐に聞くと。
「仕方ない。妾が火葬してやろう」
「よく燃えるねぇ」
「帰るぞ」
さっさと狐は歩き出した。
「あぁ」
俺は振り返り、水虎を見た。
「水虎。弱いままじゃ人間に殺られるぞ。強くなれ、誰にも屈指ないように強くな。じゃあな。」
あぁ、服が濡れてうざってぇ。