羽衣狐ルート   作:眼鏡最高

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すいません。

姉妹は出す予定でした。

母親は出す予定なかった。
そっからは蛇足です。





第十七話 夏休み

夏休み!

待ちに待った夏休みだ!

 

今年も日本中あっちこっちに行く予定だ。目的はいつもと同じ狐の生肝集め、それでも!旅行は楽しみだ!ひゃっほーい!

 

さぁ!やってきたで!九州!

ハウステンボス!阿蘇山!高千穂!

ちゃんぽん!馬刺し!鳥肉!

いやぁ楽しかったし!うまかった!

 

一つ!俺は学んだ!生肝を早く集めれば!それだけ多く遊べる!と!

 

なので最近は俺も協力し生肝を集めている。今日も、さっさと終わらせ、一日遊びまわり、宿屋に帰って今は温泉に入ってる。いやぁ極楽だねぇ。

 

 

「く〜、いい湯だ」

湯船で熱燗、最高だな!

 

「確かに、いい湯じゃな」

透き通った女の声、つか、この声は…

 

「ぶっ!?なんでお前がいる!?ここ男湯だろ!?」

立ち上る湯気の向こうには、くつろいだ姿で狐が温泉につかっていた。

 

「ここは混浴じゃ。あぁそれと、オイタするなよ、ケダモノ」

 

「誰がするか!」

 

「おやおや妾を襲ったのは、誰であったか?」

 

「ぐぬぬ、出る!」

断じて!逃げてはいない!

猛烈にションベンがしたくなっただけだ!

 

 

 

 

浴衣に着替え、旅館の豪華な料理を食っていた。カニ、アワビ、ウニ、海の幸うめぇ。あとは隠し持ってきた日本酒をガバガバと飲みまくった。

 

食い終わり、さらに一升瓶を開け飲んでいたら、コンコンと窓を叩く音がして「失礼いたします」と言い、びしょ濡れの着物女が入ってきた。今、雨降ってねぇぞ。

 

「不躾で申し訳ありません。この度は私達を助けていただきたく、まいりました。どうか、どうかお願い申し上げます」

床に水を滴らせながら部屋に入るなり、びしょ濡れ女は土下座し、全て言い切ったのか今は微動だにしない。土下座のまま動かない。

 

俺は、びしょ濡れの女を横目で眺めながら一升瓶をラッパ飲みしていた。

 

「ふむ、何があったのじゃ濡れ女よ」

どうやら狐の声色からして助けるようだ。相変わらず狐は、よう分からん

 

濡れ女が言うには、外から舟の妖怪達が攻めて来たらしく、自分達では敵わず、あわやと言う所で逃げたらしい。ちょうど良く俺と狐が来ていたので助力を願い出た、と。

 

狐にうながされ、仕方なく俺は浴衣から服に着替えた。で、濡れ女に案内されて浜辺に向かった。

 

浜辺に行くと豪華客船が停泊してたが…

これ幽霊船だよな。

だいぶイメージと違う。

 

船に乗り込むと、さまざな低級妖怪どもが、どんちゃん騒ぎフィーバーしてた。お祭りかっ!

 

「おい!ほんとに敵が来るのか!」

大音量で流れる音楽に負けないよう大声で言うと。

 

「はい!殆どが赤ん坊のような妖怪達で自分達が危機的状況だと理解してません!あと戦えるモノは五人ほどです!」

濡れ女も大声で返答したが、聞き取りずらいわ。

 

馬鹿みたいな大きい声と、けたたましい爆音が煩い。それに物が空を飛び交い、ガチャンガシャンうざい。マジで自己意識も無い、低級妖怪どもだ。

 

すると狐が濡れ女に耳打ちし、濡れ女が手をかざし、案内するように俺達の前を歩き出した。

 

階段を登り、少し歩いて「操舵室」その札が見え、濡れ女はその扉を開けた。中には見た感じ「カニ爺」「人型のモズク」「サザエを背負ってるガキ」の三人がいた。

 

「おい。まさか戦える五人に、こいつら入ってるのか?」

どう見てもしょぼいし、妖気が小さい。

 

「そうです。私を入れて四人、あと一人は怪我をして寝込んでいます」

 

まだ濡れ女は使える、が、三人は足手まといだろ!つか一人は怪我人なのかい!

 

「アホか!なんだ!このヨボヨボのカニ爺は!」

さっきから1ミリも動いてねぇ。死体だと言われた方が納得できるわ。

 

「船長のタラバです。化け蟹の妖怪で、老齢ですが腕は確かですよ」

濡れ女は苦笑いだった。

 

「この人型のモズクは!」

 

「海坊主です。まだ子供ですが」

 

ふさげてんのか、これが海坊主だと。

ガキだからって、人間のガキより小さいぞ。

 

「このサザエ背負ってるガキは!」

 

「子供の、サザエ鬼です」

 

「はっ?お前が鬼だと!俺は断じて認めねぇ!お前なんぞサザエ小僧で十分だ!」

頭を鷲掴みにしてサザエ小僧を持ち上げた。

 

「痛いでしゅ痛いでしゅ」

かる〜く鷲掴みしてるのにサザエ小僧は心底痛そうな顔だ。それよりも!

 

「語尾はちゃんと言え!」

しゃんとしろよ!しゃんと!

 

「あだっ!」

狐の尾っぽで頭をぶっ叩かれた。

いてぇ、強く殴りすぎだろ。

 

「カリカリするな。総司」

狐はよしよしとサザエ小僧の頭を撫でていた。

 

「羽衣狐しゃま〜」

サザエ小僧は狐に抱きついてやがる。

ぶっ飛ばしてぇ、いや、ぶっ飛ばす。

俺が拳を握りしめた時に。

 

「羽衣狐殿、赤鬼殿、それがしが不甲斐ないばかりに、ご足労願った。申し訳ない」

ボロカスの武士が部屋の奥から出てきた。

血まみれ包帯まみれだ。

いきなりドシリアスだな。

 

「蜃、無理しては駄目です。休んでいないと」

ボロカスの武士がふらつき濡れ女が駆け寄ってボロカスの武士を支えた。

 

「かたじけない。羽衣狐殿、赤鬼殿、どうか、よろしくお願いいたします」

頭を下げて、濡れ女に支えられながら武士の男は奥の部屋に戻っていった。

 

で、戻って来た濡れ女が話し出した。

一度目に襲われた時は蜃が決死で守ってくれました。しかし、そのせいで蜃が重傷になりました。もし、また襲われでもしたら私達では、まともな戦いにもなりません。私達には力がない。守りたいのに守れないのです。

 

「はぁ。あんな奴らを守りたいのか?ノー天気に騒いでる馬鹿ばかりだ。お前等だけなら船捨てて逃げれるだろ」

どっかの無人島で気ままに暮らせばいいだろう。

 

「逃げません。私の、私達の、子供同然なんですから」

強く、しっかりと、濡れ女は言い切った。

 

「ワシは船長だ。当然、船は捨てん」

身動きせず、ずっと黙ってたカニ爺がいきなり喋ったが、また身動き一つしなくなった。

 

「ふぁ、ふぁいと!」

「いっぱつでしゅ!」

海坊主の小僧とサザエ小僧は舌足らずに気合を入れていた。弱いくせにアホだな。

 

「おもしろき妖怪達じゃ」

狐が締めくくるように呟いた。

 

 

 

 

真夜中。

マストの天辺。

澄んだいい空気だ。

 

ん。

来たか。

黒い船体、黒い帆、海賊の旗印、聞いた通りだ。「あれで間違いないな」下の見張り台にいるサザエ小僧に聞けば「そうでしゅ」と青ざめた表情で答えた。

 

俺はマストから飛び降り、狐の横を目掛け、甲板に着地した。

 

「狐、投げろ」

 

「仕方ないのう。ゆくぞ」

 

「なんで俺は尻尾に巻かれてる…、尻尾の上でよくねぇか?」

ふさふさで気持ちいいが…

 

「投げやすい」

ギュッと尻尾が体を締め付け、息がつまり、何も言うことが出来ず俺はブン投げられた。

 

一瞬で流れる景色。

あっという間に海賊船にブチ当たった。船の土手っ腹から入り、反対の土手っ腹から出そうになったぞ!

いってぇ!クソ狐の野郎!強く投げすぎだ!

 

ギャーギャー騒いでるのは魚人みたいな奴らだ。ぶちのめしながら、さっさと砲門ぶっ壊すかね。こっちには飛び道具ないからな。大砲だけは潰しとかなきゃ沈められる。

 

魚人をぶん殴りながら、あらかたの砲門はぶっ壊した。さぁて、次はどうするか?俺が考えていた時。

 

「なんだ、お前」

暗闇からデカイ口が襲ってきた。

 

「ぎゃははは!」

卑下た笑いのサメ男だった。

 

そのまま笑いながらサメ男は襲ってきた。サメ男は剣を使ってるが、使えてねぇ。ただブン回してるだけだ。動作がデカく避けるのはたやすい。

 

「うせな」

一発、腹に拳をブチこみ、サメ男は船倉へ吹っ飛んだ。

 

ちっ。どうや雑魚じゃねぇようだ。「ぎゃははは」と卑下た笑いが船倉の闇から聞こえ、サメ男は船倉から歩いて出て来た。

 

何度かブン殴ったが、このサメ男タフだ。

元気に動き回って攻撃してきやがる。

おっ、そうだ。あれ使うか。

「鬼術・鬼門」

最近、狐に教わった鬼の術でモノを出し入れできる。便利な術だ。そこから、赤い野太刀、獅子王を取り出した。

 

「刺身にしてやんよ」

一刀両断にサメ男を切り伏せた。

しかし、わりかし時間食った。

 

甲板に出ると、魚人どもが海に飛び込み、何十匹かは既に客船によじよじ登ってる。それを狐が尻尾ではたき落とし、濡れ女が水で叩き落としていた。まぁ大丈夫だな。

 

俺は近くに居る奴らから手当たり次第にぶった切った。そのうち頭も出てくるだろ。この刀、斬るごとに斬れ味増してねぇか?う〜む?

 

そんな時、上からイカ男が切りかかってきた。

「戦闘馬鹿は俺に勝てねぇゲソ」

語尾はアレだし、見た目も微妙だが、妖気は雑魚ではなそうだ。

 

暖簾に腕押しだな。

埒が明かねぇ。タフとか言うより、そもそも効いてねぇ。こうゆう奴ってのは本体は別の場所、もしくは隠してるから戦ってもつまらん。ただただ面倒くさい。こうゆう奴は俺じゃなく狐向きだ。

 

つか、だいぶ船の距離近づいたな。これなら飛んで移れる。つまらん、いったん戻るか。イカ男の顔面を蹴り上げ、そのまま走って船縁に足をかけ飛んだ。

 

「よっ、と」

着地場所に居た敵を切りつけ、俺は船に戻った。

 

「なんじゃ、逃げ帰ってきたのか」

相変わらず狐は嫌味ばかりだ。

 

「つまんねぇからだ。それより、あのイカ男、あいつの本体わかるか?」

 

「ふむ…、船そのものじゃな」

もう少し妖気を探る練習をしろ、と狐の小言が始まり、ぐちぐち言われたので。

 

「わかった!わかった!これ終わったらやる!」

ついつい安請け合いをしちまった。

 

そんな事をしていたら「きゃあ」と濡れ女の悲鳴が聞こえ、そっちを見ると濡れ女が襲われていた。濡れ女を傷つけた敵は、狐が尻尾ですぐさまぶっ飛ばしていた。

 

「どれ見せて見よ。ちと傷は深いが、大丈夫じゃ」

狐が濡れ女を傷を見て、そう言うと。

 

船全体から囁きが聞こえ。

だんだんと大合唱のようになっていた。

 

濡れ女!濡れ女!お母さん!

怪我!怪我!怪我!傷!痛い!痛い!

大変!大変!大変!危険!危ない!

助ける!助ける!助ける!

助ける!!

 

ひときわ大きな声が聞こえると、ピタリと止み、船から大きなデイダラボッチみたいのが出てきた。

 

「ほう。低級妖怪達の集合体だな」

いつになく狐は感嘆な声を出していた。

 

そしてデイダラボッチは拳を振り上げ、海賊船に打ち下ろすと、あっけなく海賊船は木っ端微塵に粉砕された。おーおー、なかなか派手にやる。

 

すぐにデイダラボッチはポロポロ崩れていき、元の低級妖怪達に戻っていった。まるで妖怪の雨だ。

 

…いいとこ全部持ってかれたな。

 

 

〜〜〜

 

 

勝ったのが嬉しいのか船内はお祭り騒ぎだ。

元々、低級妖怪共は大広間で騒いでたが、最初より煩い。操舵室の中でも、蜃の武士と濡れ女は笑い、ガキ海坊主やサザエ小僧は変な踊りを踊り、カニ爺ですら変な笑い声を出していた。

 

しかし、俺は狐に正座させられ、気配の探知をやらさられていた。この船にいる妖怪の数を数えるように言われ、すぐに勘で答えたたら、バレて尻尾ではたかれた。

 

狐には「無意識には出来ておる。あとは意識して出来るようになることじゃ。心を沈め、目を閉じ、すみずみまで妖気を感じろ」と言われたが、わかるかい!

 

そして俺が「だいたいならわかる!それに無意識に出来てるならいいだろ!」と言ったら尻尾で強く殴られた。

 

「男に二言があるのか?」

そう狐に言われ。

 

「ないわ!」

俺は、のせられた。

 

「ならば、やれ」

狐は冷たい声と表情だった。

 

「…おう」

ちきしょう詐欺だ。犯罪だ。

 

それから意気消沈しながらもやっていたら、しばらくして外の方に気配を感じた。三匹、強いのが、来てる。目を開け、立ち上がり、外を見た。

 

「おい。また船が来たぞ」

深い霧の合間に船の影が見え、引き締めた声で言ってやると、ピタリと騒ぎは止んだ。

 

「この気…」

何故か狐が神妙な顔をしていた。

 

「どうした?」

 

「いや、大丈夫じゃ。あれは敵ではない。お主らは宴を楽しんでおれ」

そう言うと狐は操舵室から足早に出ていった。

 

「おい。なんなんだよ」

気になり、俺は狐の後を追いかけた。

 

「妾も久しぶりで高揚しておるようじゃ」

なにがだよ…

 

今一度、近くに来た船を見やると、ん?

霧で見えなかったが空飛ぶ船か、珍しいな。

 

空飛ぶ船はゆっくりと静かに、こちらの船の横でピタリと止まった。

 

空飛ぶ船の人物を見て俺は二度見した。

ついでに狐の事も二度見した。

 

空飛ぶ船には、金髪ロールの女、銀の短髪の女、その二人の女は、めっちゃ狐に似ていた。顔立ちクリソツ。

 

「姉様!お久しぶりね!」

ふわりと金髪ロールの女は浮かび、そのまま狐の腕に飛び込んだ。あん?姉様?

 

「ジンも久しぶりじゃな」

狐は満面の笑みで答えていた。

 

「ジンなんて名前で呼ばないで姉様。今の名はエリザベートなの。それに髪の色そのままの名前なんて味気ないわ。姉様も名前変えたりしている?」

巻き髪をいじりながら金髪ロール女は頬を膨らませていたが、顔が狐に似ているからか、不自然で気持ち悪い。

 

「そうかエリザベートか、良い名じゃ。森羅、妾の名は、森羅だ。インも相変わらずだ」

にこやかに狐は金髪ロールに話し、普通に歩いてこっちの船に来ていた銀の短髪女の頭を狐は背伸びして撫でていた。

 

「あっ、シンラ姉様。イン姉さんの今の名前はスピカって言うのよ」

金髪ロールが言うと、銀短髪はコクリと頷いていた。銀短髪は常に無表情だし、まだ一言も喋ってない。

 

「二人とも相変わらずじゃな」

終始、狐は嬉しそうに笑っていた。しかし姉妹か、肉体だけ見たら金髪ロールが一番上で、狐が一番下に見える。

 

家族か…

「おい。俺は戻ってるぞ」

狐に一声かけて戻ろうとしたら。

 

「あら、なかなかイイ男ね」

含み笑いで金髪ロールが俺の前に移動してきた。

 

「手を出すと痛い目を見るぞ」

狐は笑って注意したが、注意になってねぇ。

 

「あら、私、危ない男って好きよ。こんにちは、色男さん」

艶を出して金髪ロールはしなだれかかってきた。

 

「おい金髪ロール、今俺に何をした」

肩を押して引き剥がし睨むと。

 

「あら、私の魅了が効かないのね」

少し驚いた顔をしていた。

 

「ぶっ飛ばすぞ」

 

「あら、この男野蛮よ、シンラお姉様」

 

「くっくっ、ワイルドであろう」

 

「シンラ姉様って変わった趣味だったのね」

 

「それより…、おぬしらは何故ここに来た?」

狐は二人を交互に見ながら尋ねていた。

 

「里帰りよ。イン姉さ、じゃなくてスピカ姉さんが結婚したの。あっちにいるのが旦那さん」

金髪ロールが空飛ぶ船の方を指差すと確かに男がいた。犬っぽい耳と尻尾がはえてる。

 

「母上に会いに行く前に姉様にも会おうってなったの。せっかくだから姉様も一緒に行かない?いいでしょう?」

親が子にせがむように金髪ロールは狐に甘えた声を出していた。

 

「母上の顔も久しぶりに見たいしの。それにお主らとも、まだ話したりぬ」

ほぼ即決で狐は笑いながら言った。

 

「嬉しいわ!姉様も一緒に来てくれるって!スピカ姉さん!」

金髪ロールが銀短髪に言うと、銀短髪はコクリと頷いていた。ほんと銀短髪は喋らんな。

 

 

俺と狐は一度操舵室に戻り、濡れ女達に別れを告げ、見送られながら空飛ぶ船に乗り込んだ。

 

相変わらず狐は妹の金髪ロールと話している。銀短髪はたまに頷くか首を振るかだけだ。

 

「俺は寝る」

狐に声をかけ、適当な場所で寝よう歩き出したら、何故か銀短髪が道を塞ぐように俺の前に来た。

「なんだ?」

 

「部屋、案内する」

はじめて聞いた銀短髪の声は鈴みたいに綺麗で、そして小さかった。って言うか喋れんのかよ!銀短髪が旦那の犬耳男を指差すと、こっちに犬耳男がやって来た。

 

「はじめましてシュリと申します。え〜っと…」

銀短髪の旦那は、牧歌的な穏やかな雰囲気の男だった。しかし、なかなか妖気が強い。

 

「朱天だ。朱天総司」

 

「シュテンさんですね。お部屋に案内いたします。スピカはお姉さん達と話していていいよ。では行きましょう」

 

銀短髪に話しかけ犬耳男は歩き出した。部屋に着くまで犬耳男は、この空飛ぶ船の事や、何時ぐらいに中国に着くかなど、丁寧に、そして説明くさくなく話していた。

 

「ありがとよ」

 

「いえ、何か不便なことがあったら言ってください。では失礼します」

にこやかな笑顔で犬耳男は言い、ドアを静かに閉めた。

 

落ち着いた雰囲気の良い部屋だ。寝酒のウィスキーを一本飲み干し、俺はベッドに向かった。

 

うおっ!ベッドふかふか。

なれない事して疲れた。

よく寝れそうだ。

大の字になって寝っ転がり、俺は寝た。

 

 

 

 

んあ?

狐?

まぁ狐ならいいか?

う〜ん…

狐の匂いがする…

いい匂いだ…

やわらかい…

うん…

 

 

 

 

「あらあら、寝坊助さんね〜」

頭上から聞き覚えのない女の声が聞こえ、飛び起きて拳を放ったが、それは空をきった。ちっ。この距離まで気付かなかったのもイラつくし、見切られたのもシャクにさわる。

 

「あら、元気ね〜」

そこに居た女は、金髪の長い長い髪に、病的に白い肌、顔立ちは狐そっくりだった。しかも俺が睨んでのに、ニコニコと微笑んでいやがる。

 

「ちっ、あんた、狐の親か」

狐と狐の姉妹達と、雰囲気がそっくりだ。

 

「うふふ。そうね、狐の親よ。お義母さんって呼んでもいいからね、朱天総司くん」

 

「誰が呼ぶかっ!」

 

「きゃっ、やめてっ、いやっ」

突如、親狐は勝手に床に倒れ、迫真の演技が始まった。すると少しして狐がやって来た。

 

「森羅ちゃん!総司くんが『ゲヘヘ、いい体してますね、お義母さん』って言って、いきなり襲われたの!」

エーンエーンと泣きマネしながら狐に抱きついていた。

 

「ふざけんな!一言も言ってねぇわ!」

 

「母上、お戯れわそこまでで、そろそろ夕食の時間です。スピカとエリザが待ってますよ」

いつもより冷静な声色と表情で狐は話していた。

 

「あら、そうだったわね」

親狐は一瞬で涙を引っ込め、まるで普段通りにしていた。

 

「おい。待てや」

勝手に声は腹の底からワナワナと這い出た。

 

「うふふ、楽しんでもらえた?イッツ、チャイニーズジョーク♪さぁ朱天くん夕食よ行きましょう」

何事も無かったように、さっさと親狐は部屋から出て行った。久方ぶりに、本気で、ぶっ飛ばしてぇ。

 

「母上は驚かせるのが好きなのじゃ。妾達が来た時も死んだフリをしていたからの。諦めよ」

 

「ふざけんな!」

 

 

 

 

俺が寝ている間に、目的地の狐の親が住んでる中国の山の奥のそのまた奥にある妖怪の村に着いていたらしい。

 

到着した時に一度起こしたが起きなかったので、そのままにしてたら狐の親が夕食は一緒にお食事しましょうと言い出し、俺を起こしに来てああなったようだ。

 

で俺は狐一家と食事している。

丸いテーブルに親狐、金髪ロール、銀短髪、犬耳、俺、狐の六人が座っている。あと位牌が三つ並んでいた。

 

親狐がパチンと指を鳴らすと、親狐が二人ほど増えた。本体が「任せたわよ!」と言うと分身二人は「任せなさい!」と言い、一人は料理を作り始め、一人は給仕をし出した。本体は飲み食いしてる。どこを見ても狐ばかりだ。

 

料理は普通に美味かった。

中華風の料理で、絶賛するほどのものではなかったが、馴染み深いと言うか、どこにでもあってどこにもない、お袋の味って感じだった。

 

あらかた食事を食い終わり、酒を飲みながら狐一家は会話を弾ませていた。俺は出された酒を飲みながら聞くともなしに聞いていた。

 

会話の流れは、だいたい親狐だ。金髪ロールは親狐を褒め称え、賛同している。銀短髪は無表情に頷いたり首を振る。犬耳男は驚いたり笑ったり質問したり楽しんでいた。ただ狐は、わりと静かで時々にしか会話に入らない。いつもと違う。

 

「スピカちゃんが一番早くにお嫁さんに行くなんて!しかも!できちゃった婚で!もう母さん泣いちゃいそうよ!」

さっきから親狐はテンションが上がったり下がったり、喜怒哀楽が激しい。金髪ロールは「私も悲しい!」と親狐と一緒に泣いていた。一つわかった事は金髪同士を絡ませると煩い。

 

「シュリ、夜はケダモノだから」

ずっと黙っていた銀短髪は、何故か、この場面で、この瞬間に口を開いた。犬耳男は恥じらい顔だが、銀短髪は無表情だ。

 

俺は酒が変な所に入り、盛大にむせた。狐に無言で背中をさすられ、もう大丈夫だと手を上げせいしたが…、なんか普段よりも優しい?か?

 

「あらあら、でも仕方ないわ。男の人は僻がないかぎり大体そうよ。でも総司くんは優しそうね。こちらの事を考えて、ほぐして、のぼらせてくれそう」

俺の方を見てニッコリ笑いながら親狐は話した。金髪ロールは「そうなの!?」と驚き、銀短髪は小声で「シュリも激しく優しい」と言っていたが、どうでも言いわ!

 

「知るか!そんな事より慎みを持て!あんたらは恥じらいがないのか!開けっぴろげに話し過ぎだろ!」

 

「あら、慎みと言う言葉は私の為にあるようなものよ。むしろ私が慎みよ!」

椅子から立ち上がり、親狐は胸をはって答え、豊満な胸が揺れている。なんか虚しい。

 

「もういい、もう俺は関わらん」

まるで狐にからかわれてる時のように疲れる。すごく疲れる。もう勘弁だ。

 

「あら信じていないのね?なら確かめてみる?」

ぐいっと椅子を横に引かれ、あろうことか親狐は俺の膝の上にまたがってきた。

 

「総司くんは誰ともスタディな関係じゃないんでしょう?なら私がなってもいいわよね?私と恋しよう?」

抱きつきながら言われ、首筋に息がかかり、その色気は半端なかった。一度抱擁をとかれ、今度は顔が至近距離まで近づき、くそッ、頭がクラクラしやがる。

 

じっくり俺は親狐の瞳を見ていた。

それを見ていたら何故か……が出てきた。

すると頭はすっきりしていた。

 

「からかうな。そもそも俺の事たいして興味ないだろ。あんたからは確かに女を感じる、が、母親ってのモノも感じるね」

娘を心配してる。親バカだってな。

 

「あら、何故そう思うの?」

 

「見てりゃ分かる」

やばかったけど、ギリギリだったけども、セーフだ。ん?なにがセーフなんだ?まぁいいか?

 

「うふふ、本当にいい男ね」

そう言って親狐は俺から離れた。

 

「シュリくんもイイ男だし、私の娘達の見る目は確かね!所で、エリザ、エリザはイイ人は居ないのかしら?」

いまさらだが勘違いしてねぇか?俺と狐のこと?

 

「居たら一人で来ないわ。母様」

ふてくされ気味に金髪ロールは返事をしていた。

 

「なら私が紹介するわ!龍族の青年でね!とっても真面目な子なのよ!何よりイケメン!」

 

「母様の紹介でもイヤだわ!私!真面目系とはソリが合わないんだもの!」

 

金髪二人で仲良く盛り上がっていた。しかし似てるな。双子と言われたら信じるくらいには似てる。それに普段の感じだと親狐が一番性格が幼い気がするしな。ただ体型は一番大人だ。

 

「外の空気吸ってくる」

狐に言うと。

「妾も行こう」

二人で外に出た。

 

妖怪の村を見下ろす山の上に親狐の家は立っており、まわりは静まり返っていた。星空が綺麗だ。

 

「あの場でコトを始めるかと思ったぞ」

無言だった狐が口を開いた。

 

「ぶっちゃけ、やばかった」

マジで危なかった。

 

「ほう、ならば、なぜ踏みとどまった?」

 

「そりゃあ…」

何故か…狐の顔が…出てきたから…

しかしなんで?狐が?う〜ん?

「わからん」

 

「そうか」

 

しばらく無言になり、また口を開いたのは狐だった。

 

「少し行きたい場所がある。ついてまいれ」

そう言い狐は歩き出し、俺は狐の後を歩いた。少しばかり山を登り、木々を抜け、開けた場所に出ると、淡く光る花が一面に咲いていた。

 

「幽玄草。母上が植えたものだ」

狐は淡く光る花畑を進み、花畑の中央へ向かった。そこだけに花はなく、かわりに墓が三つあった。

 

「父上達の墓じゃ」

 

「父上達?」

 

「端的に言えば、妾の父上、スピカの父上、エリザの父上じゃ。妾達は異父姉妹だからの」

 

「ふ〜ん」

 

「母上が言うには、妾達の容姿は母上に似たが、能力と髪色は父上達に似ているらしい」

 

「金髪ロールもか?」

 

「そうじゃ。エリザの父上は麒麟族で金色だった。エリザは昔はよく感情が昂ぶると髪が淡く光り雷をほとばしらせていた。癇癪を起こした時は、それは大変であったぞ」

 

「お前の親父は、どんなだったんだ」

 

「妾は、妾の父上を知らぬ。妾が生まれる前に死んだ。母上は妾が聞いてもいないのに父上の事を話してくれたが、時々ほんの時々だが悲しそうな顔をしていた。妾はその顔が見たくなくての、ついぞ父上の事を聞いたことがない」

 

「ここに来て元気がねぇのは物思いのせいか?」

 

「そうかも知れぬ。この地には楽しき思い出もあるが、悲しき思い出が、強く心に残っておる」

 

あまりに狐の背中が弱々しかったからか、あまりに狐の声が哀しかったからか、なんとなく無性に狐を抱きしめたくなった。

 

だから俺は。

狐を抱きしめた。

 

「なんじゃ、人肌恋しくなったか?」

 

「抱きしめたくなった。それだけだ」

 

「…そうか」

 

 

それから二人して無言になった。

 

背中から抱きしめて良かった。

 

顔を見られずにすむ。

 

今の俺は、きっと相当な間抜け面だ。

 

腑抜けみたいになってる気がする。

 

狐の手が俺の体に触れた。

手、冷た。

 

 

「そろそろ帰るか。冷えるだろ」

 

「寒くはない。ちょうどいい暖房器具があったからの。しかし母上達が心配するかもしれぬ」

 

なんとなく名残惜しく、ゆっくりと狐の体から腕を離し、一歩ほど後ろに下がった。狐は一つ息を吐いてから俺の方に振り向いた。

 

「手、出せよ」

 

「何故じゃ?」

 

「俺は暖房器具らしいからな。冷えてるならあっためてやるよ」

 

「うむ。なかなか気が効く暖房器具じゃ」

 

狐は俺の手を握ってきた。

そうして俺達は山を下った。

 

家の前には親狐が一人で立っていた。片手にグラスを持ち、瓶は空に浮いている。無駄にスゲーな。

 

「あら〜、仲良しねぇ」

 

「母上と父上達ほどでありませぬ」

 

「あら…、あら、そうね。あの人達と私の愛は無限大だからね。勝てなくても仕方ないわ。うふふ」

親狐は一瞬だけ言葉につまり、その後、何故かテンションが上がっていた。

 

「うふふ。スピカちゃんもエリザちゃんも、もう寝てしまったわ。あなた達も早く寝なさいね。私ももう寝るわ。おやすみなさい」

そう言うと親狐は家の中へ入っていった。

 

「おやすみなさいませ」

狐は律儀に礼をしながら返事をしていた。

 

「どこで俺達は寝るんだ?」

 

「飛行船じゃ」

 

家の横に止まってる空飛ぶ船に乗り込んだが、部屋の場所がわからん。すると狐が歩き出し、俺は狐に手を引かれ、部屋に着いた。そのまま俺と狐は一緒の部屋に入った。

 

「なぁ、俺とお前、同じ部屋なのか?」

 

「何を言っておる?ここに着くまで一緒に寝ていたであろう」

さも当たり前に狐は話したが、はっ?

 

はいっ?

「一緒に寝てた?」

記憶にねぇぞ?

 

「なんじゃ寝ボケておったのか?総司がベッドから動かぬから仕方なく一緒に寝てやったのだぞ。さぁ、もう寝るぞ。妾は眠い、お眠じゃ」

なんでもない事のように狐は話し、本当に眠いらしく、さっさとベッドに入ろうとしていた。

 

「おい、手を離せ、俺はソファで寝る」

 

「何を言っておる。自ら暖房器具と言ったならば、最後まで暖房器具として役に立て。それに自らオイタはしないと言ったからな安心して眠れる」

 

「はっ?オイタ?」

 

「温泉で自ら言った言葉を忘れたか?まさか男の鬼に二言はなかろうて?」

あ、あぁ、そういや言ったな。売り言葉に買い言葉で狐に「誰がするか!」って言ったわ。うん。

 

「お前、マジ、たち悪い」

 

「さぁ寝るぞ」

 

「…わあったよ」

 

「うむ、まぁまぁの暖房器具じゃ」

 

「おい、せめて最高の暖房器具と言えや」

 

「ならば腕枕をして抱きしめろ」

 

「へぇへぇ、仰せのままに女王様」

 

「うむ。なかなか良い暖房器具じゃ」

 

「最高じゃねぇのかよ」

 

「今一歩、足らぬ」

 

「そうかよ」

 

「うむ、妾は寝る。総司も寝よ」

 

「あぁ…」

 

しばらく狐を見てから俺は寝た。

 

 

 

 

 

 

翌日。

起きた時には、すでに狐はいなかった。

盛大に腹の虫が鳴った。

腹、へったな。飯でも食いに行くか。

 

勘でテキトーに進んでいたら甲板に出た。空飛ぶ船から飛び降り、親狐の家に向かって歩いていると、家の横から狐が出てきた。狐の髪は少し濡れ、普段よりも顔が赤かった。

 

「総司にしては、早く起きたの」

近くに来た狐からは温泉の匂いがした。

 

「腹へって目が覚めた。温泉でも入ったのか?」

 

「うむ。昔、母上が土竜に頼んで作ってもらったのじゃ。総司も昼食を食べてから入るとよい」

 

「あぁ、そうするわ」

呑気に俺と狐が家の中へ入ろうとした時。

それは始まった。

 

なんだ?

今ビリッときたぞ?

 

「これは…、結界、村とは切り離されたか」

突如、狐は振り返り、目を細め遠くを見ていた。

 

「おい。結界って閉じ込められたのか?」

一瞬だけビリッと嫌な感じがしたが、結界を張ったせいか。

 

「うむ。しかし、身の程知らずな者がいたものじゃ。よほど死にたいらしい」

静かに、だが激しく、狐はキレていた。

 

結界の存在に気がついたのか家からは、親狐、金髪ロール、銀短髪、犬耳男が出てきた。

 

「あらあら、森羅ちゃん、そんな怖い顔をしてどうしたの?綺麗な顔が台無しよ」

やはり最初に口を開いたのは親狐だった。

 

「母上達は家でくつろいでいてください。妾と総司で片付けます」

 

「あらあら、本当に森羅ちゃんは優しいわね。でも却下です。私は、この村の長であるし、あなた達の母親なんだから、あなた達を守るのは私の役目なのよ」

穏やかに話していた親狐は、途中から至極真面目な表情と声で話し終えた。

 

「今からは二人一組で行動して。森羅ちゃんと総司くん。エリザは私とね。この四人で戦うわ。スピカとシュリ君は家でお留守ね。ちゃんと二人で留守番してないと母さん怒っちゃうからね。念の為『太極結界』張っておくわ。さぁ三人とも行きましょうか」

切り替えが早いと言うか、まるで別人だな。即断即決で指示は的確。しかも『太極結界』を一言で祝詞を唱えずだ。凄いの一言につきるぜ。

 

「どこに向かってんだ?」

木々を駆け抜けながら、先頭を行く親狐に聞くと。

 

「この結界の要石を一つ壊しに行くの。そうすれば結界は消えるわ。敵の目的はわからないけど、何もしないで後手後手に回るよりはいいでしょう?」

さっきまでの雰囲気は微塵と消え、穏やかな笑顔で親狐は答えた。

 

「ふむ。身の程知らずが来たか」

そう狐が言うと、遠目に火鼠っぽいのがゆうに五十ほど、こっちに向かって来ていた。しかし死臭の臭いプンプンだ。敵は死霊どもか?

 

「母様と姉様が出るまでもないわ。野蛮な鬼も見てなさい。私がやるわ。『繚乱雷花』」

金髪ロールが一足で一気に前に出て、卍型のように雷が次々と広がり、全ての敵を片付けた。雑魚とは言え、五十の数を一撃ね。まぁ一応は狐の妹って所か。

 

「成長したわね〜、偉いはエリザ」

「うむ、優美かつ苛烈で見事だ」

親バカと妹バカは金髪ロールを褒めちぎり、よしよしと頭を撫でていた。

 

「えへっ、えへへ、そう?」

金髪ロールはアホの如くデレデレだ。

 

今、襲われてる最中だよな?正体不明の奴らに襲撃されて結界を壊しに行く最中だよな?なのに!何を呑気に和気あいあいとしてんだ!この狐一家は!

 

「いつまでやってんだ!さっさと行くぞ!」

三人が三人共、目をパチクリしているのがマジむかつく…

 

「はっは〜ん。私に嫉妬してるのね?野鬼も母様や姉様に褒められたいんでしょ!でも野鬼には無理ね!」

ビシッと音でも聞こえそうなほど自信満々に金髪ロールは俺を指差し、高笑いしていた。つかヤキってなんだ!ヤキって!

 

「アホか!んな訳ねぇだろ!金髪バカロール!」

見当違いも甚だしいわ!

 

「なっ、わっ、私の髪型バカにしたぁあああ!うぇ〜ん!」

金髪ロールは泣きながら狐に飛びつくように抱きついた。えっ?はっ?マジで泣いたのか?

 

「娘を泣かしたわね」

親狐の殺気と顔つきが尋常じゃねぇ…

 

「母上。エリザ。総司をからかうのはそこまでにして早く結界を壊しに行きましょう」

 

「あら残念、もう少しやりたかったのだけど」

親狐は一瞬で殺気をおさめ、片手の手のひらを頬に当てながら不満そうに呟いた。

 

「姉様が言うなら、やめるわ」

狐の胸から顔を上げた金髪ロールの表情は澄ましたものだった。

 

「こいつら…」

これだから狐は始末に終えねぇ。わなわなと手が震えた。もう切れた。ぶん殴る。ぶっ飛ばす。ぶちのめす。やったろうじゃねぇか。

 

「総司。茶目っ気じゃ、許してくんなまし」

近づいて来た狐は尻尾で俺と自分の姿を隠すようにし、背伸びして顔を近づけ、それは軽く頬に触れた。

 

すぐに狐は離れ、尻尾の壁も消え。

「母上もエリザも楽しいからとあまり総司をからかうのではない。よいですね?返事は?」

親狐と金髪ロールを諌めていた。

 

「「は〜い」」

金髪二人は、さも不満そうに返事をしている。

 

はぁ…

これだから狐は始末に終えん…

本当に、狐ってのはタチが悪い。

 

そんな感じでグダグダしていたら、新手の敵が、かっ飛んで襲って来た。さっきまで立っていた場所には風の刃が渦巻いている。おーおー、周りの木々がスッパスパだ。あたりには数十匹ほどの気配がする。そして、やはり死臭がひでぇ。

 

「カマイタチか?」

 

「いや、違うな。風狸、風の化け猫じゃ」

確かに狐が言うとおり、風がおさまると猫っぽい生き物が何匹かいた。だが様子おかしくねぇ?目死んでるし、体中に札がついてる。

 

「総司くん、あれ捕まえられるかしら?でも無理ならいいからね?」

にっこり微笑みながら親狐は言い、最後にはウィンクをしてきた。

 

「あんな猫もどき、余裕で捕まえてやるよ」

見てろや。

 

思ったより風狸は早かった。走力もあるが、脚力がとんでもなくある。ちょこまかノミみたいにぴょんぴょん飛んで、うぜぇ!あぁ!面倒くせぇ!足もぎ取ってやるわ!撃ち抜いた拳は、勢い余って、風狸三匹をぶっ殺してしまった。それを五回か六回ほど繰り返した。…こいつらが脆すぎるのが悪い。

 

「総司に繊細な作業は無理じゃ、母上。妾がかわりに捕らえておきました」

狐の尻尾の一本に簀巻きにされて風狸が捕まっていた。

 

「あら、さすが森羅ちゃんね。私の娘なだけあるわ。総司くんは次かっこいい所見せてね。う〜ん、どれどれ、やっぱり、これ狂骨の呪符だわ」

親狐が何事かを言っていたが途中から聞いていなかった。聞くどころではなかった。

 

狐にフォローされ、親狐にまでフォローされ、無言で金髪ロールに肩をポンッと叩かれ、へこんだ。へこんだ!

 

くそったれが!

こんちくしょうが!

次だ次!次はやるぞ!

さぁ!どんと来いや!

 

いつになく研ぎ澄まされた感覚で俺が昂ぶっていたら、結界の要石近くまで来た時、敵が来るのがわかった。空から来た鳥女を、思いっきりブン殴った。

 

「はっはっはっ!」

また地面を蹴り上げ二匹目をぶっ殺し、落下している時に襲って来た三匹目をぶちのめし、空中で体勢が崩れた時に襲ってきた四匹目と五匹目をカウンターでぶん殴った。

 

地面に着地し、また跳んでブチ殺そうかと思ったが、普通に空中に浮いてる狐一家が敵を殲滅していた。…なんで飛べんだ!狐ってのは空を飛ぶ生き物なのかよ!

 

 

だいたいの敵を狐一家が殲滅し終え、要石を、要石っぽいのを見つけた。

 

「これ、結界の要石なのか?」

俺は巨大なガラスの髑髏を指差した。

 

「そうじゃ。確かにこれじゃ」

「見ればわかるでしょ。これだから野鬼は」

「間違いないわね。総司くん、これ壊してくれる?」

 

金髪ロールにむかついたが、スルーだ!スルー!いちいち相手にしてられっか!ムカついて拳を大きく振りかぶり、巨大ガラス髑髏をブン殴ろうとしたら、地面から一瞬で骨が出て来て、牢屋になり、閉じ込められた。俺だけ。

 

で、男の声が聞こえた。

「失敗したか」

見れば骸骨だった。

変な服着た骸骨が立っていた。

 

「やはり、あなたが犯人だったのね。狂骨」

親狐は真面目な声と表情だった。むしろ悲壮感が、そこはかとなく出ていた。

 

「いかにもかくにも。今からでも遅くはない。我が妃になれ」

 

「だからタイプじゃないって言ったでしょ」

親狐は、さっきまでとは打って変わって面倒臭そうに、そして嫌悪感を丸出しにしていた。

 

「ならば力づくで我がモノにしよう」

骸骨が言うと。

 

「そうゆう所もタイプじゃないわ」

親狐は嫌そうに首をふっていた。

 

「相変わらず母上は天然誑しですね」

「さすが母様!男狂わす魔性の女ね!」

 

狐よ。それ貶してるよな?

金髪ロールよ。それ褒めてんのか?

 

「うふふ、困っちゃうわね」

親狐は、ただ笑っていた。

 

「おい!骸骨野郎!こっから出せや!」

まったくアホな事に巻き込まれたぜ。

 

「ふむ」

骸骨が頷くと、骨の牢屋の中に雷がほとばしった。ぐっ。それが数十秒続き俺は地面に大の字で倒れた。

 

「あの野郎…」

倒れたまま骸骨を見やると、狐が尻尾で攻撃していた。くそったれ、まだ痺れてやがる。

 

少しの小競り合いをして骸骨と狐が距離をとると地面から「龍」と「獅子」と「巨大な牛男」が出てきた。三匹とも死臭がするし、体中に札がついてる。それにしても最後に出てきた牛男の妖気が半端ない。骸骨より妖気が高くねぇ?

 

一つ息を吐き、目を閉じ、体を休ませた。

 

おっし!痺れ治った!

俺は飛び起きて、骨の牢屋を二三発ぶん殴ってブチ壊した。最初から、こうしときゃよかった。ついでにガラスの髑髏をぶん殴って壊しておいた。

 

龍の相手を金髪ロール、獅子の相手は狐、巨大牛男の相手は親狐、となると、あまりは骸骨。ちょうどいい御礼参りだ。

 

「死んでいないとは頑丈だ」

歩いと行くと骸骨から喋った。

 

「あれぐらいで死ぬか。お前の骨バキバキに砕いてやるよ」

 

「それは無理だ」

 

「はっ!」

駆けながら骸骨をぶん殴ったらバラバラになった。いともたやすくバラバラだ。しかし、まるで手応えがない。バラバラになった骨を見てると、骨が動き出し、すぐに元通りの人型に戻った。

 

「面倒臭い…」

最近こうゆう奴ばっかりだ。

 

「砕かぬのか?」

 

「やってやるわ!」

 

何度か殴ったが、バラバラになり、また元通り、それの繰り返しだ。ためしに何本かの骨を掴んで砕いたが、かわりに地面から大量に色んな骨が出てきた。

 

骨、ずいぶん増えたな。もう人型じゃねぇ。横にも縦にもデカイ。骸骨の見た目は、体の中心にティラノサウルスが一体、三体のトリケラトプスは二体が足で一体が腹、プテラノドン一体は背中上、ステゴザウルス一体は背中下、その他、諸々の骨が混ぜ合わせて構成されてる。恐竜よく知らんが、だいたいそんな感じだ。

 

おそらく、この骨の中に核があるはずだ。それを砕けば骸骨もくたばるだろう。何度か勘でぶん殴って骨を砕いたが、さほど体型は変わらんし、元気に動いてやがる。

 

妖気を探るしか仕方ねぇか。

だが時間かかるから攻撃されたら厳しいな…

 

「狐!変化の術解くぞ!本気でやる!」

 

力が戻る。本来の体はいい。

角があるとしっくりくる。

これなら骸骨の攻撃くらっても平気だ。

攻撃力が弱いからな骸骨。

 

ふぅ。

 

まず、心を沈め。

次に、目を閉じ。

最後、すみずみまで妖気を感じる。

 

う〜ん。

うん?

おっ!

見つけた!

 

「じゃあな!骸骨!」

俺は飛び上がり、骸骨の中心部をブン殴って撃ち抜いた。骸骨の目から光が消え、ピクリとも動かなくなった。

 

腹の部分が丸々、消し飛んでる。これなら別に、核を探す必要なかったな。骸骨の体が風に揺れ、崩れた。他を見れば龍の死体が地面に転がり、獅子の姿は消え、牛男がまだピンピンしている。

 

「おいっ、何をやってんだ?」

金髪ロールが飛び回りながら牛男と戦い、狐と親狐が並んで座って観戦している。

 

「疲れるからと母上は怠けておる」

「疲れちゃった。てへ」

 

「はっ?はぁ…、お前、獅子はどうした?」

そんな理由でかよ、アホか。続けて狐に聞けば。

 

「獅子、あぁ望天吼か。消し飛ばしたわ」

ツンと、すまして答えた。

 

「うふふ、森羅ちゃんがソワソワしてると思ったら、この姿の総司くんもかっこいいわね」

俺と狐の会話の隙間に笑いながら親狐が入り込んできた。

 

「何を言ってんだ…」

意味がわからん。

 

そんな時、派手な音と共に雷が落ちた。

 

「もう嫌になるわ!この牛!無駄に頑丈なんだもの!」

俺たち三人の少し上を飛びながら、金髪ロールは怒った口調でまくしたてていた。

 

「ふむ。腐っても牛魔王か」

「あら、森羅ちゃん、うまいこと言うわね〜」

 

どうでもいい会話をしてる狐と親狐は無視し、俺は金髪ロールに向かって声を張り上げた。

 

「俺がやる!さがってろ!」

 

「なんですって!野鬼が私に命令する気な!…の、かっ、顔がイケメンだからって調子にのらないでよ!」

あいつは俺にまで敵意を出してどうすんだ…、なんなんだよ…

 

「エリザ、総司に任せておけ。こうゆう事は男の仕事じゃ、働かせればよい」

狐が口を挟むと。

 

「そうね!姉様の言う通りね!働きなさい鬼!」

すぐに金髪ロールは意見をひるがえした。…ぶっ飛ばしたいと思ったのは、これで何度目だ?

 

すぐに金髪ロールは狐と親狐の横におりてきた。そして、そのまま牛男もつられるように俺達に向かって拳を振り下ろした。

 

「少しは他に注意をそらしてから、こっちに来い」

自分の身の丈ほどある拳を受け止めながら金髪ロールに言えば「ふんっ、さがれと言ったのは鬼でしょ」とすまして答えた。まぁいい、やっと楽しめそうな奴が相手なんだ。

 

両手で牛男の指を掴み「おらっ!」後ろへぶん投げた。さっさと、こっから離れて存分にやるぞ。どっからどう見てもパワーファイターだ。こうゆう奴を待ってたんだよ。

 

牛男は緩慢な動作で立ち上がり、拳をふるってきた。俺は真正面から拳を打ち込んだ。俺と牛男の拳がぶつかり、ビリビリと空気が震えた。はっ、久しぶりに良い空気だ。

 

拳同士がぶつかり、殴り、殴られ、楽しんでいた。しかし、しかしだ。キョンシーになったせいか攻撃が単純でワンパターン、そして右足が別物で動きが遅い。

 

だからこそ惜しい。

あんたが生きてる間に、やりたかったぜ。

 

「あばよ」

滅火豪拳。

燃えな魂ごと…

今度は、しっかり眠れ。

 

なんとなく、じっと牛男の死体が燃えるのを眺めていたら、後ろから三人の声が聞こえてきた。

 

「うふふ、総司くん、かっこいいわね。お母さんキュンと来ちゃったわ」

 

「私は少しも思ってないわ!しょせん野蛮な鬼だもの!」

 

「ふむ。帰るかの」

 

 

あぁ。

それにしても腹がへった。

 

 

 

 

親狐の家に戻れば、大小様々な妖怪どもが集まっていた。どうやら親狐を心配して集まっていたようだ。親狐が声をかけ挨拶すると、妖怪どもは帰っていった。なかなか慕われてんな。

 

銀短髪と犬耳は出た時と同じ立ち位置で立っていた。親狐が「解」と言えば太極結界が消え、銀短髪が「おかえり」と小さな声を出した。

 

 

 

狐一家は皆で料理を作っている。台所からは、きゃあきゃあ楽しそうな声を出していた。銀短髪が料理を作ると言い出し、金髪ロールも一緒に作ると言い、狐もならばとなり、親狐が仲間外れにしないでと言い、四人仲良く料理を作っている。俺は犬耳男とテーブルに座って待っていた。

 

並べられた料理は、和洋折衷、さまざまな料理が並んでいた。名前はわからん。どれも美味いが、やはり和食が一番、俺の口にはあった。

 

腹も満腹になり、飯を食い終わって茶を飲んでいた。のんびりしていた時に狐があらたまって話出した。

 

「そろそろ妾たちは帰ります」

 

金髪ロールはだだをこねて泣きマネし、親狐は悲壮感が半端ない表情をしエーンエーンと嘘泣きし、銀短髪は無表情だが雰囲気に悲しみが出ていた。

 

そんな時、犬耳男が声をあげた。

 

「お義姉さんが帰る前に言いたいことがあります」

犬耳は一つ息を吐いた。

「お義母さん、スピカさんを、娘さんを僕にください」

頭を下げた。

 

金髪二人は嘘泣きをピタリと止めた。

そして親狐が話出した。

 

「そうね。母さんは大賛成よ。でもね…『お前などに娘はやらん!娘が欲しければ俺を倒してみせろ!』と総司くんが言ってるわ」

 

「言ってねぇわ!!」

 

すると親狐に、グイグイ引っ張られ部屋の隅に連れて行かれ、小声で話し始めた。

 

「母親は笑みをたたえて賛成するものでしょ、そして父親は反対するものじゃない。ほら、やっぱり、こうゆう役は男の人じゃないと様にならないし、困難があった方がいいでしょ。…それにね。私をお祖母ちゃんにした罪は大きいわ。孫は楽しみだけどね」

 

最初は真面目くさった表情で話していたが、最後の方は小悪魔めいた微笑みをしていた。そして振り返り、皆に向けて声を出した。

 

「さぁ!話はまとまったわ!男同士!拳をぶつけ合わせなきゃね!」

 

おい…、ずいぶんと楽しそうだな。

 

しかし、犬耳男とは殴り合いにはならなかった。狐が「日本式の勝負で決めよ」と言い。何故か腕相撲勝負になった。ちなみに審判は狐、テーブルの上で俺と犬耳男は手を組んだ。

 

狐の掛け声と共に、腕をへし折るほど力を入れたが、少し傾いただけで止まった。なかなかやる。さらに力を入れたが、少し手が震えるていどだった。

 

ぐんぐん力を入れていったら。

テーブルが砕けた。

 

「なかなかやるな」

俺が笑って言えば。

 

「それほどではありませんよ」

さわやかな笑顔で犬耳は答えた。

 

「お主ら、いつまで手を握ってる。そっちのケがあるのか?」

狐に茶々を入れられ。

 

「ねぇよ!」

俺は犬耳男の手を投げるように放した。

 

ちなみ砕けたテーブルは狐が一瞬で元通りにしていた。それから、すぐに狐は帰り支度を終えた。長々と狐一家は別れの挨拶や抱擁し、俺は短い挨拶をした。

 

俺と狐は空飛ぶ船に乗ると、金髪ロールも俺達二人を送り届ける為に船に乗っていた。親狐、銀短髪、犬耳、その三人は見送る為に船の下にいる。

 

船は飛び上がり、狐は船縁から手を振っている。何故か金髪ロールも手を振っていた。だんだんと遠くなり、親狐達の姿が豆粒ほどになっても、そっちの方を狐は見ていた。

 

どこからともなくワインとグラス、それに椅子にテーブルを出して、狐と金髪ロールは優雅に酒を飲み始めた。俺は狐から一樽もらい、船縁に寄りかかって一人静かに飲んでいた。

 

狐と金髪ロールがワインを空にした丁度ぐらいに、俺も一樽を飲み干した。狐達は眠るらしいので、俺も寝ることにした。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

狐に起こされ、船の窓から外を見ると、我が家に着いていた。早いな空飛ぶ船。しかしいいのか?

 

「なぁ。家までコレで来てよかったのか?バレないか?」

人や陰陽師に見つからないようにと狐が言ってたはずだ。

 

「術をほどこした。人には見えぬ。むろん陰陽師にもじゃ」

へぇ、便利な術を色々と知ってんな。

 

甲板に出れば、金髪ロールが立っていた。狐と金髪ロールは軽く言葉をかわし、抱擁した。それから狐が先に船から降りた。

 

で、俺も降りようとしたら。

金髪ロールに呼び止められた。

 

「なんだよ」

ゆっくり俺に近づいて来た。

 

「ご褒美よ」

金髪ロールは妖艶に笑い。

一瞬で、俺に、口付けした…

 

「…は?はぁ!?」

なにがだよ!そして、なんのだよ!

 

「姉様に怒られなさい」

小声で囁き、ニヤリと笑っていた。

俺が何か言う前に。

金髪ロールに船から突き落とされた。

 

変な格好で地面に着地し、すぐに上を見上げるとニヤニヤ笑ってる金髪ロールがいた。不覚だ…、これまでの中で一番の不覚だ…

 

「姉様元気でね〜!総司も元気でねっ!」

 

「エリザも健やかにの」

狐は笑顔で返事していた。

 

「ふんっ!」

誰が返事などするか!

 

そうして金髪ロールは帰っていった。狐は船が見えなくなるまで見ていた。それを俺は後ろから見ていた。

 

しばらくして狐は家の方にクルリと反転した。

狐の体に引っ張られるように尻尾が鋭い弧を描き、完全なる不意打ちで俺は狐の尾っぽに襲われ、吹っ飛ばされた。

 

「おや、居たのか?気がつかなんだ」

狐は俺を見もせずスタスタ家に歩いていった。

 

不覚だ…

石にめり込んだ…

 

不覚だ…

 

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