ウロボロス・レベルアッパー   作:潮井イタチ

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大変おまたせしました。投稿ペース頑張って戻していきます。


21話/TS.ダブルデートsideB

 トウジとミルが騒いでいた、一方その頃。

 ミライとセツナの二人は、世界最強のダメ女と徳の低いTS美女というキャラ性の闇鍋めいたコンビでありながら、予想に反してさしたる問題もなく街を歩いていた。

 

「火右京(このまち)に来るのも久々だけど、ちょっと見ない間にやたら発展してるね。仕事中は電柱すら無い地域にばっか居座ってたから余計にそう思うのかもしれないけど」

「危険区域の開拓村なんかは、強い狂化異物(ブロークン)になりにくい物資ばっか使ってるせいで、江戸時代の日本みたいな風景になってるしな」

「それに、あの頃の家って火災の発生を前提に建築されてるから取り壊しやすいしね。壊される前に壊しちゃえば狂化異物(ブロークン)にはならないもの」

「今の時代に火消しが復活するとか、狂化異物(ブロークン)が出てくる前は誰も思ってなかっただろうな……」

 

 セツナの言葉に答えつつ、ミライは彼女の方を横目で見やる。

 

「でもこれだけ色々あると、狂化異物(ブロークン)が街中で発生した時の被害ヤバそうだなーって……ん、どうかした?」

「いや……」

 

 ミライは言葉少なに目を逸らす。

 セツナの私服は、学院で見るそれとは随分とギャップのある装いだった。

 何かこだわりがあるのかは知らないが、白系統でまとめているのはいつも通り。だが、その布地は軍服めいたコートとは打って変わって薄く、白であることも相まって透けそうな危うさを見せている。

 当然、下に何かしらインナーは着ているのだろうが、それを抜きにしても胸元は中々に開いており、加えてオフショルダーであることもあって露出が目立つ。

 強化者は髪や瞳などに何かしら色素異常が発生するものだが、セツナの場合は恐らくそれが肌にまで及んでいるのだろう。大胆に晒されているそれは、本人が宿す無茶苦茶な力に反していっそ病弱に見えるほど白く、淡い。そして透き通る美しさを見せていた。

 

 ミライは戸惑う自分に対してかぶりを振った。

 初心な男子高校生でもあるまいし、今さら多少の露出程度で心を乱されてどうするというのか。

 

「で、今日はどういう用件? ただのデートだって言うならそれはそれでお姉さんは大歓迎だけど、そういうわけでもないんでしょう?」

「っ……、意外だな。アンタなら手合わせだの模擬戦だの挑んでくるもんかと思ったが」

「そりゃあそれは望むところだけど、よっぽど重要な案件なんでしょ? そんなになってまで来てくれてるわけだし」

「そんなになって?」

 

 何か変なところでもあるだろうか、とミライは自身を見る。

 

「だってそれ男兄弟から借りてきた服かなんかでしょ? 帽子も髪整える時間無い時の苦肉の策って感じだしさー、もしそういうお洒落だったとしたら流石にセンスが新時代過ぎてビビるよね、あははっ」

「今日はもう帰ります」

「あっこれお姉さん選択肢完全にミスった感じ?」

 

 待ってー、とバスに乗り始めるミライをセツナが追う。

 大きな問題は起こらないにしろ、両者の相性に関してはどう足掻いても致命的なようだった。

 

※

 

 そんな二人の様子を、ビルの上でトウジとミルは眺めていた。

 

「……なるほど、相手は御剣さんでしたのね。普通にご友人同士でお出かけでしたか。骨折り損ですわ」

「ゼェッ、ハァッ……! ……ほ、骨を折ったのはこっちだってんだよ……! あの二人がバスと電車使ってるのになんでこっちは走って追っかけなきゃなんねえんだ……!」

「だって、栄えある宮火の人間がストーキング紛いの行為をしていたなんてこと、万が一にでも気づかれるわけにはいきませんわ!」

「俺に知られてる時点で手遅れだと思うんだけど!」

 

 そう言いつつ、トウジは抱えていたミルを降ろす。

 いくら強化者の身体能力でも、機動力を補助する武装を持っていなければ、自動車や電車に追いすがるのは困難だ。瞬間的にそれらの速度を超えることなら可能だが、移動手段としては交通機関を使った方が普通に早い。

 

 だが、トウジの能力であれば、その身体能力を更に底上げ出来る。それでも少々無理はしたため、脚に纏わせる形で生成していた骨の外骨格が軋みを上げた。

 

(最初は外骨格(これ)無しでもいけると思ったんだけどな……。抱えてる相手に衝撃いかないように走るとなると、流石に安定しないか)

 

 ここに来るまでの道中、高所からの着地をした際に比喩でなく骨を折ったトウジは、次から長距離を踏破する時は事前に外骨格を纏っておこうと心に決める。

 

 トウジは《ウロボロス》の応用で荒くなった呼吸を即座に整える。

 プールの事件の後、酸素を含んだ新鮮な血液を直接体内に生成することで、酸欠を防ぐ技術をミライに伝授してもらったのだ。

 

「とりあえず、もう満足しただろ。じゃあ俺洗剤買って帰るから」

「《ダメです……この世界の異分子である竜胆ミライを御剣セツナと密接に関わらせなさい……今の関係ではルートを切り替えるには至らない……正直この程度で未来が変わるとはわたくしにも思えませんが、それでもやらないよりは良いはず……》」

「なんかさっきから聞こえるんだよな……」

「耳鳴りですの?」

「いや、もうちょっと意味のある音な気が」

 

 トウジは自分の片耳を軽く抑える。

 幻聴のようなそうでないような。どうにも奇妙な感覚だ。何かが聞こえた、という感覚が残るのみで、何が聞こえたのか判然としない。

 

「《 ……やはりこの方法(ホログラム)では芳しくない……。本当に厄介で仕方がありませんね、あの原子時計。わたくしのように抹消での即死を耐えても、別次元に飛ばされてしまえば他者には認識されなくなるというのですから…… 》」

 

 半透明の白衣の令嬢が、はぁ、と二人の前でため息を漏らす。

 

「《……女の子の方の竜胆くんはどうにかこちらの次元に送り込むことに成功しましたが、如何せん復讐心に取り憑かれている様子ですし……本当に世の中思い通りにはいきませんわね……》」

 

 何故か周囲の空気が淀む感覚を覚え、トウジはわずかに首を傾げる。

 ミルの方は気づかない様子で、ぽんと両手をあわせてトウジに言った。

 

「そうだ、せっかくだし、二人にご挨拶しておきましょうですわ」

「いや、いいよ。今日はミライさんに一日修行してるって言っちゃったし、こんな所であったら何サボってるんだって叱られる」

「《待ちなさい、過去の竜胆くん……。あなたは既に本来の歴史の竜胆トウジを遥かに超えた力を得ています……。あなたが御剣セツナに関われば、あるいはそれだけで別ルートへ分岐する可能性があるのですわ……。というわけでミル……無理矢理連れていきなさい……。この頃ならまだ押しに弱いですわよ……》」

「まあまあまあ、せっかくですし。おねえさんには私から上手く言っておきますわ」

 

 強く断れるトウジではない。

 半透明の令嬢に導かれるまま、二人はミライたちの尾行を続行していった。

 

※

 

「もし私が、アンタの弟をブッ殺すって言ったらどうする?」

「それは普通にブチ切れるけど。どうしたの急に?」

 

 ミライが投げる殺伐とした問いに、セツナは逆にきょとんとした様子だった。

 ミライは後ろ頭を掻き、苛立ちと恥辱の間に挟まれつつ言葉を紡ぐ。

 

「……こないだの学園長との話し合いの時に、私の隣にいた少年のこと覚えてるか?」

「ああ、あの子。弟だっけ」

「あいつが……いじめられてたんだよ。御剣ハヤトに」

 

 言葉にし、事実を認めるだけで腸が煮えくり返りそうだった。

 セツナはうっと下がりつつ息を呑み、普段の不遜とは打って変わって縮こまった。

 

「あんの馬鹿……うー、あー、それは……ごめんなさい……でもさ、殺すってのは流石に……」

「まあそれはいいんだよ。怒ってはいるが、許せと言われれば許す。殺すのは流石にやり過ぎだ。別に取り返しのつかないことをされたわけじゃない。怒ってはいるが」

「あっ、うん……。あの、私からもハヤトにちゃんと言っておくから――」

「――で、こっからはあくまでもしもの話だ。これは仮の話で、現実には起こってない。ただ、もしそうなった時にアンタがどうするか聞かせて欲しい。どう答えても、それで責めはしない」

 

 段々と、声を平坦にしつつ、ミライは問いかける。

 セツナに対してにわかに詰め寄るそのオーラは、Fランクの強化者とは思えぬ圧を放っていた。

 

「――もしハヤトが、誰かに、本当に取り返しのつかないことをしたとしたらアンタはどうする? 命を奪った、失明させた、大事な物をぶち壊し、かけがえのない存在を踏みにじっていたら……御剣セツナはどう行動する?」

「えっ、と」

「お前なら出来るだろ? アイツが何をしても、揉み消すことぐらい」

「そんなことは――」

「ある。だって替えが効かないだろうが。数キロ近い射程があって、どんな防御も無視で、どんな規模でも切り避けて、殲滅が即座で準備も要らず、オマケに世界中に一瞬でテレポートできる人間兵器だろ? 身内の汚点の一つや二つ、軽くなかったことに出来るだろうに。俺が上の人間ならそれぐらいやる。ただでさえ無理を強いるんだ、それぐらいの恩恵がなきゃ嘘だろうに」

「……いやまあ、そんなに万能なものでもないんだけども」

 

 言いつつも、セツナは戸惑いを隠せない。

 何故急にミライがこんなことを言い出すのか。弟分がいじめられたことを抓っている――という風ではない。

 何しろ、怒気がまるで刺さってこない。内側に怒りの気配を感じはするが、それがハヤトを対象にしたものでも、セツナを対象にしたものでもないのだ。

 全く別の誰かに向けられた怒りだが、しかし自分たちに無関係ではない、という、絶妙な感情の様。

 

「(……うーん?)」

 

 いまいち、分からない。

 どう見てもハヤトに対して怒っているのに、ハヤトに対して怒っていない。

 

「ハヤトがそんなことしない、とは言い切れないけども。もし、あの子がそれほどひどいことをするんだったら……」

 

 何かが妙だ、と思いつつ、セツナは正直な気持ちを言葉にする。

 

(絶対に、お姉ちゃん(わたし)が止めなきゃだよね)

 

 それが、ハヤトの罪を望むミライにとって、絶対に許容出来ない答えであることを知らぬまま――

 

「だっ、だれかーっ!? 誰か止めて、ですわーっ!」

「お前なんでまた飛んだんだよ馬鹿じゃねえのか!」

「誰かにイケるって言われた気がしたんですのーっ!」

 

 ――答えようとしたその直前で、金髪の令嬢が割り込んできた。

 ビルの屋上にでもいたのか。ライターからジェット噴射を吹かし、ねずみ花火のように回る少女を見ながら、ミライは怪訝な声を漏らす。

 

「……何やってんだあいつら」

「とりあえず受け止めよっか」

 

 セツナは懐から巻尺を取り出し、リボンを巻きつけるようにして落下するミルを巻尺のテープ部分で絡め取る。

 

「た、助かりましたわ……。なんでイケる気がしたんだろ、わたし……」

「あーもうこれヤバいぞ。おい少年、とりあえずビニール袋もってこい」

「おうよ」

「お待ちなさい、この程度の回転で、わたくしが吐き気を催すとでも――うっ」

 

 雲散霧消する真面目な空気。

 正直どこかほっとした気持ちを覚えつつも、セツナは何者かの作為を感じて止まない。

 

「……考えすぎかなあ」

 

 虚空に向けて手刀を振る。

 

「《ちょっと止めてくださいませ。というかどうして正確に私の首を狙えますの》」

 

 当然、手応えなどない。ただ無音で風を切るだけだ。

 一般人はおろか、トウジにもミルにも認識できない速度で振るわれた手を、セツナは静かにポケットへ収める。

 

「どうした? 虫でもいたのか」

「あ、見えるんだ今の。すごいね竜胆さん」

 

 流(・)れ(・)はもはや完全に切り替わっている。

 電車を乗り過ごしてしまったような居心地の悪さは、静かにセツナの内側から消えていった。




・まとめ
竜胆ミライ
 思い切ってグイグイ行ったが時空令嬢に透かされたTSお姉さん。セツナ同様に妙なものを感じている。
 無意識に、はっきりした答えが返ってこなくてよかったと思っている。

御剣セツナ
 TSお姉さんと相性が悪いお姉さん。全体的な対人能力も割と低め。

竜胆トウジ
 令嬢のアシにされた男子高校生。押しに弱い。

宮火ミル
 何かされているお嬢様。令嬢の手駒と化している。自分でも何か変だなーとは思っている。

時空令嬢
 選択肢先送り令嬢。一定以上の好感度を稼いでからルート分岐させるという強い意志を持っている。

※

ラブコメが難産過ぎてラブコメが消えました。
次回からバトルしていきます。
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