ウロボロス・レベルアッパー   作:潮井イタチ

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第三章 - 大会編
22話/強化研武大会・テストリーグ開始


 週末が終わり、月曜日の朝。

 季節は衣替えの頃へと入りつつある。慣れないスーツ姿へと着替えるミライは、不満の表情を浮かべていた。

 

(結局、大したことは分からなかったな……。セツナが御剣(ハヤト)に対してどう思ってるかだけでも察せれば良かったんだが……、あそこで邪魔が入らなきゃいけそうな気はしたんだが)

 

 ため息が口から漏れる。

 ままならないのは、唐突に空から回転して降って来た例のあの子だ。

 

(吐き気あるなら帰りゃいいのに、あの後も宮火がやたら俺に付き纏ってくるせいで、それ以上突っ込んだ話もしづらかったし……。それに、何回も問い質したら、セツナの方にも訝しがられてただろうし)

 

 ミル本人にその気はなかっただろうが、全くもって間が悪い。

 

 着替え終わったミライは、トイレのドアをトントンとノックする。

 

「おーい、着替え終わったぞー」

「本当か?」

「本当だって。というか着替えぐらい好きに見ろよ。私は別に気にしないから」

「そんなんだからダメなんだよ!」

「あーもう早く出てこい、今日からもう合同訓練だろ? 私はどうでもいいが、色々準備したいなら早めに用意しないとダメだろうに」

 

 トイレのドアを開けようとするミライに、内側から抵抗するトウジ。

 ミライは一瞬ドアを開けようとする力を抜き、トウジも閉めようとする力を抜いたその瞬間、ドアが壊れるために使っていなかった肉体強化を発動し、一気にドアをばんと開いた。

 

 ドアを抑えようとしていたトウジがつんのめって蹌踉(よろ)けそうになるのを、ミライは体で受け止める。

 

「っ……!」

「こんなフェイントで転ぶなよ、戦闘中にやらかしたら洒落にならないぞ?」

 

 ちょうどミライの胸にトウジの顔が突っ込む形になったが、ミライは気にも止めない。

 

 こういった調子で事ある毎に忍耐力を試される健全な男子高校生としてはたまったものではないのだが、ミライの方も「自分(トウジ)になら何をされようがまあ良いだろう」と思っているので改善の兆しは全く見られていなかった。

 

 この体になってから一ヶ月。実感は薄いながら、多少は女性らしい警戒をした方がいいのかもしれないと思いつつあるミライだが、トウジに関しては別だった。

 むしろ、一緒にいればいるほどに無条件で信頼出来るという思いが強まりつつさえある。

 

 ミライにとって、竜胆トウジは「他人」どころか「自分以外の人間」のカテゴリに入っているかも怪しかった。

 

「じゃ、先に学校行ってるからな。ちゃんと鍵かけてこいよー」

 

 そうして、今日も青少年の情緒を狂わせつつ、「このままじゃもう色々と駄目だ……」と壁に額を押し付けるトウジを尻目に、ミライは学院へと向かっていった。

 

 

 強化学院には複数の学科が存在するが、主となるのは次の二つの科である。

 狂化異物(ブロークン)との戦闘を専門とする、強襲士(アサルト)を育成するための強襲志望科(アサルトコース)

 治安維持や対人戦闘を専門とする、強警官(ガード)を育成するための強警志望科(ガードコース)

 

 学院内において、この二科の間の溝は極めて深い。

 強化者の花形であり、狂化異物(ブロークン)という強大な敵と戦う強襲士(アサルト)に対し、あくまで一般人や、少数の犯罪強化者が起こす事件に対処し解決する強警官(ガード)

 職に貴賎なしではあるが、良きにつけ悪しきにつけ、そこに序列を見出してしまう者はいる。

 

 これから始まる大会形式の合同訓練――強化研武大会。

 これを行うにあたって、両科の連携は必要不可欠だ。今のまま、対抗意識を燃やされているばかりでは大した成果は見込めない。

 

「えー、というわけで、本日は強襲科(アサルト)強警科(ガード)による、仮想空間内での模擬戦を行います。強襲科(アサルト)代表と、強警科(ガード)代表は互いに握手を――」

 

 ――スパァン! と、握手とは名ばかりの、ビンタめいて互いの掌を叩きつける音が響いた。対抗意識以外の何物もそこには存在していない。

 これ以上なく困った渋い表情を浮かべる実技教師、不知火クルミの(そば)、横に控えていたミライが言う。

 

「こんなんで本当に大丈夫なんですか、不知火先生」

「……ええ、まあ、多分……。何だかんだ実力主義の子が多いですし、一度ぶつかってみれば、その、互いを認める気持ちも生まれてくるんじゃないかと、そういう話が職員室で出たわけなんですが……」

 

 不安しかない。彼の顔にそう書かれているのがありありと読み取れる。

 

 今回の大会は、数名の生徒でチームを組み、各チームで生き残りを競うチームバトルロイヤル方式だ。

 チームメンバーは強襲科(アサルト)強警科(ガード)で混合とし、人数は最大で三人まで。一試合には六チームまで参加し、制限時間は三十分。

  撃退数(キルスコア)や生存ボーナス、アシスト数やチーム人数などの様々な要因で成績の査定にプラスが付きはするが、勝敗面においては生き残ったチームの勝利となる。

 勝利したチームは次の試合に進み、勝ち星が多ければ多いほど学院側が生徒に様々なメリットを提供する形になっている。

 初めての試み故にまだルールが完全ではないが、そのあたりは今日のテストリーグでいくらか改善されるだろう。

 

「で、強襲科(アサルト)は自分の武装(のうりょく)以外の武器使用は一切禁止ですが、強警科(ガード)は銃器も強化解除弾(ペネトレイター)も全て使用可と。強襲科(アサルト)側が持てるのは通信機ぐらいですね」

「……林道(竜胆)さん、このルールで本当に良かったんでしょうか……。その、バランスが悪いような」

「私は順当だと思ってますよ。大体、実戦なら強襲士(アサルト)は道具なんてろくに持てませんし」

 

 危険区域で活動する強襲士(アサルト)は、自分の武装(のうりょく)以外の武器の携帯が基本的に許されていない。

 個人携帯できる規模の通常兵器では狂化異物(ブロークン)の撃破が難しいというのもあるが、それ以上に武器が狂化異物(ブロークン)へと変化してしまった際のリスクが大きいためだ。

 

 そもそも本来、現在の科学力であれば狂化異物(ブロークン)を破壊できる火力を持つ兵器を製造すること自体はさほど難しくない。下位の狂化異物(ブロークン)であればミサイルの一発で破壊出来るし、上位の狂化異物(ブロークン)でさえも核兵器を用いれば大抵は破壊出来る。

 だがそれはあくまで、『破壊出来るだけ』だ。逆に破壊されるようなことがあれば、今度は人類側(こちら)にその兵器が牙を向く。それも、制御不能の自律能力とどんな特性が発現するか分からない特殊能力と物理の領域を超えた破壊耐性と破壊した物体を狂化する能力を持った状態で。

 実際、狂化異物(ブロークン)が現れたばかりの時代に一度核兵器が使用され、それが狂化異物(ブロークン)化しある大国の首都が消し飛んだ過去がある。

 それによって発生した大量の狂化異物(ブロークン)と狂化性放射能汚染による被害は未だ解消されておらず、しかもその中心部に全ての狂化異物(ブロークン)の祖である神造機(コア・マキナ)が居座ってしまったため、人類は元凶の位置を把握しながらも手が出せない状況だ。

 

 ともあれ、そのような事情により、狂化異物(ブロークン)に対して過剰な兵器で戦闘を行うことは厳禁だ。強警官(ガード)の方は相手が狂化異物(ブロークン)ではないため、そのような縛りは基本的に無い。

 

「その代わり、強襲科(アサルト)の方は相手に致命傷を与えてもペナルティ無しですし……条件としては五分じゃないかと」

「仮想空間とは言え、あんまり皆さんに人殺し(そういうこと)はさせたくないんですが……」

「そもそもが狂教会(テロリスト)対策ですし、多少は仕方ないでしょう」

 

 二人がそうして話している間に、チーム分けも終わったらしい。

 トウジは誰と組んだかなと、生徒たちの方を見る。

 

「……ぼっちかぁ」

 

 いつぞやの実技授業のごとく、孤立しているトウジの姿があった。

 彼が一人でいるのにはシンプルに友達がいないというのもあるだろうが、それ以上に今回のルールと『ウロボロス』の相性が悪く見えることが大きいだろう。

 

 《八咫鏡(ヤタノカガミ)》によって作られる仮想空間内では、気絶、四肢欠損、致命傷を負う、即死などといったダメージを受けた際には、即座に現実空間へと転送されてしまう。

 当然、『ウロボロス』の最大の強みである再生力は十全に発揮できない。加えて、肉体生成で作り出した外骨格も、強警官(ガード)の使う強化解除弾(ペネトレイター)には弱い。通常の武装は肉体の強化を解除する強化解除弾(ペネトレイター)を受けても問題は無いが、『ウロボロス』は別だ。肉体を武装として強化する以上、肉体の強化を解除する強化解除弾(ペネトレイター)との相性は正しく致命的である。

 

 よって現状のトウジは他の強化者より身体能力が高いこと以外の強みがない……と、少なくとも他の生徒たちには映ってしまう。

 無論、壊拳(ブレイクブロウ)などの高威力の攻撃手段はあるが、対人戦でそれほどの威力はまず必要ない。

 

血線銃(レッドライン)なんかの遠距離攻撃もまだ見せれてないだろうし……、何より、最近実技授業に参加したばかりだから連携の経験値も足りてない。……流石に、チームには入れにくいか)

 

 いたたまれない気持ちになるミライ。

 だが、それはそれとして――

 

(この大会自体は、どうでもいい)

 

 負けるなら負けるで全く構わない、とミライは思う。

 

 そもそも、ミライとしてはトウジに対人戦の経験を積ませる意味自体が無い。

 大会の目的である狂教会(スクラップ・チャペル)からして、ミライにとっては放っておいても壊滅する組織に過ぎない。

 学園地下に封じられた狂化異物(ブロークン)廃造機(プルモーネス・マキナ)の討伐を行うに当たっても、対人戦の経験は全く不要だ。むしろ、成長の方向性がブレる分、デメリットの方が大きいとさえ言える。

 

 今回の組み合わせが決まったのだろう。大型犬に跨った女子生徒や、丸めた絨毯を小脇に抱える男子生徒、かばんを担いだ黒猫などなど、ミライも見たことの無い様々な強化者たちが、訓練室へと向かっていく。

 

 ブゥン、と訓練室の銅鏡が音を立てる。

 ミライの見ている前で、トウジ含む数十人の学院生が、一斉に仮想空間へと転送されていった。

 

 

 気がつくと、周囲に誰もいない、左右反転した世界にトウジはいた。

 

「《生徒ID:391437、竜胆トウジ転送完了》《現在地は、東第一校舎四階渡り廊下です。残り時間、二十九分五十九秒》」

外竜骨格(エクスドラグナー)脚部生成(ヴェロキライド)――完了。よし」

 

 この戦闘では、各生徒が一定の距離を置いて、学院内のランダムな位置に転送される。

 転送されてきたトウジは、即座に下半身へ外骨格を纏った。

 外骨格のような複雑な構造を作るには脳内でイメージを固めるための時間が必要ではあるのだが、それは転送前に済ませておいた。何も、戦闘が始まってからギアを入れなければならないというルールはない。

 

 他の強化者がこれと同じことをするなら、開始直後に強大な攻撃を放てるというメリットが生じるが、敵の位置も分かっていない状態でそんな一撃を放っても意味が無いし、敵の位置を把握した頃にはイメージが解けているだろう。その点外骨格ならば、一度作ればそれ以降も継続して活用することが出来る。

 

(とりあえず、機動力は確保出来た。結局誰も組んでくれなかったし……数的有利を覆すなら、チームで合流される前に速攻をかけるしかない)

 

 ここからはスピード勝負だ。

 校舎内の見取り図は頭の中に入っているが、この学院は広い。

 今回は東第一校舎内に限定されているものの、それでもアテも無しに敵を探していては合流を防げない。

 

(こんなところでやられてちゃ、ミライさんにも合わせる顔が無い。やれるだけのことはやらないと――いや、やれるだけのことを全部やるのは、そもそも前提としないと、ダメだ)

 

 あれだけ期待されているのだ。期待以上のことをしなければ意味がない。

 

 ひとまず、耳に肉体操作を使い、聴覚を向上させようとする。

 とにもかくにも各個撃破。そう考えたトウジの戦略は、実際間違いではないのだが――

 

「ヘーイ、《ケルベロス033》! 食い散らかすデース!」

「グゥォオオオァアアアア!!!」

 

 ――既に、合流しているチームがいるならば、それはもう意味をなさない。

 

 吠え唸る凶犬の咆哮。

 牙を剥いて彼を喰らおうとする大噛の顎が、()()()()()()()()発生した。

 

「なんっ……!」

 

 足元を見る。――首輪をつけたシベリアンハスキーの生首が、地面から生えていた。

 犬の生首は凄まじい咬合力でトウジの足に噛みつき、骨の外骨格をミシミシとへし割っていく。

 

 敵手の方を見る。目の前にいたのは、二つの頭を持つ大型犬に騎乗し、トウジに馬上突撃槍(ランス)の切っ先を向けた、グレーの髪をなびかせる小柄な女子生徒。

 当然、犬の生首に足を噛まれた状態では、この突進をかわせない。

 トウジは足元の生首に対してもう片足で蹴りを入れる。生首は即座に消失し、代わりに本体であろう大型犬の首が双頭から三つ首に増えた。

 

 自分の足を蹴ったトウジは体勢を崩し、相手に隙を晒す――が。

 

「oh!? 今の、明らかに立て直せるポーズじゃなかったデース! どうやってかわしたのかさっぱりネー!」

 

 肉体操作があれば、体勢の崩れ程度は対応出来る。外骨格の足裏に(スパイク)を生やして地面に突き刺すことで強引に踏みとどまり、馬上突撃槍(ランス)の攻撃を回避する。

 

やあ(Yeah)やあ(Yeah)やあ(Yeah)! 武士スタイルでセルフイントロダクション! マイネームイズシエラ=L=佐藤! ランスの強化者デース! こっちはバディのフェルル! レアでユニークな強化獣(パワードアニマル)なり! ユーもいざ名乗りを上げるが良いデース!」

「ええい、やかましい!」

 

 刺突の連撃を避け、彼女が騎乗する大型犬の噛みつきを回避する。

 人馬一体ならぬ人犬一体のコンビネーション。開始直後の相手が孤立した状態を狙うというトウジの作戦は既に破綻していた。

 

 機動力があるのは、何もトウジ一人ではない。人間より犬の方が足が速いのは言うまでもなく、最速犬種に至っては時速七〇km近い瞬間速度を叩き出すことさえも出来る。

 しかも、それが強化獣(パワードアニマル)――強化者同様、想臓器(ファンダメンタム)を持った超常生物ならば尚の事。強化者がかつては魔術師や陰陽師として扱われていたように、古きにおいては幻獣や魔獣として扱われていた彼らは、異能の力こそ強化者に劣るものの身体性能では強化者(にんげん)を遥かに凌駕する。

 このような強化獣も、強化学院では生徒の一員に数えられている。あくまで飼い主の生徒に付属する形でではあるが。

 

(クソ、単純に手数が多い! この間合いじゃこっちが不利だ!)

 

 脚部に纏った外骨格の力で、一気に背後へと跳び上がるトウジ。

 

「甘ーい! 《ケルベロス》ッ!」

 

 ガキンッ! と、着地した瞬間に、足を地面から生えた犬の生首に噛まれる。

 

「この……!」

「ノン! ダブルッ!」

 

 再度、もう片足で蹴ることで生首を破壊しようとしたトウジに対し、使用される犬の武装(のうりょく)

 本体の大型犬の首の一つが更に消失し、地面から生えた生首がトウジのもう片足に食らいつく。両足を固定された。

 

(好きな場所に、首を生やす能力……? 強化対象は身につけてる物からして多分、首輪か? 普通の強化者が武装にすれば拘束系の異能になるんだろうが、犬の思考形態だとこうなるのか!)

 

 当然だが、人間と犬では価値観・世界観が違う。強化獣が相手では、強化対象となる物品から連想して能力の予想を立てるのはほぼ不可能だ。

 

「チェックメイッ! 精神一到何事か成らざらん(Where there's a will there's a way)! 最大駆動(FULL DRIVE)――《アルミラージ595》!!」

 

 敵手には一切の油断もない。唸りを上げる馬上突撃槍(ランス)武装(のうりょく)、《アルミラージ595》。その効果は、速度を始めとした騎乗物の全性能上昇。加えて、スピードに応じた馬上突撃槍(ランス)の威力増大。

 

 鋼鉄の狂化異物(ブロークン)を容易くぶち抜く一撃が、馬や車とは比べ物にならない猟犬の小回りを以て渡り廊下を縦横無尽に駆け回り、トウジに向けて稲妻の如く突撃する。

 仮に相手が遠距離攻撃手段を持っていたとしても、狙いなど付けさせはしない。佐藤シエラとその愛犬が誇る、拘束と高速の殺し技。

 

(まずい――)

 

 トウジの額に汗が流れた。

 脱出方法ならばある。だが、ただ逃げただけでは恐らくそのまま押し切られる。この状況、完全に相手にイニシアチブを握られていた。

 

 ならば。犬顎に固定された脚部の強化外骨格へ、トウジは力を込める。

 足が動かなくとも関係がない。仮にたとえ全身が固定されていようとも、攻撃を行える。そう、《ウロボロス》ならば。

 

全壊(オーバード)――『強化勁・震天』!!」

 

 脚部外骨格から、爆発的な衝撃の波が迸った。

 それは、竜胆ミライが御剣セツナに腕を取られた際に使った、《ウロボロス》による強化版寸勁。肉体操作を活かした、全身のあらゆる部位から打撃を放つ術技。

 だが、トウジの使ったそれはミライのものとは規模が違う。筋繊維の塊である生体外骨格を破断させてまで放った一撃は、地震の如く校舎を揺らし、渡り廊下を粉砕する。

 

「Wow……!?」

 

 瓦礫となった渡り廊下とともに、地へ落ちていく両者。

 

 自由落下の最中でさえ、トウジは大人しくなどしなかった。

 ここは四階、地面に着くまで数秒はかかる。強化者ならば、瓦礫を蹴ってニ、三合空中で打ち合う程度はできる。

 空中戦、それ自体は両者ともに可能だ。だが、愛犬と共に落下する佐藤シエラは、顔を険しくする。

 

「やっぱりな――何も無い空中に首を発生させることは出来ない、そうだろう?!」

 

 そう、それが出来るならばそもそも足狙いなどする必要がない。虚空から牙顎を出現させ、相手の首筋にでも食らいつかせればいいのだ。

 

「見事! しかし、所詮はデスペレートアクション! たかが数秒、凌ぎ切れぬとでも思うてか――!」

 

 猟犬と騎手は惑うこともなく空中戦を開始する。瓦礫を蹴り、敵に喰らいつきながら、逸早く戦場を移すべく駆ける。

 しかし、《ウロボロス》の肉体操作は、空中での姿勢制御にうってつけだった。身体の重心を構造的に不可能なレベルで移動させ、体術の合理を無視した三次元機動で相手を封殺しにかかる。背後を取り、死角から攻めた。

 

 それでも、空中を飛べないのならば、付け入る隙は当然にある。

 トウジは少しでも空中戦の時間を引き延ばそうと、こちらを打撃で『打ち上げ』に来ている。次撃は読みやすい。後は、攻撃に合わせてカウンターをしかければ――!

 

「ここ、デェエエエエエッスッ!!」

「外れだ」

 

 皮一枚で槍の切っ先に触れるか否か。佐藤シエラに向けて突撃をしかけていたトウジの身体が、空中で突如減速した。

 

「! Wing……っ!」

 

 トウジの背中から生えた一対の翼。骨と人皮で構成される翼竜めいた羽が、空気抵抗によってシエラの間合を外す。

 空振った一撃の隙、カウンターのカウンターを放つべく、トウジが腕を振りかぶった。そして、

 

「リーチが不足なら、プラスするまでのことォ――ッ!」

「グゥルルゥォオオオオアアアアア!」

 

 シエラの槍先から、犬の首が発生した。

 《アルミラージ》の届かなかった間合を、《ケルベロス》が補填する。

 トウジの振りかぶった腕に食らいつく牙顎。

 

 今度は防ぐための外骨格も無い。腕は易々と食い千切られた。

 

 が。

 

「――美味かったか?」

「なっ……!」

 

 千切れた腕が、灰となり、自己死(アポトーシス)を起こして崩れ去る。

 驚愕するシエラの前で、ビキビキと変形する翼。それは人間の腕の形を取り、隙を晒したシエラたちに向けて拳を握っている。

 

 肉体生成で作り出したダミーの腕を喰らわれたトウジは、本来の腕に強化筋繊維を纏わせ、騎手ごと猟犬を殴りぬいた。




・まとめ
竜胆ミライ
 今回の大会を微妙な能力値(パラメータ)ばっか上がるサブクエストぐらいに思っているTSお姉さん。そろそろトウジに対する無防備さが危険な領域に達しているが、自覚は特にない。

竜胆トウジ
 張り切っているぼっち男子高校生。大体常に全力かつ真面目。仮想空間でも肉を切らせて骨を断っていくスタイルは変わっていない模様。フェイントも使うようになってきた。初戦から中々ハードなことになっている。
//破壊力:B- 防御力:B+ 機動力:C+ 強化力:D 制御力:C+ 成長性:S//総合ランク:C

//破壊力:B- 防御力:B+ 機動力:C+ 強化力:D+ 制御力:B+ 成長性:S//総合ランク:C

佐藤シエラ
 馬上突撃槍(ランス)の強化者。強襲志望科(アサルトコース)所属。12話でもチラっと出ていた。愛犬のフェルルとは生まれた頃からの付き合い。
 本来はもう一人、ホーミング能力を持ったブーメランの強化者がチームにいたのだが、合流前に突っ走ってしまった。
//破壊力:C 防御力:E 機動力:E(A) 強化力:B 制御力:D 成長性:C//総合ランク:D

フェルル
 わんこ。強襲志望科(アサルトコース)所属。シベリアンハスキーと書いたが、シベリアンハスキーっぽいだけで色々混じっている。
 彼にとって首輪はくぐって頭を出す物なので、「頭を出す」というイメージが反映された結果あのような能力になった。
//破壊力:D 防御力:E 機動力:B 強化力:E 制御力:F 成長性:D//総合ランク:E

強化獣(パワードアニマル)
 想臓器(ファンダメンタム)を持った人間以外の動物たち。古い時代には幻獣や魔獣として扱われていた。
 武装強化の性能は強化者より低いが、肉体強化の性能は強化者より高い。
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