ウロボロス・レベルアッパー   作:潮井イタチ

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 0話と1話に「トウジの瞳は緋色」「ハヤトの髪は白、瞳は青色」という描写を追加しました。

 今回のウロレベは大体TS要素で構成されています。


2話/過去に来たらまず何する?

「最強にしてやるって……いや、っていうかそもそも、誰なんですか、あなた」

「そうか。まあ、そうなるな」

 

 タイムスリップした女のトウジは、過去の自分に対して口を開く。

 

「私は未来――」

 

 ――から来た君だ。

 と、言おうとして、止まる。

 

 果たして正体を告げるか告げまいか。竜胆(りんどう)トウジは躊躇した。

 

(……言いたくねえな、五年後の自分が落第して落ちぶれてギャンブル依存でついでに性転換してるとか……)

 

 少なくとも、トウジならば嫌だ。そんな相手の言うことは、そもそも信じたくない。

 そして、トウジが嫌ということは目の前のトウジも嫌ということである。

 

(しかし、どっちもトウジでよくわからなくなってきたな。トウジの俺と当時のトウジでめちゃくちゃややこしいぞ、これ)

 

 過去のトウジを見ながら、どうしたものか、と悩む未来のトウジ。

 そんな彼女に、彼が言う。

 

「ミライさん?」

「うん? なんだって? 誰?」

「いや、今言ったじゃないですか、『私は未来(ミライ)』って」

「ん……」

 

 わずかに――半秒ほど悩む。そして答える。

 

「……ああ、そうそう。私はミライだな、うん。竜胆ミライ。君の親戚のお兄さん的な何かだ、よろしく」

「何かってなんだ。親戚ってのは……まあ、とりあえず置いとくとしても、お兄さんじゃなくてお姉さんでしょうが」

 

 自分にツッコミを入れられるこの状況はノリツッコミに含められるのだろうか、などとどうでもいいことを考える女のトウジ――改めミライ。

 

 だが、このネーミングは実際悪くなかった。何しろわかりやすい。それに、名前を変えるならトラベラー側であるミライの方だろう。

 

「ま、細かいことは気にしなくて良い。あと、敬語も要らない。君と私は実質家族みたいなもんだ」

「いや、今日会ったばっかの人にいきなりそんなこと言われても」

「ひとまずは君の家に住む」

「いやだからいきなりなんだって話が! 『ひとまず』で入っていい話題じゃねえだろうが!」

 

 荒ぶる過去の自分――いや、ここからは彼こそをトウジと呼称しよう。トウジをどうどうとなだめるミライ。

 しかし、こうしていると本当に親戚の少年を相手にするような気分だった。

 この頃のトウジは成長期が遅れており、女になったミライより背が低い。顔も子供っぽさが残り、表情だって、まだ明るい。

 ドッペルゲンガーを見た人間は己と殺し合いを始めるなどというが、ミライの中にはそんな嫌悪感は全く浮かんではこなかった。

 

「問題は、竜胆トウジに二人分の生活費を賄えるほどの金が無いってことなんだよなあ」

「なんで俺は初対面の人にここまでこき下ろされてるんだ……? というか万に一つ住まわせるとしても生活費は自分で出せよ」

 

 ミライは憂鬱にため息をつく。

 取り出した財布を開いてみても、中身はほとんど空っぽ。小銭入れに十円玉と一円玉が数枚あるだけだ。

 

 トウジは生活費は自分で出せと言ったが、仮に働くにしても、戸籍が無い。

 正確には、あるが使えないというべきか。この世界にある竜胆トウジの戸籍は当然一人分であり、タイムトラベラーであるミライの使えるものではない。

 一応ミライも後暗い仕事をしていた身ではあるため、戸籍の入手法には心当たりがあるものの、それにしたってやっぱり金が必要だ。

 

 どうしたものか、と顎に手を当てて考え込む。

 そんな彼女の財布から、一枚の紙がひらりと落ちた。

 

「今、何か落ちましたけど」

「ん、ああ。ただのメモだよ。もう要らなくなったやつだから別に――」

 

 そこまで言って、ミライは目を見開いた。

 慌てて落としたメモを拾い、そこにある内容を凝視する。

 

「――マジか。まずい、今すぐ行かないと」

「何か用事ですか? なら、俺も補習あるんでこれで」

「いや待て! 待ってくれ少年! 頼みがある!」

「はあ……助けてもらったんで、大体のことは聞きますけど……」

 

 そして、トウジに向かって焦った声で懇願する。

 

「金を貸してくれ! 一万で良い!」

「嫌だよ! 何かと思ったら金の無心かよ!」

「頼んでるだけありがたく思え! 君の金なんて実質私の金みたいなもんなんだぞ!」

「どんだけ傲岸不遜だアンタ!」

「相手が君だから言ってるんだよ!」

「恩に漬け込み過ぎだろ! っていうかその、あれだ。普通の高校生は財布に一万も入ってないっていうか……」

「嘘つけ、この日は確か入ってた! 絶対一万円札持ってたはずだ! 知ってるんだからな!」

 

 こう見えてミライとトウジは記憶力が良い。金の出入りにも気を使っていたため、その辺りのことは覚えていた。

 

「何ならこのナイフを質にする! 強化者の肉体強化を無視出来る、強警官(ガード)が使ってるような特製ナイフ! Aランク強化者の心臓もぶち抜いた優れものだ!」

「要らねえ! しかも実績あるのかよ怖いな!」

 

 後ずさるトウジ。ミライは必死に彼の腕に縋りつく。

 

「なあ頼むよ少年。返す、絶対返すから、な?」

「ちょっ……! と、とりあえず離れてくれ! 当たっ、当たってるから!」

 

 それに対し、トウジは大きな戸惑いを顔に浮かべる。

 変な大人に絡まれて辟易するトウジではあるが、それでもミライは容姿だけなら美人のお姉さんなのだ。しかもトウジ好みの黒髪ロング、かつ巨乳。

 健全な男性高校生としては、こんな美女に引っつかれて動揺しない方が無理という話であった。

 

「当たってるって――ああなんだ、胸か? おっぱい触りたいのか? いいぞ別に、こんなんならいくらでも揉め、ほら」

「揉まねえよ! わかった、一万貸すから! これ以上話してると遅刻するんだって、単位足りなくなるんだよこのままだと!」

 

 財布から一万円札を投げつけるように渡すトウジ。

 

「助かった! あとで絶対返すから! 補習頑張れよ、少年!」

 

 ミライはそれを受け取り、顔を輝かせながら走り出していく。

 

 「なんだったんだ」と困惑するように呟くトウジの声。

 それを背後に聞きながら、ミライは競馬予想のメモを持って、当たり確定の万馬券を手に入れるべく競馬場へと急ぐのだった。

 

 

 

 

「そういうわけで、とりあえず百万な。あと、今やってるバイトとかは全部やめろ。その時間は能力の訓練に充てる」

「…………?!」

 

 無事万馬券を手に入れ、百万を超える配当金を手に入れたミライ。

 彼女はトウジの下宿先のアパートに訪れ、彼の眼前に無造作に札束を突き出していた。

 

「なっ……いや、ちょっ、え?」

「ていうか家入れてくれ、いい加減風呂に入りたいんだ。見ろ、赤いシャツだから分かりにくいけどもう御剣(みつるぎ)の血とかでドロッドロ」

「待て待て待て! こんなの受け取れない! それに、本当に住むつもりなのか、俺の家に!? そもそもなんで住所知ってんだよ!」

「あれだ、親戚だから。今日から色々と面倒見るから安心してくれ」

 

 そう言いつつ、ミライは半ば無理矢理に部屋の中へと入る。

 当然と言うべきか、そこにあったのは、五年前の自室だった。

 

(この部屋も懐かしいな……)

 

 まるでタイムカプセルを開けた時のように、穏やかで、かつどこか照れ臭い気分になるミライ。

 

 タンスや棚の位置も変わらない。

 空間を占拠する本棚には、ずっと前に捨てた教科書と、武術や護身術の本が入っている。

 

「ふふっ……武術の才能なんて全然無いくせに、よくやったもんだよな」

「おい喧嘩売ってんのか。アンタに勝てないとしてもやるぞ俺は」

「違う違う、感心してたんだ。君の気概に。今の私には無いものだ、大事にしろよ」

 

 微笑ましげに、ミライはトウジの頭を撫でる。

 トウジは思わず顔を赤くし、動揺しながらその手を振り払った。

 

「それと、私程度の相手にはすぐに勝てるようになってもらわないと困る。Sランクになるんだから、F相手に勝てないなんて言ってられないぞ」

「んなこと言われても……」

「じゃあ私は風呂入ってくるから、その辺に布団――は、無いか。寝袋でも敷いといてくれ。学院のサバイバル演習で使うやつ」

「んなこと言われても!」

 

 困惑の叫びを背に受けつつ、勝手知ったる我が家のごとく(我が家なのだが)ミライは風呂場へと向かう。

 

「……むぅ」

 

 服を脱いだミライの眼下に現れるのは、やはりというべきか当然というべきか、女性の裸体である。

 健康的な色の肌は滑らかで、引き締まっていながら程よく肉もついた、女性としては理想の身体。

 血やら何やらで汚れていた長髪を洗ってみれば、そこにあるのは艶めいた濡羽色だ。

 鏡を覗くと、その奥にある緋色の瞳と目が合わさる。

 その赤い色合いは、強化者が持つ特殊な臓器――想臓器(ファンダメンタム)がもたらす色素変化によるもの。その中でも緋眼は、強化者の家系である竜胆一家特有だ。

 

(何度見ても美人だな……くっそ、これが俺じゃなけりゃ……。許せねえ、御剣の奴……!)

 

 半ば言いがかりに近い理由でハヤトへの怒りを燃やしつつ、身体を洗っていくミライ。

 

(髪、長いと面倒臭え……。でも、これぐらい長いと武器になるから、悩みどころだ)

 

 無論、武器というのは比喩などではなく、物理的な話である。

 《ウロボロス》によって強化されたミライの髪は、鋼線を優に超えた強度を誇る。流石に強化者の武装や狂化異物(ブロークン)には太刀打ち出来ないが、それでも戦闘ツールとしての利便性は高い。

 

 考えながら体を拭いて、そのまま風呂場を出る。

 

「上がったぞー」

「あ、分かっ――って、待っ、裸! なんで裸なんだよ、着ろ、服を!」

「ああ、悪い。帰り道に服屋寄ってこうとは思ったんだが、思った場所に店が無かったんだよ。来月開店とは知らなかった」

「そういう話じゃねえ! いや待て、じゃあミライさん服持ってないのか!? 一着も!?」

「サイズ合わないかも知れないが、とりあえず今日は服貸りるぞ」

「ナチュラルにタンスを開けてんじゃねえ! というかパンツまで借りようとするな痴女!」

 

 簡素なシャツとズボンを着るミライ。なお、パンツは無い。当然ながらブラジャーも無い。ノーパンノーブラである。

 

「悪いが、今日は私も疲れてるから、本格的な修行は明日からだ。頑張ろうな、少年。おやすみ」

「いや寝るな! 正気かアンタ、俺一応男だぞ!?」

「……?」

「本気で不思議そうな顔するなよ! あっ、言ってるそばからもう寝やがった! 俺より寝付きが早い!」

 

 そんな風にして、過去の自分を散々振り回しながら、ミライのタイムスリップ一日目は終了するのだった。




・まとめ
竜胆ミライ
 親戚を名乗る不審者。自分が美人だということを頭で分かっていても、実感は全然沸いていないTSお姉さん。黒ロン巨乳が好き。

竜胆トウジ
 あり得ないほどに馴れ馴れしい綺麗なお姉さんに振り回されている男子高校生。《ウロボロス000》を活かすべく武術を勉強しているが、芽は出ていない。黒ロン巨乳が好き。

想臓器(ファンダメンタム)
 強化者が持つ特殊な臓器の名前。ミライはこれを損傷している。
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