重桜指揮官、アズールレーンの捕虜生活 作:まったりばーん
昔…といっても数年前、各国は突如現れた人類以外の敵対勢力を前に徒党を組んで抵抗した。
それは何とか成功したが敵が居なくなればまた新しい敵を求めるのが人類という物。
アズールレーンと呼ばれたその連合軍はセイレーンという脅威が下火になるとすぐに瓦解し、それぞれの勢力が再び方向性の違いから戦争を始めたのだ。
方向性の違いで分裂する組織なんて、まるでバンドみたいだなと突っ込みを入れたくなるが、なってしまった物はしょうがない。
最初に戦いの火蓋が切って落とされたのはロイヤルと鉄血。
そして、それに呼応する用にアイリスでは内紛が起きヴィシアが分裂。
その後、サディアは鉄血と同盟を結んでロイヤルと交戦状態に入った。
ぶっちゃけここまでは対岸の火事だった。
指揮官としてかつてアズールレーンに派遣されていた俺は各陣営にそれぞれ知り合いの艦船がいたが、漠然とした不安以外は特に感じる事はなかった。
まぁ、どこかで関係ないと割り切っていたのだろう。
ところがどっこい、人生とはそう上手くはいかない物である。
いつからだったか、母国重桜と海を挟んだ遠い隣国のユニオンとの関係が怪しくなってきたのである。
そもそもの思想がユニオンはロイヤル寄り、重桜は鉄血寄りと方向性の違いがここにもあった。
そうなるのは必然的だったのかもしれない。
いつの間にか両陣営は戦争状態に突入したのだ。
勿論、俺は指揮官として動員され重桜の艦船を指揮し戦場へと飛び込んだ。
だが、戦う相手はかつて戦列を共にした艦船。
知り合いもいる。
…気まずい。
なんなら直接の部下だったユニオン艦船も片手で数えるだけでは足りないのだ。
それでも俺は軍人。
私情を挟まず己の職務を全うした。
旧知の仲であっても冷徹に攻撃を仕掛け、逆に旧知の仲であるからこそ知っている敵の弱点を基に戦略を練った。
そうして戦う事、数年間…。
「まさか…思わないじゃないですか…」
「ん?指揮官、どうした?」
思わず漏れた溜め息に隣に座った艦船が反応する。
…俺の隣で首を傾げる銀髪の美女。
セーラー服の様なトップスに短めのスカートを履いている空母艦船。
「いや、なんでもないよ」
「そうか?」
ヨークタウン級、二番艦エンタープライズ。
さっきまで砲火を交えていたとは思えない様な態度で俺の隣で寛ぐ彼女。
もう一度言おう。
まさか、思わないじゃないですか…ユニオンの捕虜になるなんて…。
───
出会いは突然とは言うがこれは突然過ぎる。
基地から基地への移動の最中、載っていた航空機がユニオンの戦闘機に張り付けられたかと思うとエンジンをやられ孤島に不時着、今にも爆発しそうな機内から命からがら飛び出すと回りにはユニオンの艦船達。
抵抗する間もなく麻袋を顔に被せられ、次に視界が開けた時には自動車の後部座席に座っていて隣にはかつての部下であり戦友だったエンタープライズ。
…とまぁこんな感じだ。
「ふふん、それにしても指揮官もつれないじゃないか重桜がアズールレーンを離脱してから手紙一つもくれないとは…」
所でという感じで彼女はそう切り出した。
こうして言葉を交えるのは母国重桜の代表が「堂々退場ス!」とアズールレーンを離脱した時以来だ。
「まぁその、赤城が厳しくてな、俺自身としては国家同士は剣を交えど君達とは友人だと思っている」
「そう言ってくれると私も嬉しい、アカギ…懐かしい名だな彼女は元気にしているか?」
脳裏に数週間前の戦闘が甦る。
赤城はそこでユニオンの航空機から急降下爆撃を受け、現在は内地で修復中だ。
一度、暇を見て見舞いには行ったがとても酷い有り様だった。
途端に彼女の事が心配になる。
「…この前1000ポンドの爆弾を喰らって療養中だよ、まぁ数ヶ月は戦線離脱かな」
俺は半分嫌味でそう言った。
「知ってるさ」
「え?」
「私がやったんだからな」
なんて事のない風にそう言う彼女。
流石、ユニオンの戦士だけはある。
例え知り合いであっても国家の敵となれば容赦はないのだろう。
俺と同じ様に。
「この車はどこへ向かってるんだ?」
その話しはこれまでとして俺はエンタープライズにそう問い掛けた。
ユニオン製の頑丈な自動車に揺られて数時間。
車は止まる気配もなく、重桜では見られない様な大きな弾丸道路を進んで行く。
あの離島から連れ去られて何時間かは解らない…ここはどこだろう?
まさかユニオン本土か?
「うーん、教えたいんだがすまない、それはできないんだ」
「そうか…」
「別に指揮官、貴方を信用していないという訳ではないんだが、そういう決まりなんだ」
本当に申し訳なさそうな顔になるエンタープライズ。
嘘はついてないらしい。
「じゃあ一つだけ教えてくれないか?」
「あぁ、話せる事なら何でも。他ならぬ貴方の頼みだ」
「これは偶然か?」
「…」
俺の言葉にエンタープライズは目を細める。
そう、ずっと持っていた疑問。
これは偶然の産物かどうかという疑問。
偶々、撃墜した機体の中に俺が居たから捕縛したのか、それとも…
「指揮官、これは言ってはいけないんだが特別に教えよう、内緒だぞ?」
しばしの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「これは私が主導となって大分前から進めていたんだ」
「いつから」
「開戦直後」
その言葉が耳に入った瞬間、自動車はピタリと停車した。
───
エンタープライズに手を取られ車外に出るとそこはユニオンの基地だった。
「流石、ユニオン馬鹿デカイな」
「これでも中くらいの方だぞ」
アズールレーン時代に利用した事もあるから知っているがユニオンの基地はとてつもないスケールだ。
それこそ基地一つで都市機能を補完できる位。
面積もインフラも施設規模も中堅都市位はある。
そこに兵士の為にと様々なサービスが集中する物だから基地周辺は文字通り歓楽街と化す。
「指揮官こっちだ」
俺はエンタープライズに手を取られながら基地の中を進んで行く。
時折、俺の事を訝しげに見てくる人間もいたが彼女と一緒だと解ると納得したような顔になった。
彼等も俺の存在を事前に知っている様だ。
歩いて数分、周囲の景色が変わる。
団地の様な建物の並ぶ兵士の居住スペースに差し掛かったからだ。
「指揮官、この家で暫く生活してくれ」
「え?ここで?」
エンタープライズはその居住スペースの外れにあるユニオンらしい木造家屋の前まで俺を引っ張ってくると、それを指さしこう言った。
「捕虜とはいえ指揮官は士官だ。それなりの待遇にはさせてもらう。まぁあくまで捕虜だからこの基地を一人で自由に歩き回る事は控えてもらいたいが、二人KANSENが同伴するなら出歩いても構わない」
彼女の口から飛び出したのはとんでもない待遇だった。
確かに重桜でも士官クラスの捕虜は他の捕虜に比べて良い待遇をするにはするが、こんな家を一室貸し与えたり、監視付きとはいえ基地内を歩いていいなんて事はしない。
「おい、いくら旧知の仲とは言ってもそんな滅茶苦茶な…」
流石にこんなのはありえない。
そう思い自ら抗議するがエンタープライズは有無を言わさぬ口調で言葉を続ける。
「いいんだ。なに、私と貴方の仲ではないか?さぁ家に入ろうこれからここが貴方の家だ」
彼女は半ば強引に俺の手を取ると平屋のドアを開け放った。
「指揮官!久し振りぃ!」
「指揮官様、お久し振りでございます」
「ホーネット…ヨークタウン…」
家に入った俺を迎えいれたのは、エンタープライズの姉妹艦2隻。
姉のヨークタウンと妹のホーネット。
これでここにはヨークタウン三姉妹が揃い踏みという事になる。
「ずっと待ってたんだから、ねぇ久々のユニオンはどう!?」
他の二隻と違いやたらテンションの高いホーネットは俺が入室するや否や、二つに分けた金髪を揺らしながら詰め寄ってくる。
服装も見覚えのあるいつものビキニスタイルにマントではなく、いつだったか戦勝祝賀会の際に着用していたドレスだった。
「いや、ここまで来るのが突然過ぎて何が何だか」
俺は金髪おてんば娘の勢いに呑まれそうになる。
この娘はいつもそうだ。
控え目な姉二人に比べ感情をはっきりと表に出す。
本心から喜んでいる事が伺い知れた。
「ホーネット…指揮官様が驚いてるわ、長旅でお疲れなのだから控えなさい」
俺の心中を察したのか、ホーネットを諌めるヨークタウン。
「えぇ~いいじゃない久し振りの指揮官なんだからさぁ~」
「ホーネット、姉さんの言う通りだ指揮官はまだ混乱している。落ち着いてからにして欲しい」
「ちぇっ…」
姉二人にそう窘められ彼女は不承不承と言った感じで俺から距離を取った。
「ごめんなさいね、指揮官様。ホーネットったら指揮官様がいらっしゃるって聞いてからずっとこんな調子で。ちゃんとしなきゃって、埃を被ってたドレスまで引っ張り出してきたんです。」
「ちょっと、ヨークタウン姉っ!」
ニコニコとなるヨークタウンとそれとは対照的に顔を真っ赤にするホーネット、そしてそれを微笑ましそうに見つめるエンタープライズ。
こんな光景を再び見れるとは思っていなかった。
もう二度とは会えないと考えていたユニオンの戦友達。
敵として葬り去ると一度は決意した彼女達に囲まれ、こうして言葉を交えている状況。
俺の脳はそれに違和感を覚えた。
だからこそ、俺はついこう言ってしまう。
「なぁ、三人とも、その呼び方何とかならないか?」
「呼び方?どういう事だ?」
エンタープライズが首を傾げる。
「だから、呼び方だよ。指揮官、指揮官って、俺はもう君達の指揮官じゃないんだ。その、敵である君達にそう呼ばれるのはむず痒い…昔とは違うんだ。」
「…」
「は?」
「へ?」
三者、似たような反応。
俺の言葉で一気に先程までの和やかな雰囲気は霧散した。
それに代わって、辺りを沈黙が支配する。
「指揮官様、酷いヒト…」
最初に沈黙を破ったのはヨークタウンだった。
「私の沈んだ心に荒々しく足を踏み入れ、手を差し伸べてくれたのは指揮官様だというのに、そんな事を仰るなんて…指揮官様にそう言われたら、私は…ヨークタウンはもう二度と誰かを信じる事などできなくなってしまいます。指揮官様、今の発言を取り消して下さい。さもないと私、おかしくなっちゃう。」
只でさえ幸薄そうな顔を半分歪めながら訴える彼女。
それに続くようにホーネットも口を出す。
「指揮官、私も今のはちょっとよく解らないかも。確かに今、指揮官は私達の指揮官じゃないかもしれないけど、一番私の事を上手に使ってくれたのは指揮官が最初で最後なんだよ?私は今でもずっと指揮官の事を指揮官だと思っているのに…指揮官、貴方はもうホーネットの事を仲間だとは思ってないの?違うよね?指揮官、そんな人じゃないもん。だからそんな事を言われると傷付くかも…取り消して」
彼女は言葉を締めると緑色の瞳を鋭くした。
ホーネットの顔からは怒りの感情を見てとれる。
「私も二人と同じ考えだ。国が剣を交えど個人の友情はある。先程、そう言ったのは貴方ではないか?なら、敵であったとしても貴方の事を一番呼び慣れた指揮官と呼んで何が悪い?そもそも、貴方がアズールレーンを抜ける時に私達に何か断ったか?急に私達の目の前から居なくなった。私達は指揮官から直接、指揮官の任を外れるとは聞いてはいない。なら、今でも貴方は私の指揮官だ。今の言葉、取り消してもらおう。」
俺の一番近くにいたエンタープライズもそう凄む。
嘆願、怒り、威圧。
リアクションには差があれど全員が俺にさっきの発言を取り消せと迫っている。
何だか言葉の選択を間違えてしまった様だ。
6つの刺すような視線が俺の体に突き刺さる。
「…すまない、取り消すよ。昔みたいに指揮官と呼んでくれて構わない。俺も久し振りだから少し頭が疲れているみたいだ。ごめん。」
三人から感じるネトリと絡み付く様なプレッシャー。
情けないが、三人の圧に負けた俺はそう言う事しかできなかった。
「解ってくれれば良いんだ、指揮官も疲れているんだろう。もう変な事は言わないでくれ、さぁ昼食にしよう。姉さんが作ってくれているんだ」
「あっあぁ…」
吊り上げた眉を優しく元に戻すとエンタープライズは微笑みながら、俺の手を取り、ホーネットは反対の腕に組み付いて、ヨークタウンは素早く俺の背後へと回った。
今度は三人で俺をダイニングまでエスコートしようというらしい。
「ヨークタウン姉の手料理、アズールレーン以来だよね?ヨークタウン姉、今日、太陽の昇る前から準備してたんだよ!」
「今回はホーネットも手伝ってくれたんです。指揮官様、楽しみにしていて下さいね。」
三人に囲まれて家の奥へと足を進める中、半ば諦めの境地に達していた。
彼女達はこんな性格だっただろうか?
アズールレーンに居た頃の彼女達は俺に対してこんなに激しく感情の発露をしていたか?
記憶がない。
あくまで上司と部下の事務的な関係に近かった気がする。
ここ数年で変化があったのだろうか?
それとも…
(変わったのは俺の方か?)
俺はユニオン人特有の濃い体臭に包まれながら、何とも言えない居心地のわるさを感じずにはいられなかった。