重桜指揮官、アズールレーンの捕虜生活   作:まったりばーん

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またこんなに時間をあけてしまった…


助けて

微睡み。

目が覚める前の安穏な時間。

睡眠のそれよりもこの覚醒前の幾らかの時間が好きな人間も多いだろう。

だが、今日の微睡みはいつもとは違った。

 

(あつい…)

 

漠然とそう感じ、暑さの後には不自由さを感じる。

まるで何者かに羽交い締めされてる…そんな感覚だった。

ゆっくりと目を見開くと、理由はすぐに判明する。

 

「ノースカロライナ…?」

 

俺がいつも寝床にしている指揮官室のソファー。

そんな不完全な寝具に横たわる俺に覆い被さる様に戦艦ノースカロライナが寝息をたてていた。

彼女は戦艦。

その柔らかいながらズッシリとした肉付きの良い体躯は男性である俺に勝るとも劣らない。

そんなグラマラスなノースカロライナの四本の手足と腰よりも長い金髪が、まるで釣糸の様に俺の体に絡みついていたのだ。

ノースカロライナの肺が上下する度に、彼女の吐息が俺の鼻をくすぐる。

そんな位置と距離感。

彼女のバターの様な濃い香りは俺の汗臭さと混ざり合い、最早自分の体臭の一部となっていた。

 

「嘘だろ?」

 

思わず声に出た。

寝起きというのに頭が急に回り始める。

状況を整理しようと目玉を動かした。

一晩寝床を共にしたノースカロライナはパジャマに着替える間もなく、夢の国へと旅立ったらしい。

彼女を象徴する純白の制服は乱れた状態でシワクチャになっていた。

しかも、黒いストッキングは破れているというオマケ付きで。

 

───やってしまった。

 

微睡みが一転、まるで水風呂にでも飛び込んだかの様に覚醒した。

視線を床へと落とす。

散乱しているのは複数の空き瓶。

ユニオン名物のバーボンウィスキー…やや高級な銘柄だ。

しかし、その空き瓶以外はトニックウォーターやソーダといった飲料、氷、グラスの類いも見当たらない。

おそらくそのままでバーボンを飲んだのだろう。

グラスもないので直に。

 

(こんな度数の高い酒をストレートで何本も開けたってのか?昨日の俺は?)

 

というか昨日はどうしていたっけ?

確か、ユニオンのお偉いさんと会合をして…その席でいつまでも打破できない戦況をなじられた記憶は残っている。

俺個人を蔑む様な差別的な発言もあった。

それが悔しくて、悔しくて…慰めの言葉をかけてくれたノースカロライナと…。

 

(多分、飲んだんだろうな…。)

 

それで酔った勢いでこういう感じになってしまったんだろ?

空き瓶、乱れた衣服、体に感じる特有の倦怠感。

状況証拠は揃っている。

酒で曖昧になっていたとしても先に手を出したのはおそらく俺の方だ。

その正体はどうあれ、女性の多い職場、男性特有の鬱憤は晴らす機会は皆無に等しい。

特に最近は忙し過ぎた。

だから、酒で理性の箍の外れた俺がこの汚い欲望を満たす為、ノースカロライナに手を出してしまった。

 

…というのが一番納得ができる。

 

きっと艦船であるノースカロライナには払いのける力があるが、優しい彼女は、なし崩し的に俺を受け入れてしまって

 

───頭の中で最悪なプロットが組み立てられた。

 

(どうしたらいいんだ…全く…)

 

そんな風に思いながら、空になった酒瓶を睨む。

酒は飲んでも呑まれるな。

そんな事を後悔しても事態は進展しない。

 

「むぅ…」

 

かわいらしく、ノースカロライナがまた寝息をたてた。

俺の胸板に頭をあずける彼女もまた、微睡みの世界にいるのだろう。

いつ目覚めるとも解らない。

あどけない彼女の寝顔を見て俺は意を決した。

 

「…ノースカロライナ」

 

そーっと、覆い被さる戦艦の肩を叩く。

とりあえず起きてもらって確認を取ろう。

彼女の記憶が確かならば取りあえずの確認は取れる。

合意の上だったのか、それとも…。

 

「ん…っ指揮官?」

 

肩に伝わる振動にノースカロライナは瞼を拡げる。

作り物の様に長く整った金色の睫毛が窓から差し込む日光を反射した。

眩しいのか目をパチクリさせている。

 

「えっ…、あれ?なんで、私。部屋?あぁ…そうか」

 

彼女は眠そうに碧い眼を見開くと自分と俺との位置関係に、一瞬の動揺を見せるが、すぐに状況を理解した様だ。

 

「…シャワー借りますね?」

 

何か納得できる物があったのか、ノースカロライナは一言そう呟くと、徐に立ち上がり指揮官室の隣に併設された俺の私室へと入っていく。

下敷きになっていた俺に何の執着もないようにあっさりと離れていってしまう彼女。

そして、隣室から水の音が響き始めた。

 

(これからどうすればいいのだろう?)

 

俺の肌にはまだ彼女の温もりが残っている。

謝る?

許してくれるのか?

彼女は?

というか俺は彼女に何をしてしまったのか?

本当に一線を越えたのか?

どうして?

それすら解らない。

曖昧ですらなく、本当に覚えていないのだ。

記憶にあるのは昨日の悔しい思いだけ…。

その他には何もない。

俺は再び鈍くなった頭で、呆然とシャワーの音を聞き流す事しかできなかった。

 

「指揮官、おはようございます。」

 

水の跳ねる音を聞き流して数分。

髪をペタリと垂らし、体に湯気を纏ったノースカロライナが扉を開けて現れた。

身に纏うバスローブからチラリと覗く白い肌。

そんな美肌に、這う様につけられた無数のピンク色の跡は、昨夜、俺と彼女の間に何があったのかを雄弁に物語っている。

 

「指揮官、昨夜の事はお気に留める事もありませんし、無かった事にして頂いても構いません。ですが…」

 

湯気を帯びたノースカロライナは淡々と喉を震わせる。

 

「ですが?」

 

「髪の手入れは手伝っては貰えませんか?一人でするの大変なんです。」

 

そういってタオルとヘアブラシを突きだす戦艦。

これが俺が初めて母以外の女性の髪に触れた瞬間だった。

 

───

 

「起きろ指揮官」

 

微睡みの中、ハスキーボイスが俺の耳を刺激する。

 

「モントピリア…か」

 

「やっと起きたな、お前はやっぱり寝坊助になった」

 

寝間着姿の軽巡洋艦に体を揺さぶられ、こんどこそ本当に目を覚ます。

彼女にこうやって起こされるのは二度目の事。

確かに寝坊助になったかもしれない。

起こされる前、何か随分と懐かしい夢を見ていたが…なんだったか?

思い出せない。

ともあれ、ここはエンタープライズのプライベートルーム。

昨日はここの一つしかないベッドで俺、エンタープライズ、モントピリアで川の字になって寝たのだが…気づくと朝になっていた。

そしてまた、昨日の車内の様にモントピリアに肩を叩かれたという訳だ。

 

「あれ、エンタープライズは?」

 

起きてすぐ俺は家主がいない事に気づいた。

昨晩、俺とモントピリアの間に壁のように割って横たわっていたエンタープライズがいないのだ。

 

「あいつなら僕が起きた時にはもういなかった、でもこれがあった。」

 

そう言って人差し指と中指にメモ用紙を挟んで突きだすモントピリア。

 

「これは…書き置きか」

 

挟まれていたのはホテルのフロントにあるようなキレイなメモ用紙。

そこにはエンタープライズの線の細い文字で俺に宛てたであろうメッセージが綴られていた。

 

───すまない指揮官、昨日ちょっと面倒な来客があってそれの対応をしなければならない。少し席を外す。だが、遅くなるという事はないだろう。暫くモントピリアと留守を頼む。

 

「成る程…」

 

「そういう訳で今朝はぼくと二人きりだ。朝食をとろう、指揮官。あの生活感ない女でもシリアル位はある筈だ。」

 

白髪の少女はベッドからポンッと飛び出すと、主のいない冷蔵庫を漁り始める。

俺は今日もシリアルかと思いながら身を起こした。

 

───

 

「はぁ…」

 

豊満な体を白い制服に包み込み、戦艦ノースカロライナはある人物の部屋の前で溜め息を吐く。

青髪の軽巡ヘレナとの約束を果たす為とはいえ、これから会う人物…というかその人物に依頼する内容に抵抗があった。

 

(大丈夫…私が会いたいと頼むんじゃなくて病院のヘレナちゃんの代役だから…)

 

そう割り切ってみるもやはり気が引ける。

これでは自身が指揮官に会いたがっていると思われても仕方ないではないか。

そう考えるとまた気が滅入る。

今度は溜め息も出なかった。

彼女はこれから指揮官をヘレナに合わせるようにとエンタープライズに頼まなければならない。

そう青髪の少女と約束してしまったから。

自分と指揮官との複雑な関係を考慮すると本当はこんな事はしたくない。

自分でもなぜこんな事を承諾したのか解らない。

だが幼いヘレナの懇願する様な瞳を前にするとどうしてもヘレナの役にたちたいと考えずにはいられなかった。

理由は解らないがヘレナの姉セントルイスは少女を指揮官と会わせたくないらしい。

ならば、力になれるのはあの日病院にいたノースカロライナ位である。

だが、指揮官の事を考えるのと同じくらい、エンタープライズに借りを作るのも気に入らない。

指揮官が選んだ女だ。

 

(…それだけで嫌い。)

 

彼もなぜあんな重い女を亡命の協力者として選んだのか…自分ではなく…。

ノースカロライナの頭にはここ数日この事だけが頭にある。

アズールレーン時代、あれだけ彼に尽くしたというのに。

暗い気持ちで扉の前で立ち尽くす戦艦。

ともあれ、一歩踏み出さなければなるまい。

具体的にはこの扉を叩いてエンタープライズに会わなければ。

話はそれからだ。

住所不定な銀の空母ではあるが、昨夜、都合よくノースカロライナのいるこの基地に帰って来たというのは解っていた。

意を決して呼び鈴に指を当てる。

 

「は?」

 

そして扉から現れた予想外の人物に戦艦は眼を丸くした。

 

───

俺は言葉を呑む。

目の前の人物が予想外過ぎたから。

 

「ノースカロライナ…」

 

モントピリアと冷蔵庫から見つけたシリアルを食べている最中、ピンポンとチャイムの音がした。

モントピリアのお前が行けという視線に負け、扉を開けるとそこには昔懐かしい戦艦の姿があったのだ。

 

「指揮官…!どうして…?」

 

半開きの扉越しにぶつかる視線。

向こうも困惑気味に青い瞳を見開いている。

 

「…っ!」

 

だがノースカロライナはすぐにその碧眼を鋭くさせると、右手を振り上げた。

途端に左頬に感じる衝撃。

平手打ちされたのだと理解するのにそう時間はかからなかった。

 

「力加減しました、私…」

 

そして俺の顔を睨み付けたまま呟いた。

ノースカロライナの言う通り、KANSENである彼女が本気を出したのならば今の平手打ちで俺の首はへし折れているに違いない。

だから精一杯力を制御したのが今の一撃。

だが、口の中では鉄の味が広がっている。

 

「話聞かせてもらいますよ?」

 

その後の事はあまり覚えていない。

只、彼女に腕を引かれていた。

 

───

 

「キミでは話にならないなニューカッスル。ベルファストを呼んでくれ。」

 

来客者様の応接室。

エンタープライズは長い脚を組んで向かい合うニューカッスルを睨み付ける。

その態度から全く歓迎の意が無い事は多分陽気なサンディエゴでも解るだろう。

 

「困りましたねぇ、ベルファストは所要でロイヤル本土にはいないのです。今回のお話は私が全部陛下から任されていますので…。」

 

対するニューカッスルはエンタープライズの視線など気にする様子もなく言葉を続ける。

まるで猫が甘える様な、かわいらしく小悪魔的な声。

そんな声で自分が全権を委任されているという事を改めて強調した。

乃ち、この場においては彼女、ニューカッスルの声がロイヤルの名君クイーンエリザベスの言葉なのだ。

 

「それに我がロイヤルとユニオンとの間では片方がレッドアクシズから捕らわれた兵を保護した際にはその身柄を引き渡す、そう言った取り決めがされている筈です。エンタープライズ様、どうかいじわるなさらず、彼の身柄をお引き渡し下さいませ。」

 

「断る…と言ったら?」

 

「力ずくで…」

 

ニューカッスルがそう言った瞬間、エンタープライズは指先に力を込めた。

その手にロングボウを握る為に。

 

「…とは申しません。」

 

だが続く言葉でエンタープライズはその殺気を霧散させる。

 

「冗談はやめてくれ危うく殺ってしまう所だったぞ?」

 

「戯れをお許し下さい。エンタープライズ様。ですが彼の身元がどうあれ彼がどこで暮らすかは彼自信の意志が尊重される…そうは思いませんか?」

 

「ほう?」

 

その軽巡の言葉に銀の空母は眉を曲げた。

 

「ですから一度、彼に私を引き合わせて下さい。そして指揮官自身にユニオン、ロイヤルのどちらがよいかを選択して頂く。それならエンタープライズ様も納得するのではありませんか?」

 

「良いだろう。だが、指揮官がロイヤルの事を選ぶとは思えないがな?」

 

ニューカッスルの試す様な提案にエンタープライズ不敵な笑みを浮かべる。

 

「あらあら、随分と自信がございますね?」

 

「教えて上げよう、私はいつも切り札を持っている。どんな時も、ユニオンに居て揃わない物は何もない。それに…」

 

「それに?」

 

「昨晩、指揮官にお願いしたからなずっと私の側に居てもらうと…。」

 

 




私事なのですが、大艦隊のコンテンツが実装されると聞いてこの前大艦隊を結成させて頂きました。
無言で誰でもどうぞという艦隊宣言の艦隊だったのですが9月20日に申請をしてくれた方を間違えて拒否してしまいました。
佐世保の大艦隊で結成からまだ一週間と経っていません。
もしどなだか佐世保の指揮官で大艦隊に申請したけど拒否されたという方がいらっしゃいましたら、どうかもう一度参加申請して頂けると嬉しいです。
本当に申し訳ありませんでした。

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