重桜指揮官、アズールレーンの捕虜生活 作:まったりばーん
「私はクリーブランド!海上の騎士だ!」
指揮官と初めて会って…
「ふん、別に自分が強いって余裕ぶってるわけではないけど、正直、指揮官のような対等に話せる人はそういないような気がするね」
お互いの事を解り始めて、相性がいいって事も気づいた。
「いつのまにか私が愚痴る側になったけど…まあいいさ、これからもよろしく頼む」
それから二人でいる時間も増えて…
「うんうん、そろそろ渡してくる頃だと思ってた!これから何でも教えて。ちゃんと世話焼いて上げるから!」
嬉しい…!遂に…遂に指輪を貰えた!
本当に!?夢みたい!
まさか指揮官があれだけいたKANSENの中から他でもない私を選んでくれるなんて!
これは絶対に大事にしなきゃ!
これからはきっと楽しいよね。
だって指揮官とそういう関係になれたんだから。
私はKANSENで指揮官は人間だけど、それでも長い時を一緒に…。
「姉貴、起きて下さいオフの日だからって寝すぎです。」
「あぇ…モントピリア?」
「やっと起きましたか…姉貴、もう10時ですよ?」
瞼を開くと私の体を揺らす白髪の妹。
そうだ何年も前から私の指揮官はもういない。
夢みたい…だって夢だもの。
「…久し振りに見たなこの夢」
「姉貴?」
私はもう何度目か解らない悪夢で目を覚ました。
───
「いただきます」
目が覚めると歯も磨かずにテーブルに突っ伏してシリアルにドバッとミルクを注ぐ。
そして、それを口に運んだ。
そうやってクチャクチャとシリアルを食べる私を妹のモントピリアは呆れた顔で眺めていた。
「もうお昼になりますけどね」
対照的に向かいに座るモントピリアは優雅にマグカップを傾けている。
中身はコーヒーで、香ばしい薫りが寝起きの私の鼻腔を刺激した。
「いいじゃないか、昨日まで三十連勤だったんだから…」
最近のユニオンは船使いが荒い。
戦争も山場を迎えているとはいえオーバーワークを私達に強要し過ぎ。
こうやって海上騎士団が丸一日休みを貰えたのも冗談抜きで一ヶ月振りの事だった。
昨日はクタクタで、この基地に戻ってそのままベッドにダイブ。
そのまま眠りに落ちて今に至る。
だからこの連休はそれこそロングアイランドの様にダラダラ過ごすと決めていたのだが…。
モントピリアは赤い目を尖らせてそれを許してはくれない様だ。
「だからといってそんなに寝ていてはせっかくの休日が無駄になってしまいます…もぅ、姉貴は休日でもカッコよく過ごしていなくては駄目なんです!」
「むぅ…そう言ったって、だらけたい時はだらけてもいいじゃないかぁ…?流石に私だって疲れたんだ。できる女はオンオフがきっちりしいるってノースカロライナのも言ってたぞ?」
私も負けじと言い返すがその声には自分でも解るくらい張りがない。
「それでも駄目なんです!しっかりしてください!姉貴はユニオンで一番カッコいい巡洋艦なんですから!」
まるで自分の事のようにムキになるモントピリア。
モントピリアは私の一挙手一投足にうるさい。
姉である私の事を思ってくれているのは解るが、こういう時に融通が効かないのはちょっと困る。
それでも可愛い妹である事には変わらないが…。
彼女は自分の求める他人への憧れとその本人との間にギャップが多い娘だ。
「あぁ、解った…解った…明日からはちゃんとするって、だからそんなに言わないでくれ」
妹の猛攻に頭の前で手を振って、なんとか黙ってもらう。
この妹はいつも私の事をカッコいいと持ち上げるが、私からしたらモントピリアの方がカッコいい。
キリッとした目に、ショートカットの白髪。
ボーイッシュな外見はもとより口調だってクール。
私の方が女の子している自信がある。
「約束ですよ?」
「あぁ…」
カッコいい妹はやっと納得してくれたらしく、それからは何も言わなくなった。
確かに海上騎士団の長女としてもこうダラダラとするのはモントピリア含めた姉妹に示しがつかない…改めよう。
でも、今日の私は何だかやる気がでそうもなかった。
やっぱり、今朝あんな夢を見たものだから気が滅入っているのかも。
「はぁ…」
甘い小麦の味を口内に感じながら溜め息を吐き出す。
定期的にみてしまうあの夢。
指揮官に私が選ばれる夢。
最近は見なかったので忘れていた。
KANSENである私がこの指に銀のリングをはめる…そんな事、もう実現する筈はないのに何故か見てしまう。
夢とは深層心理を表す自分自身の鏡。
だから私はこうして指揮官相手に戦争をしている今でも彼に心引かれているのだろう。
今日が休みで良かった。
こんな心情で戦争しろと命令されても指揮官の事がチラついて集中できる訳がない。
「よしっ朝ごはん終わりっ!」
そんな気分を払拭する様にシリアルにミルクを追加して、スープのように飲み込んだ。
こんな時、ダラダラと朝食を続けるのは良くない。
さっさと片付けてしまうに限る。
「…行儀悪いです姉貴」
モントピリアはそう呟きつつも、白磁の食器を流し場へと持っていく。
後片付けをしてくれる姉思いの健気な妹だ。
「ありがとうモントピリア」
私が妹にそう言った時だった。
「姉貴!昨日の朝刊読みました!?」
次女のコロンビアが新聞を握りしめてダイニングに突入してきたのだ。
まさに鬼気迫る表情。
その手に握る新聞紙も手汗からか滲んでいる。
「どうしたんだコロンビア?こんな朝っぱらから大声だして、ご近所さん迷惑じゃないか」
「どうしたもこうしたもないですよ!これ読んで下さいっ!」
「んん?」
コロンビアは机に新聞を叩きつけた。
私は妹に言われるがまま、彼女の指で皺のいった新聞を覗き込む。
その朝刊の日付は昨日。
海上騎士団がこの基地に戻る前日だ。
私はすぐにその印刷された見出しに目を奪われた。
─重桜の指揮官がユニオンに亡命か!?
「…これって」
「はいそうです!指揮官が今ユニオンにいますっ!しかもどうやらこの基地にいるらしいです!昨日、外れの家で指揮官を見たって奴が…」
その言葉に私の頭は真っ白になる。
「あの人が!?指揮官がユニオン…この基地にいる!?」
しかも文章から推察するに自分の意思でユニオンの事を選んだと書いてある。
まさか今朝の夢が正夢になるとは…!
「コロンビア!すぐにデンバーとバーミンガムも引っ張って指揮官の所にいこう!」
「はいっ!姉貴!」
コロンビアはそう返答すると残りの二人の部屋へと向かっていった。
…さぁ私も準備しないと。
どんな話をしよう?
お互いに積もる話もある筈だ。
服もいつもの制服だと可愛くないし…。
そうだあの服を着ていこう!
最初にどんな言葉をかけようか?
久し振り?まってたぞ?う~んしっくりこない。
そもそも指揮官とはいつもどんな風に話してたっけ?
まずはそこからだけど…。
「…どんな顔して会えばいいと思う?」
一瞬、思考が飛んだ私はすぐに目をモントピリアの方へやる。
指揮官の帰還。
できる妹はどうおもっているのだろう?
「モントピリア…?」
だが、さっきまで流し場で食器を洗っていた彼女は既にそこには居なかった。
───
「指揮官、これを」
「…ありがとう」
エンタープライズが差し出したボウルを受けとる。
料理のできない彼女が用意した朝食はユニオン特有の色とりどりのシリアル。
口に運ぶとハチャメチャな味が味蕾を刺激した。
先程の事があったからお互いに目を合わせづらい。
あの後、彼女が自然と泣き止むまでにそう時間はかからなかった。
俺が何かをするでもなく自然とエンタープライズは泣き止んだが未だに涙の通った跡が彼女の顔には残っている。
普段、薄化粧のエンタープライズだがマスカラくらいはつけているらしい。
それが落ちてしまって顔に二つの黒い滝ができていた。
なんとも言えない罪悪感を感じずにはいられない。
「なぁ、指揮官?会いたいKANSENは誰かいるか?」
唐突にエンタープライズはそう言った。
どういうつもりだろうか?
彼女の言葉に何人かのユニオンの艦船が連想される。
「そうだな重桜の船なら会いたいが…」
「勿論、それはできないな」
エンタープライズは俺の要望を即却下する。
「なんて事はない…何人かから貴方に会いたいと連絡がきていてな…出来れば指揮官が会いたい順に通そうかと考えているだけだ。勿論、会いたくない艦船がいればその要望も受けよう。」
「全員に会いたくないと言ったら?」
「それは困る。私が皆から恨まれてしまう」
「そんなに俺の事を管理したいのか?」
「そうだなぁ、出来れば今後の事もずっと管理したい。いっその事そうしないか?私と二人で…おっとそれはさっき断られたばかりだったな」
「怒ってるのか?」
「また泣くぞ?…まぁその早ければ明日辺りから貴方の事を訪ねてくるKANSENが来ると思うからそれは覚えていてくれ」
銀髪の空母はそれだけ言うと再び視線をシリアルに戻しスプーンを上下させる。
「じゃあ今日は何もしなくていいんだな」
「そうだな、姉さんもホーネットもいないから私と貴方の二人きりだし買い物でも行くか?ここの基地を案内しよう。」
「監視が二人以上いないと外出してはいけないって言ってたよな」
「そんなの私が居れば二人分になる」
「ちょっと適当過ぎないか?」
俺が彼女にそつ応えた時だった。
「なら、ぼくがいれば丁度二人になるな」
二人の会話に割り込むハスキーボイス。
俺とエンタープライズは声のした方に首を回す。
「キミを呼んだつもりはないんだがなぁモントピリア…」
そこには紅い眼を尖らせた白髪の巡洋艦、モントピリアが立っていた。
「なんだ鍵が空いてたぞ?入っていいいものかと思っていた」
「ふむ…エセックスの奴、鍵を持っていなかったな」
「モントピリア…久しぶり」
「指揮官、お前はいい何も喋るな」
俺はモントピリアに声をかけるも素っ気なくそう返されてしまった。
なんだろうちょっとピリピリしている。
「そんな事より…エンタープライズ、お前わざと姉貴にこの事を知らせなかったな?」
「この事って何の事だ?」
「とぼけるな指揮官の事だ。」
俺の事を指差すモントピリア。
俺が原因で何かややこしい事になっているのは嫌でも解った。
…また俺何かしちゃいました?
「まぁ良い判断だ。ぼくでもそうする。」
「キミはこの事を彼女に報告するのか?」
「いや、しない…だけどここから離れた方がいいぞすぐに姉貴がくる。そうなると少し厄介だろう?」
「それは嫌だな」
俺抜きで二人の会話はドンドン進む。
「あの事は指揮官に話したのか?」
「話せると思うか?それにあの事を話したらこの人についている嘘とハッタリがばれてしまう。」
「嘘とハッタリ…?」
「おっと口が滑ってしまった」
エンタープライズは本当にうっかりしていたという表情で俺の方へと視線を向ける。
「貴方とクリーブランドを引き合わせると貴方へついている嘘がバレてしまうんだ。」
「おいエンタープライズ…なんだそれ?」
「言える訳ないだろう?」
「聞かなかった事にもできないぞ」
「それならそれで一人、延々と考えていてくれ」
銀髪空母はそれだけいうと目を再びモントピリアの紅い目に戻す。
「それでどうするんだエンタープライズ?ぼくはちゃんと忠告はしたぞ?」
「勿論、すぐにこの家から出ていくさ。いっその事基地も移動しよう。指揮官、今すぐ準備してくれ」
「えっ?は?」
「車で移動だ。私が運転する。なぁに元々近い内にここを離れる予定だった。それが前倒しになっただけだ。」
「ぼくもついていくぞ」
「…好きにしろモントピリア」
こんな訳で俺のユニオン二度目の移送が始まった。
───
「おいコロンビア!誰もいないじゃないか?」
「いや確かにここに指揮官が居たって…」
私がモントピリアを除く妹達を引き連れて件の一軒家についた時にはその家はもぬけの殻だった。
鍵が空いていて難なく入れた事から嫌な予感はしていたが的中してしまうのは残念だ。
辺りに漂うシンナーの様な臭いがこの家は殆ど新築であることを伺わせた。
「姉貴…!シャワーを使った跡があります、さっきまで誰かがいたみたいです!」
家の奥…シャワールームへと先行していたデンバーが大きな声をあげる。
報告を受けてシャワールームへと足を踏み入れるとデンバーが何かを詰まんでいた。
「姉貴…これ!」
デンバーが詰まんでいた物に私は胸の高鳴りを感じられずにはいられない。
彼女の指にある物、それは髪の毛だった。
詳述すると黒くて、短い、男性の髪の毛。
「やっぱり指揮官はいたんだ…ここに」
考えるまでももなく口から漏れていた。
でも今、ここにはいない…。
どこへ行った?
「姉貴、黒の毛に混じってこんな毛も。」
今度は排水口へと指を突っ込んでいたバーミンガムが何かを探り当てる。
まだカビ一つ生えていない真っ白な排水口から引っ張り出したのは指揮官のとは別の人物の髪の毛。
引っ張るという言い表しから解る様に指揮官のと比べてとても長い。
女性の毛髪だった。
「これは…エセックスの髪の毛かな?」
見つかったもう一種類の髪の毛は空色。
断定はできないがまずエセックスの顔が連想される。
あとはデューイ?
でもあの娘が指揮官と一緒にいるとは考えにくい。
接点は無かった筈だ。
「指揮官はエセックスと行動を共にしてるんでしょうか?」
バーミンガムから空色の頭髪を受けとるコロンビア。
「解らない…でも手がかりはそれしかない…皆、知り合い全員に連絡してエセックスが今どこにいるか調べよう!」
「了解です!」
はぁ…残念だ。
やっと指揮官に会えると思って服もわざわざコレに着替えてきたのに…。
でも進展はあったし近い内に指揮官に会えるだろう。
はやくこの服を見て欲しい。
ちょっとブカブカだけどこれを見たら指揮官も私の事を認めざるをえないよね、きっと。
それがすっごく楽しみだ。
あれ…そういえばモントピリアの奴はどこへ行ったんだろう?