皆さんは映画・水着イベとてんこ盛りのこの夏、いかがお過ごしでしょうか。
私は公開初日に見に行ってまた見に行きたいなと思いつつ、今日は夕方くらいにこれ書き終わるやんと思ったら何故かこの時間まで書いたり消したりしてました。駄文です
昼にセイバーのマスターと話した内容の詳細は、愛歌には伝えないことを選んだ。特に深い理由はないがまあ、セイバーといえば自分を殺しに来た相手だしわざわざ伝えて顔を曇らせたくないというのが大きかった。それに何事もない平穏な時間まで聖杯戦争なんてもののことを考えて話をするのは精神的に負担が大きいだろう。オンとオフの切り替えは重要だと思う。
人間は当然として、基本的に生き物は常に全力で走り続けられるようには出来ていない。まあ動かないと死ぬマグロみたいな例外もいるにはいるが、少なくとも人間は休息を取らないと死ぬ。肉体は持たないから休息を必要とするし、それは精神だって同じことだ。ずっと集中して勉強し続けることなんて不可能である。まして、命のやり取りを含むことを考え続けることなんてどれほどの負荷になっているのやら。
そんなこんなで平穏無事に夜を迎えたが、今日こそは安息日。討って出る! なんて勇んだ行為は自粛し、部屋でごろごろタイムなのである。
「きもぢいい〜……」
「こうかしら?」
「……あ゛ぁ〜」
背中に乗った愛歌が凝りまくった身体を解してくれる。たまにボキボキなっているのが大変心地いい。とんとんとんとん肩を叩かれるのも決して痛みはなく、適度な力加減でここが天国かもしれないと思えてきた。
「凝りすぎじゃないかしら? 姿勢に気をつけないと体調崩しちゃうわよ」
「大学の席が硬いのが悪いんだよな、俺は悪くない」
いや、たぶん、悪いのは俺の姿勢何だけど。まあ三年通っても慣れないのは大学の席が悪い。そういうことにしておきたいのでしておこう。割と古いので硬いのは仕方がないと割り切っているが、ここまでボキボキ鳴らされると少しショックなのもまた事実だった。
「普段からあまり姿勢良くないんだから気をつけてね? おじいちゃんになった時に困るわよ。それに若くても腰を痛めることはあるんだから」
「ママ……?」
「うーん、ママではないわねぇ……」
そりゃそうだ、と軽口を叩き合う。愛歌はなんだかんだでノリがいい方だ。くだらない事で笑い合えて、大切なことに真剣に向き合える。少し怖いところもあるが可愛いものだし、こんな子が悪だと言われても首を傾げざるを得ない。
ただ妙に甘やかしてくる感じはあるし年不相応に大人びた面と容姿のズレがたまにくるが、耐えられない範囲ではない。うん。やはり可愛いものだ。
「明日からどうするかなぁ」
「大学?」
「そうそう、教授が聖杯戦争とやらが終わるまで顔を出すな。出したら殺すぞクソガキとか言ってきてなぁ……」
なんで知ってるのかとか殺すとか犯罪では? とか思うことは沢山あるが、院進決まってるとはいえ講義サボりまくると単位がやばいのである。ほぼ足りているが来年わざわざ取りたくもないしこの時期もメリハリを付けるために通っておきたいところなのだが、あの教授の様子からして本気で殺しに来そうで怖い。
というのもたぶん、あの人も魔術師か何かだ。愛歌から魔術を学び、カルナや他のサーヴァントを何人も見て肥えてきたらしい目があれは普通の人間ではないと結論を出している。よく分からないがモヤモヤしていて、内側にあるのは藤丸立香とやら以上によく分からない力だった。正直、友人関係も怖くなってきたが門司や妙蓮寺がアレなので今更かもしれない。あいつら人間やめてる次元でキチガイ。
「まあ諦めて明日から昼間は寝るか」
「寝て過ごすのね……」
「やっぱダラダラするのが一番大事なんだよな。二十超えると体力も落ちるし気分はもはやおじいちゃんよ」
「病は気からって言うし気分の問題じゃないかしら」
そうとも言う。というか確実にそうだし今の妙に調子のいい肉体的には変に休息をとる必要も無い。ないとはいえやはりぐーたらしたいのが人の性。何より昼間に出歩いて藤丸立香に出会うと気まずいし、バーサーカーのマスターとやらに出会うのもなんとなく避けたい。バーサーカーのマスターはなんというか、遠くから見ている感じソリが合わない気がする。
勿論表面的に合わせることはお互い可能だろうが、聖杯戦争を止めたいなんて言ってる奴と必ず勝つと決めている人間では馬なんて合うはずがない。下手に情報を与えるのも良くないし、適度に与えて調整するなんて器用なことは出来ないからそもそも関わらないのが正解だろう。
そんなことを考えながら背中にのしかかって抱き着いてくる愛歌の感触を堪能していれば、甲高い電子音が部屋に響いた。チャイムの音だ。
「……ちょっと出てくるから離れてくれ」
「はーい」
念の為に部屋のドアは閉めてキッチンと直接繋がる玄関に向かう。視界を飛ばして確認しようか悩んだが、態々そんなことをする必要はないという勘を信じて玄関を開けた。
「よう真人、元気か?」
開けた先にあるのは見慣れた顔だった。特徴的なのは赤く染められた頭髪くらいなものだが、顔立ちもそこそこ整っているのは確か。黙っていればまあモテると思うが、酒癖が悪いのと合コン大好き過ぎて諸々を捨てた阿呆なので論外である。あと割かし頭があっぱらぱー。
「なんだお前か」
「なんだとはなんだ。せっかく心配して来てやったのによ」
「お陰様ですっかり元気だよ」
「それならいいんだけどよ」
言って、右手にぶら下げていたビニール袋を突き出してくる。
「一応見舞いの品だ。誰か来てるみたいだし、その人と分けてくれ」
「おお、ありがとう」
「……念の為に聞くけど彼女?」
「ではないな。仲は良好だが」
手を出すのはさすがに不味い年齢だとかそういう墓穴を掘るような話はしない。態々ドアを閉めたのもこういう時に愛歌を見られてややこしい事になるのを防止する為なのだ。こういうところで下手を打つようなことはない。
特に愛歌の容姿は飛び抜けているから知人友人連中に知られたら即通報案件である。
「そっか。じゃあまた合コンする時は呼ぶわ」
「おう、可愛い子を頼む。あとやばいメンヘラは勘弁な? その辺は上手く見極めてきてくれ」
「この合コン大魔王に任せとき、な……?」
唐突に硬直した目の前の馬鹿に、背筋を駆け抜ける悪寒。視線の先は自分ではなく、背後。具体的にはリビングに繋がるドアの辺り。いやいやそんなまさかと恐る恐る振り向けば、ドアを少し開けて顔だけを出す愛歌の姿があった。
目が合った。手を振られて振り返す。
視線を前に戻す。
「……幼女略取監禁は犯罪ですッッ!!!!」
「誤解だ!!!」
「お前貧乳好きだからってこれは幾ら何でもやばいだろ!? 警察署までは一緒に行ってやるから大人しく自首しろって! な??」
「だから誤解だって言ってんだろが! 幼女でもないし略取でもないし監禁でもねぇ!!」
こんなところで騒いでいる時点で通報ものだが、言い訳もでかい声でしておかないと本当にやばい。既に通報されている可能性もあるがその場合は夜にうるさいという理由であることを祈る。
とりあえず首根っこを掴んで部屋に入れる。
テーブルの前に座らせて適当なコップにお茶を入れて出し、対面に胡座をかいて座る。とてとてとお菓子を持ってきた愛歌が胡座の上に乗る。
裕一の視線に殺意すら篭っている気がするが気の所為だろう。見なかったことにした。
「真人、お前……」
「法律的にアウトなあれこれは一切ないからな」
胡乱な目を向けられても法的にあれなことはしていない。していないったらしていない。一緒の布団で寝ても鋼の心で手を出さなかったのだからまだセーフ。ギリギリ首の皮一枚繋がっている。
「お友達?」
「友達だよ。石田裕一、彼女なし歴三年。合コン出る度に振られる数が増える学内一の馬鹿だ」
「……ぐすん、もう帰っていい?」
「まあお茶くらい飲んでいけよ持たざる者」
正直帰ってもらってもいいがこのクソ寒い中わざわざ来てくれたのを放り捨てるのも愛歌を見られた以上はあまり宜しくない。多少のもてなしで軽く口封じである。
ちょうどいい所にある愛歌の頭を梳きながら彼女の漁るビニール袋の中身を見る。
「お、ポテチあんじゃん。ビールもある」
「ああ、そのへん教授が捩じ込んでたんだよな。金も全額教授持ちだぞ」
「マジか」
教授、教授といえば教授である。名前を前に付けずただ単に教授と呼ばれるだけの人。俺の所属している研究室はその人のところで、ついでに言うと俺以外の同期はみんな行方不明になったイカれた研究室だ。
門司と妙蓮寺はどこに消えたのか知らないが、教授はそれを把握している節もあるしよく分からない人だ。
昼間に聖杯戦争終わるまでに顔出したら殺すとか物騒なこと言ってた割に差し入れを他学部の生徒に持ってこさせるツンデレだったらしい。気持ち悪さに鳥肌がやまない新事実発覚である。男のツンデレとか誰も得をしない。
ゴソゴソと愛歌がビニールの中を漁っている。妙なものが見えた気がした。
「ポテチとビールが教授ならお前は何を入れた……?」
「え? そりゃゴムだろ」
「やっぱ帰れ今すぐ帰れ女に玉潰されて死んでこいや!!!」
「そんな殺生な……あばぁ!?」
「見舞いでそんなイカれたチョイスがあるか!? バカが3回死ね! ええい愛歌漁るの中止! 中止!! その袋貸して!?」
「あ、見つけたわ。今夜は寝かせて貰えないのかしら……?」
「捕まっちゃうからダメ!」
バカを殴り倒して意識を奪ったが愛歌が顔を赤くしながら冗談か本気かイマイチ分からない調子で言ってくるのを切り捨てる。ちょっと揺らいだとかそんな事実はなかった。流石に14歳に手を出すのは不味い。愛歌の場合見た目も相まってこう、色々と。
即答だったのが気に食わなかったのか頬を膨らませて抗議してくる愛歌を宥めつつ、これからほんとどうしようか悩む。
とりあえず寝ているバカは愛歌に頼んで記憶を飛ばしてもらおうと思うが、割で騒がしくしたのでご近所さんに通報されてしまっている可能性が高い。そして警察が来て男二人に可憐な少女の組み合わせは色々と不味いものしかない。
噂をすればとやらなのか、愛歌からやっとの思いで取り上げて未開封のままゴミ箱に叩き込んだ時、チャイムの鳴る音がした。
無性に嫌な感じがする。具体的には扉を開けたらその先に警察が待ち構えていて即逮捕される未来が見える。いや未来視がある訳では無いのだがなんかこう、状況的にそれが一番濃厚な未来なのでたぶんそうなる。
嫌だなぁ、というこちらの心情をガン無視してチャイムは鳴り続けているし居ますかー? なんて声まで聞こえてくる。愛歌ちゃん魔術講座で習った催眠術の出番が来てしまったのが確定した。
「はーいなんですかー?」
「近所の方から幼女略取監禁がどうこうって通報がありましたので一応確認ですね。あと夜にあまり騒がないようにお願いします」
「いやぁ態々申し訳ないです」
若い男とそこそこ年配の警察官たちはまさか部屋の中に未成年の少女がいるとは欠片も思ってなさそうだった。一周回って落ち着いた頭がほんとに幼女略取監禁なんてしてたらこんな騒ぎ起こさんだろうなぁ、などと冷静に考えている。現実は幼女でも略取でも監禁でもないが十四歳の少女が今も部屋でゴロゴロしているのだが。
「……念の為に部屋の中見せてもらってもいいかな?」
「え、ええ、大丈夫ですよ」
たぶんこれ靴見られたなぁと思いつつ、ここで下手な手を打つよりも奥に誘い込んで魔術で誤魔化すことを選ぶ。玄関であれこれしてしまうと次が来る可能性が高いため、たぶんこれが正解だと思う。
──ナニカに殺される気がした。
踵を潰すように履いていた靴を脱ごうとして、警官の様子が微妙におかしいことに気がついた。即座に靴をしっかりと履く。
「ぁ……ぇ、こ、す?」
口から意味を為していない言葉が漏れた。背筋が凍るような気配を感じた瞬間に脳が身体を動かす。
「──カルナァ!!!」
霊体化していたカルナを呼びながら反転。戸惑う若い警官を無視して走り出せば、直後に肉を握り潰すような音が聞こえた。ああ、これはやばい。焦りを感じながら即座に辿り着いたドアを開けて紙を筒状にして裕一をつついていた愛歌を抱える。カルナが裕一を抱えて窓を突き破りながら脱出したのに続く。
「来るぞ、マスター!」
「裕一はその辺に放っとけ! たぶん大丈夫だ!」
サーヴァントらしき気配は二つ。一つ目は警官の背後、二つ目は西に二百メートル先。クラス等は一切不明。恐らく結託していると思われるため、状況は最悪と言ってもいい。ダラダラする気満々だったこちらはろくに準備も出来ていないし、愛歌に至っては裸足だ。歩かせるなんてことは出来ない為、必然的に俺が抱えておく必要がある。
背後から飛んでくる黒い刃物を回避しながら人の気配がしない住宅街を駆け抜ける。最初の接近にカルナが気づけないとなると、恐らく相手はアサシン。気配遮断のスキルによって家まで寄って来たと考えていいだろう。さらに、援護射撃を行っているらしい矢はアーチャーか。考えうる中で最悪とまではいかないものの、かなり分が悪いと言わざるを得ない。
「クソが……!」
アーチャーの矢は的確に俺と愛歌の進路を狙っており、カルナはそれらを全て撃ち落としているが、逆に言えばそれ以外の動作を封じられているのに等しい。いつの間にか裕一が手元にいないので捨ててきたのは間違いないが、このやり方だと見つけて人質にしてくる可能性もある。いやまあ、その時は流石に見殺しにするしかないだろうが。
「よくもまあ、人の身でそこまで走れるものだ」
真横から聞こえた声に反射的に愛歌を上に放りあげ、突き出されたダークを中心に身体が円を描くように跳んで回避する。着地の手前で愛歌を回収し、地面に足が着いた瞬間にしゃがみながら足を払う。しかしその程度がサーヴァントであるアサシンに通用することはなく、飛び上がったまま振り抜かれた足に顔面を蹴り抜かれた。
「ギヒッ」
「──っ、鬱陶しい!」
蹴り抜かれた勢いに任せて後方に飛び、空中で後方宙返りを披露してから壁を蹴って跳躍。馬鹿げた速度でアサシンの頭上を飛び越えて矢の雨の中に走りこめば、ちょうど当たるであろうものをカルナが先行して打ち落としてくれる。
「矢を打ち落としながらアサシンをやれるか?」
「それがお前の命であれば成し遂げよう。だが敵の戦力がこれで終わると誰が決めた?」
「……そういうことか」
全く人の気配のない街。降り注ぐ矢の雨。追尾する暗殺者。これだけが今夜の敵の全てであるとは限らない訳であり、矢の雨をカルナが払いながら進む先には星の光が微かに見える。ならば間違いなく、この先に待ち受けるのは星の聖剣。セイバー、騎士王アーサー・ペンドラゴン。明らかに不利な戦闘に向かっていると自覚しても、もう手遅れだった。
「こっちは任せる」
「了解した。武運を祈る」
カルナが細々と最小に留めていた迎撃を最大に引き上げ、矢の雨を一掃すると同時に駆ける。セイバーに向かってでは無く、余波で後退したアサシンに向かってでもない。ただ巻き込まれないためだけに真横に駆け抜け、ビル群の谷に走り込む。その間は時間にして三秒ほど。トップスピードのまま複雑に入り組んだビルの谷を走りながら、つい先程までいた場所で迸った膨大な熱量を感じる。
ほぼ間違いなく、1対1の戦いならカルナに軍配が上がるだろう。それだけの強さがあるし、ましてやアーサー王の聖剣はその力を十全には発揮出来ない。聖剣に掛けられた十三の拘束、あれはカルナと戦っていても過半数を満たせないはずなのだ。仮に過半数を満たしたところでカルナが勝つだろうとは思うが、まあ星の聖剣は恐ろしいので発動させないに越したことはない。
それにアーチャーとセイバーは以前共闘した状態でカルナに押されたという事実がある以上、アーチャーがこちらを狙って矢を射る余裕は恐らくない。カルナにセイバーを殺させて離れたマスターを始末するのも考えられるが、その場合はカルナが来るまでに死ななければこちらの勝ちだ。
腕の中で僅かに震える愛歌を強く抱き寄せる。
「悪い、今夜はこのまま落ち着くまで走り回る」
「ええ、私なら大丈夫よ」
現在追われている確証はないが、確実に追われていると思っていいだろう。おそらくアサシンはマスター狙いだろうし、人質とかも躊躇してくることは無いと思う。警官二人殺してる時点で倫理も自制もあったものではない。ビル群の合間を走り抜けている間も人の気配はしない。そろそろ誰かの気配くらいは感じられてもいいはずだが、一体どれほどの規模で人払いがされているのか。
それにしても、雪が降っても不思議では無い寒さの夜を薄着の愛歌を連れて走るのは酷だ。俺は走っているからまだいいが、抱えられているだけの愛歌は夜風をまともに受けて冷える一方だろう。大丈夫とは言っていたが厚着も出来ていないし、後々に響く可能性もある。あまり良くないが一旦止まって俺のシャツを渡すべきだろう。インナーとして着ている半袖一枚でも俺は耐えられる。
脱ぎ着しやすい様に少し開けた場所で速度を殺して止まる。
「羽織るか何かしてくれ」
「……ありがとう」
俺のシャツに愛歌が袖を通したらぶかぶかで、身体のほとんどを覆うコートのようになった。なんとなく背徳感を感じるのが否めない。さて、気を取り直して走るかと愛歌を抱えようとした時、空気を斬る音が僅かに聞こえて反射的に腕を伸ばして愛歌の顔に突き立つ前にダークを受ける。
「アサシン……っ!」
もう追いつかれたのかと歯噛みする暇もない。左腕から引き抜いたダークで続々と飛来するダークの群れを打ち落とし、接近してきたアサシンと三合打ち合ってどちらともなく距離を取る。左腕からは正常な痛みの感覚が伝わってくるが、五感のどこかが狂ったとかそういう気配はない。即効性の毒が仕込まれていた訳では無さそうだ。
そうなると蓄積することで効果を発揮するタイプか、或いは遅効性かそもそも毒なんて無いかという話になるが、仮にもサーヴァントの武器をあまり受けるのは宜しくない。単純に切れ味が良過ぎて複数箇所に傷を負えば失血死するリスクが高すぎるし、ただのダークで手足なんて簡単に落とされる程度のものでしかない。睨み合いながら左腕の血が止まったことを確認して、機能の回復までの時間を計算する。
「……ふむ、マスターの言う通りかただの獲物という訳では無いな。であればこちらも相応の手を使うとしよう」
「させるか!」
慌てて踏み出すが、アサシンが懐から取り出した瓶を地面に叩きつける方が早い。僅かに逸れた意識の隙間に飛来する刃を回避するが、瓶の中から溢れた液体が一瞬で気化して視界を覆う。反射的に鼻と口を腕で覆い、アサシンとの間を作るように生まれた煙のような気体から後退することで距離を取る。
けれど、次の瞬間に、選択を間違えたのだと理解した。
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