水着アビー当たりませんでした
夥しい数の死体が積まれている。これは殺して積んだのではなく、殺していたら気がついた時には積まれていただけの死体の山。目の前には、未だに殺戮を続ける男の背中。心の内から湧き上がる衝動に身を任せ、もはや戦闘にすらならない虐殺を繰り返す姿は鬼神の如く。
血に染った全身、赤黒い液体を被りながら一切の劣化をしない大斧。日に焼けた肌と黒い髪、爛々と輝く赤い瞳。口から吐かれるのは聞くに耐えない罵詈雑言の数々であり、クシャトリヤという階級にある存在への怒りと憎悪。ただ、決して許さないから死ねという理不尽なもの。
一振で幾百の命を奪い、冒涜しながら進み続け止まらない。立ち塞がる全てを踏み砕き猛進する怪物。それを向かってくるクシャトリヤのみならず、二十一度繰り返す。
──ああ、ならば彼は。
『そうだ、あれこそがパラシュラーマ。我が師にしてヴィシュヌ神の六番目の化身、聖仙の憎悪に他ならない』
パラシュラーマ。ヴィシュヌ神の化身、俗にアヴァターラと呼ばれる存在の一角。憎悪に駆られる殺戮の聖仙。そもそも聖仙なんて呼ばれる領域は宙との合一すら可能とする傑物、悟りを拓いたゴータマと並ぶかそれ以上の存在だろう。菩薩の規模を考えれば上回ると考えた方が妥当なのだろうか。
ただ、それが怒りと憎悪に呑まれて殺戮を行う様をカルナと共に見せられているというのは確かだった。
『不思議なものだ。この光景をお前と見ることになるとはな』
会話の最中であっても関係なく、悲鳴を上げる無数の人型を一切の躊躇なく鏖殺する。そもそもこちらの会話は届いていないのか。
『所詮は過去の幻影、オレが師に見せられた光景をお前が見ているに過ぎん。あそこにある師の憎悪は過去のもの、怒りは既に過ぎ去っている』
これは生前のカルナが見た光景、パラシュラーマの記憶の欠片。宿敵アルジュナとの戦いとか母であるクンティーとの問答とか、マハーバーラタの戦場とかを見せられると思っていただけに、これは予想外だ。それだけカルナにとってパラシュラーマの存在は大きいものだったのだろうか。
『なるほど、そういう捉え方もあるか。確かに師の存在はオレの生において大きなものだったが、この夢をオレとお前が共に見ているということはそういうことではないのだろう。お前には分からないか、マスター』
否だ、わからない。分かるはずもない。パラシュラーマなんて全く関係の無い、カルナの師であっただけの人物を夢で見て、それになんの意味があるのか。
それでも、カルナではない誰かの声がする。言葉の一つ一つが重く、心に染み渡る様に響いてくる。カルナに向けられたそれはまるで神の託宣のように脳髄に刻まれる。そうしながら怒りの果て、憎悪の果て、恩讐の彼方、殺戮の結末を見る。何も残さない空虚な結末を知る。
『怒りを知り、憎悪を知れ。悪徳を学び、悪行を学べ。思いとは、意志とは何であるかを感じろ。悪を知らぬ人は獣ですらなく、悪を知る獣の名をこそ人と言う』
故にここで、その姿を見て学べ。
『遥か遠くにある我が弟子よ。理解したなら去れ。パラシュラーマより学べることなどこの程度のものだ。怒りと憎悪を知り、心の在処を知れ。己の信じる道を歩み続けろ。ボクはそれを見守っている』
◆
昼、目を覚まして直ぐに愛歌を連れてラブホを離れた。幸い認識阻害の魔術で人目を惹く様なこともなく、犯罪者のレッテルから免れた訳だがそこから何となくで昼食に選んだマックでこういうのが初めてらしい愛歌の口元に付着したケチャップを拭っていると、なんか魔術師っぽい女がアーチャーを連れて来店した。ちょうど注文し終わって商品を受け取ったところでこちらを向いた。
視線が絡む。なんか驚いた顔をしている。アーチャーもなんか目を見開いてこちらを見ている。
「あら、お客様みたいよ?」
「寝起き早々かぁ……」
『ふむ、やはり運命的なものに好かれているなマスター。ともすればオレよりも数奇な旅路を辿るやもしれん』
お前より凄いヘンテコで引っ掻き回された人生送るのは無理だと思うんだよな、と念話でそのまま返してやれば唸って沈黙した。まあクリシュナやらアルジュナやらクンティーやらに掻き回された挙句の果てにインドラに鎧持っていかれたのだからこれほど数奇でヘンテコな人生もないだろう。それでブチ切れて怒り狂うとか憎悪するという感情が抜け落ちてるのが恐ろしい。パラシュラーマの言うように心を知って尚あれなのだから極めつけだ。
向かい側に座っていた愛歌が隣に移動し、隣の空席を引っ張って連結。向かい側に二人分腰掛けられるスペースを確保した。カルナは霊体化したままお預けである。なにやらキャスターまで現れて三対一だったらしく、手傷を負って出て来れないという風に偽造する為なのだ。他意はない。
「おう! ランサーのマスターであってるよな?」
「ちょっとアーチャー!?」
「ああ、散々ちょっかいかけてくるアーチャーはアンタだな? マスターさんも座って飯を食べよう。話はそれからだ」
ほらさっさと座って食うぞと急かしてやれば存外素直に従ってくれた。マスターの方は慣れているのか梱包をスムーズに剥いて食べ始め、アーチャーはそれを見て感心したように頷いて真似をする。俺は愛歌とポテトをちまちま摘みながらそれを眺め、少ししてハンバーガーを食べ終わった主従がこちらを見ながらポテトを摘み始めた頃に会話を切り出す。
「何か用があって接触してきたのか?」
「いや偶然だぜ? マスターがここにしようって決めて入ったらアンタらが居てな。現世ってのも中々面白いもんだ」
喋るアーチャーが嘘偽りを述べているような気配はない。何となく目が苦手という第一印象だが好青年の擬人化みたいな男なので不思議と悪感情はない。気さくな英雄、ペルシャのアーラシュなんてマイナー極まりないが強力なサーヴァントとは少しイメージがズレる。
「しかしまあ、そこの嬢ちゃん連れてよくアサシンから逃げ切れたな? マスターがめちゃくちゃ狼狽えてたぜ」
「見られてたのか。隠すわけじゃないからあれだが、見てた通り普通に運が良かった。バーサーカーが介入してなかったら死んでたよ」
「それもそうだが現代にまだアンタみたいなのがいる方が驚いたぜ? アサシンとはいえサーヴァントとまともに戦えるなんてまるで──ー」
「まるで、神代の戦士のようだ?」
「そうだな。それが不思議だ。俺が生きてたような時代ならまだしも、この時代でアンタのそれは飛び抜けてる」
「ちょっとアーチャー、詮索は……」
「んー、まあたぶん神様とやらに選ばれてはいるだろうし忌々しいけど優秀なボディしてるよ。クソ忌々しいが」
あちらのマスターがアーチャーに注意を促すが、既にバレてる相手だしいいだろう。あと大事なことなので忌々しいって二回言いました。忌々しい。ああ、本当に忌々しい。しかしお陰で大いに助かっているのは事実なのが本当に憎たらしい。本当に忌々しい限りである。
「俺の目でも殆ど見れないとなると相当な大物だな、アンタのそれは」
「気がついたら押し付けられてていい迷惑だけどなこんなもん」
「そりゃそうだ!」
ハッハッハ! と男二人で笑い、まあ人柄はいいなとどちらともなく握手。首をこてんと傾げる愛歌は愛らしさ100%だがよく分かんない……と眉間を揉むあちらのマスターは可愛らしさの欠けらも無い。いや間違いなく善性の人間で容姿も整っているがイマイチこう、タイプじゃない感じがする。
名前は確か何だったかなと先日愛歌に貰った資料に書いてあった名前を思い出す。……エルザ。エルザ・西条。ドイツ人と日本人のハーフ。子供を亡くした過去があったはずだ。まあ聖杯にかける望みは妥当に子供の蘇生とかそんな感じかな? どうでもいいやと切り捨てた記憶がある。
愛した誰かのために戦うのであればそれもまた良し。この身もまた大切な者の為に戦う者。譲る気は無く、負ける気もない。確かに強力な英雄を従えているが、恐らくその宝具を使用してカルナを打倒することが可能になるレベルでしかない以上、徹底的にその芽を潰していけば安全に勝てる程度の相手でしかない。油断はしないが過大評価もしないように気は払っている。
「なあアンタ、聖杯に託す望みを聞いてもいいか?」
「んー?」
少し思案に耽ったタイミングで投げかけれた質問に、さてどう答えたものかと考える。割と正直に伝えてよさそうだが、藤丸立香の件もある。その辺は濁していきたいのでちょっとあやふやにする匙加減が求められていた。脳内会議を即座に終わらせた結果、胸の内から湧き上がる望みを少しマイルドに伝える感じで行く事にした。
「神様ってやつを殺す。それを俺は聖杯に託す」
定められた道を捻じ曲げ、定められた死を覆し、後に続く未来の繁栄を否定する。多くの命が失われることになるかもしれないし、世界の寿命とやらが縮むかもしれない。でも、それでも、この子を犠牲にするくらいならマシだと思うからそう願う。そもそも論、最初から定められた犠牲なんて認めたくないだろう。いきなり指さされてお前が死ななくてはなりません! なんて言われて嬉しい奴はいないのだから。
「まあ下手すると世界が滅びるかもしれんが、そうなったら命一つと天秤に掛けて壊れる世界が悪いということで」
「……意外と豪胆だな」
「可愛い女の子の為だから仕方ない」
そう言うと今まで納得するような顔だったアーチャーが一瞬だけ驚いたような顔をして、それから何かを懐かしむようにこちらを見てきた。エルザは難しい顔をして黙り込んだままだが、そういう反応の方が分かりやすくていい。この後にあるはずの本題に向けて頭を悩ませていて欲しい。
「セイバーのマスターから聞いたんだが、一応確認しときたいことがあってな」
「……おう」
「この東京が特異点になってるらしいが原因は分かるかい? 俺たちは特異点がどうたらを聞かされて悩んでてな」
「聖杯だって聞いたぞ? 俺もまあ、実際聖杯とやらが原因だと思うんだがそれ以外に何かあるのか?」
「いいや、たぶんそれで間違ってないと思うぜ」
そうなると、この主従は今現在も聖杯を手に入れるかどうか悩んでいる最中と言うわけだ。予想だと同盟の話でも持ち出してくるかなと思ったが、それ以前に世界と願いを天秤にかけて揺れているというわけだ。これはたぶん説得的なあれこれに失敗したら敵になる流れと見た。……正直な話めんどくさいが、悩んでいるということは発破をかければ藤丸立香に対してぶつけられる戦力になるということだ。
ぶっちゃけた話、藤丸立香は厄介過ぎる。
何が厄介なのかと言えば戦力的な話もそうだが、特異点がどうこう世界がどうこうという話の上で、
そうなると流石に勝てないだろう。せめてアーチャーともう一騎、味方になるか落ちるかはどうでもいいが相手の戦力を削っておかねば勝てない。あのアサシンが素直にあちらの味方になるのか、バーサーカーは理性がないからどうなのかとかあるが、マスターとて未来をチラつかされればそちらに傾くだろう。アサシンは不明だからともかくとして、バーサーカーの方のマスターはたぶんダメだ。
しかし最大の問題は俺の言動でこの女性を説得することが出来る気がしないことである。基本的にそういう話術は下手くそだと太鼓判押された過去があるし、実際否定のしようがない。ちょっと相手のことを知識として知っていてもどうにもならない事はある。
「……真人が私に黙ってセイバーのマスターと会ってたのは後でお話しましょうね?」
「はい……」
「それで可哀想なお姉さんにお話があるのだけれど」
「えっと、何かしら……?」
愛歌がなんとなく怖いので黙って話を聞くことにした。カルナから呆れたぞという思念が飛んでくるのを黙殺する。怖いものは怖いのだ。
「聖杯を手に入れようとしてるのはセイバーのマスターも一緒なんでしょう?」
「手に入れようというか、彼の場合は回収してこの特異点を終わらせる気みたいだけど……」
「それって聖杯で願いを叶えてからじゃダメなのかしら? 例えばだけど、百万円が欲しいと願っても後世に大きく響く様なことはないでしょう? 聖杯自体が問題なら起点になる聖杯の在処なんで直ぐに分かるはずよ。だから聖杯がそこにあるだけで特異点にはならない。聖杯によって叶えられる願望の方に問題があるのだと思うわ」
「それは……でも、もしそうなら勝っても誰も叶えられないじゃない」
「どうかしら? 問題の無い願望、より善い未来に続く祈りがないなんて誰も決めてないでしょう?」
じわじわと、毒が回るように彼女に自分の願望を見つめさせる。聖杯戦争なんてものに参加している時点で、彼女は聖杯に託さなくては叶えられない望みがあったはずなのだ。参加権を手に入れるために必要な条件を満たすほどの強い願望と運。相応しいと聖杯に認められなくては参加出来ないのだから。
しかしこう、惑わすのが上手いというかなんというか。自分やカルナのような馬鹿で口下手な男と可憐で口も達者な愛歌。男と女の差にしてはあれなので、単純に地頭の差が出ている気がする。聖杯を巡る問題の本質を避けて、あくまでもお前の願望を捨てるのか捨てないのかだけで話を進めようとしているのは自分には出来ない事だから素直に尊敬する。
「時間はたっぷりあるわ。思う存分悩んで、次に会う時にはどうか貴女の答えを聞かせてね?」
最後にそう告げて、手を取って立ち上がる。これ以上は話をする必要も無いと言外に示して店を出ようとする愛歌を慌てて少し引き止めて、トレーをちゃんと片付けてから店を出た。
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