全能者の揺籃   作:たわーおぶてらー

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黒猫のパンケーキを、君と食べたかったよアビー……





Act-14 Ramessese Ⅱ

 

 

 

 

 東京という都市のど真ん中、ビル群の合間を中心として現れた巨大ピラミッドは多くの建築物を踏み潰した。全長数キロ、その威容は見るものに畏れを抱かせる。しかし、轟音と共に現れたその巨大建造物の出現に街が騒がしくなることはなく、完全に無人となった街を二騎の英霊が疾駆する。その後ろからセイバーのマスターを担いだキャスターがあたふたと追っているが、距離は開くばかりだ。だが、速度を落とすわけにいかない。

 

 巨大ピラミッドの出現と同時にライダー・オジマンディアスが宣言したことは見逃すわけにはいかない行為だった。大悪を誅する為に東京を諸共滅ぼし尽くす、と。それはセイバーにとってはある意味二度目、全解放に至らぬ聖剣では砕けないあの大電球に挑む行為だったが、それは立ち止まり見逃す理由にはならない。それに、あの日のように偉大なる弓兵が味方にいる。それがどこか嬉しいと、騎士の王たる彼は感じるのだ。

 

「ランサーとそのマスターは取り込まれたと見ていいな。出来れば助けてやりたいんだが、どうだセイバー」

 

「私は構わない。だがあの神殿に取り込まれて手負いの人間が生きている可能性は低いだろう」

 

 セイバーの言うことに理があるとアーチャーは理解している。あの中に取り込まれて生きているとは思えないし、彼の千里眼は取り込まれる前に既に右腕の負傷だけで十分重症といえる傷を負っているのを確認している。加えて、恐らく待ち受けているだろうスフィンクスは彼を襲っているに違いない。ライダーの殺意は常に人間であるはずの彼に向いていたし、こうして大回廊の入口に差し掛かっても放置されているという感じしかしない。

 

 立ち止まることなく踏み込んだ神殿内はセイバーとアーチャーの肉体に呪詛による猛毒を与えた。アーチャーは神代の肉体を持ち頑強スキルも保有するがそれを弱体化した上で僅かに毒を受け、キャスターによって事前に強化を受けたセイバーも同様に毒を受ける。また、アーチャーは知らないが神に由来する宝具か神に由来する存在でなければ宝具の真名解放が行えない。

 

「この神獣たちは不死身か!?」

 

「ライダーの宝具だ! この神殿内では彼とその配下の神獣は不死の肉体を得るという!」

 

 セイバーの言う通り、神殿内ではオジマンディアスとスフィンクスたちは不死の肉体を獲得する。時折並走するように現れるスフィンクスに攻撃を加えても再生し、アーチャーとセイバーに目も向けずに走り去っていく姿は異様であり、その先に何かあると察した二騎は先を急ぐ。迎撃される様子はない。ここまで攻撃されないのは先にいる何者か、ランサーかそのマスターの奮闘によるものか。

 

 言葉を交わさずとも二騎は同時に先にいる誰かを頭に思い浮かべ、気を引き締め直しながら駆け抜ける。ランサーがやられなければ三対一でライダーと戦えるが、ランサーはマスターがこの神殿に取り込まれている為、彼が死ぬまでに決着を付けなければ時間切れで負けるだろう。如何に頑強な肉体を持っていようが、この神殿内で長時間生き残れるとは二騎共考えていない。

 

 手遅れになる前にと駆ける、その最中。大量のスフィンクスが一箇所に向かって敵意を向けている光景が目に入った。このまま進めば大回廊の最奥に辿り着くと直感で理解しているが、ここで脇道逸れるべきだと両者共に理解する。全く同じタイミングで進行方向を切り替え、中心から爆発音を響かせるスフィンクスの群れに突貫。風の鞘から解き放たれた聖剣が瞬く間に半数を薙ぎ払い、尋常ならざる威力の矢が空中に浮かんでいた群れを軒並み撃ち落とした。

 

「お前らか……」

 

 そうして顕になった中心地には千切れそうなほど深く傷を刻まれた右腕をぶら下げ、全身の至る所に裂傷と火傷を負いながら立つ人間の姿があった。

 

「思ってたより元気そうだな!」

 

「失血で今にも死にそうだが??」

 

「返事ができるなら上等だろ! ほら行くぜ!」

 

 坂上真人、セイバーと決して埋まることの無い溝のある男。いつか殺し合う宿命にある彼は、生身の人間でありながら今も尚この大神殿で呼吸をして立っている。再生し続けるスフィンクスを潰しながら傷を負った彼の動向を窺うが、アーチャーに支えられるのを早々に拒否して立つ姿はほんの数十秒前よりも堂々としている。

 

 半ばまで断たれた右腕が痛々しいが、止血はできている。全身血塗れだが足元が覚束無いという様子もない。やはり彼はこの特異点でも異常な存在、その中心に近い人物なのだろうと推察する。沙条愛歌の為に戦うと言い、それを実行する彼こそが聖杯を利用して特異点を生んだようにも考えられたが、それにしてはこの状況は危険に過ぎるので思考から追い払おうとする。

 

 聖杯を持っているなら早々に願いを叶えているだろう。事実、坂上真人とはそういう人種だ。それで勝てるならそうするという決断ができる人間だし、わざわざ七騎集めて戦うなんて殊勝な真似をするはずが無い。だから彼が聖杯を持っているはずは無いと思考を振り払おうとするが、振り払えない。疑念が拭えない。自分の背中を見るあの少年は本当にこれから人類史を裏切りかねないだけの人物なのだろうか? 

 

「セイバー、俺に何か言いたいことがあるなら言え。その警戒丸出しの態度を続けられると集中が続かん」

 

「……すまない」

 

「……ライダーが終わったら次はお前を殺す。それまでは預ける。嘘を言ってないことくらいは分かるだろ」

 

 一瞬だけ、視線が絡む。その蒼穹の瞳は爛々と輝く瞳を捉え、彼が心の底からそう言っていることを理解する。

 

「どうやらそのようだ。非礼を詫びよう、ランサーのマスター。そしてこの戦いの後、必ずや君を討ち倒すことを誓おう」

 

 言いながら薄く笑い、傷だらけの身体で黄金の床を踏みしめる男から視線を逸らす。彼はたしかに邪悪を為すだろう。だがそれは尊敬すべき精神であり誇るべき在り方だ。誰かのために正義を為すのが自分なら、あれは自分の決めたことならば如何なる地獄であれ進める人間だ。それはある意味、貴い行為なのかもしれない。

 

「あぁ!? 死ぬのはお前だろうがよォ!」

 

「おお、腹から声出せたじゃねぇか! その調子ならペースあげても良さそうだな!」

 

 各々がスフィンクスを蹴散らしながら大回廊を進軍する。神殿の毒に全身を侵され、宝具を封じられなお英雄たちは雄々しく。既に死んでもおかしくない人間は蒼き光の尾を引いて、まるで彼らに比肩する存在であるかのように眩い。紅蓮を散らし、砂の滝を越え、宙を映す獣すらをも接敵の瞬間に蹴散らして進んでいく。連携なんてものは無い。ただ魔力に任せて殴りつけるだけ。ただ付与された強化により跳ね上がった出力で聖剣を振るだけ。ただ全力で矢を番え放つだけ。

 

 ただただ彼らにとっては普通の行為を繰り返しているだけで、本来攻略不可能なはずの大神殿を攻略している。いい感じだと手応えを感じると同時にセイバーだけは僅かな不安を抱いているが、それを敢えて言うような行為は避けていた。不確定な要素を告げるよりも、何故か異様に高い二名の士気を維持しておくべきだと判断したからだ。

 

「──近いな。突入と同時に仕掛けるが、構わないか」

 

「任せな」

 

「問題ないが聖剣の解放は温存しておけよ、セイバー。あのライダーは普通じゃない」

 

 普通じゃない。その言い方が少し彼の認識とずれているから問い詰めようとしたが、思いの外接近していたために問い直すような時間はない。今も戦っているらしい二名により震える大気を感じながら、もう間もなくだと三者揃って気合を入れる。

 真名解放には程遠いが聖剣には魔力が漲り、同じように引き絞られた鏃も尋常ではない力が満ちる。唯一既に全力の人間だけは変わらないが、その目は真っ直ぐに前だけを見据えている。

 

 執拗にまとわりついてくるスフィンクスの群れを薙ぎ払うついでに眼前にある大門を打ち砕く。

 

 遂に来たかとランサーとライダーの両名が反応し、天井より黄金の魔力が全てを押しつぶすように放たれる。それだけで大軍規模の宝具に匹敵する規模の魔力であるが、ただ侵入者を撃滅するためだけに放たれただけのもの。宝具ではなく、特殊な魔術でもないそれは破格という他ない代物だ。

 

 だが、ここに至ったのは尋常ならざる英雄三騎に救世の器。聖剣の煌めきが黄金の天井を両断し、空を駆ける鏃が既に放たれていた次弾を拡散前に相殺する。その僅かに生じた意識の隙間に入り込み、真人は入口から玉座の手前まで踏み込んでいた。既に左手には魔力が充填されている。振りかぶられたそれは何の躊躇いもなく振り下ろされ、光の奔流が玉座を呑みながら突き抜けた。

 

「──その程度か、なり損ない」

 

 ぎろり、と。黄金の瞳が物理的な圧力すら伴っていると錯覚するほどの殺意とともに光の奥から睨みつける。油断も慢心もないとはいえこの場の誰よりも劣る彼にライダーは欠片の容赦もなく、自分を巻き込むことを厭わずに全方位から光を叩きつける。微塵の隙間も無い光の檻の中でも振るわれた短刀を辛うじて回避し、上から光を追い抜きながら突き破って割り込んだカルナが梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)を放って距離を作る。背後から迫る光の奔流は裏拳で砕き、不用意な接近だったと戒めながらセイバーたちと同じ位置まで退る。

 

「不死の宝具か、それとも別の仕掛けか。どちらにせよデタラメだな」

 

「この神殿内で平然としているマスターもデタラメだろう。効いていない訳ではないだろうに、よく耐えるものだ。──ああ、アレは首を落としても心臓を貫いても死なんぞ」

 

「その通りだ、この神殿内において余は唯一にして絶対の支配者である」

 

 濃密な殺意だけを乗せた声と共に炎の向こうから現れるライダーの身体に傷はない。崩れていたスフィンクスたちが再生し、その内の数体が飛翔することで空中をも席巻する。神獣の数は数えるのも億劫になるほどで、どうやって維持しているのかも分からないほど底なしの魔力によってそれを成す黄金の王は三騎の英雄を前にして尚、唯一何もなしとげていない人間にのみ殺意を向けている。

 

「──本気で俺しか狙ってないぞ、あれ」

 

「どうやらそうらしい。そうなるとお前を逃がし、オレが宝具を解放するという選択肢は消えたな」

 

「まあセイバーでいいんじゃねぇか? 約束された勝利の剣(エクスカリバー)でいけるだろ」

 

「……請け負おう。ただ放つまで時間がかかる」

 

「まあそれまでは持たせるから手早く頼む。割と限界感じてきた」

 

 選ばれた者として特別な肉体を持っていても、ここまでに負った傷と今も尚全身を蝕む神殿の毒は致命的だ。未だに立っていられるのが奇跡的なほどであり、それ故にオジマンディアスは不快感を堪えられない。世界を嬉嬉として滅ぼさんとする大悪、これは特異点にいる全ての命と引き換えにしてでも滅ぼさなくてはならない。人類の旅路が未来へと続いているのであれば、既に乗り越えたられた過去の邪悪がそれを否定していい道理などないのだから。

 

「相談は終えたか? 終えたならば疾くと死ね。貴様の在り方は人類への冒涜だ」

 

「──ああ、そろそろお前が何に怒ってんのか分かったから言ってやるよ。いいか、耳の穴かっぽじってよく聞け」

 

 ボロボロの身体に鞭を打って、膨大な魔力を生成しながら大きく息を吸う。

 

 

「人類がどうの未来がどうのとなぁ、お前らいちいちくだらねぇんだよ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 中指を立てながら吐かれた言葉を切り口に戦端が再び開かれる。黄金が拡がり、熱砂が獣となる。鏃が穿ち、槍と焔が奔り、蒼き光が煌めき、星の聖剣が振るわれる。聖剣がその力を示せる時までの数分間を稼ぐ戦いが始まった。

 

 

 

 

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