あけましておめでとうございます。忙しさが留まるところを知らない今日この頃、なんとか書いたら文字数過去最小。ユルシテクダサイ
燃える。燃えた。世界が、燃えた。
終わりは必ず訪れる。
始まりは必ず訪れる。
それは未来を否定する過去、未来へと至らぬ過去。
獣の揺籃、聖なる杯。閉じたる世界。
獣に微睡みを。救世主に安寧を。
有り得てはならない世界に終幕を。
※
──世界が赤く染まっていた。燃え盛る街並み、夕暮れよりも尚赤い空。まるで真っ白なキャンパスに赤い絵の具を零してしまったような、乱雑な赤さだった。とにかく燃えろ、終わり刻限だと急かされているようだった。その奇妙な光景を前にして焦る気持ちは不思議と湧かず、手を繋いだ愛歌を見れば微笑んでくれる。教授の言っていたことは全くもって意味がわからないが、この手を離さなければきっと大丈夫だと自分に言い聞かせる。
救世主にだけはなるなというのなら、沙条愛歌の手を離さなければいい。救世主に成り果てたくないのなら、沙条愛歌を愛して慈しめばいい。定められた末路から逃れたいのなら、沙条愛歌を殺してはならない。つまり、今現在の状況においては愛歌の存在だけが自分を繋ぎ止めてくれる楔となっている。
自分と同じ境遇でありながら、悪であれと定められてしまった少女を救うはずだったのに。さて、蓋を開けてみれば救われているのはどちらなのか分からなくなってきた。
けれど、ああ、けれど。そんなことはきっとどうでもいいのだ。大切なものは、この胸にある。それだけで、終わりに向けて踏み出すのには十分だった。
「ねぇ、真人」
「どうした」
「
同盟組むかどうか悩んでなかったかしら? と疑問を口にする愛歌に、なるほど確かにと頷いた。アーチャーはマスターを第一に考えているだろうし、無理矢理説得して戦おうとする人種でもない。そうなるとマスター次第なのだが、不思議と不安はなかった。なるようになるというより、未来がどうのこうので悩んで諦めてしまうような人間が聖杯戦争に参加するはずが無いからだ。人間なんて皆、突き詰めてしまえばエゴの塊であり、それが極端に強い人間だからこそ聖杯に選ばれる。
強い願いと人々の祈りこそが聖杯を顕現させる最たるものである以上、選ばれるマスターもまたそれに相応しい者であるべきだろう。どこかおかしくなければ、こんな頭のイカれた争いになぞ参加出来るはずもないのだから。
「まあ、来るだろ。だから聖杯を探しつつ合流を目指したいところだな」
一周回って信用できる。あの女は平凡に見えたが、その内側にある芯は強固なものだと思える。何があろうと心に燃える意思は消えないだろう。
だから諦めるはずがない。諦めきれるはずがない。その証拠に、遠くで英霊同士の激突の余波であろう衝撃が発生し始めた。視認は出来ないが、忌々しい黄金の輝きを感じる。とはいえ、介入するかどうかは微妙なところだ。勝手にぶつかるなら放置して弱ったところを宝具で纏めて殺せばいい。結局のところ、この聖杯戦争は藤丸立香を排除することを前提としなければ破綻する代物でしかないのだ。ならば、アーチャーたちの事の成否はどうあれ、疲弊したところを狙うのが戦の常道だろう。
「カルナ」
「どうした」
「お前、さっきの教授をどう思う?」
だから一旦戦闘のことを放置して、意味がわからんことを話すだけ話して消えた、あの訳の分からん男のことをカルナへと問う。霊体化していたとはいえ、カルナならば何らかの絡繰りを見抜くなり何なりしてくれていそうだという予想からの問いだったのだが、それは悪い意味で裏切られることになる。
「オレにはその教授なる男のことが分からん。マスターがそう言うのであればそこに居たのだろうが、この眼には映らずこの耳に声は届かなかった。オレでなければ幻でも見たのかと疑うやもしれん」
「それでも存在は確定なんだな」
「無論だ。正体は不明なれど、紛れもないマスターの縁者に違いない。それこそ、本来であればより深く関わっていたはずだ。おそらくだが、捻れたこの状況で接触が不可能になったが、そこを押して強引に介入したのだろう。その結果、マスターと愛歌にしか認識できなかったのではないか」
カルナの説明はある程度納得のいくものだった。前提条件の意味不明さを除けば分かる話ではあるし、そもそも特異点とか未来に至らない過去とかになっている時点で常識もクソもないだろう。未来人が平然と存在しているのもそうだ。カルデアなる天文台の魔術師。有り得ないはずのサーヴァント。そこに正体のよく分からん教授が一人増えたところで、もはや大差はない。
じゃあこの話は終わり、と打ち切ったところで今後の方針を改めて考える。
まず、敵対して殺さなければならない藤丸立香。サーヴァントはセイバー、アーサー王。それからキャスターのマーリン。地力は完全に勝っているし、対面ならばカルナの勝利は揺るがない。しかし聖剣の完全解放は不可能であるとはいえ、宝具は宝具で英雄は英雄。中途半端な解放でも下手を打てば敗北に直結する為警戒が必要。さらに、マーリンは多様な手札と夢魔であるが故の強力な幻術が厄介だろう。
次点、アーチャー。真名をアーラシュ・カマンガー。こちらはマスターを殺すこと自体に若干の抵抗がある上に、ある意味ではマーリンよりも厄介な相手とも考えられる。なにせ、あのアーラシュだ。今も遠見で覗けば秒間三桁は下らない矢の嵐が東京を砕いている。カルナと正面衝突するのを避けて遠距離に徹されれば苦戦は間違いなく、何とか接近してもエルザを獲りにいけばあの矢を受けることになるだろう。
その辺の宝具よりも強力なのが普通の攻撃という辺り、理不尽さを感じないでもない。
「どうしたもんか……」
残ったのは誰も彼も瞬殺不可能。苦戦は間違いなく、加えていえば確実に勝てる相手でもない。特にアーチャーは恐ろしい宝具を保有しているのを
「ねぇねぇ、いいことを思いついたの!」
「ほほう?」
悩んでいれば、瞳をキラキラと輝かせた愛歌が自信満々に手を挙げた。カルナも興味深そうに視線を向け、注目が集まったところで肝心の内容を聞かせてもらう。
「
「────」
聖杯の前で待ち伏せする。それは聖杯の在り処を知らねば出来ないことであり、それを知っているということは聖杯戦争において絶対的なアドバンテージとなる。何せ、戦争の最後に行き着くのが聖杯である。待ち伏せされれば、あとから向かう側はどう足掻いても迎え撃たれることになる。
それは絶対的な有利だ。策を弄し、罠を仕掛け、十全の準備を整えて待つということは戦闘において覆せない有利となる。英雄であるとか英雄でないとか、そんなことはもはや関係ない。あらゆる不確定要素を削ぎ落とし、拠点における迎撃戦という体を整えてしまえば勝利は確定するだろう。聖杯の在り処を知るということは、これに限りなく近づくということだ。
だから──
「聖杯は長い洞窟の先にあるわ。だから待ち伏せして、カルナの宝具で皆殺しにすればいいの!」
その通りに考えたのだろう。彼女の導き出した解答は、間違いなく最適解だった。何故その在り処を知っているのかとか、何時から知っていたのかとか、そういう疑問を全て無視してしまえるほどに魅力的な解答だった。あまりにも甘美で、あまりにも完璧だ。対象となるセイバーとアーチャーは今も潰し合っている。残った方を待って愛歌の告げた案を採用してしまえばいい。まるで初めから用意されていたようにこの状況は整っている。
猛烈に襲い来る嫌な予感。もはや既視感に近いそれに晒されながら、愛らしく笑う華を見る。曇りのない笑顔、穢れのない姿、愛らしい容貌。その全てが清廉潔白な幼い姫君のそれであるというのに、どうしてか。脳裏にチラつくのは惨憺たる未来の光景。夢に見た、訪れてはならない末路だった。泥のように脳裏にこびり付いたそれを振り払うことも出来ず、綺麗に笑う愛歌に言葉を返すことが出来ない。
──嫌な、予感がする。