色々してたら時をかけてました初投稿になります
対面で拳を構えるカルナを見ながら、聖杯戦争について考える。
まず、この聖杯戦争において必勝法というものは存在しない。
それは呼び出されるサーヴァントは如何なる存在であろうとも現代に生きる人間では到底及ばぬ存在であり、また彼らを従えるマスターを暗殺したところで主を失ったサーヴァントがそのまま潔く消滅するわけでもないからである。時に生き汚い者は隠れて忍び、時に幸運に恵まれた者は新たな主を得て戦うという。
それはこの争いが決して気を抜けぬものであるとするのと同時に、マスターとサーヴァントが死ななければ完全な勝利に届くことはないと示している。マスター、契約者、願いを持つが故に聖杯に選ばれた七人の愚者。身の程を弁えずイエスの杯に手を伸ばすもの。当然、生き汚いものだろう。広樹氏から貰った資料によれば、伊勢三などは廃れかけとはいえそこそこ古い血筋の魔術師であるため、中々にしぶといのは間違いないらしい。
魔術師、これもまた問題だろう。
坂上真人は決して魔術師ではない。確かに普通ならば触れられぬもの、感じられるものに接してきた人生ではあったが、それは確と神秘なるものに携わってきた訳では無い。知らぬ間に触れ、聞き、己の内に沈んだものに過ぎない。故に、独力で魔術師を打倒することは叶わない。魔術師とは常人の感性を持たず、只人とは一線を画す力を持つのだ。勝てる道理がない。
ならば坂上真人が聖杯戦争に勝利するために行うべきこととは何か。
無理だ、無茶だと諦めることは捨てている。必ずや聖杯を手に入れる。最も確実に勝利する方法を探して選ぶほどの余裕はない。であれば答えは一つ、
よって考えるべきはカルナという強力無比な力を如何にして敵にぶつけるかだが、これは基本的に待っていればいいという結論に至る。同盟、徒党を組んでの襲撃であろうとも余程でなければ凌げる。拠点は愛歌が目覚めれば変えることになるのだろうし、とりあえず今はこのまま待ちの姿勢でいいだろう。明らかに浮いた陣営、取りに行けるタイミングがあれば即座に襲撃して殺す。昨夜の戦闘でセイバーとアーチャーと思われるサーヴァントは少なからず疲弊していると思われるため、その隙を伺う他の勢力の動きを見るべきだとカルナも言っていた。
「どこを見ている、マスター」
「───ゔ、ァ」
鳩尾に衝撃を感じた瞬間に思考が途切れる。交わしていた拳打の合間に挟み込まれた殴打に胃液をぶちまけそうになりながらも堪え、一切の躊躇もなく顔面に向けて放たれた追撃を防ぐ。力を同じレベルまで抑えているにも関わらず防いだ腕を起点に凄まじい衝撃を感じると同時に弾かれ、鳩尾への二撃目に間に合うはずのタイミングで置いた腕をすり抜けて宙を舞った。
「イ、てェ……」
「雑念を捨てろ、捨てれないのであればこれで終わりだ」
悪い、まだやれると立ち上がる。最低限の自衛の為にと申し出たのは自分であり、この程度の痛みであれば少しで治まるから雑念を排してこぶしをかまえる。武器を持たないカルナが用いる武術は確か、カラリパヤットと言ったか。インドにおける武術、遥かな古代より存在するそれは彼らクシャトリヤも例外ではなく納めているらしい。
同時に踏み込みながら側頭部を狙う拳を身体を落として避け、下から顎を狙って左腕を振り抜く。それを身体を軽く揺らして避けられながら至近距離を維持するカルナに中に入りすぎた事で起こるインファイトを覚悟し、顎に向けて跳ね上がった膝を額で受ける。そもそも宝具によって守られたカルナに傷をつけることは叶わないが、まともにもらうより痛みはない。
そのまま片足立ちのカルナが体勢を戻す前に組み付いて姿勢を崩し、馬乗りになって拳を振り上げる。当てれば勝ちという条件上、傷は付けられなくともこれを入れればこちらの勝ちだ。だが、この程度で勝てるならば彼は英雄として名を残していないだろう。案の定と言うべきか。振り上げた拳が当たる直前で視界が回り、如何なる手を用いたのかは知らないが、身体が宙を待っていた。
「──は?」
受け身も取れずに地面に落ちる。衝撃で無理矢理吐き出された空気も痛みも大したものでは無いが、何をされたか分からなかった事がショックだった。口から出るのはどうやってとかそんな言葉ではなく、ただ間抜けなだけの疑問。何がどうなっているのか分からないというだけの、ちんけなものだった。
「説明が必要か?」
「いやまあ欲しいだろ」
そしてあわよくば身につけたい。拳の構え方、殴り方、蹴り方。現代に伝わるカラリパヤットとはまた別の、古きカラリパヤットを英雄から直に学べるというのはとても大きい。現代では、確か植民地時代に有名な流派が失伝したとかで正しい形のそれは残っていなかったはずだ。どう教えたものかとカルナが悩んでいる間に身体を起こし、地面に座る。
身体に痛みはない。どこかを痛めることも視野に入れていたがそういった気配もない。殴られた腹も膝を受けた額も地面とぶつかった背中もその他殴打された様々な部位に痛みもなければ打撲痕もない。内出血の一つすらないのは、なんというか不気味だった。これもカラリパヤットの力なのだろうか。そんなわけは無いだろうが、何でもありなインドだしあるかもしれない。
「……すまない、俺の口からこの技を伝えるには語彙力というものが足りないらしい」
「素直か!」
「嘘偽りを語り、相手を騙すことは悪徳だろう」
こうして組手をしながら会話をしていくうちにやはりと思うが、この男は素直だ。クソ真面目とも言える。聞かれたことには素直に答え、他者の意見全てに対して所感を口にしてしまう。しかしその全てにあるのは肯定であり、あらゆるものを尊いと認めているらしい。仏陀か何かこいつ?
「思えば、師より技を授かった際には受けて学べと言われたものだ」
「脳みそに筋肉詰まってるだろ」
「しかしそうなると不肖の弟子であるとはいえ、オレもまたそれに習うべきか」
「馬鹿なの??」
僅かに不満げなというか、解せないといった様子のカルナに思わずため息が漏れる。神話に語られる師弟が揃って筋肉脳だった。ショックというよりもやっぱりかという感覚だが、カルナの師とは何者だろうか。あまり詳しくないため疑問に思う。
「どんな人だったんだ、その師匠は」
「一言で表せばそうだな、嵐のような人物だった」
「やんちゃってことか」
「そうともいう。だが、決してそれだけではなかった」
語るカルナは懐かしいものだと言いながら、穏やかな顔で言葉を続けていく。
「名をパラシュラーマ、ヴィシュヌ神の化身の一人であり最後の英雄であるカルキを導くとされる者。クシャトリヤ嫌いであり、オレの時代で実際に戦えば間違いなく滅ぼされていただろう」
それはとんでもない化け物だ。カルナと同時代、クシャトリヤといえば有名な英雄も多く語られる階級であったはず。それらを滅ぼせるというのはどういう力を持っていたのだろうか。
「しかし、師が偉大な人物であることに間違いはない。多くの戦士が育てられ、技を授けられて戦場に出た。厳しくも優しい、師として仰ぐに足る人格者でもあった」
「その辺も気になるけどどんな力を持ってたんだ?」
「主な武器は斧であり、師はそれを振るいガネーシャ神の牙すら折ったと言われている」
いまいちスケールの分からない話だ。ガネーシャというのが神であるのは分かるが、それが如何程の存在なのか。その牙を折るということが神話としてどれほど価値のある事なのかが不明である。
「詳しく気になるならば直接聞くといいだろう。お前であればいつか会えるはずだ」
「ん?」
「この戦争が終わった後、それでも師について興味があれば探せ。恐らく、師は未だ存命だ。お前のような男が探していればいつか姿を現すだろう」
「神話の人間が生きてるのか……?」
「間違いなく生きている。いつか現れる
途方もない話だ。インド神話に語られるような人物が今も尚生きている。千年なんて話ではない。二千年でも届かない。詳しく何年なのかなんてきっと誰にも分からない永い時間、パラシュラーマはこの星で生きているという。全てはただ、いつか現れる最後の英雄を導く為に。
流石はインド、スケールがでかい。世界を創造するとか破壊するとかそういう話が現代で語られるほどに規模が大きい神話は違うということだ。まあでも、一度探してみてもいいかもしれない。きっと今も旅をする門司にとっても、どこをふらついているのか知らない妙蓮寺にとっても、この戦いを終えたあとの俺にとってもタメになると思う。
神だの仏だのに悩まされる身としては、実際に神話の時代から今に至るまで決められた役割の為に生き続ける存在の言葉というものはとても大きなものだろう。叶うならば聖杯戦争なんてものに関わる前に会いたかったが、過ぎた望みか。
「とりあえず鍛えれるとこは鍛えて戦って、勝ったあとで探せばいいか」
「その意気だ、マスター」
心の在り方は定まっている。成すべきことも決めている。道を探すのはこれが終わってからでも間に合うだろう。今とにかく、魔術師なんてものに襲われても最低限の自衛が出来るように鍛えるしかない。
再開しようと立ち上がり、お互いに拳を構えて目を合わせる。重心の乱れ、呼吸の仕方、拳の構え方に問題はない。こちらの踏み込みに合わせ、鍛錬を再開する。
結局、鍛錬というなのボコボコタイムは日が沈む頃に愛歌が来て終わるまで、カルナに一発も入れれないまま終わった。