全能者の揺籃   作:たわーおぶてらー

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Act-7 interlude

 

 

 

 

 ───綺麗だと思った

 

 街の灯りは全て消え、人の気配は欠片も無い。雲一つない夜空には無数の星が輝いていて、それを眺める少女の姿はどこまでも幻想的だった。二人で空の上にほど近い建物に乗り、満天の星空を眺める。東京でこんな空が拝めることは明らかにおかしいのだが、聖杯戦争なんて頭のおかしい儀式の最中であることを考えて多少の違和感は忘れよう。

 

 遠くで立ち昇る黄金の光、空を裂く無数の鏃、全てを呑む灼熱。サーヴァント、ライダー。真名をオジマンディアスというらしい古き英雄。サーヴァント、アーチャー。真名不明だが、衣装からしてペルシャあたりの英雄と思われる。サーヴァント、ランサー。真名をカルナ、インドのマハーバーラタに語られる大英雄。彼らがぶつかり合う度に爆炎が舞い、周囲が壊れていく様は爽快ですらある。

 

 こうして遠くから眺めているだけで心底震え上がってしまいそうなほど、彼らの戦闘は苛烈だった。

 恐らく三者三様に手加減はしているだろうが、それでも既に複数のビルが崩れ、灼け、消し飛んでいる。本当に人間という規格から外れているとしか言いようがない。カルナが目から熱線を放ち、それが東京の空を焼きながら彼方へと消える様子なんてもはや漫画や小説の世界だ。

 

 まあ、神話に語られる大英雄と正面から張り合う二騎ももはやよく分からないとしか言えないのが凡庸な人間に過ぎない自分の限界なのだろう。融解したビルに立ちながら光を以て全てを呑まんとするライダーの姿、それらを軽々と避けながら一矢がビルの一つ二つは貫く矢を放つアーチャー。時折目で追えない速度で戦闘する彼らはきっと、朝陽が昇る時まで争うのだろうと思う。

 

「楽しそうね」

 

「まあ、カルナも戦うことが好きらしいしそういうもんなんだろうよ」

 

「男の人はああいうのに憧れるって聞いたのだけど、貴方はあんな風になりたいって思う?」

 

「俺は思わないかな。持て余しそうだ」

 

 ただ一人で大軍を薙ぎ払い、強大な力を以てあらゆる難題を乗り越える。その末路に待つものの殆どが悲劇であり、幸福を手にする者もその道程は苦難に満ちていることが大半だ。人生を旅路というのであれば、俺はそんな波乱万丈な旅路ではなく穏やかなものがいい。力なんてあっても持て余すし、苦しいことに立ち向かうのは嫌いだ。

 

「愛歌は」

 

「?」

 

「愛歌は、どんな風に生きていきたい?」

 

「そうね、普通がいいわ。誰かに恋をして、誰かを愛して、誰かに愛されて」

 

 目を閉じて何を思い浮かべたのか、少し寂しそうに微笑みを携える。

 

「最後に、大好きな人と寄り添って死ぬの」

 

「普通だな」

 

「普通でしょう?」

 

 思ってた数倍は普通だった。普通オブ普通。坂上真人が欲しいと思って諦めてしまった極めて普通な人生を望んでいる。もう少しこう、ぶっ飛んだ解答を予想していたがこういう所は普通の少女だ。きっと、そういうところがどうしようもなく眩しいのだと思う。自分が諦めてしまった普通を、■の声に導かれて己を殺す化け物を知っていてそういう風に生きていられる在り方こそが尊いものなのだろう。

 

 なればこそ、ああ、忌々しいセイバー。騎士王アーサー・ペンドラゴン。今も玲瓏館とかいう日本でも有数の富豪にして魔術師らしい家の敷地内でバーサーカーらしきサーヴァントと小競り合いをしている彼。一目見たあの瞬間から胸に燻るこの感情につける名を俺は知らない。怒りではなく、怨みではなく、しかし憐憫や愛では決してないこの感情はなんだ。

 

 見たことの無い衣装に身を包む少年がマスターなのだろう。彼と向かい合うようにして座る二人が玲瓏館の当主とサーヴァントであるキャスターか。衣装、服装や装飾品といった特徴から時代を類推することが出来ない。こういうの、専門分野的に割と得意だったのだが彼は本当に分からない。

 

 白い長髪、白を基調とした衣装。軽薄そうな顔立ちと表情に裏のありそうな雰囲気。なんというか、異質だった。およそ英雄らしい要素を感じない。それはバーサーカーにも言えることだったが、キャスターのそれはいまいち違うように思われるし、何より彼は覗き見しているこちらに気がついている。気がついていて見なかったことにしている辺り、性格が悪そうだ。

 

「頻繁に使ってると気持ち悪くならない?大丈夫?」

 

「んー、最初はきつかったけどもう慣れたかな。視点を飛ばす感覚ってのを掴んだから、あんまりぴょんぴょん飛ばさなかったら酔わないと思う」

 

 愛歌に使い方を教わった遠くを見るための魔術。初めはとにかく酔いが凄まじかったのだが、とりあえず使っていたらなんか慣れたのでそういうものである。慣れてしまえばそこそこの範囲は自由に見ることが出来るようになって快適だった。魔術なんて言われていてもできるとは思っていなかったので、地味に楽しく嬉しい。悪用すれば覗きとか出来そうだが、さすがに趣味が悪すぎるだろうしそこまで飢えていない。

 

 セイバーとバーサーカーはセイバーが終始圧倒しており、このままいけばバーサーカーが消滅する気がするのだが、マスターは何をしているのか。令呪を使って撤退させなければ敗退必至の状況を見過ごしている。

 

「バーサーカーってのは狂戦士だったよな? 他のサーヴァントとは違って理性がない代わりに少し強いって聞いた気がするんだが」

 

「そうね、名前の通り狂戦士。単語の起源としては北欧のベルセルクに由来する狂える戦士のクラス。理性なきサーヴァントよ。理性の代償に基礎性能を底上げするのが特徴なのだけれど、やっぱり相手が悪すぎるわね」

 

 俺たちにとって運命の死神、騎士王アーサー。あらゆる攻撃を容易く捌き、着実に追い詰めていくその姿は真摯なものだった。明らかな格下、それこそなりふり構わなければ一太刀の下に斬り捨てていても不思議ではない実力差でありながら、獣の如き相手に敬意を抱きながら戦っている。──虫唾が走る。戦士の誇り、騎士の誉れ、戦場の栄誉。そんな下らないものを抱きながら、ただ運命に選ばれただけの少女を殺そうと出来るのは認めがたい。

 

 可能ならばこの手で殺したいが、そんな力はないからこそ確実に、堅実に進める必要がある。

 

 幸い、カルナは騎士王よりも強い。星の聖剣、約束された勝利の剣(エクスカリバー)も攻略できる。だからこそ他のサーヴァントによる邪魔がない状況、すなわち最後に残る二陣営になってしまえばこちらのものだ。その為の傍観の一日だったはずなのだが、思えばなぜ初日から戦闘を行っているのだろうか。

 

「様子見とかカルナから提案があったのになぁ……」

 

「貴方が嗾けたようなものじゃない。あのライダー、もしかしてカルナより強い?なんて言ったら作戦なんて捨てて飛び出すわよ」

 

「……」

 

 いやだって、ファラオとかラーにしてホルスとか王の中の王とかなんか強そうなこといっぱい並べてたし?感じる魔力の昂りにとんでもなく威圧的な光の波動を見たらついですね?なんて内心で言い訳しても無意味であるので無言を貫くことを選択する。ああ、カルナが少し不満げにしていたなぁ、などと呑気に考えているのも伝わっていそうだ。でもまあ、そうだな。

 

「間違いなく、最強はカルナだよ」

 

「そう? あのライダー、まだとんでもない奥の手とかありそうだけれど……」

 

 確かにあれは強いだろう。きっと、忌々しいセイバーの力も借りて複数で対応してようやく勝てそうなほど強力で出鱈目なはずだ。けれど、それでも最強はカルナだ。カルナの方が絶対に強い。

 

「どれだけ苦戦しても勝つさ。負けないって決めたからな」

 

 決して負けない。勝利をこの手に。誓ったのだ、必ず勝つと。誰も知らない、誰にも知られないあの場所で俺たちは誓った。ならば勝つ、必ず勝利する。令呪一角使えばどんな相手でも一騎削れると考えて、セイバーように一角。ならばあとの二角を用いればいい。

 

「……ズルいわ、そういうの」

 

 唇を尖らせる少女を見て苦笑する。

 

「男同士の友情とかそういうの文化、良くないと思うの」

 

「そうは言ってもなぁ」

 

 男は格好付けて生きるものだと親父も言っていた。友情と誓いとか、そういうものは殊更大事にしていかないと男が廃る。たぶん今頃、ヒマラヤにでも登って死んでいても不思議ではない門司とも語ったものだ。妙蓮寺はよく分からないが、たぶん素敵だと同意してくれるだろう。だから、こればっかりは昔からある男の特権というものだ。

 

「何か約束してみるか?」

 

「そういう訳じゃないのー」

 

「えー……」

 

 難しい乙女心である。というか女心というものは分からない。理解が出来ないと言うべきか悩むが、きっと理解しようとしていないだけなのだろう。理解できないことの殆どは理解不能なのではなく理解しようとしないから当然だ。いや、今のはそういうの抜きで分からんきがする。

 

「しかし朝までやんのかなぁ、やっぱ」

 

「そうねぇ、三人とも顔は笑ってるし続くんじゃないかしら?」

 

 傲岸不遜ここに極まれりといった様子だったはずのライダーは哄笑しながら暴れ回り、獰猛な笑みを貼り付けたアーチャーが駆け回り、いい笑顔のランサーが爆炎を撒き散らして争っている。しばらく続いている光景だが、よくもまあここまで続くものだと呆れてきた。戦いの楽しさというものは味わったことがないから分からないが、同格、或いは類まれなる格上とのそれは格別なものなのだろうか。

 

 カルナから逆流してくる感情は歓喜と賞賛に満ちていて、少し羨ましいとすら思う。彼の生涯を思えば確かに、何に囚われることも無く存分に戦えるというのは好ましい状況なのだろうか。彼はある意味、誰よりも神々と人間によってその人生を狂わされた被害者とも言える。クンティーにより産み落とされ、身勝手に川に流され、結果的にカーストによって悪となったが故にアルジュナに敗北する運命を背負った。

 

 その人生を客観的に評価すれば悲劇としか言いようがないが、カルナにそんな思いは欠けらも無いのだろう。

 あらゆる選択を良しとし、受け入れてしまうまるで聖人のような精神性はどのようにして培われたのか。マスターはサーヴァントの人生を夢に見ると言うし、いつか知る時が来るのであれば楽しみと言っていいかもしれない。自分とはまるで違う彼の生涯を体験することで、何か拓けるものがあるかもしれない。

 

「分からんなぁ……」

 

 流れ込んでくる歓喜の感情が強いからか、自分と比べてどうにも陰鬱な考えになってしまう。深夜になって眠くなってきたのもあるだろうが、カルナに関わると愛歌以上に精神の根幹に強く影響があるように思われる。それは経路(パス)を通じて深く繋がっているからだと思うが、そうであれば他のマスターもこうなりながら戦っているのか。あのライダーとか、かなりやばそうだが。──あれ、目が合った。

 

「なんかこっち見たな」

 

「見たわね」

 

 争いはそのままに、確かにこちらと()()()()()()()。見開かれた眼光の鋭さは思わず気圧されそうなほど強く、瞳は宿した意志の尋常ならざる熱量を伝えてくる。手を振り返してみたらどうなるかと思うが、なんかブチ切れて殺されそうだしやめておこう。果たして正解はなんなのだろうか。中指を立てたら色々終わりそうだし、ヘラヘラ頭を下げる気にもならない。

 

 となればまあ、答えは一つ。

 

 

 

 

 

「帰って寝るか。そのうちカルナも帰ってくるだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 







この後、帰って寝た


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