スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 作:水無月 双葉(失語症)
「いいんですか? 響追わなくて?」
キッチンで作業をしている俺に対して奏ちゃんがやや冷たい口調で話してくる。
「彼女なんでしょう? 追って行って優しくしないんですか?」
流石に顔を上げ奏ちゃんを見る、その表情は冗談を言っている訳ではなく真剣そのものだった。
「期待に添えなくて悪いが彼女じゃないぞ、それに『調べの館』で響ちゃんも言っていただろう?」
少し残念だがそう答える俺の答えが気に入らないのか奏ちゃんは複雑な表情をしている、そんな奏ちゃんの前に新しく入れたお茶を置く、そのお茶の爽やかな香りが辺りを包む。
「良い香り……これ、レモンバームティーですね? あぁ……本当に良い香り」
カップを持って香りを楽しんでいる奏ちゃんは先ほどまでの角が取れ微笑んでいる。
やはり二人には仲良くして欲しい、あっという間に飲み終わりすこし残念そうな顔をしていたのでもう一杯勧めたら喜んでくれた。
ハーブティーのおかげで少し落ち着いたみたいなので疑問に思っていた事を聞いてみる。
「奏ちゃん、もし良かったら響ちゃんと何が有ったか教えて貰える? 前にさ響ちゃんから奏ちゃんとの仲が拗れているとは教えて貰っているが、頑なに理由を話してくれないんだ、まぁ、俺もしつこくは聞かなかったけれどね」
テーブルの上で手を組む奏ちゃんの指先が力が入りすぎ白くなっている、ややあってゆっくりと顔を上げるがこちらは見てこない。
「私と響はそう、あの日までは大切なとても大切な親友だった……中学校の入学式の日私達は「せ~の」で一緒に校門に入り中学生活を始める約束をしていたの」
そう言って小さく息を吐くと、温くなったであろうハーブティーを飲み干し、膝の上に手を置いた。
「待ち合わせの校門から三本目の桜の木の下で待っていたんですが響は来てくれませんでした……遅刻寸前にクラスの子が迎えに来てくれて私は後ろ髪を引かれる気持ちで桜の下から教室に向かいました、それからは最低限の会話しかしていません、響は私を一人にしたんです……ずっと、ずっと信じていました、でも……響は裏切ったんです私の事を……」
下唇を噛み眉間にしわを寄せる奏ちゃん、その瞳には何が映っているのだろうか。
「今の響はたまにスイーツ部に来ては勝手につまみ食いをして、私と喧嘩ばかりする日々に成っているの……」
俺はもしかしてという思いに駆られ事実であってほしいと祈りながら奏ちゃんに訪ねた。
「奏ちゃんよく思い出してごらん? 響ちゃんがスイーツ部でつまい食いをしていたのはもしかして奏ちゃんの作ったケーキだけだったんじゃないかい?」
その問いに奏ちゃんは覚えが有ったのだろう膝の上に置かれた手は強く握られ、泣きそうな顔を俺に見せた後ゆっくりと俯いた。
「響ちゃんだって普通に分別はあるんだ、怒られるの分かっていてやっているよ、響ちゃんの不器用な思いなんだよ……」
「でも……でも……私」
奏ちゃんの手の甲にポタポタと涙が落ち小さく肩が震える、俺は奏ちゃんの側によりハンカチを渡す、受け取ったハンカチを目に当て小さく嗚咽を漏らす。
「考えてもみなよ、嫌いな人間の作ったケーキを普通は食べようとする訳ないさ、奏ちゃんの作るケーキが好きだからに決まっているだろう」
「私……私……うぅ……」
奏ちゃんは俺にしがみつくと普段は見せないであろう大きな声で泣き出した。
「わた、し、もしか、すると……って思って……でも……ちが、ったら……どうし……よう……だから、こわくて、怖くて!」
俺は奏ちゃんの頭を腕を回し抱きかかえ軽く背中を叩く、広いリビングの中奏ちゃんの泣き声だけが聞こえていた。
「奏ちゃんはいつもは察しが良いけど、響ちゃんの事になると少し足元が見えなくなるね、信じているんでしょう響ちゃんの事を、響ちゃんならきっと気が付いてくれるってさ、それは多分響ちゃんも同じじゃないのかな、きっと奏ちゃんなら分かってくれるって」
奏ちゃんは俺の腕の中で何度も何度も頷いている、少しだけ腕に力を入れると服を握っていた奏ちゃんの手にも力が入る。
「きっとどこかでボタンを掛け間違っただけなんだ、ちゃんと二人でボタンを外し掛け直さないとね、そして素直な心が人を強くし歪んでしまった関係を元に戻すさ」
奏ちゃんは何度も小さく返事をする、小さく漏れる泣き声は決意を秘めている様に感じ少しだけ俺は安心した。