スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 作:水無月 双葉(失語症)
「もう、お昼だよ食べないの、八雲兄」
後ろから掛けられた響ちゃんの声に作業の手を止め工具を安全な場所に置く。
「今丁度終わったところだよ、響ちゃん朝はちょっと冷たくしてごめんね」
響ちゃんの方を向き答え、工具を片づける為に背を向けしゃがみ込んだ俺の背中に温かい感触が触れ心地よい重さが加わる。
「ちょっとだけこうしてくれれば許す……」
「学校内だよ……いや、少しだけ……ね」
肩に置かれた少し震えている響ちゃんの手に自分の手を乗せる、指を動かして響ちゃんが指を絡めてくるそのまま好きにさせていると小さな声で囁いてくる。
「ありがとう八雲兄、あのね、私はまだパパに向き合えない、奏の時ほど信じられないよ……」
指に力が入るが指の震えは止まっていない。
「なぁ……響ちゃん、響ちゃんは奏ちゃんと分かり合いたかったから、ずっと奏ちゃんとぶつかっていたんだよね」
背中で頷くのを感じ、言葉を続ける。
「お父さんとはぶつかれた?」
小さく、弱々しく、吐息を吐く様に「出来ないよ」と答える響ちゃん。
「五年前の音楽会…………か」
「そう……だよ、あの日急遽出演者が出れなくなって私がママのピアノを担当したの、準備不足で不安ばかりだったけれど何とか間違えずに演奏が終わってね、褒めて貰える、約束した遊園地に連れて行って貰えるって思ったけれど、違ったのパパにね、パパに音楽を奏でてないって言われて……私……」
更に指に力が入り顔を背中にうずめてくる。
「私ね、音楽が嫌いになったのその日からピアノに触れなくなって、パパともどんどん会話しなくなってやっぱりパパは私なんて見ていないってね……」
躊躇いを見せ言葉が続かない響ちゃんの絡ませた指に少し力を入れる、大丈夫信じて欲しいと思いを込めて。
「八雲兄に初めて会った日、触るのも嫌だったピアノに何故か触りたくなって弾いていたら、勝手に聴かれてすごく頭に来たけど真剣に謝ってくれて……初めて会って初めて聴いたのに、あの日言われたかった言葉を八雲兄はくれて、ううん、それ以上の言葉もくれて、少しだけピアノも良いかなって思う様に感じてね、だから、もっと聴きたいと言われた時は物凄く嬉しくて、音楽に少しだけ向き合えるかなってね、奏の時もそう、少し前の私じゃもっと時間がかかったと思う…………ありがとう八雲兄、私の前に現れてくれて……」
目頭が熱くなる、響ちゃんは俺を信じて苦しい心の内を語ってくれている、響ちゃんの心を救いたい今俺に出来る事は……
「今日のコンサートさ、ピアノの調律したんだよだから音の確認にコンサートに行くんだ、夕方迎えに行くよ、練習時間も入る許可を貰っているから俺となら入れる、俺が一緒に行くからさぶつかりに行こう……昨日、響ちゃんのお父さんに合った時怒鳴りそうだったんだ、何故響ちゃんの辛さを理解できない、貴方は娘を救わないのかってね、でも……響ちゃんの大切な家族だから出来なかった、響ちゃんの事守るってあの時に約束したのに守れなくて、ごめん……」
組んでない腕を俺の胸に回しきつく服を掴み大きく息を吐く響ちゃん。
「ううん、八雲兄は守ってくれてるよ…………パパは音楽の世界で天才だから、きっと才能の無い私にはピアノを弾いて欲しくなかったんだよ」
胸に回された腕を掴む、響ちゃんの辛い心が伝わってくる、俺は…………響ちゃんには笑って居て欲しい、たとえエゴだと言われても。
「俺はさ響ちゃんのピアノ大好きだ毎日だって聴きたいよ、響ちゃんは自分自身の事信じられる?」
自分の気持ちを伝え問い掛ける、しばらくの沈黙、響ちゃんの小さい呼吸の音だけが聞こえてくる。
「分からない、けど、信じたい…………」
「俺はね、才能とか能力はさ自分自身を信じ抜く力だと思っているんだ、響ちゃんに中に信じるものがあるなら徹底的に信じ抜け」
響ちゃんの手に腕に力が入る、少しためらった後に静かにゆっくりと言葉を紡いでいく。
「パパの所に行くよ、だから……夕方迎えに来て、お願い、私頑張るよここで決めなきゃ女がすたるからね」
体を離す響ちゃん、振り向いて顔を見ると決意を固めた美しい表情をしていた、しばらく見つめ合い響ちゃんは力強く微笑むと出入り口に向かって歩いて行った。
大きく息を吐く、背中に感じていた響ちゃんが居なくなって少し寂しさを感じたが、まだやる事が残っている。
「出ておいで、奏ちゃん」