スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲   作:水無月 双葉(失語症)

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響とピアノと父親と

 夕方になりバイクで響ちゃんの家へと向かう、バイクの音を聞きつけたのだろうか、響ちゃんと奏ちゃんは門から出て二人でこちらに手を振って来る。

 

「ごめん、お待たせ」

 

 ヘルメットのシールドを上げながら二人に聞くと、二人は機嫌が良いのか笑い合っていた。

 

「大丈夫、奏がカップケーキ持ってきてくれて、二人でお茶していたから」

 

「お、良いね今度は俺も入れてね」

 

 少しおどけて言うと、響ちゃんと奏ちゃんは顔を見合わせ笑う。

 

「良いですよ、美味しいお茶淹れて下さいね。八雲さん」

 

 奏ちゃんも楽しそうに返事をする、昼間の二人の状況だと心配だったが、取り越し苦労なのかカラ元気なのかな微妙だが、響ちゃんの笑顔はやはり少し硬かった。

 

 二人は示し合わせていたのか、響ちゃんがサイドカーに座り奏ちゃんは俺の後ろに座る。

 

「コンサート楽しみだニャ! 八雲早く出発するニャ!」

 

 響ちゃんの膝の上に座ったハミィの発言に、微笑ましさを感じつつその声を合図に、俺はバイクを発進させた。

 

 

 

 しばらく走り会場の関係者駐車場にバイクを止める、ヘルメットを仕舞いながら響ちゃんを盗み見ると、少し顔が強張っていたが、奏ちゃんが声を掛けて気を使っていた。

 

 関係者出入り口に向かうと、年の若いガードマンが俺達を見つけ挨拶をしてきた。

 

「木野さんご苦労様です、みなさん第三練習室に居るはずですよ、しかしこんなに可愛い子二人も連れて羨ましいですね」

 

 年が近いせいか、ガードマンが軽口を突いてくる、俺は少し意地の悪い笑顔を浮かべ答える。

 

「羨ましいだろう、彼女達に触んなよ」

 

「ひでぇ、怨念でこの人どうにか出来ないかね、お嬢さんたち、こいつに飽きたら何時でも俺の所に来てね、大歓迎だから」

 

 ガードマンもヘラヘラ笑いながら言い返してくる、響ちゃんと奏ちゃんはその態度にドン引きしていた。

 

「お呼びじゃないってさ、そろそろ行くな」

 

 ブツブツと言うガードマンを放っておいて、俺達三人は練習室に向かう、部屋の前に着き後ろの二人を見ると、頷いてきたので静かに扉を開け中に入る。

 

 王子君が、少しやつれた感じで必死にピアノを弾いているが、北条先生は何時もの笑顔のままその旋律を聞いていた。

 

「どうですか? 先生やはりどこか悪い所が……」

 

 弾き終わった王子君が顔を上げ心配そうに、北条先生に声を掛ける。

 

「今の演奏は音楽を奏でてないねぇ」

 

 北条先生は顔色一つ変えずに言い放つ、明らかに動揺する王子君を見て響ちゃんが烈火のごとく怒りだし、北条先生に詰め寄った。

 

「あー、また言ってる! それってどういう意味!」

 

「響?」

 

 響ちゃんを一度見るが、北条先生の態度は変わらず、王子君に言葉を掛ける。

 

「王子君、君が音楽家を本気で目指しているのならその答えは自分で見つけなさい」

 

 困惑する王子君を心配そうに見ながら奏ちゃんも声を上げる。

 

「な、なんですかそれ?」

 

 響ちゃんの話、今の会話から北条先生が求めている事は分かる、分かるのだが俺は大きく一歩前に出て北条先生に問いかける。

 

「北条先生、貴方の言いたい事は分かる、が、彼らはまだ学生だ、その言い方では理解は出来ない、教育者とは教え育てる事だと思うが、今の先生はただの教師だ。貴方は自分の娘さんみたいに彼を突き離して終わりにする気か、貴方の思いも分かるが、娘さんや彼の気持ちはどこに置いた」

 

 静かな怒りをたたえ声を発する、響ちゃんと奏ちゃんが心配そうに様子を伺っているのが分る、チラリと時計を見る、まだ時間はあるので俺は行動に移す事にした。

 

「確かに音楽家としては貴方は超一流だ、そんな方に調律の依頼をされたのは自分にとっても誇らしい、だが指導者としての貴方はどうなのでしょう、出すぎた真似だが彼にアドバイスをさせて貰えないか、もちろん貴方の答えは言う気は無い、まさかここで潰れたらそれまでだとかは言いませんよね?」

 

 値踏みするように俺を見る北条先生、笑顔を崩さないその姿に俺は不信感を抱きつつある。

 

「別の人の意見も良いかもしれないね、ただ、答えは言わないでくれたまえよ」

 

 やはり表情は崩れない、響ちゃんには悪いがもはや胡散臭さしか感じなくなってきている、王子君に廊下に出る様に合図すると響ちゃんが声を掛けてくる。

 

「私も聞きたいよ、八雲兄!」

 

 響ちゃんは真剣そのものだった、俺は色々な意味で自分の後頭部を掻くと響ちゃんに声を掛けた。

 

「響ちゃんはもう答えに近づいていると思うよ、自分でも感じているんじゃないのかな、今日のコンサートが答え合わせになると思うよ、大丈夫だと思うが分からなかったら話をしよう、では、王子君行こうか、すぐ戻ってきますのでよろしくお願いしますね、北条先生」

 

 廊下に出ると、俺は一言二言王子君と話をする。彼は目から鱗が落ちたような顔をしていた、落ち着いた感じが出たので、練習室に戻ると中の空気は微妙になっており奏ちゃんは困った様に苦笑をしていた。

 

「お待たせしました。こちらは準備できました、さぁ王子君、さっきの事を忘れずに弾いてみようか」

 

 大きく息を吸い演奏を始める王子君、その旋律は先ほどまでとは違い軽やかだった、奏ちゃんがあまりの美しい旋律に表情を崩し聴き惚れている。

 

「素晴らしい……彼の持ち味がすべて出ているよ、本当に答えを言った訳ではないんだね?」

 

「はい、答えは言っていません。彼が自分で気が付きました、自分で気が付いたからこその旋律だと思いますが」

 

 初めて表情を崩し本当の意味で笑う北条先生を見て、俺は少しばかり安心した、その隣で響ちゃんは目を見開いてその旋律に耳を傾けていた。

 

「一度君とは是非ゆっくりと話をしたいね、音楽の事もそうだが、それ以上に響との関係も聞かないとね? 響は答えてくれなかったから」

 

 思わず響ちゃんを見ると、端から目線を合わせる気が無いらしくそっぽを向いている。そんなやり取りを見ていた奏ちゃんは、肩を震わせて声を押し殺していた。

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