スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲   作:水無月 双葉(失語症)

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晴れのち曇り

 私は今手慣れた手順でケーキを焼いていたが頭の中は響の事で一杯になっている。

 

「もう、響ったらアレだけ食べておいてろくな感想言わないんだから、せめて八雲さんぐらい言ってくれないかなぁ……」

 

 ブツブツと独り言を言いながらもその手は止まらず何種類ものケーキを作り上げ完成品を見渡すが、心の中は不安は解消されない。

 

「もっとコンテストで目立つケーキを作らないと……」

 

 私は出来あがったケーキを箱に詰めると出かける用意を済ませ自宅を後にした。

 

 道すがら他のお店に張ってあるコンテストのポスターを見て私は気合を入れ直す。

 

「気合のレシピ見せてあげるから……」

 

 口の中で呟きながら絶対に響に美味しいって言わせ八雲さんにもちゃんと認めさせてみせると誓う、二人の元に向かおうと前を見た瞬間私は人とぶつかり尻もちを着いてしまう。

 

「きゃ、いたた……」

 

「いやだぁ、ごめんなさい」

 

 声に気が付きぶつかった人を見上げるとそこには憧れの人物である山口ヨウコが立っていた。

 

 

 

 放課後スイーツ部で昨日山口ヨウコさんのアドバイスを貰った黒い生クリームを使ったチョコレート風味のケーキを焼き上げると部員達が集まって来る。

 

「すごい、こんなケーキ見た事無い!」

 

「迫力ある!」

 

「やっぱりコンテストで目立つためにはこれぐらい派手じゃないと」

 

 部員達の感嘆の声に私はちょっと自慢も含めて答える、この意欲作で響も八雲さんも唸らせて見せると息を巻いていた。

 

「南野さんもコンテストに向け頑張っていらっしゃるのね」

 

 家庭科室の入口から声を掛けられ目線を向けるとそこには見慣れた人が立っている。

 

「スイーツ姫……じゃなった! 東山部長!」

 

 東山聖歌先輩のあだ名でつい呼んでしまい、慌てて訂正をする。

 

「部長は堅苦しいからやめてって言ってるでしょう」

 

「すいません、聖歌先輩」

 

 慌てて謝る私に聖歌先輩は気にした風ではなく笑顔だった。

 

「お互い頑張りましょうね」

 

「はい! 頑張ります!」

 

 聖歌先輩は何時も涼しげに笑っていて私の憧れの先輩だ。

 

「何々? これ奏のケーキ?」

 

 いきなり響が後ろから顔をのぞかせ私の作ったケーキを興味津々に覗いて来る、もう何時の間に来たのよ。

 

「響、そうよ、食べてみる」

 

 私の渾身のケーキ、きっと響にも喜んで貰える楽しみ。

 

 ケーキを切り分け響の前に置く、響は何時も以上の笑顔だその笑顔を見ているだけで私は満たされる、早く食べて欲しい。

 

「いっただっきまーす」

 

 一口頬張り良く味わっている響にちょっとした違和感を感じる。

 

「このケーキ奏のじゃないみたい……」

 

 嬉しい分かって貰えた! もうそれだけで私は天にも昇る気分になった。

 

「そうでしょう、派手で目立つ工夫を……」

 

「そうじゃなくて、はっきり言って全然美味しくない……このケーキ、コンテストに出さない方が良いよ」

 

 頭から冷や水を掛けられたように心が凍える、何で? どうして? 

 

「全然……美味しくない……ウソだよね響……」

 

 自分でもびっくりするぐらい声が冷たく震えているのが分る。

 

「ごめん、本当に美味しくないと思ったんだもん……何時も作ってくれるイチゴのケーキの方が私は断然好き」

 

 私の中で怒りが湧いてくる、言い返してやろうかと響を見た瞬間私は言葉を失った、響は泣きそうな顔をしていたのだ全てが分からなくなる。

 

 気を抜くとへたり込みそうな足に力を入れ、私はその場を、ううん、響から逃げ出した。

 

 

 

 私は自宅に帰りケーキを焼き直してあの人の所に向かう、何時も優しく笑いかけてくれる人の所へ、きっと分かってくれる褒めて貰えるそう信じて進む足が速くなる。

 

「八雲さん……八雲さん……」

 

 最初は話しやすいってだけだった、どんな小さな話も真剣に聞いてくれたし関心もしてくれた、それが嬉しかった。

 何時からだろうこんなに気持ちになったのは、初めてお店に来た時? 自己紹介した時? 名前を叫んで貰った時? 一緒に戦う様になった時? 分からないよ、何時からあの人が気になっているのが分らないよ。

 

 ケーキの入った大切な箱を抱きしめる、いきなり行っても受け入れてくれるかな、きっと……うん。

 

「大丈夫、大丈夫、大丈夫」

 

 響は美味しくないって言った……もしかしてと考える、ううん、違う、違う違う。

 

「大丈夫、きっと私は大丈夫、それに八雲さんならきっと……だいじょうぶ」

 

 きっと八雲さんは受け止めてくれる……受け止める……受け……止める……? 

 

 

 

「まかせて! 体ごとぶつかって来て! 変身していても受け止める!」

 

 

 

 あの日の響を思い出し足が止まる、空を見上げ目に入るのは曇りの空、一面の灰色、今の私の色。

 

「響受け止めてくれ無いじゃん……」

 

 胸が痛み視界が緩む、あの日謝ろうとした私の唇を押さえてくれた響、決意は固めたけど戦いで足を引っ張るのが怖くて泣きごとを言った私に私らしくと言ってくれた響。

 

「私の才能に嫉妬……ないよ響だもん、むしろ私が嫉妬するよ響の才能に、ピアノに運動それに誰とでも仲良くなれるし…………」

 

 せっかく昔に戻れたんだからもう仲違はしたくない、ねぇ響、もう泣きながらベットに潜り込みたくないよ、声を殺して泣く淋しい夜は辛いよ……ねぇ響……




お読み頂きありがとうございます。

実はこの話には別のバージョンがありました、勢いに任せて書いていたら何と八雲と奏がくっついてしまいました、しかも物理的にも…正直焦りました。

そこでです、別のバージョンを最後にifとして載せてありますので宜しければお読み頂ければ嬉しいです。
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