スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 作:水無月 双葉(失語症)
私は何時も以上に丁寧な作業を心がけながらケーキを作っていた、もう少したったら響がお腹を空かせてやって来ると思うと自然に鼻歌も出てしまう。
「南野さん動きが何時も以上に素晴らしいわ」
聖歌先輩が私の手元を見ながら自分の事の様に嬉しそうに語りかけてくる。
「ありがとうございます聖歌先輩、後で部活が終わった響が食べに来るんです」
「まあ、それでなのね、南野さん楽しそう、良いわよね誰かのために作るのって楽しいわ、美味しそうに食べる姿を想像すると頑張れるのよね」
「はい、そうなんです私今すごく楽しくて、とびきりのケーキを作ろうと思っています」
嬉しそうに頷く聖歌先輩に私も笑い返す。
「少し前の二人がウソのよう、でも、これが本当の貴女達なのかしらね、もう手を離しては駄目よ、南野さん美味しいケーキ期待しているわ」
聖歌先輩の言葉に胸が熱くなる、聖歌先輩たとえ響が離すって言っても私は離しません絶対に、だから私の気合のレシピ見ててください。
渾身のケーキが出来あがり私は胸をなでおろす、後は響が美味しく食べてくれれば言う事は無い。
「うん、これなら大丈夫、きっと喜んで貰える」
「なんなのコレ」
後ろから声を掛けられ振り向くと山口ヨウコが立っていた、八雲さんの昨日の言葉が脳裏をよぎる。
「山口さん……いつからここへ?」
「そんな事よりこんなケーキじゃコンテストに勝てないわ」
その言葉で八雲さんの言っていた疑問が私の中で確信に変わった。
「ケーキの事を分からない友達とは……」
「貴女、誰ですか」
自称山口ヨウコの言葉を遮り疑問をぶつける、私の声は思った以上に低く山口ヨウコをひるませた。
「私の尊敬する山口ヨウコさんはそんな事言いません絶対に、貴女は何者ですか」
明らかに狼狽する姿を見て私はこんな人の話を信じようとした自分が恥ずかしくなる。
「フン、まあいい今日はこのケーキを頂くとするわ」
雰囲気が変わりケーキに手が伸びてくるのを私は寸前で捕まえる。
「響のためのケーキを汚い手で触らないで」
思いっきり睨みつけると冷めた目で私を見てくる、一瞬恐怖を感じたが私は手を離さない。
「邪魔よ!」
いきなり腕を振るわれ私はその動きについて行けずに尻餅を着いてしまう。
「本当はケーキなんてどうでもいい、私が欲しいのは音符だけよ」
いきなり首元が光だし謎の人物を包むと小さい姿に代わっていく、それは見覚えのある猫になるのを確認した瞬間、私はとっさに部員の方を見ると叫んだ。
「みんな逃げて!」
「みんなしっかりして! 慌てずに急ぎましょう!」
動けないでいた部員達に渇を入れたのは聖歌先輩だった、何時もからは想像も出来ない勢いで部員達をまとめて教室から出て行ってくれた、私はセイレーンを一度睨みつけると先輩達の後を追う様に教室を出る、その直後にネガトーンを呼ぶ叫びが聞こえ教室からは禍々しい光が溢れていた。
跳んできたボールを渾身の力で相手コートに打ち返すと相手は一歩も動けずにボールを見送った。
「すっごーい響!」
「やったー」
「流石ぁ!」
周りの声援が嬉しいが私はまだ満足をしていなかった、気合を入れ直し構えると途端に私のお腹が悲鳴を上げた。
「あぁ……お腹空いた、早く奏のケーキが食べたい……」
思わず口から洩れてしまう、奏のとびきりのイチゴのケーキ今から楽しみだ。
遠くから騒がしい声が聞こえ耳を澄ますとその声は悲鳴だった。
慌てて声のした方角を見ると土煙が上がっており木々の隙間から逃げ惑う生徒と追いかける白くて丸い物が目に入る。
「あれは」
「ネガトーンだニャ!」
コートの隅で練習を見ていたハミィが私の肩に乗りながら教えてくれる。
「私達も逃げましょう!」
部員達を逃がし後からコートを出てネガトーンの居る所に向かうと奏も丁度こちらに走って来た。
「この世界もマイナーランドの様に悲しみに溢れた世界になーれ」
喉の奥で笑いながら楽しそうに木の上で呟くセイレーンを睨みつける。
「セイレーン、もうみんなを悲しませるのは止めるニャ」
少し悲しさの混じったハミィの声に気が付き奏がこちらを振り返った。
「うっさいハミィとっととメイジャーランドにお帰り!」
「セイレーンも一緒に帰るニャ」
まるで遊びにでも行くような気軽さで言うハミィに私と奏は思わず苦笑いをしてしまう。
「なんであんたと帰るのよ!」
全身の毛を逆なでながら怒鳴るセイレーンだったがハミィは何時も通り楽しそうで私は何とも言えない気分になる、その間にも生徒を追いかけ回していたネガトーンが木に衝突し物凄い音と衝撃をばら撒いていた。