スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 作:水無月 双葉(失語症)
朝起きたら、ダイニングテーブルの上に、小さな箱が置いてあった、ついジト目で箱を見てしまう。
何時までも、そうしても仕方が無いので、箱を開けると、中にはスマホと一枚のカードが入っており、カードには「渡すの忘れていました♡」と書いてあった。
鬼姫様おちゃめだな、と思いながらもありがたく使わせてもらう事にする。
コンビニで菓子やパン、飲み物などを買い込み、何となく『調べの館』に向かう。所々崩れてはいるが石造りの重厚な建物だ。
様子を伺いながらホールに向かうと、少したどたどしいが、丁寧に引いているピアノの音が聞こえる。
ホールを覗くと、ピアノを弾いていたのは何と響ちゃんだった。
こちらには、気が付いて無いようなので、静かに近づき最前列に座り、その優しい旋律に聴き惚れる。
演奏が終わり、響ちゃんが手を降ろし、大きな溜め息をつき俯く、それを見て一瞬躊躇したが拍手をする。
無許可だけれども、良い音楽を聴かせてもらったしね。
「勝手に聴くなんて、失礼じゃないですか!」
響ちゃんが、驚きながらこちらを振り向き、俺を確認すると、怒気を含ませ叫ぶように声を上げた。
俺は、謝る為に響ちゃんの元に向かう。
「勝手に聴いたのはすまなかった、でも、あまりにも心に響くピアノだったので、失礼だとは思ったがつい聴いてしまったよ」
素直に謝り、感想を言い頭を下げる。
年上が簡単に頭を下げるとは思っていなかったのか、感想が刺さったのか、響ちゃんは顔を少し赤くしながら、謝罪を受け入れてくれた。
「こんな下手糞なピアノの何処が良かったのですか……気を使って褒めたんですか…………」
目線を外し、口を尖がらせながら俯く響ちゃん。目の前に有る頭に、思わず手を伸ばし撫でてしまったが、響ちゃんはそのまま受け入れてくれた。
そして俺は自分の思いを、口にする。
「俺は、音楽とか色々な事は巧いとか下手とかよりも、俺自身にどう響くかって事が重要なんだ。
今、君の弾いていたピアノは、俺の心に届いたよ、実に魅力的で美しく優しい旋律だった」
顔を上げた、響ちゃんの瞳には、うっすらと涙が溜まっていた。
撫でていた手を離し、ハンカチを渡す。おずおずと受け取り、涙を拭うが涙は止まらずに、どんどん溢れてくる。
その姿を見てられなくて、後頭部に手を回し撫でていると、響ちゃんの方からこちらに寄り掛かって来たので、それに合わせゆっくりと、肩口に抱きよせる。
それが引き金になったのか、その小さく細い肩を震わせ嗚咽を漏らす、頭に回した腕に力を少し込め、これ以上声が漏れないようにし、響ちゃんの気が済むまでそのまま抱き寄せていた。
「すみません、初対面なのに泣いてしまって、あぁ、みっともないし恥ずかしい……」
二人並んでホールの椅子に座り、少し気まずい空気の中話をしている。
「別にかまわないよ、君の心が軽くなるならね、少し目が腫れちゃったね……」
つい手を伸ばし、腫れてしまっている目の下を、親指で軽く触れた。
響ちゃんは顔を赤くしながらしばらく撫でられたが、我に返ったのか慌てて離れる。
「あの、恥ずかしいんですけど、あっ、そうだ名前! 名前教えて下さい! 私は北条響って言います!」
恥ずかしさを誤魔化すためであろうか、後半はやたらと早口に成っている。照れている姿も可愛い、響ちゃんも奏ちゃんに負けず劣らずの美少女だ。
「俺は木野八雲、よろしくね北条さん」
右手を差し出しながら、自己紹介をする、本当は名前で呼びたいが、流石に失礼なので名字で対応する。
響ちゃんも「よろしく」などと言いながら、握手に応えてくれた。『北条 響』と握手をしていると、思うと嫌でもテンションが上がる。
いつまでも握っていたい衝動に駆られるが、あやしくない程度で手を離す。
初めて笑いかけてくれた響ちゃんの笑顔は、大変魅力的でまさに「ごちそうさまです」だった。
「北条さん、良ければまたピアノ聴かせてもらえるかな?」
俺の問いに、響ちゃんは少し考えたが。
「たまになら、良いですよ……でも、期待はあまりしないで……私も色々あるから」
そう言った時の響ちゃんの顔は、まるで迷子になって帰り道も何も分からなくて、黄昏の中に立ちつくす幼子のようだった。
たまらなくなって、思わず手を伸ばし、優しく頭を撫でながらこちらに引き寄せる。響ちゃんは一瞬驚いた顔をしたが、小さく微笑むとそのまま身を任せてくれた。
二人だけの静かな時間が過ぎ、やがてどちらからともなく離れる。
その後、お互いの連絡先を交換して、買い込んでいた菓子パンやジュースを食べながら他愛のない話をし、時間も遅いので、自宅の前まで送り、家に入るのを見送る。
玄関から上半身だけを出して、笑顔で手を振ってきたので、俺も軽く手を上げて応えると、少し顔を赤くした後に慌てる様に入っていった。