スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 作:水無月 双葉(失語症)
学校に向かう足取りが重い、ママが変な事言うからだ、この間奏にどう思っているのって聞かれた時に、胸がちょっと疼いていたのも本当だけど……ママの言葉を思い出す。
「奏ちゃんとよく会っているんだって? また昔みたいな仲良しにもどったのねぇ、それに聞いたよぉ最近親しくしている男性が居るんですって?
ママも会ってみたいわ、響ももうそんな年になるのね、帰国した時の楽しみがひとつ増えたわ、ちゃんとママにも紹介しなさいよ響。
それとママの知り合いのテレビ局の人が……」
ママの言葉がグルグルと頭を回り頬の辺りが熱くなる、火照った頬を両手で押さえる。
「八雲兄か……奏はどうなんだろう……素敵だし頼れるって、憧れ? それとも好き? 奏が好きって言ったら私はどうするんだろう……分かんないよそんな事……」
思わず口に出してしまい慌てて周りを伺うが、幸い誰も居なかったので私は胸をなでおろした。
「今は目先のテレビ局の事か、私と奏でレポーター……出来るのかな……失敗したらママに恥をかかせちゃうのかな、そんなのは嫌だ」
私は自分を誤魔化す様に気合を入れ直すと、足早に学校に向かった。
「「失礼しました」」
奏と一緒に校長室を出て、渡り廊下を歩き教室に向かう。
「奏ごめんね、ママが勝手にテレビ局の人に紹介しちゃってさ、断っても良かったんだよ」
「でも響、一人じゃ心細いでしょう?」
奏の思いが嬉しい、私はちゃんと奏にお返し出来ているのかな不安になるよ。
「確かに、奏が一緒なら心強いけど、でもさぁ……」
奏が手を握って来る、柔らかい感触と体温を感じて私は言葉が出せなくなった。
「二人で頑張ろうね、この話はおしまい! 今日の夕方私時間が作れそうだけど、響は暇かな、暇だったら一度ピアノを弾きたいなって」
「今日は何もないよ、うん、約束したしやろう」
繋いだ手に力を込める、私達はそのまま無言で教室まで向かう、私は口に出さなくても気持ちは通じると改めて感じ、歩くだけで綺麗になびく奏の髪の動きを眺めていた。
「先生、確認をお願いします」
言葉と共に調整したパイプを渡す、先生が確認する姿を緊張して見守る。
「少しズレとる」
差し戻されたパイプを受け取り、確認しながら再調整を開始する。
「のお八雲、お前さんが手伝ってくれるのはありがたいんじゃが、その『先生』はどうにかならんじゃろうか」
作業をしつつ渋い顔で話してくる先生の言葉に少し思案する。
「色々と教わっていますし尊敬もしています、で、師匠と先生どっちが好みですか?」
「譲る気は無いのかお前さんは……」
大きな溜め息を吐き何かを喋ろうとしたその時。
「おーい、おっときっちさーん、ピアノ借りるよー」
「ちょっと響、ちゃんとして、作業中すいません音吉さん、ピアノの練習したいんでお借りしますね」
元気の良い響ちゃんの声と、やや呆れた感じ奏ちゃんの声が聞こえてた。
そんな二人に先生は「いちいち断らんでええ」と気安く声を掛けている。
「二人とも頑張れよー」
手すりの影に居たので、顔だけ出し二人に声を掛けると驚いた顔をしていた。
「八雲兄? 何してんの?」
「先生の手伝い、この前響ちゃんのお父さんが話していたでしょう、パイプオルガンの修理だよ」
俺の言葉に奏ちゃんが小首をかしげる。
「音吉さんの事『先生』って呼んでいるんですか?」
「今、音吉さんを師事しているからね」
先生は少し顔をしかめていたが、奏ちゃんは俺の答えに何故かやたらと関心をしていた。
『調べの館』の中を二人の連弾の旋律が優しく流れる、心なしか先生の表情も穏やかに成っている。
「少しズレとるな、だが丁寧に弾いておる」
「心地いい音です、優しい気分になります」
俺と先生はしばらくの間、作業の手を止め二人のピアノに耳を傾けていた。