スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 作:水無月 双葉(失語症)
今度の日曜日まで毎日の更新を目指しますので、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。
ホワイトデー数日前、アコちゃんにお返しするために自宅に行くと先生から散歩に出かけたと言われたので、アコちゃんを街に捜しに行く。
時計塔広場の少し手前で、目的の人物であるアコちゃんを見つけ声を掛ける。
「よっ、アコちゃん捜したよ」
振り返ったアコちゃんの表情は暗い、やはり少し思いつめているみたいだ。
「少し早いけどホワイトデーのお返し、チョコ美味しかったよ」
面倒くさそうに受け取るアコちゃんにわざと明るく声を掛ける。
「喜んでもらえると良いんだけどね」
「ふーん、そう言えば八雲、他の人にも貰ったの?」
ちょっと不貞腐れた感じで聞いてくる、俺はアコちゃんを正面からしっかりと見て答えた。
「この間の朝に会ったあの女の子二人には貰ったよ、だから全部で三個だね」
「そう……よかったわね」
俺は後頭部を掻きながらアコちゃんに聞こえる様に呟く。
「来年は、アコちゃんの国まで取りに行くからよろしくね」
「何……言ってるの八雲、頭大丈夫? 私が帰れる訳無いの知っていてそう言う事言うの」
俺の言葉にアコちゃんは気に障ったのか睨みつけてくるが、俺は気にせず続きを話す。
「いいや、今度のバレンタインデーまでには必ず親子三人で暮らせるようにして見せる」
「三人……それって……本気なの? ねぇ、本気で言ってるの?」
俺の服を掴み必死に聞いてくるアコちゃんの頭を撫ぜる。
「本気だよ、この前先生にも掴み取ると約束した、だからアコちゃんにも約束をしに来ているんだ、その手の物と今の言葉がホワイトデーのお返しだ期待してて」
服を掴む手が強くなり目に薄っすらと涙を溜めていた。
「期待しないで待ってる」
「うん、待ってて、後これも覚えていておいて、俺は何があってもアコちゃんの味方だ、それだけは忘れないで欲しい」
アコちゃんは手を離し走って俺から離れると、途中で止まりこちらを振り返る。
「八雲ありがとう、約束だよ」
少し大きな声で、それだけ伝えるとアコちゃんは走って行く。
時計塔広場に着くとアコちゃんがボールを蹴った後に走っていくのが見えたので、そちらに向かうと響ちゃんと奏太が話していた。
「珍しい組み合わせだな」
「八雲兄」
「八雲兄ちゃん」
声を掛けた俺に驚くと、二人は同時に声を上げた。
「今、アコちゃん走って行ったけど奏太は追わなくていいのか?」
「さっきサッカー誘ったけど断られたから、でも、珍しく機嫌が良かったなアコのやつ」
俺の問いに奏太がぼやく、アコちゃんの様子に少し安堵していると響ちゃんは奏太に声を掛ける。
「アコちゃん何か持っていたけど、あれホワイトデーのお返し?」
「ホワイトデー? そんな訳ないだろ、俺姉ちゃんからしかチョコ貰えなかったし」
腕を組んで不満そうに答える奏太に、心の中で手を合わせ謝る。
奏太は俺達の顔を見ると、良い事を考えたと言わんばかりの顔で俺達に提案する。
「二人とも暇なら俺とサッカーしようぜ」
俺と響ちゃんは顔を見合わせ同時に頷いた。
夕方に響ちゃんと二人で、奏太を『ラッキースプーン』連れていくと奏ちゃんが玄関先で仁王立ちで待っていた。
「奏太遅い! 今何時だと思っているの! パパもママもずっと心配しているのよ! お手伝いもするって約束でしょう!」
俺達の前で、ここまで奏ちゃんが声を荒げるのは珍しい。
「別に良いだろう! それに俺やるって言ってないもん、姉ちゃんが勝手に決めたんだろう」
奏ちゃんに食って掛かる奏太に思わず眉が寄る。
「良い訳ないでしょう! みんな心配したんだから!」
腰に手を当てて鼻息も荒く怒っている奏ちゃんに奏太も少し気まずそうだ。
「奏! 奏太は……」
「響は黙っていて、遅くなるならせめて連絡しなさい、何時に帰るか誰と居るか、それぐらいは出来るでしょう……」
響ちゃんの言葉を止めてまで、奏太に注意する奏ちゃん、落ち込み気味の奏太は小さく頷く。
「もう良いわ、パパとママに謝ってきなさい、私も響達にお礼を言ったらすぐ戻るから」
落ち込んでいた奏太は、奏ちゃんの一言で明らかにホッとした顔をし家の中に駆けていく、それを見送りながら奏ちゃんは大きな声で一言を付け加えた。
「ちゃんと手洗いうがいするのよ!」
大きく息を吐くと、奏ちゃんはしょうがないなぁと言った感じでこちらに歩いて来る。
「響、八雲さん、奏太を連れて来てくれてありがとう、みっともない所見せてごめん」
軽く頭を下げながら、感謝と謝罪の言葉を述べる奏ちゃんに響ちゃんは少しだけ不満そうだ。
「そんなに怒鳴らなくても……奏、言いすぎ」
「分かっているの、でも家は両親が忙しくて私が面倒見ないといけないから、つい強く言ってしまって……」
響ちゃんの寂しそうな顔に奏ちゃんはハッとする。
「響ごめん……私、響の家のこと分かっていたのに……」
奏ちゃんの謝罪の言葉に、響ちゃんは悲しそうな顔で首を横に振るだけだった。
「心配しているのは伝わっていると思うけど、ほどほどにね」
少し寄り添って来る響ちゃん、俺の言葉に奏ちゃんは下唇を一度噛み締めた。
「はい……響、八雲さん……ありがとう……」
喉の奥から絞り出される様な奏ちゃんの声に胸に痛みを覚える。
「八雲さん、響の事送ってあげてね」
俺達に頭を下げこちらを見た後奏ちゃんは踵を返すと家の中に戻っていた。
俺は寄り添って来ていた響ちゃんの頭を撫でる、こちらを見て来た響ちゃんは泣きそうな顔をしており俺は肩に手を回す。
「八雲兄……」
「少し……遠回りして帰ろうか」
響ちゃんは小さく笑いうなずく、俺は迫る夕闇から響ちゃんを守る様に引き寄せるとゆっくりと歩き出した。