スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 作:水無月 双葉(失語症)
ホワイトデーのお返しを渡しに行こうと、響ちゃんの家に向かっていたら、運良く響ちゃんがハミィを肩に乗せて歩いて来たのを見つけた。
「丁度良かったよ響ちゃん、これホワイトデーのお返し」
「八雲兄、ありがとう」
良い笑顔で紙袋を受け取り喜んでくれる響ちゃんの笑顔に和んでいると、響ちゃんはもうひとつの紙袋に目線を向ける。
「そっちは奏の?」
「そうだよ、この後持っていこうと思っているんだ、今日はお店お休みのはずだし迷惑に成らないと思ってね」
「私も奏太に用事があるから一緒に行こう」
響ちゃんに奏太に頼まれた用事を聞きながら『ラッキースプーン』に着くと、入口が半開きになっており俺と響ちゃんは訝しみながらも店内に入るが、店内は焦げた臭いが充満していた。
俺と響ちゃんは顔を見合わせ火事を警戒する、しかし奥から奏ちゃん怒る声が聞こえ少しだけ安心したが、その尋常じゃない怒鳴り声に俺と響ちゃんは急いで奥に向かった。
「食べ物で遊んじゃ駄目でしょう! いっつも人に迷惑を掛けて本当に碌な事しないんだから!」
「姉ちゃんなんか大っ嫌いだ!」
部屋から飛び出して来た奏太は泣いており、止める暇も無く出ていってしまった。
俺達が部屋に入ると、厨房はかなり荒れており片付けが大変そうだった、奏ちゃんは丁度床に落ちていた店の箱を拾い上げていた。
「これは……?」
「奏へのプレゼントだよ……」
奏ちゃんの独り言に響ちゃんがやや冷めた声を出す、奏ちゃんは一度体を大きく震わせるとこちらを振り向く。
「響……八雲さん……なんで家に……?」
いきなり声を掛けられ室内に居た俺達に驚く奏ちゃん、響ちゃんの肩から作業台に移っていたハミィは何かを見つけ小さな声をあげており、俺は目線を追い箱の中に音符を発見した。
響ちゃん話しかけようとしているハミィを手で制すると、此方を向いて来たので小さく首を横に振るとハミィは困った表情で見上げて来たので頭を撫でて落ち着かせる。
「今日、ホワイトデーでしょう、奏太バレンタインのお礼に姉ちゃんに内緒でカップケーキ作りたいって言ってた、私はそのお手伝いを頼まれて来ているんだよ」
ショックを受けた奏ちゃんはゆっくりと箱の中身を確認すると唇を噛しめ、箱を持つその手は小さく震えていた。
「お姉さん思いの弟が居て羨ましいよ……」
響ちゃんは何時もからは想像できない様な冷たい声を出すと、奏ちゃんを一瞥してそのまま奏太を追って走っていく、俺は一つ溜め息を吐き直ぐに響ちゃん達の後を追った。
後を追い浜辺に着くと、砂浜に座り泣いている奏太の姿を見つけ響ちゃんと俺はすぐに側に行くが、奏ちゃんは少し遠くて足が止まってしまいこちらを伺っている。
「姉ちゃんは俺が何やっても怒るんだ……」
「うん、厨房をちょっと散らかしただけなのに奏は怒りっぽいんだよ……」
泣きながら呟く奏太に響ちゃんは声を掛けるが、奏ちゃんは思わず言い返してしまう。
「響、バレンタインのお返しと知らずに怒ったのは私が悪いけど、奏太を甘やかさないで!」
「良いじゃない! 少しぐらい甘やかしたって! 奏のためを思ってやったんだし、奏太は奏じゃないんだよ!」
響ちゃんは怒鳴りながら奏ちゃんに詰め寄って行く。
「そんなの理由に成らないし、人の為なら何をやっても良いって訳じゃないの!」
響ちゃんを睨みつけ奏ちゃんは怒鳴り返し、二人はそのまま睨み合う。
久しぶりに聞く売り言葉に買い言葉だった、俺は間に入る事にした。
「二人ともそこまでにしよう」
そんなに大きく無い俺の声に二人はびくりと体を震わせたが、それに構わず俺は奏太の隣に座る。
「なぁ、奏太、遊ぶんだったらさ、楽しく遊びたくないか?」
「そんなの……当たり前だろ」
横目で奏太を見ると、奏太は涙を流しながら海を見つめていた。
「うん、当り前だよな、だったら少し遊ぶ時間短く成るけどさ、やることやって「いってらっしゃい」って送り出された方が良くないか」
「…………」
「誰はばかる事なく遊びに行こう、怒られるかもしれないって帰るより、笑顔で「おかえりなさい」って言われたいな」
「うん……」
「俺も一緒に行くから奏ちゃんに謝ろう、後響ちゃんにもな」
奏太は、俺を見るとポカンとした表情を向けてきた。
「響姉ちゃんに……?」
俺は奏太の頭を乱暴に撫でる。
「考えてみろよ、今日響ちゃんは奏太の為に時間を作ったんだぞ」
「あ……俺……約束してたのに……」
涙を袖で拭きながら俺を見てくる奏太。
「響ちゃんは引きずらないから大丈夫、俺も一緒に行くって言っただろう」
奏太は砂を握りしめ立ち上がると大きく深呼吸をした。
「俺、謝って来る、八雲兄ちゃん後ろで見ててくれよ」
奏ちゃんに目線を向けた奏太の涙は乾いており、少しだけ男の顔になっていた、その姿に安心をした俺は立ち上がり奏太の少し後ろを歩く。
相対する奏太と奏ちゃん、直ぐ側では響ちゃんが心配そうに俺を見て来たので頷くと、響ちゃんは柔らかく笑い奏ちゃん達に目線を向ける。
「姉ちゃん、俺……」
「もーらった」
奏太の言葉に重ねる様に飛び出してきたセイレーンが、奏ちゃんが持っていた箱を奪う、その後ろにはトリオ・ザ・マイナーも立っていた。
「貴様ら!」
俺は声を上げ奏ちゃん達の方に走り出す、箱を咥えたセイレーンに対し、何時もからは想像も出来ない速度でハミィは跳びかかり箱を奪い返す。
「こうなったら! いでよ! ネガトーン」
セイレーンの不幸な声に反応し、ハミィが取り返したラッキースプーンの箱がネガトーンになってしまう。
「奏太! 逃げろ!」
奏太とネガトーンの間に立ち塞がり構えながら叫ぶ、ネガトーンを見上げ動けない奏太。
「二人供、奏太を連れて逃げろ!」
「でも、八雲兄!」
「八雲さん?!」
困惑の声を上げる二人を余所に、俺はネガトーンに立ち向かう。