スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 作:水無月 双葉(失語症)
柔道場の前に着くと中から歓声が聞こえる、木製の大きめのドアを開けると響ちゃんの試合が始まっていた。
相手の選手は執拗に響ちゃんに足払いを掛けているが、その攻撃は足払いと言うよりも明らかに響ちゃんの足を狙い打撃を仕掛けていた。
奏ちゃんと顔を見合わせると靴を下駄箱にしまい柔道場のアリア学園サイドに移動し試合を観戦する。
選手の位置には何故かサクラちゃんも座っており、祈る様に手を組んで響ちゃんを見つめていた。
相手の打撃に対して響ちゃんが気合を発しながら前に出ると、相手選手はそれに合わせ響ちゃんに出足払いを仕掛け、そのまま技ありを取る。
響ちゃんは直ぐに起き上がろうとしたが、足のダメージが大きすぎて立ち上がれなく、蹴られた部分を手で押さえ苦悶の表情を浮かべていた。
「「「響!」」さん!」
立ちあがれないサクラちゃんに、部員の二名が慌てて響ちゃんに駆け寄る、眉を寄せて痛みに耐える響ちゃんを目の当たりにして、俺は奥歯を噛み締め、きつく拳を握りしめる。
「響! 大丈夫?!」
「うん、大丈夫……」
響ちゃんは、部員の呼びかけに意地で我慢するが、額には脂汗が珠の様に浮き出ており、見ているのが辛い程に足は赤く腫れ上がり痣も出来出していた。
「痛いでしょう……かわいそうに」
サクラちゃんの声は今にも泣きだしそうで、響ちゃんを本気で心配しているのが分る。
「これじゃ試合は無理です、棄権しましょう」
サクラちゃんが縋る様うに部員に提案するが、響ちゃんは信じられないと言った表情を浮かべた後、目線を反らす。
「そうだね……これ以上は……」
悔しそうに言う部員に響ちゃんは目を伏せる、そんな響ちゃんを救いたく俺達は応急処置の準備を終え、響ちゃんに急いで近づく。
「響ちゃん、足診せてみろ」
俺は周りに構わずに響ちゃんの足を確認し、直ぐに赤く腫れ上がっている患部に氷嚢を押しつけると、響ちゃんは戸惑いながらも治療を受けてくれた。
「響はやりたいんだよね」
「奏、八雲兄……」
奏ちゃんの一言に、響ちゃんは悔しそうな表情を浮かべる、その表情を見た奏ちゃんはしゃがんでいた俺の肩を掴む。
「八雲さん、後は私が」
包帯を持っていた奏ちゃんに頷き、俺が場所を開けると、奏ちゃんは直ぐに響ちゃんの足に包帯を巻きだす。
「素人の私が見ても分かったし、八雲さんなんかすごく怖い顔してたよ、あの人わざと足だけを狙っていた……響はそんな相手に負けたくないんだよね」
「響ちゃんが、あんな試合しかできない相手に負ける訳が無いよ」
響ちゃんは、神妙な顔で奏ちゃん治療を受けているが、その瞳の闘志は萎えてはいなかった。
「何ですか、貴方達は! 無責任な事言わないで下さい、本当の友達ならそれに兄代わりなら止めるべきです! それが優しさと言うものです!」
殺気立つサクラちゃんは、俺と奏ちゃんを睨みつけ威勢良く言い放つが、奏ちゃんはサクラちゃんの言葉に動じずに治療を続け、俺は軽く腕を組みサクラちゃんを見つめる。
「サクラちゃん、そうじゃないんだよ」
「私の知っている響はこれぐらいの事で諦めたりしない、諦めたら後で絶対に後悔する」
「貴方達に響さんの何が分るんですか!」
サクラちゃんの声はもう悲鳴に近く、そのアメジストの様な瞳は潤み出しており響ちゃんを、本気で心配しているのを嬉しくも思っていた。
「でもね、サクラちゃん」
鋭い眼光で、俺を見上げていたサクラちゃんに、小さく横に首を振る。
「「決めるのは」」
「響だよ」
「響ちゃんだ」
俺と奏ちゃんの思いは一緒で、サクラちゃんは息を呑み、響ちゃんは目を大きく見開き握り拳を作る。
「私やるよ、柔道部のみんなの思いと、用事があったのに参加してくれたサクラのために、治療してくれた奏のために、応援に来てくれた八雲兄にカッコイイところ見せないとね」
ゆっくりとだが力強く立ち上がる響ちゃんを、慌てて支え辛そうに見つめるサクラちゃん。
「響さん……」
「ありがとう、サクラ、大丈夫、痛くない、いたくない……」
歯を食いしばり脂汗を掻きながらも気丈に振舞う、そんな響ちゃんにシュシュを差し出す奏ちゃん。
「コレお守り、教室に忘れてたよ」
奏ちゃんの手からシュシュをしっかりと受け取った響ちゃんは、集まった全員を見渡し大きく頷くと髪の毛を纏め出す。
「奏、借りるよ、八雲兄もみんなも見ててね、ここで決めなきゃ女がすたる」
いつもの調子を取り戻した響ちゃんは、晴れやかな顔をしていた。
一進一退の攻防の中、足にダメージの大きい響ちゃんの動きは鈍い、相手選手の背負い投げが入りそうになった瞬間、奏ちゃんとサクラちゃんが大きな声で響ちゃんの名前を叫ぶ。
瞬間的に足を外した響ちゃんはそのまま相手を払腰で投げ飛ばし一本を取った、奏ちゃんとサクラちゃんはお互いの手を握り合うと響ちゃんの勝利に喜びの声をあげた。