スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 作:水無月 双葉(失語症)
私は後ろ髪を引かれる思いで八雲兄とは反対方向に走る。
その直後、私達の居た一階のホールには、吹き抜けから降って来た大量の妖精達に埋め尽くされ、私達は驚きのあまり、悲鳴を上げながら逃げ出した。
「ほのかすごいね、逃げ道分かるなんて」
距離が開き、少し余裕の出た私はほのかに話しかける、私とその隣のなぎさはかなり余裕があるが、奏とほのかにひかりは辛そうで、声を掛けたのを申し訳なくなった。
「ほのかは、移動中にパンフレット見てたから、それで覚えたんだよ」
辛そうなほのかに代わり、なぎさが返事をしてくれる、何となく私と奏みたいと思いながらも走っていると出口が見えてくる。
「奏! 頑張って出口見えたよ」
奏はあの日から、少しづつだけどトレーニングを始めていてそのおかげか何とかついて来ている、私達は五人揃って外に飛び出した。
外に出た私達はもう大丈夫と思い歩きながら移動を始める、途中なぎさ達の友達と合流をしながら海に面した広場に向かうが、そこで私達は信じられない光景を目の当たりにした、一言で言うなら
「ゆ、夢じゃ、ありませんよね……」
茫然とした声を上げているつぼみの隣で目を輝かせているラブ、言葉を失っている咲、今にも飛んで行きそうなのぞみ、皆が色々な表情で入り混じった世界を見つめていて、なぎさの叫んだ「ありえない」が頭から離れなかった。
私は、お菓子の国とかおもちゃの国とか時計の里とか色々聞こえて入るが受け入れられないでいる。
妖精達は自由気ままに遊んでいて数名の妖精は当たり前の様に私達の側に居る、ハミィみたいなものなのかなと思いながらも、なかなか戻って来ない八雲兄が心配だった。
「あんた達何やっているの!」
えりかが叫んだ方を見ると、なぎさと咲にのぞみが妖精と一緒にお菓子を食べていて、ラブは飛んでいるドーナツを追いかけ回しており、先程まで困惑していたなぎさと咲の切り替えの速さに言葉が出ない。
「ちょっとそこ! 勝手に遊ばない!」
かれんさんの呆れ気味の注意に視線を動かすと、うららに祈里とせつなが妖精達とおもちゃで遊び、ひかりは何故かおもちゃの兵隊に追いかけ回されていてる。
「そっちも勝手に同窓会始めない!」
美希の叫びに今度は何? と目線を向ける、妖精の一団が楽しそうに話していた。
「もう、無茶苦茶……」
りんが処置なし、といった雰囲気で呟くと、くるみとゆりさんが同意し、いつきが苦笑いを浮かべる。
「ミルクも混ぜてミル!」
言葉と同時に、くるみが煙と共に妖精の姿に成って嬉しそうに飛び出して行く。
「アンタもか!」
りんが叫ぶ中、既に私の許容量を大幅に超えていて、奏も茫然としておりなかなか見ない表情をしている。
「一体どうなっているの……」
「何だ変わった人達ね」
私と奏が呟くと、えりかが笑いながら私達にちょっかいを掛けてきた。
「なーに言ってんのよ、アンタ達も人の事いえないでしょうが、何よあのしゃべるネコとアンタを抱えて三階まで駆け上った男とかさ」
「いや、あの、それは……」
えりかが意味深な笑顔を浮かべ、楽しそうに私を肘で突く。
「ほれほれ言っちゃいな、アンタ達も普通じゃないんでしょう、なっちゃうんでしょう」
「一体何の話ですか……?」
奏も誤魔化そうとするが、えりかはドンドン切り込んで来て私達は反応に困ってしまう。
茶色と白のモコモコした妖精が話しているのが少し耳に入る、『プリズムフラワー』って何だろうと思っているといきなり不気味な声が聞こえて来て、私達は声のした空を見上げ目を凝らす。
何個もの黒い物体が、落ちて来て周りを破壊して土煙を上げる、強い風に吹き飛ばされそうになるが、私は奏と支え合いなんとか堪える。
「響、アレ見て!」
奏の言われた方を見ると土煙の中に人影が見える、その人影の気配は禍々しく私は『キュアモジューレ』を握りしめた。
私達の側に居た妖精達が、次々に名前らしき物を叫ぶ、その慌てぶりにただ事ではないのが分かり、その証拠に他の妖精達は一斉に逃げだす。
「響、奏ぇ!」
ハミィが、慌てて私達の所にやって来て奏に向かってジャンプをし、奏は慌てて受け止める。
「『プリズムフラワー』を近くに感じるね」
魔女みたいな恰好をした人物の呟く声を聞いて、私は得も言われぬ気分となり少しだけ込み上げて来た吐き気を我慢する、でも『プリズムフラワー』って何だろう、皆も口々に疑問の声を上げてるし……
「まさか世界がこんな風になったのはアンタ達の仕業なの」
ラブの叫びが聞こえ視線を向けようとした時に、誰かが私の服を引っ張って来たのでそちらを見ると顔色を悪くした奏だった。
「響、八雲さんの言っていた、いざって……」
私の服を握っている奏の手に力が籠る、私は手を重ねながら魔女を睨む、魔女が不敵な笑いをしながらこちらを見据えてくる。
「その通り、さお嬢さん達……いや、プリキュア」
私は握りしめていた『モジューレ』を取りだす、隣で奏もすでに取り出しており、私達は頷き重ね合っていた手をきつく握り合う。
「貴方達の思い通りにはさせません!」
強い意志を感じさせる凛とした声があがる、私と奏はそちらを見ると声の主はつぼみだった。
「みなさん、プリキュアに変身です!」