スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲   作:水無月 双葉(失語症)

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奏の小夜曲(セレナーデ)

 戦いが終わった後、私達は八雲さんを待った。

 

 時間が過ぎ、一人、また一人と帰るなか、私と響は時間ギリギリまで八雲さんを待った、けれども………………帰って来てはくれなかった。

 

 私がプリキュアとしての力を失くしたあの日、八雲さんが一人で立ち向かう時に、恥も外聞もなく、泣いてすがり付いて引き止めたのなら、あの日、響にすら秘密にして心の奥底に押し込んで鍵を掛けた思いをさらけ出せば、この思いを伝えたのならば、残ってくれたのかな…………

 

 無理だよね、八雲さん何時もの笑顔で困りながら説得するのかな、ううん、多分違う、何も言わないできっと行ってしまう、だってあの時、私と響は心から「行かないで」と叫んだけれど、八雲さんの足は止まらなかったから。

 

 私は本当は気が付いていたのにずっと気が付かない振りをしていた、八雲さんを何時から気にしていたかを、初めてお店に来た時? 自己紹介した時? 名前を叫んで貰った時? 一緒に戦う様になった時? 全部違う、全然違う。

 

 

 

 私が八雲さんを気にしたのは……

 

 

 

 あの日、調べの館で響が、お姫様抱っこをされているのを見てからだ。

 

 

 

 自分の右手を見る、訳も分からず変身した日、八雲さんは私に手を伸ばしてくれた、上手く攻撃が出来た後に手を叩き合った、コンサートでは身を呈して守ってもくれた。

 

 バイクの後ろに乗った時の背中が大きかった……音楽堂で私の好きにさせてくれた……私のケーキを全力で取り返してくれた、響の応援に行けなかったあの日、八雲さんは私の手を引っ張ってくれた。

 

 私が力を欲した時も何も言わないで助けてくれた、いつも、いつも、いつもしてくれていた、私は何時も甘えていたのに、それなのに、それなのに……

 

 私の夢をずっと応援してくれていた八雲さん、最後に交わした言葉も……応援だった。

 

 コンテストの時にプレゼントしてくれたレシピ本、ホワイトデーのお返しで渡されたプロ用のレシピ集、これらの本と預けられたディスクアニマルの瑠璃、何時もそばに居てくれたはずなのに、こんなにも繋がりが薄かったなんて……

 

 フラリと私達の前に現れて、フラリと消えてしまった……その事実が怖くて夜中に声を上げて泣いてしまった。

 

 家族みんなが集まってそんな私を慰めてくれた、私が涙ながらに八雲さんが街から居なくなってしまった事を話すと、ママは何も言わずに私を抱きしめ、パパはずっと頭を撫で続けてくれて、奏太に至っては仕事で離れているだけとか、直ぐ戻ってくるってガラにも無く私を必死に慰めてくれた。

 

 その次の日から、私は何かに取り付かれたかの様にカップケーキを焼きだした、でも、一度も納得出来るものは出来なくて、私はドンドンと追い詰まっていく。

 

 何ひとつ納得出来ない日々が続いたある夜、控え目に鳴らされるノック。

 

「姉ちゃん、今良いか」

 

 何時もなら遠慮も無しにドアを開ける奏太の神妙な声に、驚きながらも声を掛けると、遠慮がちに入ってくる。

 

「どうしたの、奏太?」

 

 声を掛けるが、奏太は目線を反らし、困った顔をしながら後頭部を掻いている、その姿に八雲さんも良く後頭部を掻いていた事思いだし、少しおかしくなってしまった。

 

「なあ、姉ちゃん、余計なお世話かもしれないけれど、八雲兄ちゃんが帰ってきたら自分の気持ち話さないと、伝わらないぜ」

 

 ぶっきらぼうな言い方の中に優しさを感じ、少し気になる事を聞いてみる。

 

「ねえ、奏太は八雲さんの事、どう思っているの?」

 

「俺? 俺は八雲兄ちゃんの事好きだぜ、何でも出来るし、サッカーも教えてくれるんだぜ、響姉ちゃんもスポーツ凄いけどさ、教えるのサッパリだから」

 

 知らなかった奏太と八雲さんとの関係、楽しそうに話をする奏太の表情に、何故聞いてしまったのだろうと胸が詰まる。

 

「それに俺、兄ちゃん欲しかったから、すっげえ嬉しい。姉ちゃんが彼氏作るなら八雲兄ちゃんが良いなって思っている」

 

 途中から目が泳ぎだし、最後の方は小さくなって行く奏太の声に、八雲さんの居なくなってしまった本当の理由は教えられない。

 

 もし、もしも私が八雲さんの彼女だったら、か……足を止めてくれたのかな、ううん、多分無理、仮に止めようとしても、その時はきっとえりかが私の事を、大粒の涙を零しながら、あの小さな背中で押し留めてくれただろう。

 

 私も泣きながら響と同じで動けなくなるはず、結局は何を思っていてもタラレバだし、引き止められるイメージが湧かない。

 

 だからこそ今はせめて笑おう、響の為にも八雲さんの為にも、少しでも響を元気付けられる様に、哀しい心を胸に秘め、八雲さんと私達プリキュアが守った世界を確かめて行こう、遠い遠い未来で、八雲さんに会えた時に……沢山の話が出来る様に。




お読み頂きありがとうございます。
明日も更新予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

皆さまに何かしらを感じ取って頂けたら嬉しく存じます。
それでは次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
第23節 響の哀歌(エレジー)

よろしくお願いします。
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