スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 作:水無月 双葉(失語症)
私は何を守れたのだろう、ハミィを失い八雲兄を失い、こんなに苦しいのに時間だけは残酷に過ぎていく。
「響、おはよう」
「おはよう、奏」
いつもの挨拶、変わったけど変わらない日常、約束した訳じゃないけれど、毎朝八雲兄の家の前で奏と会い学校に行く、帰りにも八雲兄の家に必ず寄る、主の居ない……寂しい家。
夕方、ガレージに入り、置いてある八雲兄のバイクに触れる、サイドカーが私の指定席。最初は少し乗るのが怖かったけれど、今は好きになったんだよ…………
シートに体を沈める、思い出すのは街を回ってくれた事、真剣にハンドルを握っている八雲兄の銀色の瞳が好きだった、すごい勢いで流れる景色が好きだった、体に伝わるエンジンの振動、頬に当たる風、八雲兄と二人で乗るバイクが好きだった……景色、振動、風、音、誰にも邪魔をされない八雲兄との二人っきりのコンサートみたいで大好きだった……
シートに置いてある八雲兄のヘルメットを、一瞬躊躇したけど抱き寄せる。
「八雲兄、私ね、まだ……泣けないんだ…………ハミィの時はあんなに泣いたのに、八雲兄だと泣けないの……哀しいのに、何でだろうね……」
ヘルメットの冷たい感触、風の匂いがするみたい、あの日に………………帰りたい。
「……っ! ……て! び……きて! ひび……お……て! 響、起きなさい!」
「んあ、ぁ、かなで、おはよ」
「おはようじゃないよ、響、風邪引くよ」
怒ってるけど、怒って無い奏の顔を欠伸をしながら見た。
「口隠しなよ響、よだれ拭いて、もう子供なんだから」
奏が私の口元を拭いてくれる、最近の奏は何時もこう、何かを…………八雲兄を思い出さない様にしている。
「とりあえず帰ろっか」
手を伸ばしてながら笑う奏に合わせて笑う、最近の私達は少し無理やり笑っている気がする。
「響、メール見て無いでしょう。ほのかさんからメールが有ったわよ、みんなで集まるの今度の日曜日だって、今回は月影さんとうららも都合が付くみたいよ、それから………………」
あれから私達は何度か会っている、住んでいる街も通っている学校も違う、人から見たら不思議な集団、でも私達は絆で結ばれている、たとえプリキュアで無くなっても……
傷の舐め合いみたいになっていてもかまわない、少しの時間…………辛さを忘れるから。
皆で集まる日、奏と一緒にモノレールで向かう、少し前ならきっと八雲兄が…………また、馬鹿な事を考えている自分が嫌になる。
たまに乗るモノレールやバスの中、街での人混み、何時も八雲兄を探している、見つかる訳が無いのに、勝手に捜して勝手に期待して…………何時も勝手に落ち込んでいる。
心が暗くなりぼんやりと景色を眺める、流れていく景色、でも、風も何も感じない、ただ速いだけ、たったそれだけ……
「響、ありがとうね。荷物を持つの手伝ってくれて」
控え目に掛けられた奏の声に現実に戻される、息を小さく吐き気持ちを入れ替えた。
「大丈夫、人数多いからカップケーキの量もすごいね」
少し引きつりながらも笑って見せるが、奏に軽く頬を撫でられる、目線を向けると心配そうに見つめている奏。
「ごめん奏、景色見てた……」
言い訳だ、嫌になってくる。これ以上奏に心配をかけたくない、きっと奏だって…………
「うん、知ってるよ……」
頬から手を降ろすとそのまま私の手を握ってくる、温かい奏の手、握り返すと沈黙が二人を包む。
モノレールの窓に薄っすらと映る自分の顔、つい自分のおでこを見てしまう、あの日、八雲兄がしたおでこへの優しいキス、嬉しいはずのキス、けれども…………悲しいキス。
そして耳元で呟かれた「兄ちゃんに任せておけ」と、その後に囁かれた小さな小さな「ごめん」の言葉が、今でも私の胸を焦がしている、何度も思い出す、戦いの時のあの台詞。
「戦いは命のやり取りなんだ、だからこそ信念と決意……そして覚悟が必要になる、覚えておきなさい。俺が教えてあげられる数少ない話だ、俺はね、戦う為だけにこの世界に来た、だから……」
戦う為だけにこの世界に来た、この世界ってどういう意味だったのだろう、それにあの言葉の続きは「だから俺は命を懸ける」だったの? 私は決意はしたけれど覚悟はしていなかったの?
私は世界を、人々を、救えたけれど、何で、どうして、八雲兄もハミィもここに居ないの? どうして私は、私と奏の心は守れなかったの?
色々な事を思い出す、調べの館で出会ってピアノを聴かれて怒った事、謝られて言われて嬉しかった感想、泣いた私を優しく抱きしめてくれた事、私の兄になってくれた事。
奏と仲直りを本気で考えたのも、八雲兄が居てくれたからだ、八雲兄がもう一度聴きたいと言ってくれなければ、ピアノとも向き合わなかったし、私が困っていると何時も支えてくれた。
何時だって八雲兄は私の隣に居てくれていたのに、なのに、どうして八雲兄はここに居ないの、まるで窓の外を流れて行く景色の様で怖い、このまま全てを忘れてしまいそうで、嫌だ。
何度も奏と遊びに行ったのに、もう、奏と一緒に八雲兄の所に行く事は出来ない、あぁ、もう一度、もう一度…………
「ハーブティー飲みたい……」
思わず出た言葉、慌てて口を塞ぐ、恐る恐る奏を見ると奏の悲しそうな瞳、しばらく見つめ合うが奏は目線を外す。
「響、私ね、この間ハーブティーを淹れたの、でもね……美味しくないの…………レシピも淹れ方も教えて貰っていたのに、全然……美味しくないの…………」
奏の泣きそうな顔、握っている手に力を込める、あの日以来奏から「気合のレシピ」の言葉を聞いていない、奏も辛いんだよね、なのに何時も無理して笑っている、きっと私のせいだ。
「奏ごめん、辛いの私だけじゃないのに……」
「大丈夫、響の事分かってるもん、気にしないで」
奏が私の肩に頭を乗せて瞳を瞑る、私達は何かから逃げる様に寄り添い合い、目的地に着くまで何もしゃべれなかった。
お読み頂きありがとうございます。
次の更新は来週末の予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。
長かったオールスターズも残すところ後一話となりました。
響ちゃんと奏ちゃんは決意は固めていましたが、覚悟は決めていませんでした。
私のミスが無い限りは、覚悟と言う単語は二人には使って無い筈です。
では次回。
プリキュアオールスターズ 虹色の花束
最終節 響と奏の
よろしくお願いします。