スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲 作:水無月 双葉(失語症)
色々と辛く悲しい経験をしてきたつもりだった…………
──木野八雲──
そう名乗った彼を始めて見たのは、つぼみさん達が参加したファッションショー……
舞台に乱入してしまったハミィと響さんを迎えに三階から飛び下りて来た時でした、彼は変装のつもりか、三色に色付けされたアフロのかつらをかぶっており、流れる様にハミィを投げ、響さんを抱きかかえると、壁や柱を蹴って三階まで昇って行くその姿は、鮮烈に私の脳裏に焼き付きました。
再開はその直後……ファッションショー終了後の会場整理が済んだ一階のホール。
事が起こったのは自己紹介が終わり、みんなで楽しく話をしている時でした、世界が歪んだ様な気がして、空から禍々しい気配を感じた私は彼と一緒に空を見つめました、私の漏らした小さな呟きに彼は一瞬私に目線を向け、慌ただしく
「八雲兄!」
響さんの叫びに振り返った彼は重い空気を纏っていて、何とも言えない表情をむけました、その顔を見て私は胸が締め付けられます。
「響ちゃん、ごめん、必ず後で合流する、約束だ…………二人とも、いざとなったら……判るね」
彼は響さんをあやす様に笑いかけると走って行かれました、その時私の胸の奥が痛んでいて、この痛みが最悪な事を予見していたのを気が付いていませんでした。
八人の悪意の塊と対峙した私達は、事態の重要性に息を呑み二の足を踏んでいました……いえ、敵の雰囲気に呑まれていたんです。ブラックやホワイトですら……
事態は最悪の方向に流れそうに成り、私は自分の不甲斐無さに嘆きそうになったその時、私を一瞬、影が覆い隠しました。
「ご高説どうも! やらせねえよ!」
私達を飛び越えて行った彼は、空気を震わすような力強い声を上げ、たった一人で敵に立ち向かいます。
「攻撃だ! あいつらを止める! プリズムフラワーを必ず守るんだ!」
世界が崩壊して行く中、私達を鼓舞するために張りあげられた声、立ち向かっていくその姿はまるで獣が眼前の敵に襲い掛かる様な姿に見え、張り上げた咆哮は、私達の恐怖の鎖を引き千切りました。
眩しい光に包まれた私は、気が付いたら少し不思議で……そう、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような世界に私達は佇んでいました。
彼も一緒に飛ばされていましたが、困惑している私達に比べ余裕がある様で腕を組み柱に寄り掛かって景色を眺めていましたが、何を思ったのかレモネードに握手とサインを求め私達は何とも言えない雰囲気に成りましたが、少しだけ皆の緊張が軽くなった気がします。もしかして、彼は……
現れたシャドウ、トイマジン、サラマンダー男爵、三人の悪意の塊に彼は躊躇なく飛びかかり攻撃を仕掛けますが、彼の電光石火の攻撃は防がれてしまいます。
飛び出した彼に慌てる私達、蔑んだ視線を送る悪意の塊の三人、彼は慌てる事無く不敵に笑うと、なぎささん達が使う『カードコミューン』ぐらいのアイテムを取り出し、同じように展開させ彼は……変身した。
──鬼人。獣鬼……
彼のもう一つの名前、戦士の名前……そして私の心に住み着いたふたつめの名前……
彼と私達の共闘が始まります。
私が彼を強く意識したのは最初の戦い。彼は、敵に囲まれてしまった私を、サンシャインが切り開いた道を疾風の様な勢いで通り抜け、抱きかかえて救出してくれました。
「ありがとうございます」
彼にお礼を言いながらも、余りの速さに身を縮めた私に優しく笑いかけてくれました。
「気にしない! 突破するからちゃんと捕まっていてね」
少し恥ずかしかったですが、私は彼の言葉に従い、首に手を回し、しがみ付きました。
今まで何度も仲間達に抱きかかえられた事はありましたが、彼は根本的に違っていました、……体が大きく、包み込まれる安心感を私に与えてくれます。
彼は私を包み込んだまま高くジャンプすると、雷を撒き散らしながらウザイナー達に向かって急降下しながら攻撃を仕掛けます。
私は、その余りの速度にしがみ付く力が強くなってしまいしたが、私の恐怖が分かったのでしょう、彼は私の頭を抱えると、幼子を守る様に抱きしめてくれました。
攻撃が終わり安全を確認した彼が私を優しく下ろし、私は少し慌てて彼にお礼を言うと、彼は優しい笑顔を向けて私の頭を強く撫でます。
その大きな手に私は驚きながらも、気恥ずかしさと照れくささに支配されていきました。そして、彼は私について来いと力強く言い放ち駆けて行きます、私は返事をすると慌てて彼の大きく広い背中を目指して走っていきました。
対決で作った大量のクッキーを食べる事になり、私達は短い休息を取る事にしました。
彼が私の作ったクッキーに手を伸ばした時、私は今までにな緊張を味わいながら彼が食べている姿を見守ります。「美味しい……」彼が小さく呟いたその台詞は、私の心を温かくしました、なぎささんやほのかさんに美味しいと言って貰えた時とは少し違う幸せな気持ちです。
彼は改めて私達に自己紹介をし、事も有ろうに信用できないなら後から打て、と恐ろしい事をいとも簡単に言い放ちます。その姿に私の胸は痛みましたが何も言えずにいました。
パッションが詳しく聞こうとしましたが、彼は少し寂しそうに笑うと、まだ響さん達に話して無いから話したくないと溜め息混じりに答えます。
そして私の心に沸いた疑問、彼は響さんの本当の兄では無く、響さんと奏さんの兄代わりだと教えて下さりました、その時の表情は二人を思い出しているのでしょう、凄く嬉しそうでした。
「妹絶賛募集中」
彼の言葉が頭を回り、胸が少し苦しくなります……レモネードが妹を立候補をしてルージュに怒られている姿を見ながら、私はホールで見た響さん達に自分の姿を思わず重ねてしまい、物凄く恥ずかしくなりました。
「────ルミナスもどう? 今なら無料だよ」
彼の言葉に私の心臓が大きく跳ねました、アカネさんとは違った意味で楽しいかもしれません……少し、憧れます。
「お兄さんかぁ……」
私はその時声に出して呟いていたのを知りませんでした。
私達はその後、色々な戦いを経てもう直ぐゴールといった所まで近づきました。しかし、シャドウ達に阻まれた私達はその場での戦いに雪崩れ込みますが……
敵は圧倒的でした、暫くは互角の攻防が続きましたが一瞬の隙を付かれ私とパインにサンシャイン、ルージュにローズが敵の攻撃をまともに受け戦線を離脱してしまいました。
彼を筆頭にレモネードとパッションにムーンライトの四人が戦いを続けてました、ですが、何とか起き上がった時に私の視界に入った光景に息を呑みます、レモネード達がサラマンダー男爵に攻撃を受けそうなった瞬間、彼は事もあろうに三人の間に入り込み至近距離で攻撃を受けました、いえ、庇ったのです、自身の体を盾代わりにして……
力なく落ちていく彼の姿が目に焼き付き、私は声に成らない叫び声を上げました、私は這う様に彼の元に近づくと、彼はまるで幽鬼の様に立ち上がり獣のような叫びを上げて気合を入れました、その声に後押しされた私達も、ゆっくりとですが立ち上がります。
何とか立ち上がろうとしましたが、私はダメージが酷く崩れ落ちそうになりましたが、私の腕を力強く掴んでくれ彼が立たせてくれます、敵を見据えた虹色に輝く瞳は美しく、私は戦いの最中なのに、思わず見惚れてしまいました──……
「やる事はシンプルなんだ」
皆に言い聞かせる様な彼の言葉に全員の瞳に力が戻ります。
「そうね、サイコロを振ってゴールに行ければ良いんだけれど」
荒い息を押さえながらムーンライトが続き。
「数秒アイツ等を止められたら……」
喘ぐ様にサンシャインが言葉を紡ぎます、私は衰えない三人の勇気に力を貰い、一つの方法を思いつきました。
「その役、私に任せて下さい。私、良い事思いつきました」
皆の視線が集まるなか、彼は私に小さく笑い掛けてくれます。
「ルミナス、隙は俺が必ず作る、待ってろ」
彼の言葉は私に決意の力を与えてくれました。
その思いが嬉しく私はしっかりと立つと、彼を見上げ少し微笑みました、そんな私に彼は優しく笑いかけると、その大きな掌で私に力を分ける様に強く頭を撫でてくれました。
「行くぞおぉ!」
獣の様な叫びを上げ走り出した彼、その後を追う様にパッションとローズが続きます、シャドウ達と接触した瞬間、三人の攻撃は鮮やかに決まり蹴り飛ばしました。
「今だ! ルミナス! 決めろぉ!」
彼が体を捻り私に拳を突き上げました、その姿を見て私の感情は一気に高ぶります……
今こそ、全ての力と想いを篭めて。
「光の意思よ!」
三人が作ってくれたチャンスを……
「私に勇気を!」
必ず生かせて見せます。
「希望と力を!」
だから見ていて下さい!
「ルミナス! ハーティエル……」
八雲……
「アンクション!」
兄さんっ!!
あの時の事は今思い出しても恥ずかしいです、あそこまで感情が高ぶったのは何時以来でしょう……
優しい笑顔を向けてくれた兄さんと手を打ち合わせて、ゴールまでの目が出た瞬間、思わず私は……兄さんに抱きついてしまいました、今思い出しても信じられません。
…………その後の事は正直何も思い出したくありません、ただ私は……兄を失いました。
お読み頂きありがとうございます。
次の更新は来週末の予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。
もう少しだけオールスターズ関係の話が続きます。
では次回。
プリキュアオールスターズ 虹色の花束
閑話 少女達の
よろしくお願いします。