スイートプリキュア♪ 鬼人の組曲   作:水無月 双葉(失語症)

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閑話 少女達の輪舞曲(ロンド)

「うん、良いお湯だった」

 

 私、春日野うららは二日連続の仕事の関係で、ビジネスホテルに宿泊しています。

 

 食事も打ち合わせも終わり、温泉街と言う事もあり此処のビジネスホテルの売りの天然温泉を堪能した私は、誰も居ないのを良い事に下着姿のまま部屋をうろついていた。

 

 飛び込む様にベットに座ると手に台本が当たる、パラパラとページを捲って眺めるけれど、頭に入って来ない。

 

 ぐるりと部屋を見渡すと備え付けの机の上に無造作に置いてあるビニール袋がひとつ。逡巡したけど私は直ぐに机と対になっている椅子に座ると袋を開ける。

 

「…………」

 

 袋から出て来たのは新品の私のCD。

 

 

 

 

 

「キュアレモネード、君さ、春日野うらら……だよね」

 

 優しい笑顔だった。

 

「握手してくんね、応援してんだよ」

 

 真っ直ぐ見つめられて真っ直ぐ言われた、最初から私の事を知っていてくれて、握手を求められた。

 

「戦いが終わったらCD買ってくるからさ、サインお願いできる?」

 

 嬉しかった。私の事を芸能人だと知って、取り敢えずサインを、じゃなくて、春日野うららのサインを純粋に欲しいって言われた。

 

 

 

 

 

 色々な事が頭の中でぐるぐると回る。

 

 

 パインに便乗してツノを触った、少し不思議な感触がした、八雲お兄さんは困った様に笑っていた、お兄さん……お兄さんか……

 

「ねぇ、八雲お兄さん、私って八雲お兄さんの妹に入れて貰えたのかな?」

 

 一も二もなく妹に名乗りを上げたけれど……

 

 そう言えば、生の演奏で歌ったのってあの時が初めてかも、基本音源で歌を歌っているから。

 

「楽しかったな……サインしないと……」

 

 蓋を開き歌詞カードを取り出し、鼻歌交じりにサインを書く、ついでにCD本体にも書く、初回封入のカードにも……

 

 涙が落ちた、我慢していたのに、無理やり鼻歌を歌ったのに、我慢すればするほど涙が落ちた。

 

 心強かった、率先して戦ってくれた、みんなを守ってくれた、常に周りを気に掛けてくれていた……ずっと、ずっと、ずっと言いたかった言葉があった……

 

 

 

 ありがとう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひかり、ちょっと付き合って」

 

 放課後に逃げる様に帰ろうとした私を、なぎささんとほのかさんが待ち構えていました。

 

「すみません、アカネさんのてつだ──……」

 

「アカネさんからは許可を貰っているから」

 

 言い訳をしようとした私の言葉をほのかさんに遮られ、私は俯く事しか出来ませんでした。

 

「行くよ、ひかり」

 

 なぎささんは私の手を掴むと有無を言わさず私を引っ張って行きます。

 

 着いた先はほのかさんの自宅で、私は抵抗も出来ずに、ほのかさんの部屋に押し込まれました。

 

 ほのかさんがお茶を用意している間、なぎささんはちゃぶ台に両肘を付き指を組んで何かを考えています。

 

「ほら、ひかりも座って」

 

 ほのかさんが私を促しながら湯呑を置くと、そのままなぎささんの対角線上に座り、如何しても私はどちらかの正面に座らないといけなくなりました、観念してなぎささんの正面に座るとなぎささんは一度大きく息を吐きました。

 

「さてと……ねえ、ひかり」

 

 なぎささんは私の名前を呼ぶと何かを見透かす様に見つめて来て、私は目を反らしました。

 

「……そう、やっぱり好きだったんだ、木野さんの事」

 

「なぎさ!」

 

「ほのか、黙って。こう言うのは遠回りに聞いちゃ駄目……ほのかだって分かっているでしょう」

 

 なぎささんの言葉に、所在なく机の上に乗せておいた手を握り込みます。

 

「……分かりません、ただ、にいさ、木野さんの事を考えると胸が痛いんです、どうしようもない程に」

 

「お兄さんって呼んじゃうぐらい親しくなったのね、話せば少しは楽になるわ、ひかり……木野さんの事を聴かせて」

 

 ほのかさんが硬く握った私の拳を優しく包み込んで、真っ直ぐ私を見つめました、なぎささんの手も重ねられ、私は心に押し止めていた物が溢れてしまった事を理解します。

 

「好きか……分かりません。でも、あの日からずっと胸の奥が痛くって、兄さんの事を思い出すと、胸に大きな穴が空いてしまった気がして……私……」

 

「そう言うのを好きって言うのよ、私も……経験があるから……」

 

 ほのかさんの表情は優しくって、分かっているよって言ってくれているみたいで私は……

 

 一度涙を流してしまうと、もう止める事は出来なくて、私は胸の内を叫ぶように話しました、なぎささんとほのかさんは何も言わず聞いてくれて、気が付いた時には私はなぎささんとほのかさんに抱きしめられていました。

 

「ひかり、その気持ちは忘れちゃ駄目。辛くても、悲しくても、胸に秘めて置いて、ひかりが忘れない限り木野さんは存在しているのだから」

 

 ほのかさんの腕の力が強まり、私の頬を……ほのかさんとなぎささんの涙が濡らします、兄さんと私の為に泣いてくれた二人の心を感じて私は抑えきれなくなり声を上げて泣きました。

 

 

 

 ずっと、ずっと、我慢していたけれど、今日ぐらい感情に任せても良いですよね……ねぇ、兄さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰って来てくれた、メップルがミップルが、妖精の皆が戻って来てくれた。

 

 私はポルンとルルンを抱きしめながら再開の涙を流していました、でも、そんな再開をあざ笑うかのように私達の近くに落雷が起きました。

 

 私はその落雷が普通じゃない事に気が付き、直ぐになぎささん達に合流しようとしましたが、温かく、力強い風が私の直ぐ側を駆け抜けます。

 

 周りを見渡すと、うららも拭き抜けた風に驚いたらしく私と目が合うと、隣に歩いて来ました。

 

「ひかり、今の風って普通じゃない、でも、嫌な感じがしなかった」

 

「はい、私この風の雰囲気には覚えがあります、この力強い雰囲気は……兄さん」

 

 うららも同じ思いだったらしく、頷くと私と一緒に風が抜けて行った方向を見つめます、そして私達の予想は的中しました。

 

 燃え上がる紫色の炎、美しく揺らめく炎を見ていたうららが、喉を鳴らしたのが私の耳に届きます。

 

「紫の炎って、ひかり、これって……」

 

 言葉の続かないうららに変わって私は一度深呼吸をしました。

 

「この力強い炎を私は一日も忘れた事がありません、この炎は、兄さんの力の源のひとつです」

 

「力のひとつ?」

 

 うららが不思議そうな声を上げたので、私はあの時の戦いを痛む胸を我慢しながら思い出します。

 

「うららも炎と雷は見ていましたよね、兄さんは風の力も持って居ます、私を抱えてジャンプした時に風の力を感じましたし、防御などをする時も瞬間的に風で防御膜を作っていました」

 

「すごいね、三種類も力を使うんだ……」

 

「はい、体も凄く鍛えているみたいです、凄かったですから……」

 

 私は思わず抱きかかえられた事を思い出して、顔が熱くなるのを感じていました。

 

「ひかり、炎の中から門が……」

 

 うららの言葉に我に返った私は、うららの指し示す方を見ると息を呑みました、炎の中に浮かび上がった巨大な門、明らかに別の世界に繋がっているのが分かり、私は如何するべきかと悩んでいましたが、答えが出る前にゆっくりと門が開き出しましす。

 

「うそ、アレって……」

 

「まさか……」

 

 私とうららが言葉を呑み込むと同時に響さんと奏さんが走り出しました、二人の姿が揺らいでいき私の頬に熱い物が流れ、それが涙だと気が付くのに少しだけ時間が掛かりました。

 

 うららが私の手を取り歩き出します、ゆっくりとですが、私達が会いたかった人の元に、三人の再開を邪魔しない様に……

 

「八雲兄!」

 

「八雲さん!」

 

 響さんと奏さんの名前を呼ぶ叫び声、再会を喜ぶその声を聞きながら私は少しだけ悪い事を考えていました、それは、響さん達に自分の姿を重ねてしまった事です。

 

 自分がこんな事を考えるなんて不謹慎だ、と思いながらも二人が落ち着いたら兄さんと話をしたいと考えてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響さん達が落ち着いた後、私とうららはおそるおそる兄さんに近づきました。

 

「八雲お兄さん……」

 

「兄さん」

 

「「おかえりなさい」」

 

 戸惑いがちに掛けた言葉に、兄さんは柔らかい笑みを返してくれます。

 

「うん、ひかりちゃん、うららちゃん、ただいま」

 

 あぁ、この声だ、ずっと聞きたかったこの声だ、感極まった私は我慢できずに涙を落してしまいました、隣ではうららも嗚咽を漏らしていました。

 

「本当にごめんな、心配を掛けて」

 

 優しい声が私の心を揺さぶり、私は更に涙を流してしまいます、そんな私の頭に大きくて温かい手が乗せられると、ゆっくりと撫で出してくれました、その感触が嬉しくって、懐かしくって私は、心の中で響さんと奏さんに謝ると、兄さんに抱き付き声を上げて泣き出しました。

 

「兄さん、兄さん……」

 

 話したい事が一杯あった筈何に、言葉にする事が出来なくて、私はただ兄さんとしか言えずに泣き続けます。

 

「八雲お兄さん、ごめんなさい、私も……」

 

 うららが小さく叫ぶと、私の隣に飛び込んで来て一緒に泣きだしました、兄さんは一瞬驚いたみたいでしたが、直ぐに私達の頭を撫でてくれて落ち着くまで好きにさせてくれました。

 

 泣き終わった後に私とうららは皆から少しからかわれましたが、響さんと奏さんは少しだけ不満そうです。

 

「あ、あの、響さん、私は、んっ」

 

 響さんに謝ろうとしましたが、響さんは私の唇を指で押さえると、少し意地の悪い笑顔を向けて来ました。

 

「まぁ、八雲兄の事だからどうせ、自分から誘ったんでしょう、まったく……今度二人で遊びに来て、八雲兄の事を色々と教えてあげる」

 

「あの、響ちゃん、何を教える気かな?」

 

 響さんの言葉に動揺する兄さん。

 

「うふふ、内緒、楽しみー」

 

 悪い笑顔の響さんに慌てる兄さん、私達はそんな二人のやり取りを眺めていると、奏さんが兄さんの肩を叩きました。

 

「奏ちゃん、何でしょう……」

 

「八雲さん、日頃の行いって大切なんですよ」

 

 ちょっと黒い笑顔の奏さんに、頭を抱える兄さんを見てあちらこちらで上がる笑い声、私は楽しそうに笑う皆を見ながら温かい気持ちに包まれていきました。




お読み頂きありがとうございます。
明日も更新の予定となります、宜しければお付き合い頂ければ幸いです。

かなり蛇足的な話だと思いましたが、如何しても書きたかったので笑って許して下さい。

うららとひかりの話は最初は本編に入れておきましたが、メインは響と奏で有るべきかなと思い閑話としました、それに伴いうらら達と八雲の再会の部分も最終話から除外しました。

最初は閑話としてひかりとうららが加音町に行く話も考えていたのですが、上手く纏まらない上にくどさが10倍になったので止めました。

後、一話ですがifのお話がありますのでそちらも上げようかと思います。
では次回。

プリキュアオールスターズ 虹色の花束
if 蝶と薔薇の円舞曲(ワルツ)

よろしくお願いします。
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