その者、取扱い注意。   作:黒三葉サンダー

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始まりは突然。


これが伝説の始まり(大嘘)

月曜日。それは学生にとって憂鬱な曜日であり、最もやる気が出ない日である。

特に土日にはっちゃけた奴がよりいっそうグータラになる恐ろしい日だ。まさに神が俺たちに科した試練と言っても間違いない。

 

つまり俺が現在進行形で走っているのも、そもそも残り五分で遅刻判定になってしまうのも、途中で弁当を家に忘れてきたことを思い出したのも全ては試練。

要するに神さまが全部悪いのだ。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

しかし神さまからすればそれは俺のあまりにも身勝手な自己解釈としか見られまい。

口惜しや。何故俺は寝坊してしまったのか。

いや、それは紛うことなき自業自得。人は睡魔に抗えぬのだ。

 

近年稀に見るトップアスリートの如き速度で走れば、もう既に校門が目と鼻の先であった。

その狭き門を閉じようと今まさに手をつけ始めた教育指導の先生。言うなれば我が校の門番が俺の行くべき道を閉ざそうとしていた。

 

かの先生はその屈強な肉体のおかげで門を閉じるスピードが非常に早い。そのSASUKEの如く鍛えられた肉体は決して飾りなどではないのだ。

 

(いけん!駄目だ!間に合わない!)

 

走りながらも俺の額をツーッと冷や汗が流れる。決死の表情で先生を見やれば、また先生もこちらへとその視線を動かした。かの先生との出会いから早二年。最早俺と先生の間に言葉など不要。視線が合うだけで思いは通ずるのだ。

校門突入まで、あと五秒。

 

『先生!後生だから五秒待ってください!』

 

『ようやく来たか風間。だが遅刻だ』

 

確かに思いは通じ合った。それだけは間違いない。

しかしその門は先生の悪い笑みと共に固く閉じられた。

やはりどこまでいっても先生は無情であった。

 

風間 幸太郎。全力疾走も虚しく、遅刻の烙印を回避出来ず教育指導室へと連行される。

遅刻回数、本日を持って二桁へ突入するとのこと。

 

 

 

▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼

 

 

 

「───なんてことがあったんだとよ」

 

「他人事みたいに言ってるけど、それ風間くんの事だよね」

 

時は変わって昼休み。

SASUKE先生に熱血指導をされた俺は隣の席で10秒チャージを終えた友人と気ままに駄弁りあっていた。

その間僅か三分。駄弁り量が少なすぎて泣けてくるぜ。

 

そんな無駄しかない会話の最中に感じる視線にチラッと目を向ければ、今か今かとチャンスを伺う幼馴染み1号の姿が。2号はあいも変わらずイケメン力をキンキラにばら蒔いており、3号は1号の様子に苦笑いしている。

 

(おーけおーけ、任せとけよ1号。お前の出番はもうすぐ来るからな。スタンバっておけよ)

 

我が友人の南雲ハジメくんはこの後に起きるであろう厄介事を回避するためか俺を置いて眠りにつこうとするが、それは1号の為に断じて阻止させてもらうぞ!

 

「おや?南雲くんよ。まさか昼飯はそれだけというのかね?」

 

「え?そうだけど……」

 

「それはいけない!いくら徹夜明けとはいえ飯はしっかり食わんといけんよ!良ければ俺の分を───」

 

俺の道化っぷりに何やら勘づき始めた南雲くん。しかしながら君のターンは終了だ!

さぁ行け!対南雲用必殺少女よ!!その手に持った二つの包みを─────ん?二つ?

 

「南雲くん!それだけじゃ足りないでしょ?私のお弁当分けてあげるね!」

 

「白崎さん……いいよ。僕はこれで足りるし、白崎さんに悪いよ」

 

「大丈夫!ちょっと作りすぎちゃったから、南雲くんに食べてほしいの。あ、幸太郎くんの分もあるよ!」

 

「へぁ!?」

 

かおりぃぃぃ!?何をしているぅぅ!?ここは余計なモブである俺にまで弁当を用意する場面ではないぞぉぉぉぉぉ!?

それじゃあ南雲くんへの特別感が薄れるではないか!幼馴染みの俺の分を作った余りみたいになるじゃないか!

 

それに俺には南雲くんとは違い立派なお弁当さまが……ない!!

そうだ!我が家のリビングに置きっぱではないか!!

 

「幸太郎くん、また遅刻してたよね。幸太郎くんが遅刻する日は大体お弁当忘れてくるもんね」

 

「ば、バレてーら……」

 

我らが大天使カオリエルにはバレバレであったらしい。

もう何度目か分からんけど、俺遅刻しないようにするわ。俺が遅刻すればその分だけかおりの南雲攻略が遅れてしまう。

そして俺という妨害札が正常に機能しないと、奴が……幼馴染み2号が来る。

 

「香織、幸太郎。こっちで一緒に食べよう。どうやら南雲はまだ寝足りないらしいしさ。それに香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

「ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”」

 

「幸太郎……ごめん。止められなかったわ」

 

なんでなんでなんでぇぇ!?どうして俺の仕事を増やすんだ2号ぉぉぉぉ!!お前じゃカオリエルは無理なんだよぉぉぉぉ!!

 

「え?どうして光輝くんの許しがいるの?」

 

ほーれ見ろぉ!ド天然な1号にそんな気障な台詞は全然効かないし、何よりもう既にお前は対象になってないんだよぉぉ!カオリエルが選んだのは南雲くんなんだよ!!

しかも3号がコソッと後ろで笑ってるぞ!龍太郎も何とも言えねぇ顔になってるし!

 

「かゆ……うま……」

 

「こんな時によく食べれるわね」

 

「1号の飯は昔からうまいから無意識にな……」

 

「そ、そう。ち、ちなみにその卵焼きとかどう?」

 

「おん?そりゃうまいぞ。なんか味が少し違う気もしなくないけど」

 

「っ!……良かった……」

 

「「「チッ……」」」

 

いつの間にか側に寄ってきていた雫の質問に答えただけで南雲くんやイツメンを除いた野郎どもから舌打ちをされた件。あんだぁテメーら?さてはカオリエルの飯が目的だな?これは俺んだ、誰にも渡さねぇぞ!

南雲くんは別だけどなぁ!!

 

しかしカオリエルは何故そんなにニコニコとしてらっしゃるん?なに?この弁当になにか盛った?普段だらしない俺に対する報復的なイタズラでも施した?

 

「あのね、幸太郎くん。その卵焼きなんだけどね」

 

「つ、次は何をした?」

 

「もう、私は今回何も入れてないよ!実はその卵焼きは雫ちゃんが────」

 

「わぁぁ!香織!」

 

「まさか……お前か幼馴染み3号!」

 

ビシッと指差し確認をしてやればビクッ!と反応を返す3号。ふっ、あまちゃんが!堂々としてりゃお前が何かしたかなんて思わなかったのによぉ!

そして突如現れる目映い光を放つ魔方陣的な何か。

 

………what?

 

「なに!?幸太郎!」

 

「っ!?離れるなよ雫!」

 

皆が驚き戸惑う中、迷わず雫の手を掴んで引き寄せる。

するとほぼ同時に魔方陣が強く光り、俺の視界は真っ白になった。

 

 

 

 




・幼馴染み1号
南雲くんと幸太郎にお弁当を用意する。イケメン幼馴染み2号の気障ったらしい行動をとことんスルーする。
幸太郎のことは弟のように見ている。無念。

・幼馴染み2号
幸太郎と意見が合わないことが多々あるが、ある程度は認めている。1号と3号に絡まれている幸太郎を見るとたまに顔をしかめることがある。

・幼馴染み3号
おかん。ただただおかん。しかし幸太郎に対しては何やら様子がおかしくなるときがある。今回の卵焼き事件の下手人。転移する前に幸太郎に手を握られて嬉しそう。

・後の最強くん
幸太郎に積極的に絡まれて困ってる。でも数少ない友好的な態度を見せてくれる幸太郎は嫌いじゃない。でも少し迷惑。幸太郎とはゲーム仲間。

・後の屑
1号と南雲くんを引っ付けようと頑張ってる。南雲くん情報を1号に流し、1号から3号に個人情報を流されてる。
幼馴染みズの顔面偏差値にビビってる。

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