グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い 作:自由の魔弾
日本にある魔法使い育成専門の教育機関。
魔法使いに覚醒した人は、必ずここで最低六年の教育を受ける。
日本では個人で経営しているが執行部や国軍のサポートも受け、JGJインダストリーとも協力体制をとっている。
輩出される魔法使いの実力が高いエリート校。
コロシアムの地下に何か隠されている。
始まりは何のことないものだった。突然、真っ暗な世界に溢れんばかりの光が降り注いだのだ。外の世界に出ることなど決して許されなかったのに、その光はまるで『こっちにおいで』と少年を誘い招いているように思えた。少年はゆっくりとその光に向かって歩き出そうするが、途端に鈍重な痛みが身体中に走った。
「……あ、折れてる?これで、歩けるかな」
少年は自身の足が骨折していることに気づくと、躊躇わずに折り直して再び歩き出す。通路の側に何かに襲われた形跡がある人間だったものが大量に横たわっているが、少年はまるでそれらが存在しないかのように崩落した天井から崩れた瓦礫を足がかりにして隔たれていた“外の世界”に到達した。
「ん…よくみえない」
少年の視界に広がっていたのは、まるで世界全体が濃い霧に覆われている光景だった。街も山も空をも埋め尽くす霧はある一定以上の濃度を持つと実体を得ているようで、少年の眼前にも行動する大きな個体がいくつか存在していた。
「…どいて」
少年は視界を遮っていた目の前の霧の魔物を叩いた。
「何だと!?タイコンデロガが!?」
グリモワール魔法学園の生徒会長である武田 虎千代が前線を維持している国軍から無線で報告を受ける。タイコンデロガとは一般的な魔物の強さと比べて段違いの強さで、軍に匹敵するほど強力な魔物のことを指す。学園生の中でも虎千代を含めて数人しか対応できない現状であり、発生場所は国軍が維持している最前線の為、今から向かってもかなり時間が掛かる上、その間既に疲弊しきっている学園生の負担も大きくなることは目に見えていた。
どちらを選ぶか決めかねていた虎千代に、国軍から続報が届いた。
《ほ、報告です!部隊正面のタイコンデロガ級…後方からの攻撃により消滅!全て消滅しました!》
「消滅…だと?この短時間で…まさか、つかさがやったのか!?」
国軍からの思いがけない報せを受け、思わず呆然とする虎千代。唯一対抗し得る存在の可能性を示唆するも、すぐにその仮説を否定される。
「私が何だ?」
「うひゃあ!?つ、つかさか…いきなり背後から現れるな!」
予想外の出来事が連続してためか、普段の生徒会長ぶりからは考えられない素っ頓狂な声を上げる虎千代。そんな彼女を他所につかさと呼ばれる少女は話を進める。
「タイコンデロガと言ったな。さっきから小物ばかりで飽きていたところだ、相手にとって不足は無い。何処にいるんだ?」
「既に霧散を確認したと国軍から報告受けたところだ。つかさがやったのかとばかり…」
「知らん。知ってたらここに戻ってくるわけないだろう。国軍にもタイコンデロガとやり合える力が残っていたとは思わなかったな」
妙に噛み合わない2人の会話。お互いに怪訝に思いながら話を続ける。
「…いや、国軍の報告では魔物の“後方からの攻撃”により消滅したらしい」
「……何?」
その時、虎千代の下に女生徒が報告をしに来る。生徒会副会長の水瀬 薫子だ。
「会長、報告です。タイコンデロガ消滅地点にて民間人1名を保護したとのこと。意識は失っているものの命に別状は無いようですが一応、民間の医療機関に搬送されたそうです」
「そうか…各方面の戦闘も終わりつつある。薫子、生徒たちを集めてくれ。終結宣言をする」
分かりましたとすぐに生徒の招集に向かう薫子。それとほぼ同時につかさもその場を立ち去る。その去り際、奇妙なことを呟きながら。
「私がタイコンデロガに気づかなかっただと…」
不可解な点を複数確認しながらも、第7次侵攻は無事に終結を迎えたのだった。
侵攻から1ヶ月後、この騒動の張本人が学園に通うこととなることは、どの世界線で見ても例を見ない可能性を与えるのだった。
【第7次侵攻】
未明に全世界で大規模な魔物の発生が確認され、学園の北西の小鯛山で大規模な魔物の発生が確認。
事前の予想以上に魔物の数が多く、規模は通常の42倍で過去最大規模。政府からの要請で学園生も出動することとなった。
第6次侵攻とは比較にならないほど人類の戦力は上がり、グリモアでも過去にないほどの強力な魔法使いが集まったこともあり、奇跡的なまでに大きな痛手がなく魔物に勝利した。