グリモア~私立グリモワール魔法学園~ 虐げられた元魔法使い 作:自由の魔弾
見知らぬ地で出逢ったお姉さん。本名は仲月 さら。パルチザンと呼ばれるレジスタンスのリーダー的存在。当初はJCを仇と認識していたが、その人間性に触れていくにつれてその面影が似ても似つかぬものだと再認識する。偶然遭遇した霧の魔物から身を呈して守ってくれたJCに忘れていた本来の人間の優しさ、愛情を思い出しそこからJCへの対応を本格的に改めていくことになる。ちなみに彼女が忘れていた感覚は…バブバブ〜。
この世界で初めて“異質の存在”というものに出逢ったのかもしれない。頭にふとそんな考えが過った。私は目の前を歩くその存在を見据えながら、警戒心を強めながら監視を続けていた。
「ふん〜♪らんら〜らら〜♪」
両手をロープで拘束され私に手綱を握られて尚、ここまで楽しそうに鼻歌交じりに見知らぬ土地を歩くこの少年は一体何なのだろう?姿形やその体質は疑う余地も無く私たちの“敵”と同じはずなのに、いかんせん性格が違いすぎる。
そんな私の思惑を感じたのか、目の前を歩く少年は不意に振り返って話しかけてきた。
「ねぇねぇお姉さん。そういえば僕たちってどこに向かって歩いてるの?」
ついさっきまで戦闘していた関係とは思えないほどフランクに話しかけてくるのだ。何か魂胆があるのかと思えば単純に興味本位で訪ねてくるような質問ばかり。核心を突かれたくなくて無駄な情報まで探っているのか、はたまた別の狙いがあるのか…。まぁ、私たちにとっても情報は重要な武器であることに変わりはないし、何よりこの少年と私たちの仇が同一人物なのかを突き止める必要があった。
「私たちのアジトよ。ここからまだ少し距離があるけど、今日中には着くはずだから」
実はこれは嘘だ。この少年が霧の魔物と共謀して私を貶める企みの可能性を考慮し、わざと遠回りの道を選んで歩いている。現に私の魔法は使えなくなったのは事実、時間が経過した今は初級魔法程度が使えるまでに回復したけど、この状態で霧の魔物と遭遇したら確実に全滅するのは嫌でも理解していた。どれだけ成長しても魔法使い一人の技量なんて所詮はその程度なんだと。
「ふ〜ん…そうなんだ。でも、さっきから“霧の薄いほう”に向かってるよね?」
「…ッ!?」
私は思わず顔に出して驚いてしまった。この子、まさか霧の流れが読めるっていうの!?私の知る限りそんなことが出来る人間は一人しかいない。でも、その人はもう……。
私は動揺したまま建物の陰から不用意に身を乗り出してしまった。次の瞬間、私は自分の愚かさに気づかされた。
霧の魔物の不気味な無数の視線が私の身体を貫いていた。
「……ヒィ!?あ、あぁ…」
私の身体は完全に恐怖に支配されて、その場で立ち尽くしてしまった。一瞬だったけど不思議とすぐに理解できた。普段の私ならいざ知らず、今の状態では勝ち目はないと。
霧の魔物がその腕を振り上げる。もしあの腕が振り下ろさせば、私の身体なんていとも簡単に引き裂かれるだろう。
そう思えば、この世界で生き続けるという終わらない苦しみから解放されるという考えが自然と脳裏に浮かんできた。同時に第7次、第8次侵攻やその後の戦いで散っていって仲間……友達の顔が鮮明にフラッシュバックする。
「みんな……ごめんなさい、私…やっぱり」
その言葉を最後に瞳を閉じて、その運命を受け入れた。
「お姉さん……諦めちゃ駄目だよ」
霧の魔物が振り下ろした腕はいつまで経っても私に届くことはなく、ゆっくりと目を開けるとそこには少年が私を庇うように霧の魔物の眼前に立ちはだかっていた。
「あ、貴方…!どうして……ッ!?」
私は彼の状態を見て思わず息を飲んだ。彼の腹部には私が受けるはずだった霧の魔物によって切り裂かれた傷口が深く刻まれていた。その傷口からとめどなく流れ落ちる大量の血がどれだけの威力だったのかを物語っていたが、思わず地に膝をつけた彼はそんなことなど気にも留めない様子で私に笑いかけた。
「ぅぐッ……ど、どうしてって、そりゃ……やっぱ笑っててほしいじゃん…っていうのは、どうかな?ハハッ…」
力無く笑いかける彼の表情に乗せた“思い”を受け、私はつい先ほどまでの自分の浅はかな考えを呪った。ここで私を見殺しにする選択もあったはずだ。何せ彼は魔法が一切使えない、それに加えて両手を拘束されていてろくに防御することも出来ない。そんな彼が霧の魔物から私を庇うメリットなど何一つない。
でも彼は現実として私を助けた。自分が受ける痛みなど躊躇することなく……こんなにも人の愛情に触れたのはいつぶりだろう…?
「んじゃあ……今の倍にして返してくるから」
彼はそう言うと、立ち上がって霧の魔物に向かってゆっくりと歩き始めた。その間にも霧の魔物は再び振り上げた腕を彼に向けて放つ。その時、私はその光景を目の当たりにした。痛みで咄嗟に動けないはずの彼の身体を無情にも潰してしまったと認識した。
『ーーーー!!?』
次に聞こえたのは霧の魔物の悲鳴ともとれる雄叫び。気づけばその腕は本体から離れて宙を舞っていた。更にそこで終わることはなく、霧の魔物の無数の眼が凄まじい速さで一つずつ潰されていく。私は回復しつつある魔力を使って何が行われているかを確認する。彼だ。目にも留まらぬ速さで眼球の一つ一つに連続で蹴りを放っていた。時には膝蹴り、空中連続蹴り、後方回転蹴りなどが間髪いれず見事に決まる。脚のみでここまで圧倒できるものかと畏怖の念すら湧いてきた。
そして、最後の眼球に対して彼の踵落としが決まり、本体ごと真っ二つに蹴り裂いて霧の魔物は完全に消滅した。
私はすぐに静かに佇む彼のもとへ駆け寄った。
「大丈夫?早く傷の手当てしなきゃ…。さぁ、早く乗って」
彼の腹部の大きく開いた傷の手当てをする為、彼を背負うように促す。すると彼はやけに焦った様子でしどろもどろになりながら答えた。
「えっ、いやぁ〜、それはまずいって。ほら、こんなにいっぱい血が出ちゃってるし、またなんかの拍子でお姉さんに血が入っちゃったら、また魔法使えなくなっちゃうよ?服も汚れちゃうし…「JCくん!」ひっ!」
この期に及んでまだ何かを躊躇っている彼に私は思わず声を荒げる。びくっと身体を震わせた彼は小動物のようにあどけない顔で見つめ返してきた………ち、ちょっと可愛いわね。
「魔法使いって言ってもここまでぱっくり切れちゃってる上に、私は回復魔法を使えないわ。放っておけば傷口が化膿するかもしれない。だから急いで手当てしないと……ほら、早く!」
「は、はい……お願い、しますぅ……あぅ〜」
彼は顔を真っ赤にして渋々ながら、私に背負われることを了承した。確かに男の子が女の子におんぶされるのは、かなり恥ずかしいことなのかもしれない。まぁ恥ずかしがってる彼の姿を見てるのもまた一興だなぁと思いながら、私は私たちの“隠れ家”へと急いだ。
「さ、着いたわ……ここが私たち“パルチザン”のアジトよ」
僕は七枷の廃墟を利用して作られたアジトと呼ばれる場所に連れてこられた……お姉さんにずっとおんぶされて。道中で人にも霧の魔物にも見られなかったのが唯一の救いだったかも。
「……もうお嫁に行けない」
僕が込み上げてくる恥ずかしさと格闘していると、アジトのゲートを解除して戻ってきたお姉さんが不思議そうに様子を伺ってくる。
「…JCくん、どうかしたの?」
「な、何でもないです。それでここは一体…?」
「…変なの。あ、その話は中でしよう。一応ここに居ることはバレてないと思うけど、用心するに越したことないから。それに私の仲間にあなたのこと、誤解の無いようにちゃんと説明しなきゃいけないから」
そう話したお姉さんの後を追うように施設内を歩く。やがてその中の一室の中に入る。が、室内には誰もおらずそのことでお姉さんは不満を漏らす。
「もぉ…この部屋で待っててって言っておいたのに。じゃあ先にJCくんの傷の手当てをしちゃおうか?ほら、万歳して」
お姉さんはその言葉を皮切りにおもむろに僕の服を脱がそうしてきた。え、ちょっと待って!?
「お、お姉さん!?いきなりそんなっ…!服くらい捲れば済むって!」
「だーめ。シャツもズボンも血がべっとり付いてるから洗わないと。ついでに替えの服も用意してあげるから、ほら!」
「いやいや!もっと別の意思を感じますが!?100%ピュアハートじゃないでしょ?」
「そんなことないわよ。私は純粋に貴方の身体心配してるの…………ハァハァ」
「興奮してるーっ!?いやっー!!」
そんな押し問答を繰り返していると、不意に誰かに声をかけられる。
「お主ら……一体何を乳繰り合ってるんじゃ」
「よ〜し、これで完璧じゃ!っと…さら、お主がそこまで取り乱すとはのぅ…」
「うぅ〜…私が手当てするはずだったのにぃ〜!」
「…駄目じゃこりゃ」
わっちは横でおいおい泣いている我らが“パルチザン”のリーダーである『仲月 さら』の普段と変わり果てた姿を見て非常にびっくりしておった。少なくとも昨日まではリーダーらしいというか、気丈に振る舞って頼り甲斐があるように見えたのじゃったが…。
「あの、ありがとうございました。いきなり傷の手当てをお願いして、それに包帯まで巻いてもらって…」
かしこまった様子でわっちにお礼を言ってくるこの男。どこかで見たことあるような気がしないでもないんじゃが〜…わっちにはそれよりも気になっていることがあった。
「いやいや礼には及ばんよ。まぁどうしてもと言うなら……お主をモデルに描かせてくれぬか?特にこの辺とか」
わっちは自前の筆を使っていまだにパンツ一丁で座っている目の前の男の身体をなぞってみる。
「ーーー!!?ひゃっ!?」
嬌声のような声をあげるこの男。しかーし!わっちの筆は止まらん!そのまま整った顔、鼻や頰、頼り甲斐のありそうな胸板、引き締まった腹筋、大きな背中、くびれた腰、程よい肉感の臀部、発達した太もも等ありとあらゆる場所をわっちの“せくしーな筆遣い”が炸裂する!
「ハァハァ……JCくん、いいよぉ〜!すっごい綺麗な格好になってるよ〜!!」
横で犯罪ギリギリの顔になっているさらはここにきて押し込んできた感情を一気に解放しているようじゃ。いや、気持ちは分かるぞ。この男を弄っているわっちが言うんじゃ。この男にはもはや枯れ果てたとされたわっちらのそういう欲望を刺激する何かがあるに違いないと!
「も、もう勘弁してくださいよぉ〜!これ以上はやめてよぉ〜!!」
何じゃこの愛くるしく弄りがいのある生物は?元々物事を楽観的に考えようとしていたわっちが新しいおもちゃにハマるのは分かるが、普段から気負いすぎていたはずのさらがここまで気にいるとはなぁ…。む、これ以上はせっかく閉じかけていた傷口がまた開いてしまうか。
わっちは暴走していたさらを何とか男から引き剥がした。
「これ、それ以上はいかん。また血が出るぞ?お主はまずは汚れた服を持って部屋を出て左の通路を行けば洗濯用のカゴがあるから、そこにぶち込んでおけばよい。その後でちゃんと話すとしようぞ」
「ぐすっ…わかりましたぁ」
男は半泣きになりながらも血で汚れた自分の服を持って出て行った。この間に冷静さを取り戻したさらにも声をかける。
「さらも早く着替えてこい。背中と腰のところが奴の血で汚れておるぞ?」
「えっ!本当に?どこ?どこが!この服、保存しておかないと…」
「お主…本当に何があったんじゃ…」
わっちがじと〜っとした目線を向けると急に真面目な顔に戻って「冗談よ」と普段の様子に戻って自分の部屋に入っていこうとした時ふと脳裏に何かが浮かんできた。
……ん?わっちって何か忘れてないか。はて……あっ!
「いかんぞ!あいつ“シャワー室”に向かってるんじゃよな!?」
わっちが一人で焦っていると、すぐに着替えて戻ったのかさらが不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「恋、どうかしたの?っていうか、ミナは一緒じゃなかったの?」
わっちの額から吹き出る汗が止まらない。残酷じゃが、真実を告げなければいかん。
「いや、途中までは一緒だったんじゃが、近頃連戦続きで漸くここに戻ってこれたから、とりあえずシャワーだけでも先に浴びたいって直行して…んでわっちはミナの着替えとタオルを取ってくるよう頼まれて、この部屋来て、あの男を弄んで……完っ全に忘れとった!」
わっちの言わんとすることがさらにも伝わったようじゃ。
「洗濯用のカゴって、シャワー室の隣に置いてあったわよね?」
「そうじゃ。洗濯機がそもそもそこに設置してあるんじゃから」
「そこにJCくんは向かってるのよね?」
「そうじゃ。パンツ一丁で腹を包帯でぐるぐる巻いただけでほぼすっぽんぽんじゃ」
「す、すっぽんぽん!………ふへっ」
「そこ!想像してニヤけるでない!んで、ミナはわっちが行くまで替えの服も身体を隠すタオルも無い」
「じ、じゃあミナさんは今!」
「あぁ、正しく生まれたままの姿……すっぽんぽんじゃ!」
「そんな姿をJCくんに見られる!?なんて羨ま…恨めしい!早く行かないと!」
「おーい、誤魔化しきれてないぞ。いや、まだ早まるな。奴とミナが鉢合わせる確率なんて万に一つあってないようなもの」
わっちがそこまで言い切ったその時、よく知った人物の悲鳴が木霊した。万に一つは当てにならない。
【パルチザン】
JCが出逢った異世界のレジスタンス。第8次侵攻の後、人類の残された希望として結成。生き残った学園生が中心となって霧の魔物やテロリストとまだ見ぬ未来を目指して日夜戦闘を続けている。そもそも第8次侵攻がまだきてないんだが……あれ?